匠の家を探しましょう
「ああ、ルーチェさん。丁度いいところに来ましたね」
「遅かったな。これを見ろ、ルーチェ」
匠に出くわした私は一旦ジルや二人と合流しようと思ってグリーダーとマディスが地面を掘り返していた場所に戻った。
……どうして地面に大穴が開いてるのかすごく気になるんだけど。
「ねえ……なに、この大穴」
私の目の前の大地には元々あった平原は跡形も無くなり、洞窟の入り口のような大きな穴がぽっかりと開いていた。
「掘り返してみたら地下につながる通路があったからね~。ためしに地面を吹き飛ばしてみたんだよ」
「地面を吹き飛ばしたって……これの後始末どうするの!?」
地面に大穴開けちゃってるけど……こんなのとても埋められないじゃない!
「まあ、気にする必要はないと思いますよ。そんな事より、ここから降りていきましょう」
「気にしてよ! ……まあ、言うだけ無駄かもしれないけど」
それにしても、何でこんなところに人工的に作ったような石の階段らしきものがあるんだろ……?
「もしかしたら、大当たりかもしれませんよ?」
「それは行ってみないと分からないけど……」
匠の住居が地下にあるって確定したわけじゃないもん……。
もしかしたら、ただの洞窟だったりするかもしれないし……。
「それならそれで好都合じゃないですか。誰も入ったことが無い場所なら宝箱の一つや二つ落ちているでしょうし」
「そう言う問題じゃないでしょ……」
まあ、ここで話してても仕方ないから地面に開いた大穴の中に入って行こうか。
穴の底に細い通路のような物が見えるし。
「……大穴の床……というか、階段? でしょうか? はどう考えても人工物ですよね。周りは全部土が吹き飛んでしまっているのに、一ヶ所だけ石が積み重なった階段状の段差になっていますし」
大穴の中に入る途中、ジルが呟いた。
……確かに、地面を吹き飛ばしたとしても床の一部が階段みたいになっているのは不自然だよね。
「やはり誰かが作ったんだろうな。そうでなければ石の階段などありえない」
「グリーダーの言うとおりだよね~」
……誰が作ったのかな?
まさか匠? ここの近くまで戻って来ていたし……。
「それは無い……とは言い切れないんですよね。ルーチェさんが思っている通りの可能性もありますよ」
「じゃあ、匠が作ったのかな? こんな石の階段を何のために作ったんだろ?」
「そりゃあ、この奥に住居でも作るためじゃないかな? まさか地面の中に潜んでいるとは思わないだろうし」
……そう考えたら匠がどこからともなく湧いてくるって言葉も理解できるけど、本当にそれだけなのかな?
…………地下でしか手に入らないものがあるから、とかそんな理由もありそうだよ。
「一応リフォーム業者を名乗っていますからね。もしかしたら、そのために必要な物をこの階段の先にある通路に隠してあるのかもしれませんね」
……とにかく急ごう!
また匠が家を爆破するかもしれないから、早く手を打たないと!
「そうだな。奴を放っておいたらロクな事にならんだろう」
私たちは石の階段を駆け下り、かろうじて上からも確認できた狭い通路の中に踏み込んでいった。
通路の横幅は人一人がようやく通れるくらいの狭さしか無く、その狭い通路の壁に松明の灯りだけが規則的に灯っていた。
その通路の中ももちろん階段状になっている。……一体どこまで掘ったんだろ?
「地下にある物……まさかとは思うけど、マグマを採取してたりしてね~」
「ありえますね。そうでなくては、家をマグマで攻撃することができませんし」
「……わざわざマグマを採取するためだけにこんな階段を作って地下に住み着くとは考えられないけど……」
もしマグマが欲しいだけなら、それこそ組み上げる方法を考えた方が早そうな……。
…………普通はマグマなんかそもそも手に入れられないか。
「あの男が引きつれていた魔物、あれを養殖しているのかもしれんな」
「魔物の養殖なんか普通はありえないと思うけど……」
そんなことしたって誰も得しないと思うよ?
「ルーチェさん。世の中、自分の理解が及ばないような世界が広がっているって事はよく分かっているでしょう?」
「それは……まあ……」
明らかに理解が追い付かないような事ばっかり見てきてるしね……。
「しかし、いったいどこまで掘っているんだ? 終わりが見えんな……」
「階段長すぎますよね……」
私たちが狭い通路に突入してからすでにかなりの時間が経っている。
……にもかかわらず、終わりがまったく見えないなんて……。
ちゃんと私たちは前に進んでるのかな?
