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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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依頼の確認をしましょう

「……それで、本日はどの依頼を受けるご予定で?」


 完全にジト目になった受付の女性がバグリャ勇者の一行に問いかける。


「話は聞いたよ。このバグリャの周辺で、女の子を狙う卑劣な男がいるらしいじゃないか」

「……正確には「いちゃつく男女を狙う凶悪男」なんだけど……」

「僕たちが、そんな下種野郎を成敗してきてやる! そう伝えに来たんだ」


 ……受付の話からすると、バグリャに向かう途中で出くわしたあの男かな?

 カップルをエクスプロードで爆殺していった凶悪な人だけど……。


「女の子を狙う卑劣な男!? 勇者様~。私の事、守ってくれますよね……?」

「当たり前だよ、ヒルダ。僕が、君の事を守ってあげるからね」

「勇者様~!」


 ……なんか鬱陶しいね……この一行。

 見てるだけで苛々してきたのは初めてだよ。


「勇者様~! 依頼は受けたんだし、さっさと行きましょ~!」


 魔術師の女性が勇者の腕を引っ張り、さっさと行こうとする。

 僧侶を一瞬見たような気がするけど、目の中に殺意の炎が見えたよ……。


「あんたらさっきからなれなれしいんだよ! 私の勇者様に触るんじゃねえよ!」


 戦士が僧侶と魔術師を無理やり引きはがして勇者を強引に連れ出そうとする。

 ……この光景を外でやったら、絶対あの怖い人がやってきそうだよね。


「わ、分かった! 分かったから、二人とも一旦落ち着いて! ……ん?」


 ……あ。勇者に見つかった。

 面倒なことになりそう。

 なんか舐め回すように私の事見てるし……。


「……君は……」

「……何?」


 ……この勇者、目が最悪だよ。

 勇者って言うけど、こんなのただの変態じゃない……。

 こんなののどこがかっこいいんだろ……。


「勇者様~! こんなのほっといて行きましょうよ~!(何よ! 勇者様ったら! 勇者様には私が居るの! 私以外誰も要らないの!)」


 そう言って勇者の腕を引っ張る僧侶の目には何故か嫉妬の炎が。

 それにしても、猫なで声と言うか、なんというか……。

 この僧侶の声って苛々させてくれるよね……。


「ああ、分かったよ! もう! 行く! 行くからみんなして引っ張らないで! 仲間なんだから仲良くしようよ!」


 ……そのまま勇者は三人に引っ張られていってしまった。

 …………なんなの、あの最悪な連中……。

 本当にあれが勇者?


「あんなのが勇者なのよ。この国は……。ヒローズもそうだけど、どうしてこうロクデナシばっかり勇者になるのかしら? ……せめて、海を超えた東の大陸にある帝国の勇者様が来てくれれば……」

「帝国?」


 ……世界ってこの大陸だけじゃなかったんだよね。

 まあ、地図としては知ってるけど、実際に行った事が無いとどうにも現実感に欠けると言うか……。


「ええ。海を越えた先にある大陸には「打倒魔族」を掲げる人間の帝国があるって噂よ。そこの勇者様はすごく強くて頼りになるらしいわ」

「へえ……」


 世界にある国ってこの大陸のような小さな王国だけじゃなかったんだね。

 ……帝国、かあ……。


「まあ、それはいいわ。ところで、依頼にめぼしい物はあったかしら?」

「あ……さっきの勇者が来たから、まだ見てなかったや」


 とりあえず、難易度5の依頼だけを抜き出してみようかな?

 ……えっと……。



 空間の匠

 バグッタの調査

 危険生物イナテモ


 ……あれ? これだけ?


「ええ。何せ、大部分が難易度2~4になっておりますので」

「……このバグッタって、何なんですか?」


 調査って言われてもよく分からないけど……。


「正式名称は無法地帯バグッタ。バグリャの北に位置しており、その名の通り、何があってもおかしくない地獄のような場所だわ。入口は黒い門よ」

「地獄?」


 イメージできないけど……。


「中に入った者の話によると、内部はあらゆるものが混ざり合ったような異様な世界で、言語も、私たちの常識も、何もかもが通用せず、調査しに行った者達は皆一様に「思い出したくない」と言って詳細を明かしたがらない場所らしいわね」

「そんなに恐ろしい場所なんですか……?」


 ……怖いもの見たさに行きたくなってくるけど……。


「……危ないわ。このバグッタだけはお勧めしない。というか、危険な依頼はあのエロ猿に全部押し付ければいいのよ」

「うーん……」


 まあ、ここまで言うんだから相当危険なんだろうね。

 じゃあ、先に他の依頼を片付けようかな?


「この「空間の匠」「危険生物イナテモ」って……何なんですか?」

「ああ。現在このバグリャで問題になっている極悪人よ。空間の匠は「解放感が足りない」「私がリフォームしてやろう!」などとのたまってバグリャにある家を強制的にリフォームし、跡形も無く破壊する存在で、危険生物イナテモは……カップルを容赦なく爆殺する男前ね」

「それのどこが男前なんですか!? ……というか、やっぱり街道で見かけたあの物騒な人達……」


 あの二人が空間の匠とイナテモなの!?


