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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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一休みしましょう

「ふう……昨日の依頼は本当に大変でしたね……」


 ジルです。昨日悪魔を討伐(実際には戦闘不能に追い込んで撤退させただけですが……)した後ヒローズに戻ってきましたが、ルーチェさんもグリーダーさんもマディスさんの薬の副作用で今日はまともに動けないみたいなので今日の出発は取りやめになってしまいました。


「本当だよね~。まあ、あんなに手強い相手が出てくるとは思わなかったけどさ」

「ですよね。これから先、ああいうのがたくさん出てくるんでしょうか……」


 悪魔……いえ、魔族でしたね。があんなに手強い相手だとは思ってませんでしたよ。


「少なくとも防具の新調は必須事項だよね。グリーダーの鎧が紙切れみたいに切り裂かれちゃったし」

「頑丈な金属……ミスリルでもあったら良いんですけどね……」


 私もルーチェさんもマディスさんも鎧なんか着ていませんし、グリーダーさんの鎧はもはや鎧の機能を果たせませんしね……。マディスさんの家まで二人を運んだ後でグリーダーさんの鎧を見ましたが、金属が紙切れみたいに綺麗に切り裂かれているのは本当に衝撃的でした。


「ジルはルーチェだったからまだ楽だったかもしれないけど、僕は本当に大変だったよ~?」

「グリーダーさんが動けなくなったまま薬の副作用で寝てしまったのは最悪でしたね……」


 マディスさんの薬で失われた血液を補充するのは良いんですが、その副作用で疲労感が増幅されるのはどうにかならなかったんでしょうか……。

 グリーダーさんを担ぐことになるなんてマディスさんも思わなかったでしょうね。


「本当だよ……。戦闘でもないのに薬をたくさん使ったよ?」

「グリーダーさんが中の子供の姿だったらだいぶ楽だったんですがね」


 偽物が自分の身体を壊して引っ張り出してきたグリーダーさんの中の人……。あの姿だったらマディスさんも簡単に担げたでしょうけど……。


「僕の身長よりもはるかに大きいからね~……。グリーダーは大きすぎたよ」

「で、グリーダーさんの様子はどうでした?」


 グリーダーさんは魔族の最後の一撃を食らった後からずっと意識が無いですからね……。寝ているだけですけど、いくらなんでも寝すぎですよ、全く……。


「残念だけど起きる気配はないよ。一度だけ目を覚ましたけど「今日は動けん」とだけ言ってそのまままた夢の世界に行っちゃった」

「はあ……本当に何やってるんですか……」


 仮にも前衛だと言うのに……。まあ、薬の副作用だけじゃなく、魔族の攻撃を二回多く受けているので仕方ないのかもしれませんけどね……。


「そういえば、ルーチェは?」

「今も寝ていますね……。ほっぺたを突いても全く反応しませんよ」


 ……今も寝ているんでしょうか? 一度見てきますかね。


「そろそろ昼食を取り寄せるから、ちょっと強引にでも起こしていいんじゃないかな? 疲労感を取るためにも食べさせないと」

「そうですね。じゃあ、ちょっと行ってきますよ」


 そろそろ起きると思うんですけどね……。




ーーーー




「…………zzz……」

「……起きてませんね。本当に、いつまで寝てるんですか、ルーチェさん」


 そのルーチェさんはベッドの中で布団にくるまって熟睡中です。これじゃ玩具にできないじゃないですか……。面白くないです。


「しかし、寝ているところ悪いですが、昼食を取ってもらわないといけないんですよね。というわけで、起こしますか。……と言っても、何をやりましょうか……」


 普通に起こすと見せかけて叩き起こす方法を取るのも面白いですが、やはりここは平和的に行きたいですよね。


「……全身くすぐりまわすのも良いですが、そんな方法よりもっとてっとり早くやりましょうか」


 ベッドで寝ているルーチェさんの耳元に顔を近づけます。……って、あれ?


「ルーチェさんの耳、ちょっと違うような気がしますね……」


 ルーチェさんの耳に息を吹き込んで起こそうと考えたのでルーチェさんの髪の毛をのけ、必然的にルーチェさんの耳を見ることになったんですが……なんでしょうか? ルーチェさん、ちょっと耳が尖っているような……。


「……ルーチェさんって魔族でしたっけ? ……その割には角も翼も尻尾も無いですよね。それに、ルーチェさんからは昨日戦った魔族みたいな恐ろしい威圧感を感じませんでしたし。……というか、ルーチェさんに威圧感を感じたことなんてあのボケた老人をお仕置きしに行った時くらいですけど」


