表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
70/168

探索を終えましょう

 偽物のグリーダーが突然崩れ落ちたと思ったら中から全くの別人が出てくるなんて……一体どうなってるの!?


「衝撃の展開ですよね。まあ、グリーダーさん本人が否定している以上、偽物が勝手にそれらしい演出をしたと言うだけでしょうけど」

「それにしては明らかにおかしいような気がするよ……」


 全身にヒビを入れて自分の身体を破壊した後、魔法陣が出てきて中から人間が出てくるなんて演出、いくらなんでも突然思いつくはずないと思うけど……。


「……というか、偽物の中に居たこの透明な膜つき人間、全く動かないよね。……人形みたいだよ」


 マディスの方を見ると、先ほどの偽物の中から出てきた人間を覆っていた透明な物を切って中に居た人を引っ張り出していた。中に居たのは私やジルとそう変わらない見た目の金髪の男の子……? ……って、何してるのマディス!? もしいきなり動き出して襲ってきたら……!


「……呼吸どころか、心臓すら動いていませんよ? ですけど、死んでいるにしては妙ですね……」


 偽グリーダーの中から出てきた人はジルの言うとおり、呼吸しているようには見えない。でも、死んでいるかと言われるとちょっと分からない。……肌の血色も良いし、ジルが体を触っているのを見ているだけだけどカチカチに固まっているわけでもないし……。


「動かないなら今のうちに始末しておけ。相手が偽物である以上、それが一番だろ」

「どうしてですか? こんな興味深い出来事、無いですよ? まさか偽物の中から別の人間が出てくるなんて思いませんでしたから」

「そうだよね~」


 まあ、私もこれを見過ごしてそのまま壊すのはちょっと避けたいかな……。気になるよ。


「……グリーダーさん、本当に知らないんですか?」

「知っているわけが無いだろう……(……この金髪にこの見た目。……どう見ても細身の子供の姿で勇者としての威圧感も全く無い外見……。まさか偽物がここまでするとはな……)」

「ルーチェさんも見ます?」

「うん」


 ジルとマディスの方に近づき、二人が調べている男の子を見てみることに。……私とそう変わらない身長にほっそりした外見……筋骨隆々とした大男のグリーダーとは似ても似つかない、ううん。正反対の姿って言った方が良いかな?


「マディスさんの方がこの男の子よりも背が高いですよね」

「まあ、一応170程度はあるよ? この子はどれくらいかな?」


 ジルが男の子を立たせてマディスの横に置き、並べていた。……二人が言っている通り、マディスの方が明らかに高いね。……というか、ジルの方がこの子より高くないかな?


「私の方が背が高いですね。……仮に生きていたとしたら、幾つなんでしょうか? この子」

「……(まさかジルにまで身長で負けるか……。尚更あの身体の事は偽物の作り物と言う事で終わらせたいな……。あんな姿では勇者の威圧感も何もあった物じゃない)」


 ……仮にグリーダーがこの姿だったら……。うーん……どっちにしても勇者様! って感じはしないよね……。仮にこっちの姿だったらこのパーティは全員同い年くらいの友達同士が集まった冒険者パーティ、って感じになるんだろうけど、戦闘の際に前線で敵を食い止める鍛え抜かれた騎士みたいな人はどっちにしたって居ないから……。


「ルーチェさん、何考えてるんですか……遊んでる場合じゃないでしょう?」

「マディスと背比べをさせてるジルには言われたくないよ!」

「まあ、今のグリーダーとちゃんと話すには毎回首を上げなきゃいけないから、仮にこの姿だったら~って考えるのも面白いかもしれないけどね~」


 ……グリーダー、大きすぎるもんね。


「何を言う。勇者としての力量と威圧感に満ち溢れているだろうが」

「その威圧感にも限度って物があるよ!?」


 どす黒いオーラと異常に高い身長が合わさってるからすごく怖いもん! 更に会話の際も常に上から睨まれるようになっちゃうし!


