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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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話を聞きましょう

「……どうした、ルーチェ? 俺の顔を見て何故そんなに驚いている?」


 ……グリーダーが水に飲まれたと思ったら、全くの別人に変わってたんだから、驚くなって方が無理だよ。

 い、いったいどういう事なの!?


「ルーチェさん……あなた何も知らなかったんですか?」

「だ、だって! グリーダーは初めからあの姿だったよ!?」


 私、こんなの聞いてないよ!?

 グリーダーが私達とそう変わらない見た目の金髪の男の子だったなんて、一言も……!


「おい……お前らさっきから何言って……何だ? 俺の声がやけに高くなったような……」


 グリーダーが異様に重々しい声だっただけで、今の声は普通だと思うよ……。


「ん~……鏡を見た方が早いんじゃないかな?」


 マディスが男の子――――多分グリーダーだろう、に手鏡を渡す。

 手鏡を覗きこんだ直後、男の子は固まってしまった。


「……は? 何でこの姿……なんだ? グリーダーの身体は? 皮を捨てた覚えはない……ぞ?」


 皮を捨てたってどういう事なの!? というか、聞きたいことが多すぎて何から聞けばいいのか……。

 グリーダーはどこに行ったの!? とか、他にも山ほど……。


「聞きたいのはこっちだよ! 泉に映ってたのもグリーダーじゃなかったし!」

「……説明してもらいますよ?」

「…………この姿になった以上、隠し通すのも無理、か。仕方ない……宿で話す」

「それが良いよね~。……さすがに、こんな状態になってるのにここに居座ったら不味いことになるだろうし」


 マディスの言葉を聞いて辺りを見渡すと、あちこちに大雨でも振ったのかと思うような小さな池ができていて、グリーダーが居た場所なんか地面が抉り取られてそこそこ深さのある池になってしまっている。

 ……泉の裁きってなんなの! こんなの恐ろしすぎるよ!


「さっさと逃げましょうか。ルーチェさん、行きますよ」

「行くぞ……っとと……!」


 男の子も立ち上がって歩き出す。

 って、立ち上がって歩こうとした直後に倒れそうになってるけど……?


「……急に戻ると、感覚がおかしくなるな……」

「肩、貸そうか?」

「……頼む。……感覚が戻るまで、ふらつきそうだな……」


 ……まあ、明らかに身長も体格も小さくなったもんね……。

 というか、本当にどうしてこうなったんだか……。


「行きますよ、ルーチェさん」

「うん……」


 まあ、その辺はこれから宿に戻って話を聞けば解決するよね。







ーーーー







「で、どういう事なんです? グリーダーさんがどうなったのか、とか、知っていることは全部話してもらいますよ」


 宿に戻り、マディスとグリーダーが使っている方の部屋で話を聞くことに。

 本当に、どういう事なの、これ……?


「……そうだな……。元居た世界での話から入らないと、どういう事か分からないだろうな。そこから話すか」

「元居た世界? 私が召喚する前にグリーダーが居た……」

「そう言う事だ。――――――――その世界で、俺は魔王討伐を目標にした無謀な冒険者の一人だったんだよ。いわゆる……自称勇者だな」

「自称勇者って……そんなのが許されるの?」


 まあ、世界が違えばルールも違うんだろうけど……。


「ああ、そっちの世界では、大半の冒険者が魔王討伐を掲げる自称勇者となって暴れまわっていた。俺も、魔王を倒して勇者呼ばわりされたいなんて考える馬鹿の一人だったんだよ」

「勇者になりたかったの? ……どうして?」

「今にして思えば馬鹿馬鹿しい話だが……勇者と呼ばれて賞賛されることへの憧れがあった。物語に出るような伝説の勇者――――それに、自分がなってやりたい! なんてな……馬鹿な話だろ?」


 ……勇者に憧れて賞賛されたくなる気持ち……分からなくはないけど……。


「でも、現実はそこまで甘くなかったな。いくら腕を磨いて強力な魔物を葬っても、それをやったのが子供じゃ誰も信用はしない。明らかに不釣り合いだからだ」

「……まあ、今のその姿では強そうには見えませんよね」


 ……ジルが言った通り、今私達に自分の事を話している元グリーダーの姿は、華奢な――――私とそう変わらない体つきをしている。

 確かに、その辺の男の子にしか見えないし、この姿だけを見ても強そうには見えない。

 私たちだって、グリーダーが強いって認識できるのは実際に横に並んで戦っているからだし。


「実際、同行者を組めばそっちが評価され、単独でやれば横取りを疑われることもあった。それでも、自分を疑っている連中には力を示して認めさせたし、目の当たりにした奴らは確かに認めてはくれた。だが――――」

「肝心の王族や世界は認めてくれなかったんですか?」

「ああ。特別な生まれでもない、ましてや一般平民だ。少々力が強くて魔法が得意なだけのガキにしか見えない。そんな奴よりも、もっとふさわしい奴ならいくらでも居た」


 ……実力の正当評価がされないって……。

 あんまりだよ……。


「――――貴族の生まれの子、先祖が勇者の仲間だった家の子、筋骨隆々とした戦士……俺よりもはるかに「そう見える」奴はいくらでも居る。俺がどれだけ足掻いても、連中のような評価はされなかった」

