表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
87/168

罠を完成させましょう

 ルーチェとジルが見回りに行った後、グリーダーとマディスは匠の家を新しく作り直すための相談をしていた。

 彼らのすぐ後ろには先ほどルーチェが粉々に破砕した大岩だった物が集められている。


「さて……ルーチェとジルが見回りに行っている間に一気に組み立ててしまわないとね」

「まあ、形だけは再現できるが……色と輝きはどうするつもりだ?」


 家の形は再現できるが、素材が違うので色や輝きは真似できない。

 グリーダーはその事をマディスに伝える。


「ああ……大丈夫だよ~。薬を使えばどうにでもなるからね~」

「……分かった。なら、色の方は任せるぞ? マディス」

「うん。じゃあ、石をブロック状に固めていくから一気に組み立てちゃってよ」

「分かった。任せろ」


 話がまとまり、二人はすぐさま作業を始めた。

 粉々に砕けた大岩にマディスが薬を使うと岩は瞬く間に四角いブロック状に姿を変え、ミスリルのような色合いに変化していく。

 そして、出来上がったブロックにグリーダーの影から飛び出した黒い銛のような物が次々に突き刺さった。


「……床も回収したから一段低くなっている場所があるでしょ? あの低くなっている場所を取り囲むようにブロックを置いて行ってくれる?」

「分かった」


 出来上がったブロック全てにグリーダーが出現させた黒い銛が突き刺さったのを確認したマディスがグリーダーに指示を出す。

 グリーダーが指示通りにブロックを動かしていくと、匠の家が再現されていく。

 ミスリルの色と光沢まで薬で再現されており、一目見ただけではそれがただの石でできた家だとは到底思えないだろう。


「……次は……天井だね」

「その前にこの家の中にマグマを仕込むのが先だろ」

「ああ……そっか。家の中に入ってマグマを仕込むわけにもいかないからね。じゃあ、天井を作る前にマグマを中に仕込んでから密閉する?」

「それが良いだろうな」


 家の外壁が完成し、後は天井だけになったところで作業が一旦中断され、二人が次の工程を話し合う。

 マグマを家の中に満たしておくのだが、適当に満たしたのでは隙間ができる可能性があるため、慎重に行う必要があるのだ。


「よし、マグマを家の中に入れていくぞ」

「うん。マグマの熱で壊れないように薬で強化しておくからね~」


 そんな言葉を挟み、グリーダーが匠用の罠の中にマグマをどんどん流し込んでいく。

 たちまち罠の内部はマグマで満たされ、足を踏み外せば即座にマグマに落ちるような状態になってしまった。


「……熱いな。熱気が強烈過ぎる」


 マグマを直接家の中に流し込んでいるグリーダー。

 当然マグマの熱気に当てられており、その顔からは汗が滴っている。


「大丈夫~? でも、冷やすことができないから、しばらく耐えてね~」

「分かっている。急いでマグマを流し込んで、残りの部分を作るぞ……」


 マディスとのそんな短いやり取りを挟んでグリーダーは一気にマグマを流し込んでいった。

 家の中は隙間なくマグマで埋め尽くされており、仮にここに入ったらその瞬間にお陀仏だろう。


「さて、屋根を作るか」

「屋根の部分は空洞が無いようにしておいたよ。これを取りつけたら出来上がりだからね~」

「よし、これで家の方は完成だな」


 グリーダーの影から出現した無数の黒い銛が屋根を持ち上げ、取りつける。匠の家は完全に復元させた。

 何処からどう見ても取り壊される前と同じ姿の家がそこに建っている。

 内部はマグマで埋め尽くされているのだが。


「で、次は塀の方か?」

「そうだね~。匠はわざわざ塀を壊して家に入るみたいだし、塀を壊した時にマグマで匠が死ぬように仕込んでおこうか。そして復活する場所が家の中だったら……」

「無限ループで復活できなくなる、か」

「そういう事だよ。じゃあ、塀の方も色を変えるから待っててね~」

「分かった」


 匠を永久に動けなくするトラップの完成はすぐそこまで近づいていた。




ーーーー




 匠用の罠が完成間近に迫っていたその頃、ヒローズ一行と匠の戦いも戦況が少しずつ動いていた。

 まだ誰一人気づいていないが、匠が壁に仕掛けた爆弾に流れ出したマグマが少しずつ迫っていたのだ。

 仮にマグマが爆弾に少しでも当たれば、その瞬間にバグリャの城の壁は吹き飛び、その近くで戦っている匠も強制送還されるだろう。


「ええい! 邪魔なのだよ! さっさとくたばって芸術作品になるがいい!」

「くたばるのはあなたです!」


 元々戦闘を得意としていない匠相手に互角の戦いを繰り広げる騎士団長ベルナルド。

 しかし、その粘りが匠に別の手段を使わせることとなる。


「出てこい! ウォークボンバー! 手当たり次第にこの城を爆破するのだ! 爆発は芸術であり、建築だと言う事をこの蛮族どもに教え込んでやれ!」


 突如匠の声が城内に響き渡る。

 直後、城のいたるところに魔法陣が出現し、そこから歩き回る爆弾型の魔物、ウォークボンバーがわらわらと出現した。