 大体魔族だったとしたら、魔族が魔王討伐なんてする理由が無いですよね。魔族の王が魔王ですし。


「でも、それだと尖った耳の説明がつかないですよね。……どういう事なんでしょうか?」


 人間だとしたら、この尖った耳は明らかにおかしいですね。こんな尖った耳を持つのは異形の者、つまり魔族だけだ、がこの世界の常識みたいなものですし。

 ……というか、グリーダーさんはこの耳の事知ってるんでしょうか? 私より明らかに長い時間ルーチェさんと過ごしているでしょうし、知っているならとっくに知ってそうなんですけどね……。


「まあいいです。ルーチェさんを起こして直接聞けば早いと思いますしね。それじゃ……やりますか」


 ルーチェさんの耳に気を取られて起こすのが遅れましたが、とりあえず起こさないといけないので起こすことにします。ルーチェさんの耳元に口を近づけて、耳の中に息を吹き込んでいきます。


「ひゃあっ!? な、何!? 耳に生暖かい何かが!」

「起きました? ルーチェさん」


 耳に息が入った直後、いきなり飛び起きて慌てて耳を押さえるルーチェさん。……さっきまで熟睡していたとは思えませんね。


「じ、ジル……? もう、何するの! 心臓が止まるかと思ったじゃない!」

「いつまでも熟睡しているルーチェさんが悪いんですよ? ほっぺたを何度も突いたのに起きないんですから」

「だからっていきなり耳の中に息を吹きかけないでよ!」


 ……いつもならこのままルーチェさんで遊びたいんですが、今は聞かないといけないことがありますね。


「ルーチェさんの耳って……変わった形してますよね」

「耳? 耳がどうかしたの?」


 ……あれ? もしかして自覚が無いんですかこの人?


「単刀直入に言っちゃうと、ルーチェさんの耳ってちょっと尖ってますよね」

「耳が? ……でも私、普通の人間だけど? 昨日の魔族みたいに翼や角を出すことなんてできないよ?」

「角も翼もルーチェさんには無いですしね……。そこが妙なんですよ。何か知ってます?」


 ……普通この手の特徴がある人って正体をひた隠しにしたがる傾向があるんですが……。ルーチェさんはどうなんでしょう?


「……分からない。テラントでずっと暮らしてたけど、誰も何も言わなかったもん。お母さんも含めて」

「テラントの人って、全員耳が尖ってるんですか?」

「それは無いよ。皆ジルみたいな形の耳だったよ」


 ……尚更おかしいですね。ルーチェさんだけ耳がちょっと尖ってるのに気付かないなんて……。いや、でも私だってルーチェさんの耳に息を吹き込む悪戯を仕掛けない限り全く気付かなかったでしょうし、遠目から見たって誰も分からないでしょうね……。近くでよく観察しないと分からないような特徴ですし。


「誰かに耳を見せたことありますか?」

「ううん。全くないけど……」


 ……その上、耳を他人に見せたこと自体無かったらそりゃ分かりませんよね。髪で隠れているから先端が少しだけ出ていても気づかないでしょうし。


「……しかし、魔族でも人間でも無いとしたら何になるんでしょうね?」

「……ジル?」

「いえ、何でもありませんよ。とりあえず起きてもらった事ですし、食事に行きましょう、ルーチェさん」

「あ、うん。そうだね。……お腹すいちゃったよ」


 ……まあ、ルーチェさんが何だったとしても別にどうでもいいことですけどね。

 気にするだけ無駄でしたかね?




