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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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匠の家を建て直しましょう

「ふう。ようやく全部回収しましたね……」

「……本当に家丸ごと回収しちゃうなんて思わなかったよ」


 あれから匠が戻ってこないか警戒しつつ家を解体し、ようやく匠の家を跡形も無く回収することができた。

 ……軽く一時間はかかったはずなのに、まだ帰ってこないなんてね。匠は一体どこに居るのかな?


「ぼうっとしている時間は無いですよ、ルーチェさん。今から匠の家を建て直すんです」

「そうそう。外観だけでも建て直さないとね~。中はマグマの海にするから良いとして」

「……と言っても、どの材料で家を建てなおすつもりなの? マグマを中に仕込むなら、下手な素材だとあっという間にマグマに飲まれちゃうよ?」


 ……マグマの熱でも溶けない素材なんてあったかな?


「薬で多少補強したその辺の石でやればいいだろ。ついでに、石の色をミスリルのようにしておけば完璧だな」

「塀ももちろん石で作るよ。手っ取り早いしね」

「さ、やりますよ。ルーチェさん」

「分かった。……急いで作っちゃおう」


 匠が帰ってきたら面倒なことになりそうだしね……。

 間違いなく戦闘になっちゃうよ。


「「私の家になんてことをするんだ~!」くらいの事は言ってきそうですよね」

「自分だって滅茶苦茶やってるのに……」

「だからですよ。ルーチェさん」


 自分勝手な人って本当に迷惑な人なんだよね……。


「あ、ルーチェ。あそこの岩を魔術で破壊してくれる? ピッケルで一つずつ壊してたら時間かかっちゃうから」

「え?」


 マディスの指が指している場所を見ると山か何かと勘違いしそうになるほどに大きな岩が。

 ……多分まだ匠が切りだしてない物なんだろうけど……。


「……ファイアボールで壊せるかな?」


 さすがに岩を壊したことはないけど……。出来るかな?


「何言ってるんですかルーチェさん。そんな時こそ、教皇から貰ったこの本の出番です」

「え……。ねえ、ジル。これってまさか……」


 ジルに渡された本――――魔術書の表紙に書かれていた魔術の名前を見た瞬間、私の頭は真っ白になった。

 ……なんでシューティングスターの魔術書をジルが持ってるの!?

 これってヒローズの教会の……!


「勇者教会の教皇様から頂いた戦利品です。さ、どうぞ」

「え!? いや、どうぞって……!」


 一体いつこんな物……。

 盗ったら駄目だっていつも言ってるのに……!


「何言ってるんですか。モンスターから戦利品を手に入れただけですよ」

「教皇はモンスターじゃなくて人間でしょ!?」


 ……とは言っても、今はそんなことで貴重な時間を使ってられない。

 だからそのことは後回しだよ。

 でも、宿に戻ったらジルと一回「お話」しないと駄目かな……?


「ジルはな、ヒローズの連中に回収される前にちゃんとシューティングスターの魔術書を奪っておいたんだぞ? ルーチェ、たまには褒めてやれ」

「泥棒行為を褒めろって言うの!?」


 ……確かにあの魔術は戦力にはなるだろうけど……でも……。


「そんな事より早く岩を壊してください、ルーチェさん」

「……まあ、一応やってみるよ。えっと……」


 魔術書を開き、詠唱を開始する。

 ――――――――虚空彷徨う無数の流星、我が意に応え、空間を裂いて宙より来たりて仇名す者全てを滅砕せよ!

 シューティングスター!


「岩の上の空間に穴が開いた……念のために下がって!」


 マディスの叫び声が聞こえた、と同時に私の身体から魔力が魔術書に流れ込み、魔術書から放たれた魔力が大岩の上に開いた空間に一気に注ぎ込まれた。

 直後、上空に開いた空間から人の頭ほどの大きさの赤い光を放つ黒い岩がいくつも出現する。

 それらは出現した直後に目で追えないほどの超高速で大岩に降り注ぎ、次々に爆発を起こす。

 爆発に飲まれた大岩は瞬く間に破壊されていき、その破片が周囲に飛散していく。


「……教皇の物と随分違いますね。使う人によって変わるんでしょうか?」

「遠くから見ると無数の赤い流れ星が落ちてくるようにしか見えないよね~」

「岩が瞬く間に砕け散っていくな。さすがと言うべきか?」


 魔術書から上空の空間に注がれる魔力が途切れる、と同時に私の身体の自由も利くようになる。

 ……シューティングスター……教皇が使った時も思ったけど、本当にすごい威力……。

 山のような大きさの大岩があっという間に砕け散って石の山になっちゃった。


「ま、ここまで砕いてくれれば後はこれで家の外観だけ作れば良いよね。グリーダー、一気に終わらせよう」

「了解だ」


 マディスとグリーダーが砕けた岩山を回収し、匠の家の跡地に新しい家を作り始めた。

 本当に見た目だけ完璧に再現して中はマグマで埋めるみたい。

 ……ところで、私は何してればいいの?


