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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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バグッタを歩き回ってみましょう

 翌日、私たちはバグッタの中を歩き回って調べることに。

 上から町らしきものを一度見ただけじゃ、中に何があるのかも全然わからないしね。


「さて、行きましょうか」

「そうだね~。まずは何を探す?」

「……鍛冶職人、かな?」


 早いところミスリルを防具にしてもらいたいし……。


「提案だが、いっその事何も考えずに彷徨ってみるのはどうだ? 定まった目的を持って探すより、何も考えずに捜し歩いた方が色々な物が目に入るかもしれんぞ?」

「……何も考えずに……って事は、要するに気楽に歩き回ってみるって事、グリーダー?」

「ああ。下手に目標を持って探し回ると、それ以外の物は後回しにしてしまうだろ?」


 ……そうだね。先に目的を決めてしまうと、他の物はスルーしちゃうか。


「じゃあ、グリーダーの提案に従ってみるけど、二人は構わない?」

「構わないよ~」

「ええ、それでもいいですよ。どうせ行くならあちこち行きたいですしね」

「じゃ、気楽に探し回ってみようか。行こう」


 特に目的を立てずに探し回ってみることに。

 何か面白い物でもあるかな?


「面白い物どころか、新しすぎてついていけない物ばっかり出てくるのでは?」

「かもね。それならそれでもいいけど」


 バグッタの調査というより、バグッタの観光?

 まあ、まともに調査しても報酬がもらえるかも分からないしね……。


「あの受付は本当に信用できないですよね。あの時脅しをかけて正解でしたよ」

「まあ、そうでもしないと依頼の報酬横取りされちゃうしね……」


 まさかバグリャ勇者に依頼の報酬を横取りされかけるとは思わなかったよ……。

 ギルドって中立のはずだったのに……。


「勇者の意向だから仕方ない、では済まないな……」

「許せませんよ。報酬横取りを狙おうなんて……」


 バグリャに帰った時にはっきりすると思うけど、あの国どうなっちゃうんだろ……。


「それで、どの方向に進む?」

「そうだね……北に向かってみようか」


 マディスがどの方角に進むか聞いてきたので、とりあえず北に向かう旨を伝えた。

 ……南がバグリャとつながっている門だから……あっち側だね。


「見たところ、一つだけ突出して大きな丸い建物が建っているようですけど……アレは何でしょうか?」


 ジルが言った通り、北には大きな丸い建物が目印みたいに建っていた。

 その周囲にはあまり建物が建っていないからよく目立っている。


「……行くしかないな」

「そうだね、まずはあの建物に行ってみよう」


 私たちは、宿の北に存在する丸い建物を目指す事にした。




ーーーー




 しばらく歩くと、目的地の大きな建物の前に到着した。

 入口に看板が立っている。


「ここだよね。……えっと、バグッタ・ドーム?」


 ドームってそもそも何なんだろ? こういう円形の建物の事かな?


「……看板の下に書いてますけど、アイドルって何でしょうか?」

「え?」


 看板を見ているジルの視線の先には「バグッタ最萌えアイドルグループによるダンスあり!」と言う文字が。

 ……いろいろ聞いたことも無い言葉が出てくるけど……。


「最萌え……本当か?」

「実は大外れなんじゃないかな?」


 グリーダーとマディスはちょっと怪しんでる。

 ……そもそも私には言葉の意味すら分からないんだけど。


「最萌え……ようするに、可愛いと言う事だろう。この文が真実ならな」


 ……可愛い、アイドル……。男の人じゃありえないだろうし、女の子?


「普通に考えたらそうなるな。まあ、見ればわかるだろうが……どうする?」

「行ってみよう」


 どうせなら色々見ていきたいし。


「どんなのが出てくるかな~?」

「……地雷でない事を祈るが……」


 私たちはドームの中に入って行った。


「いらっしゃいませ。間もなく開演ですので、急いで中にお入りくださいませ」

「え? は、はい」


 中に入ると、受付の人に早く奥に行くように急かされた。

 ……時間ギリギリだったのかな? だとしたらラッキーだった?


