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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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新しい依頼を受けましょう

 翌日、私たちがバグリャギルドに入ると、真っ赤な髪と黒い目の女の子が受付に立っていた。

 昨日まで立っていた女の人はどこにも居ない。

 ……まさか本当にギルドの受付を変えちゃうなんて……。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」

「昨日受けた匠討伐の件なんですけど、昨日は報告できなかったので今日報告しに来ました」


 至って普通の対応をしてきた女の子に、ジルが用件を伝える。

 ……大丈夫なのかな?


「……匠はバグリャの勇者様が倒したと言う事になっていますけど……」

「復活するんですよね? というか復活しました。なので、私たちは匠が復活する場所を突き止め、そこを押さえましたよ?」

「…………え……」


 ……いきなり受付の表情が一変したけど……。

 大方、バグリャ勇者に報酬が行くようにさまざまな言い訳を考えてたんだろうな……。


「で、ですが。証拠がありません」

「証拠なら、数日中に明らかになるでしょうね。これから先、匠が出てくることはまずないでしょう。復活する場所を罠に変えましたから」

「……(あうう……こ、こんなのどう対応すればいいんですか~!? 勇者様のために依頼の結果や報奨金を横取りしろって言われてますけど、こ、こんなの対応できませんよ~!)」


 ……受付がこの調子じゃ、バグリャギルドは長くない、かもね。


「どうしたんです? さあ、依頼達成を認めてくださいよ。それとも……」


 突然ジルが受付の耳元に顔を近づけた。受け付けは固まったまま動けない。


「勇者様のために依頼の報酬を奪おうとする計画が台無しになるから認められませんか?」

「っ!?」


 ジルが受付の耳元で囁く。

 ……完全な脅しだけど、やむを得ないよね?


「な……何の事だかさっぱり……」

「知らないふりをするなら良いですけど、もし依頼の結果を掠め取ったりしたら、あなたたちの上に居る人はどうなっても知りませんよ? ……たとえこの国の勇者様でも…………ね?」


 受付の顔がみるみる青くなっていく。

 ……可哀想だけど、仕方ないよね。私達も慈善事業で依頼を受けているわけじゃないし。


「う、上には依頼達成の報告を上げさせていただきます。……それ以上の事は、私には何も言えません!」

「分かればいいんです。分かれば……」


 まあ、これでも報酬を払わなかったら本当に取り立てを実行すればいいだけだよね。


「よ、用件はそれだけですか!? 他の人の迷惑にもなりますので、用がすんだらとっとと出て行ってください!」


 受付の女の子が強い口調で言い放つ。

 ……でもさ、ちょっといいかな?


「……私たち以外に誰も居ないけど?」


 バグリャギルドには私達と受付の女の子以外に誰も居ないから、別に迷惑にもならないよね?


「……用件……なんですか?」

「依頼です、依頼。バグッタの調査依頼を受けますよ」


 あのイナテモとか言う怖い人を倒すのも大事かもしれないけど、避けた方がよさそうだよね。


「ば、バグッタですか? 止めた方が良いような……。ほ、ほら、バグリャにも依頼がありますし!」

「行くと言ったら行くんですよ。ほら、依頼の説明をしてくれません?」


 ジルが詰め寄って脅しをかけたからしぶしぶ従っているような気がするけど……。

 受付がこんな態度じゃ問題だよ……。


「わ、分かりました。……バグッタは、バグリャの北門を抜けて真っ直ぐ北に向かうと建っている不気味な門を抜けた先にあります。その門の中にはこの世とは異なる世界――――異界が広がっているという話なので、そこの調査に向かってもらいたいんです」


 依頼の内容はちゃんと説明してくれるんだね。

 異界、か……。


「では行ってきますね。……報酬を横領するような真似をしたら、ただでは済ましませんよ?」

「わ、分かっていますよぉ……」


 最後にジルが念押しする。……これで一応大丈夫だと思うんだけど、どうなんだろ?