「……だから、その姿を捨てたんですか? グリーダーの姿になったのは……」

「俺に足りないのは勇者に見える外見だった。こんな華奢な子供の姿じゃとても勇者には見えない。だが、どれだけ鍛えても力は強くなるが身体は全く変わらない。なら――――全く違う姿になるしかなかった。勇者としての風格を漂わせられる身体を「作る」しか、方法は無かった」


 無茶苦茶だよ……。だけど、そこまでして勇者になりたかったんだ……。


「丁度そんな時に、山賊討伐の依頼があった。だから、俺は討伐した山賊たちの死体を回収し、回収した死体を魔術で改造して新しい自分の身体を作り上げ、その中に自分の身体――――今のこの姿を封印した」

「だからあの時過剰な反応をしたんだね~……。偽物がその姿を出現させた時、半ば強引に切り捨てたのは、それが本来の姿だって知られたくなかったから……」

「そう言う事だ、マディス。――――こんな姿じゃ、勇者とは認められない。そう知ってから、この姿に戻るのも、見るのも嫌になったんだよ。……その時から、勇者グリーダーとして生まれ変わった時から、元の身体なんか捨てても構わないって思ってたさ」


 ……だけど、そんなの……自分の元々の身体を捨てるって……。

 おかしいよそんなの……。


「グリーダーとして暴れはじめれば、その評価は一気に高まった。どこからどう見ても筋骨隆々として逞しい姿の大男が、巨大な戦斧を片手に戦場を駆けまわる姿は、強大な魔物を倒してもそれが違法な手段であると疑われることなど無かったからな。所詮、外見しか見ていない連中だ。俺はあっという間に名声を得た」

「私達からすると恐ろしい姿にしか見えませんでしたけど、元の世界では本当に勇者扱いされてたんですね……」


 ジルが驚きを隠さない口調で言う。

 本当だよね……。グリーダーの姿は恐ろしかったけど、それが勇者扱いされてたんだ……。


「だが、それでも数ある勇者のうちの一人と言う枠に収まってしまったがな。次に足りないのは……血筋だった。グリーダーの身体はその辺の山賊を改造して作った物で、血統なんかついていない。無論、その身体を動かすルシファー――――俺も、平民だ。伝説の勇者の子孫なんかには、敵うはずが無かった」

「ルシファー? ……それが、その姿の時の――――本当の名前なの?」

「ああ。……もう、グリーダーは死んだ。あんなどろどろに溶けた状態になったら、仮に身体があの場所に残っていたとしても、身体の作り直しは無理だ。明日には消えてしまっているだろうな」


 ……。


「話を戻すぞ。……次に立ちはだかったのは文字通り、血筋だ。こればかりはどうしようもない。けど、そんなことで諦められるほど俺は素直じゃなかった。次に俺が目につけたのは、かつて勇者が使っていた装備品。その中の一つが、ルーチェに渡したかつて勇者が使っていた収納具――――今マディスが持っているその球だ。俺は、今度は伝説の勇者が使っていた品を手に入れ、使いこなすことで血筋のハンデを越えようと考えた」

「伝説の勇者が使っていた装備に身を固めれば、確かに勇者の再来として評されるでしょうね」

「その通りだ、ジル。――――伝説の勇者がかつて使っていた武器と防具、そして道具。それらを全て揃え、自在に扱っている人間が、勇者にふさわしくないわけがないだろう? 伝説の勇者の再来と言われる未来は、すぐに想像できた」


 ……だから、勇者の使っていた品である収納具を盗み出したの?

 それらを集める事で、自分が勇者としてよりふさわしく見えるように……。


「ルーチェ、お前の考えている通りだ。勇者が使っていた収納具を盗み出したのも、それが理由だ。まあ、他の奴が先に手に入れたら奪い取らなければいけなくなるから、正当な手段をとっていられなかったと言うのも理由の一つにあるが、な」

「……」

「だが、盾と兜と剣だけはどうにもならなかったな。奪い取ろうにも、盾を所有していたのは俺でも歯が立たない相手で、兜はどこにあるのか分からず、剣は――――剣に拒絶された。神殿の台座に刺さっていた聖剣を強引にでも奪い取ろうとしたが、剣が文字通り暴れて言う事を聞かなかった」

「選ばれた者にしか使えない剣だった……と言う事ですか?」


 伝説の勇者にしか使えない……良くそんな話を聞くけど、本当にあったなんて……。


「そう言う事だ。だから、俺はその剣を俺でも使えるように魔剣に変えて奪い取った。だが、そうやってようやく奪った剣は魔剣。聖剣でない以上、勇者の証にはならなかった」

「ルシファー。盾は……誰が持ってたの?」

「勇者のろいだ。ルーチェとジルには一度話しただろう? 酷い悪臭で誰も近づくことができない最凶の勇者。そいつの背中についていた盾が、その勇者の盾だったんだ。左手で持っていた呪われた盾とは違って、間違いなく勇者の盾だった」


