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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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ヒローズ番外編 偽物を倒しましょう(ヒローズ勇者版)

 僕が偽物のベルナルドに加勢することを告げた直後、再び二人のベルナルドが激突し、両者の剣が激しく火花を散らす。


「さあ、覚悟してください! 偽物!」

「くっ……! 何が偽物ですか! 偽物はあなたとそこの勇者もどきでしょう!」


 ふざけたことをのたまうベルナルドにはここで死んでもらおう。

 ……君のせいで、僕は殺されかけたんだからね。


「死ね偽のベルナルド! 僕がこの手で始末してやる!」


 僕も剣を構え直し、本物のベルナルド目がけて突進する。

 ……その首、叩き落としてやる!


「挟撃しましょう、勇者様! 私がこの偽物を押さえますので、その隙に背後から斬りつけてください!」

「……ああ! 分かった!」


 何とかしてベルナルドの背後にまわり、背中から首を斬り落とす!


「ゆ、勇者様! 何をやってるんですか!?」

「どちらが本物か確認せずに突撃するなど……下策ですぞ!」

「煩い! お前たちも見てないで手伝え! 偽物を排除するんだ!」


 ……まあ、偽物と言ってはいるけど、僕が殺すベルナルドは生物的には本物だ。

 僕を殺そうとした時点で、君はもう僕の敵――――目の前に立ちふさがる醜いモンスターになったんだけどね。

 ……僕が殺すのはモンスターだ。人間じゃない。ベルナルドという名前のモンスターを一匹討伐するんだ。


「ゆ、勇者様の目が…………魔物みたいに……!」

「むう……わしらは一体どちらに味方すればいいのじゃ!?(あの勇者、怒りと憎しみと疑念で完全に狂っておるわ……。しかしまあ、何と脆い信頼関係よ……。こんなにあっさり壊れるような仲間意識でよく旅が出来た物じゃな)」

「くっ……! レミッタ! スロウリー! 私に加勢しなさい! 直ちにこの偽物共を消し去らなければいけません!」


 レミッタとスロウリーは傍観でもするつもりだろうか。まあいい。

 邪魔さえしなければ僕は君たちを殺さないよ。

 今僕が殺したいのはベルナルドだからね。


「死ねえベルナルド!」


 ベルナルドの左後方からベルナルドの首を狙って刺突を入れる。

 しかし、腐ってもベルナルドは騎士らしい。

 僕の刺突を、刺突が当たる寸前の絶妙なタイミングでかわしてきた。

 ……僕の味方だった時にはそんな素晴らしい動きしなかったくせに……。何と忌々しい。


「くっ! ……そう簡単に当たるわけには……!」


 ベルナルドは偽物の攻撃への対処があったからか攻撃してこなかった。

 だけど、僕も刺突をかわされた以上体勢を立て直さないといけない。

 ベルナルドの首を斬り落とせるのはまだ先か……。


「完璧なタイミングでかわされたよ。……やっぱり、君は僕の味方で居たときには手抜きをしてたんだね」

「黙りなさい偽物! 勇者様を殺した貴様に語る言葉など、もはや存在しません! 語る言葉があるとしたら、あなたの首を叩き落とした後で語らせていただきますよ!」

「煩いよ手抜き騎士団長! 僕の仲間だと信じてたのに、君は散々手を抜いていたんだな!」


 君が! 今みたいな実力を出せば! あんな傭兵に負けることも無かったじゃないか!

 君が! テラストの戦いで手抜きしたから! 僕たちはヒローズの財政を破綻させた元凶になってしまったんじゃないか!


「何を言うのです偽の勇者! 貴方こそ! 先ほどのような鋭い剣閃も、強力な魔術も、今まで何一つ使おうとしなかったではありませんか! どの口が私の手抜きを責められると言うのです!?」

「煩い! 権力頼りのボンクラ騎士団長!」


 体勢を整えた僕は、再び剣を構えてベルナルドに突進する。

 ベルナルドは避けるそぶりも見せず、真正面から迎え撃つつもりらしい。

 ……舐めやがって。僕より剣の腕は優秀ですってか?