「立ち見か? まあ、どちらでも構わないが」

「あっちですね。急ぎましょう」


 話してる時間も勿体ないから、急いで奥に進んでいく。

 突き当りの扉を開けると、そこは天井が高い大きな空間だった。

 左右に視線を向けると、左側は椅子がたくさん並んでいて段差も高くなっているけど、右側は段差が低くなって真ん中に円形の大きな足場がある。

 私たちが入ってきた扉がある場所はこの空間の丁度真ん中だった。


「ちょうど席が空いてるね~。ここで良いんじゃないかな?」

「まあ、入口に近いからすぐに出られるだろうな」

「……出ること前提にするのもどうかと思うけど……」


 まあ、期待外れだったら途中退出も考えるべき、かな? どうなんだろ?


「……さて、観客の皆さん。お待たせいたしました。本日も、我らがアイドル「メンガール」の一行が、歌って、踊ってくれますよ!」

「「おおおおおおおおおおお!!!」」


 そんな事を考えてたら、円形の足場の上に真っ黒な眼鏡? をかけた人が出てきてアイドルの登場を淵源した。

 直後、先に来ていて座っていたであろう周りの人たちが一斉に大歓声を上げる。


「凄いですね。そんなに人気なんでしょうか?」

「どうなんだろう……」


 少なくとも、これならグリーダーやマディスが心配しているようなことは無さそうだけど……。


「では、時間も惜しいので登場していただきましょう! さあ、皆さん拍手でお出迎えください! どうぞ!」


 円形の足場の上に立っていた人が拍手で迎えるように言うと、その直後に周囲の人たち皆が手を叩きはじめ、同時に大歓声が巻き起こる。

 ……凄い人気……。一体どんな人たちなんだろ……。


「「セリスちゃーん!」」

「はーい! 呼ばれて参上! みんなのアイドル、導師のセリスちゃんでーす!」

「……へえ~、確かに可愛…………え!?」


 観客の声にこたえて元気よく飛び出してきた「セリスちゃん」の身体は何かごつくて筋肉質だし、ピンク色のローブも、白い猫耳フードも何か似合ってないような……。

 というか……思いっきり髭生えてない……?

 あ、あれ? おかしいな……私の目はおかしくなったのかな……。

 どこからどう見ても、カイゼル髭を生やした筋肉質な中年男性が、下がミニスカート状になっているピンク一色のローブと、白色の猫耳フードをつけているようにしか見えないけど……。

 どこをどう見ても可愛くなんて見えないような……。


「今日も来てくれて、ありがと~!」

「「待ってました!!! セリスちゃーん!!」」


 おまけに、声も滅茶苦茶野太い。

 観客の人に右手を振って挨拶してるけど、やっぱり滅茶苦茶違和感がある。

 あの男の人のどこが可愛いのか熱狂してるこの人たち全員に聞いて回りたい。


「……ルーチェさん……」

「な、何、ジル?」


 私に声をかけてきたジルの目は、文字通り点になっていた。

 状況についていけてない、ってこういう事を言うんだろうね……。


「私の目はおかしくなったんでしょうか。アイドルって言いながら、明らかに筋肉ムキムキの中年男性を出しているようにしか見えないんですけど……」

「わ、私の目にも同じ物が映ってるよ……?」


 筋肉質な身体に華奢な魔法使い用のローブを無理矢理着せてる感が凄いし、余りに似合ってなくて、信じたくないけど……。


「……ですよね。アレは……現実ですよね。あんないかにも似合っていない……いえ、不審者みたいな格好でも……」

「……ここがバグッタだから仕方ないのかな……。というか、ああいう格好は普通女の子にさせるよね?」


 猫耳フードにピンク色のローブ……って。

 少なくとも中年男性がやっちゃ駄目な恰好のような気がするよ。


「さあ! 次のアイドルの登場だ! 呼んでくれたまえ! せーのっ!」

「「「クリスちゃーん!!!!」」」


 そして相変わらず超ハイテンションな周りの人たち。

 ……どうしてこんなに温度差があるんだろ……。

 そう考えていたら、天井から何かが地面に落ちてきた。


「私を呼んだのはあんた達? そんなに楽しみにしてたのなら、今日は思う存分楽しんでいってね~!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 地面に落ちてきたそれが立ち上がった。……口調は普通なのに、やっぱり声が野太いよ……。

 案の定筋肉質な白髪の、仙人みたいな髭が生えたお爺ちゃん……ええええ!? なんで!?