「それが勇者の実績と威圧感だと言っているだろうが……。それとも貴様は、そこの子供の方が俺より威圧感やオーラがあるとでも言うのか?」

「いや、それはありえないけど……」


 私とそう変わらない身長にほっそりとした身体だもん。探せば居そうな見た目だし、威圧感なんて全く感じないよ。


「それにしても、いくら偽物の苦し紛れの変化とはいえ、こんな姿が俺の本当の姿とはずいぶん舐められたものだな……消えろ!」


 そう言うなり、グリーダーが偽グリーダーの中から出てきた動かない男の子に斧で斬りかかり、真っ二つにして倒してしまった。


「何するんですかグリーダーさん! まだ調べ足りていないのに斬り殺すなんて!」

「いつまでも偽物で遊んでいる場合か。さっさとこの場所を調べるぞ(全く、あの軟弱な姿をまた見ることになるとはな……不愉快だ)」

「う~ん……ちょっと釈然としないけど、グリーダーのいう事にも一理あるよね。じゃあ、探索の続きに行こうか」

「はあ……まだ調べたいことはあったんですけど……仕方ないですね」


 ……まあ、探索の続きをしないといけないっていうグリーダーの言い分も納得できるけどね。でも、何か今のグリーダーの態度変なんだよね……。


「ルーチェさんもそう思います? ……変でしたよね。グリーダーさんの態度」

「まあ、人には隠し事や言いたくないことの一つや二つあるだろうし、良いんじゃないの?」


 何か納得いかないんだけど、まあ、隠し事や言いたくない事の一つくらいグリーダーにもあるよね。無理に追求したって答えてくれないだろうし、今は置いておこうか。探索を続けよう。


「しかし、さっきのキノコはどこから来た?」

「壁を突き抜けて来たよね?」


 まさか壁を通り抜けて襲ってくるとは思わなかったよ。……だけど……。


「壁を壊そうとしても、壊せませんね。この壁、非常に硬いですよ」

「爆破しようにも……無理だね~。この壁非常に頑丈だよ」


 さっきキノコが通り抜けてきた壁をジルがナイフで切り付け、マディスが薬で爆破しようとしているけど、全然効果が無いみたい。


「どいて。私もやってみる。……ファイアボール!」


 ファイアボールが私の手から放たれ、壁に当たった。……けど、やっぱり効果は無かったみたい。


「まったく効果が無いな」

「駄目だね。ジルのフォークもマディスの薬も通用しないみたいだし、壁を壊すのは諦めよう」

「俺の攻撃も……無駄だな」


 グリーダーの斧が通用しないならもう駄目だよね……。


「仕方ないですね。まあ、行けるところまで行って戻りましょうか。依頼内容には壁を壊して奥を調べろとは書いていませんでしたし」

「そんな依頼普通出さないからね!?」


 そんな依頼出したら、調査範囲の限度が無くなっちゃうよ!


「何言ってるんですか。掘れるところまで掘り抜いてダイヤやマグマが密集している場所まで探索の手を広げなければ駄目でしょう」

「ダイヤはともかく、マグマが出てくる場所ってどれだけ深くまで掘らせるつもりなの!?」


 マグマが出てくる場所なんてどれだけ深いか想像もつかないよ!?


「何言ってるんですか。そこまで掘らないとダイヤモンド鉱石が出ませんよ。それに、マグマは水で冷やすと黒曜石に変化して地獄への入り口が開けますよ」

「一体何の話をしてるの!?」


 マグマに水なんかかけたら大変なことになるから!


「遊んでないで早く行くぞ。……と言っても、もう行き止まりが見えているが」

「え? 行き止まりですか? ずいぶん早いですね……ルーチェさんで遊ばないと時間が余りに余りますよ?」

「時間が余っても別に問題ないじゃない!」


 ヒローズに早く戻ったら薬の調達に時間を割けばいいんだし!