「……死ね!」

「偽物風情が……いつまでも私を侮ってもらっては困りますよ!」


 僕の剣に合わせて剣をぶつける……と考えていたが、ベルナルドは軽く飛びのき、僕の剣をかわしてくる。

 ……不味い! 隙を作ったところで剣を突き刺すつもりか!?


「今度こそ死になさい! 忌々しい勇者様の偽物!」


 そう叫びながらベルナルドが剣を突き刺そうとしてくる。

 ……くそっ! こんな手抜き野郎に殺されてたまるか!

 裏切った時に限って本気を出すようなこの世の屑に、負けてたまるか!


「ベルナルド!」

「分かっていますよ! 偽物などに、勇者様はやらせません!」


 僕とベルナルドの間にもう一人のベルナルドが横入りして、盾を使って突きの軌道を逸らす。

 僕の頭を狙ったベルナルドの刺突は虚しく空を貫いた。


「ちっ! あなたが邪魔しなければ、今の一撃でその偽物の頭を串刺しにできていた物を……!」

「助かったよ、ベルナルド」

「騎士として当然のことです」


 ……危なかった。

 ベルナルドの偽物が居なかったら今の一撃で僕は死んでいたな。

 …………少し頭を冷やすか。


「偽物と言えど、数が勝っていると厄介ですね……。レミッタ! スロウリー! 何をやっているんです! 早く私の援護をお願いします!」

「し、しかしじゃな! わしらにはどちらが本物か分からぬ! 故に、お前が偽物だったらという不安もあるのじゃぞ!?」

「勇者様とベルナルドさんのどっちにつけばいいのか……」

「私に決まっているでしょう! 勇者の偽物と私の偽物、どちらも今すぐこの世から消し去らなければいけない存在なのですよ?」


 さっきから本物のベルナルドがスロウリーとレミッタに援護を求めている。

 ……面倒だ。あいつらから先に殺すか?


「いえ、それは下策ですよ勇者様。彼らはどちらにつけばいいのか迷っている状態。無闇に攻撃して敵方に加勢されるリスクを増やすより、味方に引き入れるように持って行くのが上策かと」

「……なるほど。……レミッタ、スロウリー! そのベルナルドは偽物だ! 僕を偽物呼ばわりして殺しにかかるような奴が本物のわけないだろう! 偽物を倒すために、二人の力を貸してくれ!」


 レミッタとスロウリーにこちら側に着くように呼びかけてみる。

 ……こう言えばいいのか?


「うむ……どうするのじゃ、小娘?」

「だ、だけど……ベルナルドさんが増える前からすでにベルナルドさんの言動はあんな感じだったので……」


 ……ちっ、覚えてやがったか。

 …………面倒な奴だ。


「そうです! 私の方が本物に決まっているじゃないですか! さあ、レミッタ! 私に助力を!」

「で、ですけど……勇者様はもうあの人しか居ないんですよ!?」

「あれは偽物です! 本物は……あの偽物が殺したではありませんか!」

「その本物や偽物って……ベルナルドさんが勝手に決めたんじゃないですか!」


 そうだ! そこの裏切り者が勝手に判断して勝手に動いたんだ!

 そして僕を裏切った! 裏切り者は僕が消す!


「レミッタ! 私に従ってください! 私が本物だと確信しているのなら、何を悩む必要があるのです!」

「……レミッタ! そこで大人しくしてろ! もしそこのベルナルドに味方したら……殺すぞ?」


 サンダーボルトを叩き込んでも良い。ファイアボールで丸焼きにしてやっても構わない……!

 そこのベルナルドに味方する奴は全て僕の敵だ!

 僕の敵に回る奴は全員殺してやる!