 どう考えても人選間違ってるよね!? 何で筋肉質な半裸のお爺ちゃんに猫耳と猫の尻尾をつけてるの!? どう考えてもやることが間違ってるよねここの人達!


「何だこれは……一種の拷問か?」

「あはは……さすがにこれは想定外だったな~……」


 グリーダーまで苦い顔をしているのは珍しいかも……。

 まあ、そりゃ猫耳や猫の尻尾をつけた半裸の老人が野太い声でアピールしてたら、ねえ……。


「一体どんな層に需要があるんでしょうか? 中年男性や老人があんな恰好をしても、全然可愛くないですよね? と言うかむしろ……」

「ああ。気色悪い、な……」

「同感だよ……」


 皆ドン引きしてるね……。けど、私は……。


「……私は、何かもうこれがバグッタなんだって思えてきちゃったよ……」


 でも、ものすごいインパクトだけはあるよね……。

 カイゼル髭を生やした筋肉質な中年男性がピンク色のローブとミニスカートに猫耳フードって……。

 明らかに調理法を間違えた料理みたいだもん……。


「ここで満を持して登場する三人目! ラストに登場するのはこいつしか居ない!」

「「「レイさーーーん!!」」」

「……さん? ちゃんじゃなくて……?」


 さっきまでの二人を見る限り、どう考えてもろくでもない人が来そうだけど……。

 そう思っていたら、円形の足場にかかっている幕の陰から人がひとり歩いてきた。

 赤いコートのようなローブ、そして大きな白い羽が飾り付けられた赤色の三角帽子に赤い靴……。

 見事に全身赤一色の格好の人が足場の中央に歩いてくる。


「……あ、あれ? 最後だけ割と普通? あんな恰好なら男の人でも何の違和感も無いだろうし……」


 女の子であの恰好ってどうだろって一瞬思ったけど、案外ジルでも似合いそうだよね。割と格好いいかも。

 よく見たらコートの縁とかちゃんと黄色の線が入ってるから完全赤一色ってわけじゃないみたいだし。


「よく来てくれた! 今日も、存分に楽しませてやろうじゃないか!」

「「うおおおおおおおお!! レイさーん!!」」


 三角帽子が邪魔で顔が見えなかったけど、男の人が右手を上げて宣言したときに顔も上げたのではっきりと見えるようになった。

 ……この人もやっぱり他の二人同様髭の生えた中年男性だ。

 …………なのにこの人だけ全然違和感が無い恰好なんだよね。やっぱり前の二人がアレすぎたのかな?


「あ、あれ? 最後だけどうしてまともなんですか?」

「これは想定外だな……」

「最後で思いっきり肩透かしを食らった気分だよ……。食らってよかったんだろうけど」


 最後の人だけ普通に格好いい人だったもんね。

 あんな恰好の人、どこかの物語に出てきそうだよ。


「……出ましょうか」

「ああ……」


 ジルとグリーダーが席を立ち、こっそり入口から出て行こうとする。

 ……って、どうして扉の前で立ち止まったの?


「ルーチェさん……扉が開きません」

「ここの人間が外から鍵でもかけたのか……?」

「え? ……って事は、終わるまで出られないの?」


 確かに、こんなの見ようと思う人間はそんなに居ないだろうけど……。


「うわあ……代金の代わりに時間を取られるの……?」


 マディスがぼやくように呟いた言葉通り、出られないなら見るしかないって事だよね。

 ……私は別にそれでもいいんだけど。


「な……何とか帰れないですかね……」


 ここを一刻も早く出たいと思っているのか、ジルが針金を取り出して鍵穴に差し込んだ。

 ……わざわざそんなことしてまで出たかったんだ……。

 まあ、イメージと全然違ってた上に最初の二人の印象が悪い意味で最高だったから私も止めようとは思わないけど……。


「ルーチェ、鍵が開いたら脱出するよ」

「え? ……うん……」


 マディスまで脱出する気だし、鍵が開いたら私も大人しく出た方が良いよね。

 円形の足場の上では猫耳フードとピンク色のミニスカローブ姿のおじさんが前面に立ってノリノリで歌って踊り、その後方で猫耳と尻尾をつけたお爺さんと全身赤で統一したおじさんが同じ動きで踊っている。