「ま、これでも駄目なら王宮を潰すまで、だな」

「だよね。逆らったら駄目だってことを教えてあげないと」

「……やりすぎは駄目だよ?」


 後ろで物騒な会話をしている二人に一応注意だけは言っておく。

 ……でも、そう遠くない日にこの国の王宮が潰れるような気がするんだよね……。

 そんな予感がする、程度だけど。


「バグッタへはバグリャの北門を抜けてください。では……」

「ええ、注意して行くとします」


 依頼を受け終わったジルが戻ってきた。

 ……じゃあ、バグッタを目指して出発しようか。

 グリーダーやマディスも歩き出したし。


「そうですね。……異界という言葉が気になりますが」

「門を抜けたら別の世界に飛ぶ、って事なのかな?」

「門の中が別の世界だと言うのか? 単に城壁などで覆われているだけだろ?」


 ……考えても結論は出ないよね。

 でも、普通ならグリーダーが言うような状態だと思うんだけど……。


「ルーチェさんはどんなものだと思ってますか?」

「……全く分からないよ。だけど、深く考えないでおこうかなって思ってる」


 行ってみたらはっきりするしね。


「なるほどな。なら、確かめるためにも早く行くか?」

「そうだね」


 ここを早く離れたいのもあるけど、全く知らない世界に興味があるし、ね。




ーーーー




 三人称side


 バグリャの町の一角にある宿屋。

 先日までバグリャ城に拠点を構えていたヒローズ、バグリャの両勇者は匠の強襲によって破壊された城が修復されるまでの間、そこに拠点を移していた。

 その宿の一室で、バグリャ、ヒローズの両勇者が集まり、話し合いを行っている。


「ヒローズ勇者、依頼はいくつもあるが、どれに挑むつもりだ?」

「……僕は魔物討伐関連を中心に受ける。バグリャ勇者は?」

「調査、探索、採取を中心に受けるつもりだ。……どうやら、依頼の取り合いは無さそうだな」


 バグリャ、ヒローズの両勇者の手にはギルドのクエスト依頼表が握られていた。

 どうやらこの両勇者、クエストを重複して受けないように話し合いをしていたようである。


「……ヒローズ勇者、現状受ける依頼はこれだけで良いんだな?」

「ああ、今の僕たちに出来る範囲の依頼はそれくらいだ」

「分かった。ではこれらの依頼は他の奴らには受注できないようにしておく(あいつなら僕の指示を確実に聞くだろう。あの年増は殺し損ねたが、叩き出したから問題ない)」


 話がまとまったらしく、バグリャ勇者は何やら書類を作成し始める。

 どうやら、ヒローズ勇者が受ける依頼を独占させるつもりらしい。


「ありがとうございます。バグリャ勇者様」


 バグリャ勇者に対し、ベルナルドが頭を下げた。


「気にするな。互いに世界を救うべく集められた勇者だろう?(まあ、お前たちなんかには期待していないが、レミッタに気に入られておいて損はないだろう)」


 ベルナルドに対し、バグリャ勇者は気にするなと諭す。

 もっとも、その本心はヒローズ勇者一行の僧侶「レミッタ」に気に入られておけばメリットがある、と言った物なのだが。


「さて、僕は少しやることがあるからね、失礼するよ」

「ああ。僕たちは依頼を受けに行ってくる」


 話が終わったらしく、ヒローズ、バグリャ両勇者は互いに自分のパーティを連れて部屋を出て行った。






「勇者様~……あんなの本当に役に立つんですか~?」


 ヒローズ一行に聞こえないような場所まで移動した後、バグリャ一行に居る青い髪の僧侶――――ヒルダが口を開いた。

 他の二人も口には出さない物のヒルダと同じ感想を抱いているようだ。


「……対して役には立たないだろうね。だけど、勇者同士が協力することは当然だろう?」

「役に立たないって分かってるんならどうでもいいじゃないですか~」


 ヒルダが呆れ口調で勇者に告げる。

 実際、ヒローズの勇者は難易度1の依頼を切り抜けるのが精いっぱいで役には立たないだろう。


「いや……あいつらみたいな弱い奴でも使い道はあるんだよ。あんな雑魚でも、ね」

「ふーん……」

「さて、ここから僕は少し忙しくなるから、今日は自由行動にしてくれ」

「……は~い……」


 バグリャ勇者は他にやることがあるのか、パーティを一時的に解散して一人どこかへと向かってしまった。




ーーーー




「勇者様、どうかなさいましたか?」

「ああ、君に少し用事があってね」


 パーティを解散したバグリャ勇者はバグリャギルドにやって来ていた。

 ギルド内には受付とバグリャ勇者以外誰も居ない。


「このリストに書いてある依頼を、他の冒険者に渡さないでくれ」

「……独占しろ、って事ですね? 了解です!」


 バグリャ勇者の指示を受けたギルドの受け付けは、渡された依頼のリストと一致する依頼を片っ端から取り下げて専用依頼に放り込んでしまった。


「さて、次の用事だ。冒険者から依頼の横取りは出来そうか?」

「そうですね~……討伐でも証拠が無い物は奪えましたよ。勇者様に手柄を譲渡するなんて、あの三人組は光栄でしょうね~。後、調査の方で一組バグッタに向かう一行が居ました」