「ゆ…………勇者様……」

「むう……これはどちらにもつけぬかもしれんの……(オリジナルの潰しあいじゃから別に加勢しなくてもいいのじゃが、好感を得るためにはどちらかに加勢した方が良いんじゃろうな……じゃが……)」


「ええい! どうして私に味方しないのです! このまま私が偽物共にやられてしまったら、それこそそこの偽物の計画通りになってしまいますよ!」


 ベルナルドが声を張り上げる。

 まあ、仮に誰かがお前の味方に回ったらそいつはお前の後で殺してやるけどな。

 ……さて、こちらもベルナルドを殺す準備をするか。


「ベルナルド。時間を稼いでくれ。あいつに魔術を見舞ってやる」

「了解しました。偽物に断罪を下す、強力な電撃をお願いします」

「ああ!」


 今度こそ、サンダーボルトであいつを……ベルナルドをぶっ殺してやる!

 さっきは僕の偽物が飛び出してきたから失敗したけど、今度こそ……!


「おのれ……そう何度も魔術を使用させません! 騎士団の奥義で、止めて見せます! 地竜剣!」


 ベルナルド(本物)がそう叫びながら地につけた剣を振り上げると、剣から青白い衝撃波が出現し、真っ直ぐ地面を這ってこちら側に飛んでくる。

 …………あいつ……まだ技を、技能を隠し持っていたのか!?


「奥義まで隠していたとはな……本当に見下げ果てたやつだ! ベルナルド!」

「あ、あんな技持ってたんですか!? 何で今まで使わなかったんですか! ベルナルドさん!」

「まだですよ! 地竜剣・双刃!」


 ベルナルドの奥義はまだ終わらない。

 今度は振り上げた剣をもう一度地面に降ろして左右に切り上げ、二つの衝撃波を続けざまに出現させて僕の方に飛ばしてくる。

 飛び道具まで使えたなんてな……。脳筋の屑野郎のくせにふざけた真似を……!


「勇者様! 私が盾となります! 一刻も早く、魔術を!」

「分かってる! ……お前はちゃんとああいう技も使えるんだろうな、ベルナルド?」

「当然です。出し惜しみはしないと誓いましょう!(まあ、どうせ途中で殺しますしね)」


 その言葉を聞いて安心したよ。


「勇者様より明らかに強いと言う事を示してしまうと勇者様の自信喪失につながる。故に手加減、いえ、手抜き加入しておけ。という指示でしたので。ああ、難易度5の依頼や件の少女のパーティ相手には真剣にやっても勝てないと分かっていたので普通に手抜きさせていただきました」

「…………ふざけるな!」


 僕が命がけで戦っていたその横で、こいつはいつもそんな僕の姿を見て嘲笑っていたと言うのか!?


「ふざけているのはあなたです。勇者様のオリジナルを手にかけ、断罪されなければいけないのにもかかわらず私の偽物と手を組み、私に反逆しようとしている。このような事態が許されるとでもお思いですか?」

「僕はオリジナルだ! ……誰が何と言おうと僕はオリジナルだ……! 僕は反逆なんかしていない。襲い掛かってくるモンスター「ベルナルド」を殺そうとしているだけだ……!」


 ……駄目だ。こいつの姿を目に入れただけで殺意が湧いてくる。

 ここまで僕を騙しておいて、自分のやったことを正当化するこの屑は、例えどれだけ詫びようと許してはおけない!

 僕の一撃で地に沈め、断罪の炎を僕自ら浴びせてやらねば……!


「偽物はまとめて排除させていただきます! 旋風剣!」


 ベルナルドが剣を振るうと、今度は真空の刃が僕たち目がけて飛んでくる。


「あなたがどれだけ攻勢に出ようと、私の守りは崩せません!」


 しかし、僕が味方したベルナルドの守りは崩せない。

 ……あんな本物よりよっぽど役に立つじゃないか!


「くっ! ならば……。……!」

「今です! 勇者様!」


 奥義を防がれたベルナルドが次の奥義を放とうとしたとき、味方のベルナルドが一気に接近し、鍔迫り合いの状態に持ち込んだ。

 ……分かってるよ! ベルナルド! 僕たちの怒りを、あの屑にぶつけてやろう!