「あら、公衆の面前でいちゃつくふざけたカップルを容赦なく爆殺するのよ? これを男前と言わないで何と言うの? 多分エロ猿ももう終わりよ。大体、リア充がイナテモ様を倒せるわけないじゃない」

「イナテモ……様? 何で様づけなんですか……?」


 あんな怖い人を様付け……?


「イナテモ様はね……リア充を抹殺してくれるの。この国にとっては正義のヒーローなのよ? あんなエロ猿だって容赦なく爆殺してくれるわ」

「……じゃあ、何で依頼が出てるんですか?」


 ……この人にとってはヒーローみたいな言い方だよね。

 どう考えてもアレは危険な人だけど。


「王宮のエロ猿と薄汚いリア充、特にリア充ね。が、自分たちのいちゃつきタイムを邪魔されたくないからって討伐依頼を出したのよ。まあ、誰も受けないわ。イナテモ様は正義の執行者なのよ」

「正義……かなあ……?」


 どう考えてもあれは正義の執行には見えないよ。

 ただの爆殺だとしか思えないし……。


「……えっと、空間の匠……って……」

「ああ。さっきも言ったけど、バグリャにある建物を片っ端から強制的にリフォームしていく極悪人よ。狙われれば家は容赦なく爆破され、庭には片っ端からマグマが撒かれ、後に残るのは溶岩の池だけ。そんな恐ろしいリフォームを施す悪魔よ」

「滅茶苦茶じゃない……」


 爆破リフォームって……。

 というか、やっぱり家をまともに建てなおしてくれるわけじゃないんだね……。


「当たり前じゃない。空間の匠よ? ゆとりある空間と言う名の溶岩地獄のためなら、奴は家なんか容赦なく爆破するし、地面すらも破壊して跡形も無く吹き飛ばすわ。人が住んでいる家を狙われないために郊外に沢山無駄な家を作って匠の攻撃を逸らしているのよ」

「そんな無茶苦茶な……」


 だけど、この三つの依頼でどれを一番最初に受けるかと言ったら間違いなくこれだよね。

 あんな凶悪な人野放しにしていたら不味いことになるよ。


「……ありがとうございました」

「え? 依頼を受けないの?」

「はい。今後の事は全員集まって決めるので」


 まあ、これらの依頼を受けるかどうかはまだ決めてないけど、受けることにはなるだろうね。


「ああ、貴方は登録目的じゃなくてパーティ組んでたっけ」

「そういう事です」


 ……というか、誰があんな変態勇者の一派に入るかって話だよ。

 たとえ何億ゴールド積まれても、あんなのの一派に入るのは即座に断るよ。




「ふう。とりあえず一旦宿に戻って」


 ギルドを出て、宿に戻ろうとしたその時、空から広場の中央に何かが降ってきた。

 降ってきた何かが地面に直撃し、その衝撃で砂埃が舞う。


「……!(な、何が降ってきたの!?)」


 砂埃によって目も開けられない状態が続き、ようやく収まったと思うと、そこには四つの炭が転がっていた。


「……ぼ……僕が……負けるなんて……ありえない……主人公で、伝説の勇者の、僕が……」

「…………あんな……変質者に……私たちが……」

「私が……なにしたって……言うのよ……」

「くそ……っ! ヒルダのブス……! 私を巻き添えにしやがって!」

「……さっきの勇者? こんな状態になってまだ生きてるんだ……」


 バグリャギルドで出会ったバグリャの勇者一行がどうやら惨敗したらしく、全身黒焦げの状態で転がっていた。

 ……まあ、自業自得なんじゃないかな……?


「放っておいて戻ろう……」


 バグリャの兵士と思われる人たちが勇者一行を担いで城の方に歩いていく姿が見えたけど、無視して集合場所の宿屋に戻ることにした。






ーーーー






「ルーチェさん、どうでした?」

「……ジルだけ? マディスとグリーダーは?」


 宿に戻ると、ジルだけが戻って来ていた。


「まだ調べまわっているんじゃないでしょうか」

「そっか。……一応、ギルドに行って依頼は見て来たし、明日から受ける依頼も決まったかもね」

「そうですか。……こっちは、勇者様の話を聞いたんですけど、酷い話ばっかりですよ、此処の勇者の話は」

「そうなの? どんなふうに?」


 ……まあ、聞かなくても分かりそうな気がするけど。

 実物見たし。


「酒場に行って話を聞いたんですけど、男の事は眼中になく、無視するのが当たり前。女の人であろうと、ある程度年を重ねているとこれまた無視。これが日常だそうです」

「最低じゃない……」


 どうしようもない勇者だね……。


「で、仲間の方も酷い評判ばかりでしたよ。僧侶――――ヒルダって名前らしいですけど、他の冒険者の依頼の成果を横取りしたり、国王すら媚と勇者の権力で動かしてるって話です」