「ベルナルド! 魔物が突然城内に!」

「何ですって!?」

「ま、魔物が!」

「なんじゃと!?」

「ははははははは! やれ! やってしまうのだー!」


 突如大量に出現した魔物に動揺したヒローズ勇者一行。

 突如目の前に現れた魔物を見て後ずさり、騎士団長も壁際から離れることとなった。

 その隙を見逃すわけが無い匠は、呼び出した魔物たちに自爆命令を下す。

 匠の指示を受けた魔物たちが一斉に自爆をはじめ、辺り一帯を木端微塵に破壊する。

 如何にマグマに耐える大理石と言えども、爆発を連続で受ければひとたまりもない。

 瞬く間に城が破壊されていく。


「くそ! 蛮族め! これ以上の暴挙を今すぐ止めるんだ!」

「芸術作品の作成を、とくと見るがいいわ! 芸術に理解すらできぬ未開の猿共よ!」


 バグリャ勇者の言葉を聞き流し、自らの芸術作成を宣言する匠。

 しかし、ここで匠は一つ重大なミスを犯してしまった。

 魔物――――――――ウォークボンバーは名前の通り、歩く爆弾である。

 そして、爆弾が爆発すれば爆風が生じ、マグマも当然吹き飛んで辺りに拡散する。


 そのマグマが匠が壁に埋め込んだ爆弾の一つに当たってしまったのだ。

 結果、匠が壁に仕込んだ無数の爆弾は、次から次へと爆風によって引火、連鎖爆発を引き起こしていくこととなった。

 ――――――――――――壁際から退避することを忘れた匠を巻き込んで。


「うわあ!? 壁が爆発して崩れ落ちていく!」

「か、壁に埋め込まれた爆弾が連鎖爆発しています!」

「ふははははは! これぞ我が芸じゅ……」


 言い切る前に爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされて倒れた匠。倒れた匠に追い打ちをかけるように崩壊した城の柱が崩れ落ちてきた。

 いきなり吹き飛ばされてしまった匠には避けることなどできない。

 あえなくバグリャの城の柱の残骸に潰されてしまった。


「し、城が崩壊します!」

「……広場に逃げるんだ! 広場なら恐らくなにも降ってこない!」

「分かりました!」


 ヒローズ勇者一行と匠の戦いは、こうして唐突な終焉を迎えることとなった。


ーーーー




「……ルーチェさん。匠、戻ってこないですね……」

「戻ってこないのはまだ時間があるって事だと思うけど……」


 ルーチェです。マディスとグリーダーに匠捕獲用の罠を仕掛けてもらっている間、私とジルは辺りの見回りをしています。

 ……匠は未だに戻ってこないけど……。


「本当に、何をしているんでしょうね。さっさと戻ってこないと、私たちが待ちぼうけを食らってしまうじゃないですか」

「そう言う問題じゃないよね!? ……でも、こんなに長い時間戻ってこないとなると、よっぽど遠くまで出て行ってるのかな?」


 匠が何処に向かって行ったかなんて知ったことじゃないけど。


「……それよりジル、この本……」

「何言い出すんですか。そもそも私が盗ったんじゃないですよ」


 シューティングスターの魔術書をジルに見せたら、自分が盗ったんじゃないと言ってきた。

 何言ってるの!? こんな本持ってくるのジルくらいじゃ……! それとも、グリーダー……?


「何言ってるんです。ルーチェさんが自分で持ってきたんじゃないですか」

「ええ!? 私が!? いくらなんでもあり得ないよ!」


 こんなの奪った覚えないもん!


「え? だから、ルーチェさんが勝手に持ってきたんですよ?」

「そもそも私にはこんなの持ちだした記憶がないよ!」


 教皇から魔術書を奪った記憶自体ないもん!


「……まあ、私にも、ルーチェさんが教皇から盗った記憶は無いですね」

「じゃあ、やっぱりジルが……」

「だから、持ちだしたのはルーチェさんですよ」


 ……わけがわからないんだけど……。

 私こんなの持ちだした記憶が……。


「だから、私がルーチェさんに渡した後、ルーチェさんがそのまま持ってきちゃったじゃないですか」

「えええ!?」


 え!? 私が勝手に持ちだしたの!? そんな記憶どこにも……!


「思い出してください。教皇を倒した後、どうなりましたっけ?」

「えっと……」


 ……確か、教皇を倒した後、ジルが本を私に押し付けてきて、それからヒローズの兵士が入って来て教皇やその一派を拘束して行って、それからとりあえず退出するように言われて、教会を出て行って……。

 その後は? ……そのまま外に出て、宿に戻って邪魔な荷物を置いて食事に向かったような……。

 ……あっ……!? まさか……宿に邪魔な荷物を置いたときに一緒に置いたあの本……!


「思い出しました? 要するにルーチェさんが勝手に盗ったんですよ?」

「……渡された本の事、完全に頭から抜けちゃってた……! 次の日にはもう本は無かったし……!」

「本の事を忘れたルーチェさんが寝ている隙にこっそり本を回収して隠しちゃいましたからね。翌日以降も完全に忘却してしまっていたので、黙っていました」

「嘘――――――」


 ……か、返さないと! いくらなんでも、盗ったままは不味いよ!