「見張りでしょうね。まあ、暇つぶしに喋りながら一緒に見回りしましょう、ルーチェさん」

「喋ってたら見張りにならないような気がするけど……まあいいか」


 じゃあ、マディスとグリーダーが家を建て終わるまで、私たちは匠が戻ってこないか見張りをしてるよ?


「ああ、それでいい」

「気を付けてね~」

「じゃあ、行きましょうか、ルーチェさん」

「うん」


 匠が戻ってきたら足止めしないといけないけど、まだ大丈夫だよね?




ーーーー




 三人称side


 マディスとグリーダーが匠の家を作り直しているちょうどその頃、バグリャの城内では匠とヒローズ勇者たちの激戦が繰り広げられていた。


「この辺も爆破してやろう! 私の建築の素晴らしさを見せてやる!」


 匠は目についたものすべてに爆弾を投げつけて容赦なく爆破していく。

 匠の投げつけた爆弾が直撃した大理石の柱が一本丸ごと爆破されて砕け散る。

 匠は大理石の柱が粉々に砕け散る様を見て高笑いしていた。

 彼の凶行を止めるには文字通り倒すしかないだろう。


「おのれ蛮族! くたばるがよいわ! ファイアボール!」


 砕けちっていった大理石の柱を見て高笑いしていた匠目がけ、炎――――いや、火の粉が襲い掛かった。

 ヒローズ勇者一行の魔術師、スロウリーが攻撃を仕掛けたのだ。

 だが、小さな火の粉の塊では匠を止めることどころか、意識を向ける事すらできない。

 あまりに小さすぎて、匠に当たる前に空中で消滅してしまっているのだ。


「ええい! さっさとくたばるのじゃ! わしらの城から出て行くがいいわ!」

「……ここは僕と彼女たちの城なんだが……」


 当たらない魔術に舌打ちしながらもなお魔術を繰り出し続けるスロウリーの口から出た言葉に、バグリャ勇者が微妙な表情を浮かべる。

 スロウリーやベルナルドも「一応」勇者一行のため、軽く扱えないので城に置いてはいるが、本音を言うならさっさと出て行ってほしいところであった。


「くっ! マグマだらけでまともに近づけません!」

「スロウリーの魔術だけが頼りか……?」

(……ちっ。役に立たない勇者だ)