 ……まあ、最萌えって書いてあって可愛い物をイメージしてたんだとしたら、悪夢みたいなものだよね。

 別に命に関わるわけじゃないんだから、一度くらい構わないと思うんだけどな……。


「……開きました! ルーチェさん、マディスさん! 早く!」

「こんな所さっさと出るぞ!」

「分かった!」

「はあ……。しょうがないなあ……」


 円形の足場で歌って踊っている三人や熱狂してる周りの人間には悪いけど、さっさと出ることにしよう。




ーーーー




「おや、早い帰還ですね。終わるまで鍵がかかって出られなくなるはずでしたが……」


 受け付けの人は私たちが戻ってきたのを見て驚いていた。

 そんな受付に、ジルとグリーダーがすぐさま詰め寄っていく。


「何が「最萌えアイドルグループ」ですか! あんな変態を二人も取りそろえたグループのどこがアイドルだと言うんです!?」

「この場所の入口の看板には大嘘しか書いていない! ただちに「女装した変態のコンサート会場」だと書き換えろ!」


 ……ジルとグリーダーが本気で怒ってる……。

 まあ、アレはどこからどう見ても「可愛い」とは思えないよね。


「何を言うんです!? 猫耳、猫尻尾がキュートな筋肉ムキムキ半裸の老人には萌えないと言うんですか!? 可愛いでしょうが! 仙人のように伸びた髭までついているんですよ!?」


 この受付何言ってるの!? 自分で言ってて明らかにおかしいって思わないのこの人!?


「萌えるわけないだろうが! この屑が!」

「何処が可愛いんです!? あんなの、ただの不審者ですよ不審者!」


 ……あんな姿の老人が平然と街を歩いていたら、思わず引いちゃう自信はあるよ……。

 少なくとも、関わりたいとは思わないかな~……。


「白色の猫耳フードにピンク色のローブとミニスカート! そんな明らかに女の子向けの恰好と、筋肉ムキムキで! 野太い声で! カイゼル髭を伸ばした中年男性が! マッチするわけないでしょうが! あなたの目は腐っているんですか!?」

「貴様は、萌えという言葉の意味を明らかに分かっていない! あのような中年の気色悪い変装で萌える人間など、皆無だ!」


 畳み掛けるように受付に言い張る二人。


「嘘だっ!」


 そして、二人の言葉を否定しようとする受付の魂の叫び。

 ……一体どこに話が向かっていくんだろ。


「嘘じゃありません! ……言っても無駄なら、その目で、分からせてやります! 私にあの変態が着ていたのと同じ導師の衣服、貸してください! あのような変態よりもよっぽどまともな物を見せてあげます!」


 ビシィ! と言う音が聞こえてきそうな勢いでジルが受付の人に指を突きつけ、そう宣言した。

 ……話がまたこんがらがっていきそうな気がするけど……。


「な……! ……ありえない。筋肉ムキムキで髭を生やした中年男性が導師のあの猫耳付きのローブを着こむ姿こそ至高だと言うのに……。ローブに浮き出る筋肉もまた至高だと言うのに……! まあいいでしょう。そこまで言うなら、やってもらおうじゃありませんか……」


 そう呟きながらジルに導師のローブを渡す受付。

 でもさ、筋肉ムキムキで髭も生やした中年男性が猫耳フードつきのピンク色のローブを着こむなんて、それはさすがにアレだと思うよ……。


「ええ。やってやりますよ!」


 ……ジルも完全にやる気みたいだけど……どうなるんだろ、これ……。

話の中に萌えという言葉の意味を明らかに間違えたような人達が出ていますが、誤字でもミスでもありません。

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