「……城に行かなくて正解だったね」


 もし城に行ったら、絶対面倒事に巻き込まれそうだよ……。


「バグリャ勇者の仲間には僧侶、戦士、魔術師が居るそうですけど、この三人は互いに殺し合いを画策しているほど仲が悪く、勇者様が言うから嫌々手を組んでるような状態らしいです。ちょっとおだてたら仲間同士の殺し合いに発展するかもしれませんね」

「……」


 確かに、あの三人組だったら戦いの最中にわざと味方を攻撃するなんて当たり前のようにやりそうだよ……。

 一体あの勇者のどこがそんなに素敵なのかは知らないけど。


「おまけに、この国の国王はさっきも言った通りヒルダ……僧侶の言いなりみたいなものですからね。ヒルダに何か言われたらそのたびに町民から無理やり奪い取ってヒルダに与えているそうです」

「……国王何やってるの……」


 そんな駄目人間が国王やってるなんて……。


「……こんな国ですけど、どうします、ルーチェさん」

「……それでも、一応依頼だけは受けていくよ。……さっさと終わらせて出て行った方が良いのは言うまでもないだろうけど」


 あの勇者と言い、絶対ロクな人間が居ないもん。この国……。


「どんな依頼がありました?」

「えっとね……。バグリャに入る前に街道で見かけたリフォームがどうとか言ってる人と、カップルを爆殺した人の討伐依頼、それと、バグッタの調査だって」

「……また厄介な依頼ばっかり来ましたね。ルーチェさんはあのカップルを爆殺した男の人を倒せると思いますか?」

「…………かなり厳しいかもしれないよね。魔術の対策が出来ないとあっさり返り討ちに遭いそうだよ」


 エクスプロードを使える時点で、あの男の人はかなりの腕前だと思って良いだろうし。


「ルーチェ、ジル。もう戻っていたのか?」

「ただいま~」


 ジルと依頼について話していたら、グリーダーとマディスが帰ってきた。


「グリーダーさん、マディスさん。何か情報ありました?」

「うん。……どうもこの国、滅茶苦茶税金を重くしてるみたいだね~。皆生活に困窮してるみたいだよ」

「で、その稼いだ金を全部勇者一行の僧侶のために国王が勝手に回しているらしいな」

「……本当にこの国は大丈夫なのかな……」


 税金まで重くしてその分も勇者一行の僧侶に回すなんて……。


「それと、この国の兵士は勇者一行の僧侶の命令なら何でも聞くらしいな。目をつけられた人間はこの国の兵士を総動員してまで探しだし、確実に消すらしい」

「……最悪……」


 この国がどれだけ頭のおかしい国なのか嫌と言うほど思い知らされるよ……。


「おまけに、ヒローズの勇者が国賓として招かれた。……まあ、こいつらはどのみち終わるだろうが、それまでまた当初のような行動をするだろうな」

「そういえばヒローズの勇者もここに居たんだよね……」


 なんか、先行きが不安になって来たよ……。

 ここでの依頼が終わるまでは先に進むつもりはないけど、大丈夫なのかな?


「しかし、本当にろくでもない国ですよね。勇者一行がとても勇者に見えませんよ」

「……一応依頼に失敗して全身黒焦げの状態で降って来たから、勇者一行はちょっとの間動けないかもしれないけどね」

「ルーチェさん、勇者一行を見たんですか?」

「うん。ギルドに行ってたら入って来たよ。互いを常に敵視していて殺す機会を窺っている僧侶、魔術師、戦士と、僧侶にとことん媚びられ腕に抱きつかれて甘えられて常に鼻の下を伸ばした勇者の四人組だったよ」


 あんな集団の何処が勇者なんだろ……。


「見事に色ボケした勇者だったんだね~……」


 マディスが呆れ顔になる。

 ……私だって呆れるよ……。


「後、自分に都合の良い事しか考えて無さそうだったよ。イナテモは「カップルを」爆殺するのに、女の子を襲う凶悪な人間とか言ってたし」

「ああ……要するに、世界のためとか口では言いながら、実際には可愛い女の子以外興味ないんだ! 男は帰れ! な人間ですか」

「屑だな。そんな奴が世界を救えるはずがないだろうな」

「ほんと、あんな色ボケした変態のどこが素敵でかっこいいのか教えてほしいよ……」


 あんなの、どこからどう見ても魅力的には見えないよ……。


「まあ、そんなのでもモブにとっては素敵なんでしょうね。町の男の人も「ちょっと顔が良いからって女は全員あいつの所に……」とか言ってましたし。勇者に彼女を取られた人まで居るらしいですよ」

「うわ~……それは酷いね~……」


 それはもう擁護のしようが無いよ……。

 あろうことか人の恋人取るなんて……。


「……まあ、何かしらの洗脳能力があるのかもしれんな。ジルも念のために注意しておけ」

「そうですね。……近づかないようにしないといけませんね」

「どんなからくりか知らないけど、注意しないとね……」

次話は前の話で出てきた空間の匠(自称)さん。

画期的なリフォームをご覧あれ?

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