「それは問題ないでしょう。空気自体は随分冷たくなっていますよ。相当な深さまで駆け下りているんでしょう」
「だが、この先は……一体どこなんだ?」
「奥が深すぎるよね~」
奥が深いとかそう言う次元を超えてるよ……。
どこまで行ったら最深部に着くんだろ……。
そう思っていたら、階段の途中に開けた場所が見えた。
「……まだ階段がありますけど……ここは中間地点でしょうか? とんでもない光景が広がっていますよ」
「……これは……確かに想定外だな」
「うわあ……」
「……え!? 何なの……ここ……」
長い長い階段を駆け下りた先で私たちが見た物、それは地下に突如開いた先が見えないほどの広大な空間に何故か広大な草原が広がり、所々に湖が存在していると言うありえない空間だった。
灯りとしてここも壁や床のあちこちに松明が置かれている。
ただ、もっと驚いたのは私たちが降りてきた階段が、まだこの場所の下に続いている事。
……一体ここはどれだけ広大な場所なの!?
というか、此処は本当に地下……なんだよね!? 何で地下に草原があるの!?
「匠の住居がこの辺りにあると考えて間違いなさそうですね……」
「こんな広大な草原を地下に造って、湖まで作るなんてね~……。スケールが大きすぎるよ」
「天井が石の壁でなければ至って自然な光景だろうな」
……そもそも、どうして草が地下に生えているんだろ……。
どう考えてもこれ、日光が当たらないよね?
「日光が無くても、代わりになる物がある、って事でしょうか? しかし、この場所って本当に匠が一人で作ったんでしょうか?」
「そう考えるのが自然だよ。だって、これだけ広大な草原があるのに、魔物や動物が一匹も居ないんだもん」
改めて目の前に広がる草原を見渡す。
辺り一面緑に覆われた大地には生物が一匹たりと存在せず、草が生い茂る大地がただ端まで広がっているだけだった。
……普通ならば湖の中に何か居そうだけど、そんな感じもしない。
「匠の住居も無さそうだな。この下か?」
「……この階段の下に匠の住居があるのかな?」
私たちは匠の住居を探すため、終わりが見えない狭い階段を再び駆け下りていった。
……一体どこまで掘ったんだろ。というか、これだけ掘ったならその分の土や石がどこかにあるはずなのに……。
「案外、匠の家の中に保管されているかもしれませんね。まあ、捨ててしまった可能性もあるかもしれませんが」
「ジル……。家の中に……って言っても、この空間全部の土は絶対入りきらないよ……」
武器を百個詰め込むとかそう言う次元じゃないんだし……。
「それこそ、ルーチェが持ってる無限収納が出来る入れ物みたいなものがあるのかもね~」
「見つけたら奪うか?」
「土や石の山なんか奪ってもしょうがないじゃない!」
そんな物持って行っても使えないよ!
「いや、案外、重要な素材が入っている可能性も……っと、あれは何だ? 家……か?」
「今度は案外近かったですね。……こんな地下深くにどう考えても不自然な豪邸がありますけど……」
「え? ……豪邸……?」
前を走っていたジルとグリーダーが止まったので横に立ってその場所を見てみると、金で出来た塀に覆われた薄緑色に輝く巨大な家のような物が建っていた。
……どうやって建てたの!? というか、金の塀って何なの!?
……その無駄に豪華な塀、滅茶苦茶趣味悪いよ! 一体いくつの金塊をこんな悪趣味な建物のために使ったの!?
「……ルーチェさん。この塀や家、壊してもらっちゃったら駄目ですかね……?」
「……相手が匠だから何とも言えないけど……」
でも、匠対策のためにこの家を壊さなきゃいけないくらいだったら……。
「この様子だと、中には山ほど宝石があったりしてね~」
「宝石!? ……行きますよルーチェさん! せっかくなので全部奪っていきましょう!」
「え!? 待ってジル! まだあるって決まったわけじゃ……! というか、下手に突っ込んだら危険じゃないかな!?」
こんなあからさまに怪しい建造物、罠があってもおかしくないよ!
「何言ってるんですか! こんな場所に気づく人間まず居ませんよ! だから罠なんかわざわざ用意しませんって!」
「……それは良いが、入口はどこにあるんだ?」
グリーダーが呟いた通り、見渡しても、ぐるっと回ってみても金の塀には入口らしきものが見当たらない。
……やっぱり壊して入るしかないのかな?
そう考えてた時、誰かの話し声が耳に入った。
「……静かに! 誰かの声が聞こえる……!」
「え?」
「……」
塀の奥の空間で誰かが喋っているらしい。
……匠、かな?
「……うーん、実に良い仕事をした。夢の中で私にリフォームを頼んだ家主が、私がぶちまけたマグマで家をリフォームされて喜びはしゃぐ姿はいつ見ても気分がいい。……しかし、さっきの連中……この家は大丈夫か? 草が生えてしまえばこの場所に気づくことはないだろうが、万が一と言う事はあるからな……」
……匠の声! やっぱり、ここがそうなんだ……!