「何言ってるんです、ルーチェさん。こんなことで一々ヒローズに戻ってたら旅ができませんよ」

「だって、完全にこれって……」


 どう考えても持ち逃げ……!


「ええ。ルーチェさんも私たちの仲間入りです」

「こんなことで仲間入りしても嬉しくないよ!」


 不味いよ……「王宮仕えの魔術師が他国の魔術書を持ち逃げした」なんて、発覚したら洒落にならないよこんなの……!


「何言ってるんです。ルーチェさんは働いてませんよね? 家でだらけていただけでしょう?」

「これでも一応テラントの王宮の魔術師だから! グリーダーを召喚したのも私だよ!」

「この旅に出てるって事は相当な無能ですよね?」

「違うよ! あの馬鹿王の命令通りにグリーダーを召喚したら何故か魔王討伐に私も同行しろとか言われて、居るかどうかも分からない魔王を倒すための旅をさせられてるんだよ! あの馬鹿王、あんなこと言ってたけど絶対グリーダーが怖かっただけだよ!」

「……そのためにわざわざ難易度5の依頼ばっかり受けてるんですか?」

「……だって……」


 実際難易度5の依頼を攻略していかないと実力が足りないだろうし……。

 というか、実際に魔族と戦ったけど明らかに実力不足だったし……。


「無駄足になったらどうするんです?」

「……それは……」


 だけど、一応命令だし……。


「まあ、話を戻しますけど、ぶっちゃけテラントなんて意識する必要ないですよね、ルーチェさん?」

「え?」

「考えても見てくださいよ。召喚した勇者をいきなり叩き出すような国なんでしょう? 有能な――――少なくとも攻撃魔術だけで言うならその辺の魔術師より使えるルーチェさんもあっさり捨て、それどころか、命がけの旅をしている私達に支援物資すら寄越さない連中ですよ?」

「……それは……」


 まあ、私達も冒険者のパーティ「ジャスティスローグ」とは名乗るけど「テラントの勇者」と名乗ったことなんかないし、テラントから勇者への支援を届けてくれたようなことも無いもんね……。

 ……あの馬鹿王、一回ファイアボールで丸焼きにしても良いかな?


「支援物資なんて貰えないでしょう? つまり、初めからテラントの勇者じゃないんですよ。本物の勇者だったらヒローズの教会みたいに支援が頂けますしね」

「……確かに、テラントの王宮からは何一つ支援物資も無かったし、音沙汰すらないけど……」


 そう考えると、テラントの王宮って本当に薄情だよね。

 勝手に召喚をやらせて、挙句私にグリーダーを押し付けて国の外に叩き出したんだもん。


「そんなふざけた国の役人まがいのような考え、捨てましょうよ。ルーチェさん。勝手に貰っちゃった物は貰っていきましょう」

「……」


 そう考えたら、本当にあの馬鹿王調子に乗ってるよね。

 私に無理やり召喚をやらせてグリーダーを呼び出して、そのまま支援物資も全部私に用意させて叩き出したんだから。

 ……でも、それとこれとは違っているような気がするけど……。


「違っていませんよ、ルーチェさん。ルーチェさんがモブから盗るなと言うのは、一応国の魔術師だから、でしょう? それを取り去ったら、こんな本一冊、別にかまわないと思えるはずです。国の禁書じゃないんですから」

「…………なんかどんどんジルに変な方向に誘導されているような気がするんだけど……」


 私がその辺の人から奪ったら駄目だと言ってるのは、相手が何もしていない人だからなんだけど……。

 少なくとも、山賊や盗賊、ものすごくあくどい事をやってる役人から奪ったって何とも思わないし……。


「教皇と山賊、どう違いますか? あんなモンスター、山賊と同じですよ。向こうの勇者の方から襲ってきたにもかかわらず、一方的な逆恨みで暗殺者を派遣してきましたしね」

「……そうだけど……」


 人の話も聞かずに自分の勇者様が~って言ってたもんね……。


「だから大丈夫ですって。それに、もし返さなければいけない物ならとっくに話がくるはずですよ」

「……そうかな……?」


 単に探し回っているだけって事もあるかもしれないけど……。


「ルーチェさんは一々心配しすぎです。そんなこと考えなくても大丈夫ですよ」

「そうなのかな……って、アレ何!?」


 ジルと話をしてたら、匠の家がある場所を目がけて飛んでいく光のような物が目に飛び込んできた。

 ……何アレ!? ……まさか、匠!?


「この話は後ですね。行きましょう、ルーチェさん!」

「うん! 匠だとしたら、大変だよ!」


 罠が完成していたら大丈夫かもしれないけど、まだ完成していないかもしれないから急いで戻らないと!

戦利品の持ち逃げ。まあ、勇者なら良くやってますけどね。

というか、ゲームだとドロップアイテムは大抵重要な資源です。

消耗品でもありがたいですけど、非売品落としてくれたりすると特に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