 鍔迫り合いをやっているベルナルドの近くまで一気に接近し、奴のふざけた顔目がけて左手を突き出す!

 …………今までの怒り思い知らせてやる! 受けてみろ! ベルナルドォォォ!


「サンダーボルト!」

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 ベルナルドの顔目がけて放たれたサンダーボルトは狙い通り奴の顔に直撃した。

 電撃の直撃を受けた奴は吹き飛び、壁に叩きつけられて地面に崩れ落ち、顔を抑えて転がりまわっている。

 ……ははははは、最高の気分だよ。君は僕との旅の最中ずっと手抜きなんてしていたんだからね。

 君が苦しむその姿を見るとすっきりするよ。


「ベルナルドさん!」

「レミッタ! こいつは偽物だ! 偽物に治療を施す必要など無い! いや、それどころか……」


 直後、僕は転がりまわるベルナルドの両足に思いっきり剣を突き立てた。

 剣が突き刺さった場所からは血が噴き出す。

 死にはしないだろうが、歩けないだろう。


「勇者様!?」

「こいつにはな、これで十分だ! ここでのたれ死んでもいいくらいだ!」


 ああ、すっきりした。この屑野郎が僕の足元で痛みに苦しむ姿は何とも気分がいいよ。


「さあ、先に進もう。探索はまだ終わってもいないからね」


 役立たずの本物は始末した。本物も死んでしまったら、偽物だ。

 さあ、先に進むとするか。






ーーーー





「はあ……はあ……。くっ……勇者様を騙る偽物めが……!」


 一体どれくらい苦しんだだろうか。私の――――ベルナルドの身体は勇者様になりすました偽物の放った一撃で既にボロボロになってしまっていた。

 電撃を食らった瞳には何も映らなくなり、頭はもうまともに動かない。あの偽物が刺して行ったのか、私の両足は筋を切りつけられてまともに動かなくなっていた。


「こんなところで倒れているわけにはいきません……! 何としても……あの偽物を殺さなければ……偽物の凶刃に倒れた勇者様のためにも……!」


 思い出すのはあの瞬間。勇者様が私を庇って前に出て、あの偽物の魔術を受け、私の攻撃への盾にされて死んでしまわれたあの瞬間でした。


「む、無念です……勇者様! 勇者様を守らねばならぬ身、なのに、私は……その勇者様に守られ、仇すらとることができず……!」


 その上、勇者様及び私の偽物とレミッタ、スロウリーは同行しています。

 あのままでは、いずれ二人も殺されてしまうでしょう。

 ……そんなことになったら……。


「そんなことになったら……教皇様のご命令である魔王討伐も……果たせなくなってしまいます……」


 しかし……情けない。何のための身体なのやら。今まで隠していた奥義も使ったと言うのに勇者様の仇もとれず、私自身も偽物の凶刃に倒れてしまう結果になってしまいました。


「せめて……レミッタだけでも生き延びてくれれば……まだ可能性は残されているかもしれませんが、ね……」


 彼女はまだ偽物が出ていないですからね。まあ、勇者様が偽物になってしまった以上、本物の彼女もまもなく死を遂げることになるでしょうか。


「勇者様……守ることも仇を討つことも叶わず……申し訳、ありません……!」


 意識が無くなる直前、スロウリー様が暗闇の奥から手招きしているような気配を感じ、私の意識は闇の中へと落ちて行った。

何故か今回も早く出来ました。

早くしすぎて質が下がってないか心配。一応最終の確認はしましたが……。


そして、騎士団長はもう擁護できません。技を使えるにもかかわらず使わず、技能も手抜き状態、って言うね……。

自分がヒローズ勇者の立場だったらスロウリー共々戦闘後に本気で殴り飛ばしてますね。こっちは命かけてるのにお前は何手を抜いてるんだ!って。

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