ーーーー




 ルーチェさんが起きたのでマディスさんの所に向かいます。昼食の準備も出来てるみたいですね。


「ジル。ルーチェは起こせた?」

「ええ。ちょっと強引な方法でしたけど」


 ついでに飛び起きたルーチェさんの反応はなかなか見物でしたよ。

 いきなり飛び起きて顔を赤くしながら耳を抑える反応は斬新だったと思います。


「……心臓に悪すぎるよ……」

「私は別に悪くないですよ?」

「やられた私の方だよ! いきなり耳の中に生暖かい物が入ってきたんだもん!」


 そりゃ、耳に息を吹き込みましたからね。


「……で、グリーダーさんは?」

「……駄目だよ。起きる気配がまったくない。薬も使ったけど効果無し。……どんな相手にも効く眠気覚ましのはずなんだけどな……」


 さすがにグリーダーさんには効きませんか。……まあ、それなら放っておきましょうか。


「……朝ご飯食べてないからか知らないけど、凄くお腹が空いてるよ」

「今すぐ食べていいよ。元々、ルーチェとグリーダーの体力回復のためにこの食事は用意したしね」

「ほんと? じゃあ今すぐ食べることにするよ。いただきます」


 ……グリーダーさんが起きないとは意外ですね……。まあ、マディスさんの薬の副作用で寝ているわけですし仕方ないかもしれないですけど。


「血を増やすための薬で戦えなくなってしまったからね……。今回のは完全に僕の不手際だよ」

「まあ、本来なら血を増やす薬なんて戦闘中に使おうと考えないですしね」


 普通なら治療は安全な場所で行うでしょうし。疲労感も休息をさせるためならあながち間違ってはいませんね。


「そうなんだよね。だから、今回みたいな事態は想定してなかったよ」

「まあ、戦闘中に敵の攻撃で致命傷を受けること自体、私たちは想定していませんでしたしね」


 マディスさんの薬があったら、私たちの攻撃能力があったら、一方的に、もしくは反撃する余裕を与えずに始末できる。そう心のどこかで思っていたのかもしれないですね。


「防具の方も考えた方が良いんじゃないかな? ルーチェのローブもグリーダーの鎧も使い物にならないよ」

「そうですね。ですが、その辺の防具であの魔族の一撃を耐えるのは困難でしょう」


 グリーダーさんの鎧なんか異界の装備だったのに、紙切れみたいになってしまいましたしね……。


「……今度新調する防具の素材には、ミスリルが必要かな?」

「……必要になりますね、間違いなく」


 ……ただの鉄や鋼ではすぐに斬り落とされるでしょうし……。

 ただ、そのミスリルでも何もしないとあっさり潰されそうな気がするんですよね……。


「ミスリル自体は世界中で出回っているだろうけど、ミスリル単品では売ってないよね」

「加工品を買って、私たちの手で改造するしかないですかね?」


 ……まあ、私たちの中に鍛冶屋や呪術師が居ればの話ですけど。


「……課題だらけになったよね。僕はまず薬の改良をしないといけないし……」

「私達も考え方を変えなければいけないでしょうね。あんな強敵がこれから先出てくると言う事ですから」

「だろうね。その辺の魔物と魔族の戦闘能力は全く違うんだって事は覚えておかないといけないよね」

「そうですね」


 ……甘く考えていましたけど、よく考えたらすごく危険な旅なんですよね、これ。

 現状ではルーチェさんの魔術とグリーダーさんの戦闘能力、マディスさんの薬の補助があったから成り立っていますけどね。

 もしパートナーがヒローズ勇者みたいな一行だった場合、数日で全滅しかねないでしょうし。


「ヒローズの勇者……そう言えば、また新しい勇者を呼ぶかもしれないって今話題になってるよ」

「……また呼ぶんですか?」


 まあ、教会の過保護によって甘やかされたヒローズ勇者一行は財政破綻の罪で勇者の位を剥奪されることになりますし、その後勇者を呼ばないのも変な話ですよね。


「今度はちゃんと管理するとか言ってるけど、それでもあんまりいい結果にはならないと思うんだけどね~」

「大体、そんな勇者に魔族が倒せるんですか?」


 ……私達より数段強くなければ、魔族討伐なんてできませんよ?


「仮に呼べたとしても、現ヒローズ勇者よりマシ、ってレベルなんじゃないかな?」

「全然駄目じゃないですか」


 現ヒローズ勇者って難易度1のクエストすらまともに攻略できないような面子ですよ? 装備品だけ無駄に豪華な物を持ってましたけど。


「だけど、この国の人達はそれに凄く期待してるみたいだよ。新しい勇者を待ち望んでる声があちこちで聞こえるから」

「自分たちが働く気はないんでしょうか……」


 勇者を望むだけで結局自分は何もしないんですよね……。


「そうそう。どこの国でもそうだけど、他力本願が好きだからね」

「呆れて物が言えませんよ。自分で何とかする意思が感じられません」


 そんな事ばっかりやってるから勇者に強盗をされるんですよ。


「でもまあ、この国にはもう用が無いよね。次はバグリャに向かうって事で良い?」

「ええ。ルーチェさんもそう言っていますしね」


 この国にはもう報酬だけしか用がありません。さっさと受け取って出て行きましょう。


「……まあ、出て行きたくてもグリーダーが動けないんだけどね」

「一番大きくて見た目的にも頼りになる戦士が頼りにできないのって大問題ですよ……」


 グリーダーさんさえ起きていれば進めたかもしれないんですけどね……。まあ、急いでも仕方ないですし、ルーチェさんも今日は戦力になりそうにないので大人しくしていましょうか。

ヒローズ編の本編は終了。バグリャ編前にヒローズ編の番外編が入ります。

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