 その話を聞いたバグリャ勇者は醜悪な笑みを浮かべる。

 バグッタに行くとなれば相当な難易度の依頼のはずだ。その報酬を掠め取れれば素晴らしい利益を生むだろう。


「バグッタに? よし、その依頼の報酬を僕に寄越すんだ」

「……ただ、その依頼を受けた人が、私に勇者様が依頼の報酬を奪う計画の事を告げて脅してきたんですよぅ……」


 しかし、次に告げられた言葉でバグリャ勇者の醜悪な笑みは凍りついた。

 自分の悪事を知っている輩がいるのだ。


「だ、誰だ!? どこの男がそんなふざけたことを言いやがった!?」


 言葉を聞いた途端にすごい迫力で受付に詰め寄るバグリャ勇者。

 その目には情報を流したであろう男に対する殺意が宿っている。


「ち、違いますよぅ! 女の子です! 銀髪で背が高い女の子が! 勇者様のために依頼の報酬を横取りする計画を知ってました!」

「……女の子? 銀髪? ……誰だ!? 僕が知らない女の子がいるなんて……!」


 受付が言っている女の子とはもちろんジルの事である。

 しかし、バグリャ勇者とジルには面識は一切なく、顔すら合わせていないので誰の事かは分からない。


「お、脅されたんです! 依頼の報酬を横取りしたら勇者様が相手でもただでは済まさないって! 匠の討伐の報酬横取りも脅しをかけられたんですよ!」

「お、落ち着いてくれ……! ……銀髪の女の子なんてどこにでも居るな……。分かった。とりあえず、その二つの依頼の横取りは諦めた方がよさそうだな。できれば口封じのためにその子も僕の物にしたいが、バグッタには行きたくない」


 自分に泣きついてきた受付をなだめつつ、バグリャ勇者は相手への対処について考える。

 ……ひとまずその依頼の横取りは避けた方がよさそうだ、という結論に達したようだ。


「……分かった。ただ、その「脅しをかけてきた相手」以外からは例外なく奪ってくれ」

「はい……。それと、城の修理のためにあちこちに関所を設ける計画ですが、王様が主導して行うようです。ヒローズとの国境、港町ポートルへの街道に関所が設置されるようです。ただ、ポートルへの道のうち、北東の山脈を越えるルートは魔物が多いために通る人間も居ないので関所を置かないとのことです」

「そうか……。それは好都合だな。そのお金も当然僕たちの懐に入れよう。……くれぐれも、気を付けてくれ」

「はい」


 この話の数時間後、バグリャ――ヒローズ間、バグリャ――ポートル間に突如関所が設置され、多くの冒険者や商人が片道10000ゴールドという法外な通行料を押収されることになる。




ーーーー




「……バグリャの北に門……あれですよね?」

「そうみたい、だけど……」


 バグリャギルドを出てからしばらく歩くと、平原のど真ん中に大きな鉄製の門が立っていた。

 門の奥には町でもありそうなのに、門の後ろに回り込んでも平原しかないし、なによりもこの門……。


「どうして、門の扉が無く、代わりに門の中に渦が巻いているの……?」


 私たちの前にそびえたっていた門、その門には本来存在するべき扉が無い。

 代わりに、扉があるべき場所には怪しげな渦が巻いている紫色の膜のような物が張ってある。

 ……見ていると吸い込まれてしまいそうだよ。


「これが異界の入口なんでしょうね。バグッタにはこの門をくぐればいいんでしょうか?」

「そうだろうな。これ以外に門が見えるか?」

「……見えない、よね……」

「見えないよ」


 マディスと一緒に辺りを見渡したけど、バグリャ北の平原にはこの門以外に門らしきものはない。

 ……ここに入るしかないんだろうな……。


「怖いですか、ルーチェさん?」

「……そりゃ、こんなのを改めて見ちゃうと……」


 得体のしれない物にしか見えないもん……。


「まあ、調査のためには入るしかないがな」

「……だよね。グリーダーが言うとおりだよ」


 だけど、ここで止まっていられないよね。バグッタの調査が依頼内容なんだから、肝心のバグッタに行かないことには始まらないよ。


「そういう事です。誰から行きます?」

「……じゃあ、私から入るよ」

「分かった。さ、行くぞ」

「いよいよだね~」

「うん。…………行こう!」


 意を決して私たちは目の前の異空間に足を踏み入れる。渦の中に入ったその直後――――身体がどこか遠くの世界に飛ばされていくような感覚を感じた。
















「……ルーチェさん、大丈夫ですか?」

「…………え?」

「どうやら、飛ばされたようだな」

「ここがバグッタ、かな?」


 いつの間にか気を失っていたらしく、ジルの声で目が覚めた。

 皆無事についたみたい。


「って、ここ……どこ?」


 目を開けた私の目に飛び込んできたのは、まるで夜空のような真っ暗な地面、空中を灯りの代わりに漂っている無数の青白い光、そして、眼下に広がる怪しげな雰囲気の町らしき物だった。

 その町らしきものを覗き込んでみると、ちょっと大きな犬らしき物体が何故か身体を大きく反らした、一見倒れているようにも見える姿勢で後ろ足だけで地面に立ち、首を真後ろに向けた恐ろしいポーズで歩いている。遠目だから良く見えないけど「居名場宇亜亜犬」って何……? どう読めばいいの……?


「……ルーチェさん。あっちを見てください……。あれ、何ですか?」

「……何、アレ…………?」


 ジルの指さす方向を見た私の目に飛び込んできたのは、頭から腕が三本生え、お腹に顔がついた人のような物が居た。……本当に、何なのここ!?


「なるほど、誰も行きたがらないわけだな」

「楽しみだね~」

「楽しみどころか凄く怖いよ!」


 この場で感想を言っていても始まらないので、私たちはその町らしきものに向かって歩きはじめた。

 ……まともな場所じゃなさそうだよね。どう考えても。

バグッタ到着。ただ、章を分ける予定はありません。

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