 ……呪われていそうな装備品を疑う事も無く嬉々としてつけていた人がそんな物を持っていたなんて……。


「奪い取ろうとしたんですか、ルシファーさん?」

「ああ。だが、近づくこともできずに悪臭で何度も気を失い、結局奴には気づかれることも無かった。完敗だ。だから盾は諦めざるを得なかった」


 まあ、近づくことも出来なかったらね……。

 それはもう諦めるしかないよ。


「で、その後は鎧と収納具だけ持っていたわけだ。まあ、鎧は……」

「魔族に壊されちゃいましたね」

「ああ……。こちらの世界の敵が異常に強かったのは盲点だった……。元居た世界の強敵など、ここのやや強い雑魚と同じレベルだろうな」

「こちらの世界の方が強い魔物が生息してるんですか……」


 私たちは他の世界の事なんか知らないけど……でも、それなら他の世界の中には平和な世界もあるのかな?


「だが、どのみち勇者グリーダーは異界の地で果てた。新しい物を作ろうと思っても、似た姿の別人になるだけだ。あの身体を失った以上、俺は勇者にはなれないな」

「……グリーダー……ううん、ルシファー。そんなに、勇者って良い物なのかな?」

「どういう意味だ? ルーチェ」


 確かに、ルシファーの世界の勇者っていいイメージがあるかもしれないけど……。


「ルシファーも知っての通り、ヒローズ、バグリャ、両勇者共に駄目人間だよ? バグリャ勇者なんて擁護のしようが無い悪人だし、ヒローズの勇者一行だって……」

「この世界の勇者は、確かにどうしようもない奴だな。勇者とはどういう物か教えても良いくらいにな」

「そんな連中と同じような存在になろうとしなくても、良いんじゃないかな?」


 勇者なんて言っても、ロクな存在じゃないよ。


「勇者を否定するか……。まあ、こっちの世界に飛ばされてから、勇者と言う地位にあまり魅力を感じなくなったのも事実だがな……」

「それに……あんなことしてまで別人になるの、おかしいよ」

「何?」

「そのままじゃ駄目なの? 勇者の地位って、自分の本来の姿を捨ててまで手に入れないといけない物なの?」


 仮面……とも違うか。仮の姿……? になってまで、欲しくなるものなのかな……。


「それが欲しくて仕方なかったからな。勇者と言う称号も、名声も。命を売ってでも欲しかったくらいだ」

「命よりも名声……ルシファーも相当変わってたんだね~」

「だろうな。まあ、この姿に戻された以上、もうどうでもいいがな。……俺から話すことはもう無いな」


 ……勇者としての名声、栄誉、か……。

 そんなに大事な物なのかな……。まあ、人それぞれ、なんだろうけど。


「そう言う事だ。……それで、どうする? 新しい人間を召喚でもするか?」

「ルシファーは一緒に来てくれないの?」


 グリーダーの姿じゃなくなったけど、だからって別れるつもりはないよ。


「勇者でもなんでもない、ただのガキだぞ?」

「どの口がそんなこと言えるの? 今まで一緒に戦ってきたし、どれだけ強いのかはちゃんと知ってるよ」


 少なくとも、ヒローズの勇者の数倍強いよ。


「前衛を押し付けないでくださいよルシファーさん。いきなり抜けるなんて駄目ですからね?」

「酷いな。それはグリーダーの役目だろ? こんな華奢なガキに前衛は無理だ」


 何馬鹿なこと言ってるの……。

 本当に華奢なら、そんな大斧背負えないでしょ。


「あいにく、感覚がおかしくてな。力にはなれない」

「それは今だけでしょ?」


 まあ、身体の間隔が思いっきり変わっちゃうから確かに数日は戦闘自体無理だろうけど……。


「そんなに俺が必要か?」

「誰か一人でも欠けたらかなり辛くなっちゃうしね」


 魔族の相手なんか出来なくなっちゃうし。


「まあ、続きは明日で良いでしょう。今日はもう休みましょう、ルーチェさん」

「うん」


 後はマディスに任せるよ。






「全く、勝手なこと言ってくれるな」

「今更でしょ、ルシファー。それに、もし逃げる気だったら、そもそも僕やジルと出会う前にどこかでルーチェを倒して逃げたらよかったんだしさ」

「確かにそうだな」

「ところでさ、ずっと口調そのまま?」

「何がだ?」

「僕たちとそう変わらない見た目でグリーダーの口調はちょっと違和感あるよ?」

「……確かに、な。……少し考えるか……」

次話辺りに番外編を挟みますかね。

執筆中の話で異常に調子に乗ってる勇者に地獄に落ちてもらおう。


話の中で出てきた「グリーダーは死んだ」は、同じ物が作れない(人の身体にはクローン以外同じ物が無い、そもそも材料は異界の山賊の死体で、そのクローン自体用意していない)事の例えです。

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