 ベルナルドとヒローズ勇者は一応攻撃を仕掛けようと言う意思はあるようだが、辺りにまき散らされたマグマのせいで進めず、結果匠の足止めすらできていない。

 そんな彼らの様子をバグリャ勇者は冷ややかに見つめていた。


「ん~? 何だねこの汚い絵画は? こんな醜い豚が載っていても芸術的価値などあるまい。こんな汚い物は私がマグマで浄化してやろう!」


 止めるどころか障害物にもなっていないヒローズ勇者一行やバグリャ勇者一行を完全に無視した匠の目に、とある絵画が飛び込んできた。

 その絵画に描かれていた物、それは青い髪の少女であった。

 そう、バグリャ勇者一行の僧侶――――ヒルダの絵である。

 もっとも、描いた人間の腕が酷い物だったのか、元からそれほど可愛く無い本物より更に醜い絵であったのだが。


「ああ! 勇者様が私のために描いてくれた私の絵が!」

「こんな汚い絵は……焼却するのだ~!」


 バグリャ勇者に抱き着いたままのヒルダが悲鳴を上げるのと匠が壁にかかった絵にマグマをぶちまけたのはほぼ同時だった。

 絵はマグマがかかった瞬間にあっという間に燃え上がり、跡形も無く消えてしまった。


「そんな……勇者様と私の……愛の絆が……」


 その言葉が紡がれたのとほぼ同時にヒルダの目から一筋の涙が零れ落ちる。


「さて! あんなくだらない落書きの代わりに、私が新しいオブジェを作ってやろう!」


 柱にかかっていた絵を焼却処分し、更にテンションの上がった匠はなんと城の壁に爆弾を埋め込み始めた。

 爆弾をいくつも埋め込まれた壁は遠目からだと所々に黒い点があるように見える。


「勇者様と……っ……私の……約束の絵が……っ!」

「……ヒルダ……」


 勇者の胸に顔を沈め、嗚咽するヒルダ。

 その様子を離れたところから見ている魔術師と戦士の表情は何故か明るい物であった。


「うう……勇者様……っ」

「くそ! 僕がこんな身体でなかったらあんな蛮族……!」

「…………なんて酷い事をするんだ!」

「全くです!」


 大切な絵がマグマの中に消えたことにより、泣きじゃくるヒルダ。

 泣きじゃくるヒルダを見てバグリャ勇者は自分の身体が動かない無力を悔やむ。

 そして、匠によって引き起こされたこの悲劇により、マグマに阻まれて何もできなかった二人の闘志が再び業火のごとく燃え上がる。


「許しておけない!」

「ええ! 行きますよ、勇者様!」

「マグマがなんだ! 越えてやる! 行くぞ、ベルナルド!」

「ええ! 行きましょう、勇者様!」


 壁にかかっていた絵画を消し去ったマグマが城の床を川のように流れているが、それを気にして立ちすくんでいては匠を止められない。

 ヒローズ勇者とベルナルドは覚悟を決め、マグマの川が流れる危険地帯に踏み込んでいく。

 目標はただ一つ、匠を倒し、この悲劇を止めるだけだ。


「ふむ……やはりここの爆弾はこっちの方が……いや、それよりむしろあっちの……」


 マグマを避けつつ着実に近づいてくる勇者一行などまるで眼中にないかのような匠。

 実際、スロウリーの攻撃など脅威にもならない上、ヒローズの勇者一行はマグマで簡単に足止めできるのでわざわざ相手をするほどでもないのだ。


「ぬっ!? わしを無視するでないわ!」

「くっ、完全に僕たちなど眼中にないとでも言うのか!? 僕たちを侮っていられるのも今のうちだけだ!」

「ええ! 私たちの実力を思い知らせてやりましょう!」


 そんな匠の態度が、ますますヒローズ勇者一行を怒りに震えさせる。

 相手をする価値も無い。と暗に言われているような匠の態度は、許せないものなのだ。

 実際ヒローズの勇者一行は相手にするほどの価値が無いのは事実なのであるが。


「……これ以上好きにはさせません! 私も、勇者様の援護に……!」


 そして、怒りに震えるヒローズ勇者一行の戦列に、今までバグリャ勇者が連れ込んでいた女性たちの看護をしていたレミッタも加わった。

 勇者とベルナルドが匠に接近戦を挑み、レミッタとスロウリーは距離を取って後方から魔術で援護する戦法をとるようである。

 勇者とベルナルドが慎重に匠に近づいていく。


「ううむ、さっきから煩いハエどもだ! 私の素晴らしい建築の邪魔をするでないわ!」

「黙れ! これ以上、お前の好きにはさせない!」


 騒音を聞かされていた人間のような疎ましげな表情を浮かべてヒローズ勇者一行の方に向き直る匠に、ヒローズの勇者が啖呵をきる。


「私の剣が、あなたを断罪します!」

「わしの魔術にひれ伏すがいいわ!」

「これ以上の破壊活動は許しません!」

「……ええい、煩いわ! 芸術の理解すらできん輩は死ね!」


 勇者に続いて匠を倒すことを告げた耳障りな面々に、匠の怒りが爆発した。 

 匠は懐から火がついた爆弾を取り出し、勇者の方に投げつける。

 それが開戦の合図であった。


 飛んできた爆弾を避け、勇者とベルナルドは一気に匠に接近していく。

 匠が投げつけた爆弾は勇者とベルナルドの背後にあったマグマ溜まりに落ちて爆発し、柱を破壊した。

 崩れ落ちた柱が砂埃を上げて後衛の視界を奪うが、勇者とベルナルドにはそんな物は関係ない。

 剣の届く範囲まで接近することに成功した勇者とベルナルドの剣が、匠に襲い掛かった――――――――。











「甘いわ!」

「何!? 剣が通らない……!」

「馬鹿な! ただの服ではないのですか!?」


 しかし、勇者とベルナルドの放った一撃は匠の腕を傷つける事すらできない。

 匠の腕を覆う服に当たった二人の剣。しかし、肝心の服を切り裂くことも、腕を斬り落とすことも出来なかった。


「邪魔者め! 芸術作品の一部となって死ね!」


 剣を止められ動揺していた勇者に匠が襲い掛かる。

 薄緑色に輝くピッケルを取り出し、斧の代わりに勇者に振るい始めた。

 それを青銅の盾で受け止めようとする勇者。

 しかし、その決断は誤りだった。





 ――――――グシャッ!




 金属が文字通り叩き潰されたような音が響き、勇者が掲げた盾は、一撃でその役目を終えることとなった。

 匠のピッケルの強度が青銅の盾など比較にならないほどに高かったのか、ピッケルが盾を貫通してしまった。


「な……!? 僕の盾が一撃で……!」

「こんな青銅製の盾など、私のピッケルの相手にもならんわ!」

「勇者様! 一度下がってください! 盾が無い状態での戦闘は危険です!」

「くっ……」


 盾を失った勇者は少し下がり、ベルナルドに前衛を委ねる。

 一騎打ちとなったベルナルドと匠の武器が幾度もぶつかり合い、激しく火花を散らす。


「邪魔な愚か者め! そこをどくのだ! 芸術作品が作れないではないか!」

「黙りなさい! あなたのような外道は、必ず私たちが倒します!」


 ヒローズ勇者一行と匠の戦いは、さらに激しさを増そうとしていた。

ルーチェたちとヒローズのザコ、どっちがメインなのやら。まあ、こうでもしないと話の流れが不自然になってしまいますけど。


ぽっと出のモブがやっているから「大切な絵」の話も茶番にしか見えませんね。

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