「ウォークボンバー達も絶滅一歩手前だ。これでは次のリフォームはマグマと自前の爆弾だけでやらねばならんな。リフォームの匠の名が泣いてしまう!」
……じゃあ、この家をなんとかすればいいのかな……?
「……しかし素晴らしい力だ。私がうっかりマグマに飲まれて消えたとしても、私は何度でも蘇る。この場所に、何度でも蘇るのだ! ……ふふふ……この力があれば、私は何度でも冥界から現世に蘇り、匠の御業で開放感あふれる家を作ってあげられるぞ!」
……この家に復活してたの!?
それに、何度でも蘇るって……。
「どうします、ルーチェさん。これじゃ普通にやっても復活して逃げてしまいますよ?」
「それに、普通に生け捕りにしても無駄だろうな」
「……」
「やっぱり、お手上げ?」
「ううん。一つだけ方法を思いついたよ。……最悪な手段だけどね」
酷いを通り越して外道かも。
「どんな方法ですか?」
「この場所をマグマの海に変えて、匠が復活するたびに即座にマグマに沈んで死ぬようにしたらどうかな、って考えたよ」
どうせ死なないんだし、って考えたら、ね……。
「確かに、死なないんですから別に酷い攻撃をしても問題ないですよね」
「……なるほど。じゃあ、いつ攻撃を仕掛けるの?」
「奴が出て行った直後に侵入して家を強奪し、代わりにマグマの家を作ってやればいいのではないのか?」
マグマの家……アイデア自体は良いけど、さすがに無理だよ。
「無理ですね。床一面をマグマにしたマグマで溶けない家、が理想でしょうか」
「だが、何を素材にする? 石でも使うか?」
「……そうだね。というか、家を作らなくても、マディスの薬で地面に大穴を開けてそこにマグマを流し込めば……」
まあ、マグマが冷えてしまうから永久に効果を発揮することは出来ないけど……。
「それでも大丈夫でしょう。あのマグマ、そう簡単には冷えないでしょうし」
「なるほど、な。やり方は分かった。だが、どうやって乗り込む?」
「そこなんだよね……」
この一面に張り巡らされた金の塀を壊して入るしかないだろうけど……。
「簡単じゃないですか。この塀を壊してついでに貰っていきましょう」
「下手に壊したら、相手に見つかるかもしれないじゃない!」
そうなったら全て台無しだよ!
「……そうですね……。少し待って匠が出て行くのを待ちましょうか」
「匠さえ出て行ったら、この建物を壊して素材を全部押収できるだろうしね~」
「待って! いくらなんでもこの家と塀丸ごとはやりすぎじゃない!?」
家丸ごとなんてさすがに入らないと思うよ!
「大丈夫だ。問題な」
「さて、次はバグリャの城をリフォームしてくるとしますかねえ」
家を丸ごと持って行こうとするマディスの言葉に反対してたら、匠が壁の一ヶ所に穴をあけて出て行った。
……壁を殴って壊したように見えたんだけど、気のせいかな……?
あんなに大声で話してたのに、私達に気づかずそのまま行っちゃったけど……。
「好都合ですよ。さあ、この家を丸ごと強奪しましょう」
「こんな塀、俺の斧ならすぐに叩き壊せるな」
「爆破して塀は全部回収しちゃうよ~」
ジルが強奪すると言った直後に塀に叩き込まれるグリーダーの斧とマディスの薬。
純金で出来ているのか思ったよりも柔らかい金の塀は、私の目の前であっという間に崩れ落ちて金塊の山になってしまった。
……匠は気づいてないのかな? こんな轟音や爆音が響いてたら気づくと思うけど……。
「さ、回収回収」
「金の山ですよ金の山。これだけあれば、一生遊んで暮らせます」
「ほら、遊んでないでさっさと金塊を回収しろ、ルーチェ」
「何で私までこんなこと……」
叩き壊して家ごと根こそぎ奪っていくって、泥棒よりもっと酷いよ……。
「気にしなくていいですよ。相手はあの匠ですし」
「マグマに沈めたやつらの財産を奪って作ったんだろうからな」
「リフォームリフォーム言ってたんだし、こんな悪趣味な家はリフォームしないとね~」
「こんなことやってる時点で、私達も匠とやってることが変わらない気がするんだけど!?」
家を問答無用で破壊して挙句家の材料全部持ち去るなんて……。
「知っていますかルーチェさん。悪徳リフォーム業者の家を叩き壊しても罪にはなりません」
「気にする必要も無い。これから家の中の物も全部奪っていくのだからな」
「気にしてよ! 私達完全に強盗みたいじゃない!」
勇者のはずなんだよ!?
「何言ってるんですかルーチェさん。人の家のタンスやツボを漁るよりはマシでしょう?」
「やってること同じだよ! というか、もっと酷い事やってるよね!?」