「まあ、それもありだよね……というか、それしか出来ないって言った方が良いかもしれないけど。ほら、通路の先を見たらわかるよ」

「……本当に行き止まりになってる……」


 マディスの言うとおり、この道も途中で行き止まりになっちゃって先に進めない。壁を破壊する方法でもあれば先に進めるかもしれないけど、此処の壁を破壊するには私達の攻撃じゃ火力が足りないし……。諦めるしかないかな?


「全く、なんて場所ですか。フォークみたいな形の行き止まりだらけの通路の場所だったなんてあんまりです」

「つまらんな……」


 ジルが言った通り、ギルドカードに表示されているこの場所の形は一本道に二つの分岐路をくっつけた、巨大なフォークみたいな形だった。……これが自然に出来たとは思えないけど、でも壁を壊す手段が無いんじゃ壁の向こうには入れないよね……。


「探索は終了かな? ここに居ても仕方がないし、もう帰ろうか」

「そうしようか。ヒローズに戻って依頼達成の報告にいこう」


 これ以上の調査は不可能だしね。戻るしかないか。




ーーーー




「結局、宝箱の一つもありませんでしたね……」

「偽物以外に何の特徴も無い行き止まりに何の価値があるのだ……」

「戦利品もこの赤い円盤だけだったしね~」


 というか、その円盤って何かに使えるの?


「さあ……こんな赤い円盤が何かの役に立つとは思えませんけどね……」

「ちょっと使い道が思いつかないや……」

「こんな物初めて見るな……こっちが聞きたい。こんな物何に使うんだ?」


 ……誰も使い方が分からないんじゃ、今は保管しておくくらいしか使い道ないよね。


「こっちはどうすればいいでしょうか……特に強力な素材で出来ているわけでもない以上、戦闘中につけていったら攻撃に巻き込まれて壊れちゃいますよ?」

「まあ、ジルが持ってればいいんじゃない? そのリストバンドは」

「偽物の私とルーチェさんの関係をこっちに引っ張らないでほしいですけど……」

「そもそもあれは冗談だし、何も引っ張ってないよ! 何故か残ってたからジルに渡しただけだよ!」


 大体そんな物見た覚えもないし……。


「ま、邪魔になる物じゃないし、持っておいても良いんじゃないかな?」

「……そうですね……一応持っておきます」

「ここで手に入ったアイテムって……これだけなのかな?」


 リストバンド一個と赤い円盤数枚だけってすごく残念なんだけど……。


「まあ、強力な敵が徘徊するダンジョンってわけじゃなかったからね~」

「偽物ばっかり出てくる妙なダンジョンでしたしね」

「依頼が無ければ二度と来る事も無いだろうな」


 まあ、私たちは魔王討伐のために進んでるしね。グリーダーが言ったように、依頼が無ければこんな場所には戻ってこないだろうね。……話してるうちに地上が見えて来たかな?


「出口が見えてきましたね。……偽物、帰るときには全く出てきませんでしたね」

「そう言えばそうだね。特定の場所を通ると出現して襲ってくる習性らしいけど、ここに来るまでに倒しちゃったから問題ないよね?」


 このダンジョンの行き止まりまで歩いて調べる時に出てきたしね。


「問題ないだろう。少なくとも、俺たちが倒したと言う証明は出来るのだからな」

「この赤い円盤ですよね。まあ、これが証拠だと証明できるのは私達だけですけど」

「あんまり気にしない方が良いんじゃないかな?」

「それもそうですね」


 少なくとも調査は出来たし、気にする必要は全くないよ。さあ、ヒローズに帰ろう。




ーーーー




「しかし、本当に静かな平原ですよね。さっきまで戦った偽物たちが全部駆逐しちゃったんでしょうか?」

「それは分からないけど……でも、本当に何もないんだよね、この平原。ちょっと休憩していく?」

「まあ、周りに敵の気配がまったくないですし、休んでいっても全く問題ないですよね。休憩しましょうか」

「ヒローズに戻る前にここで休んでいこうよ。幸い魔物の気配なんか全くしないし」

「……仕方ないな」

「まあ、良いんじゃない? 別に急がなくても良いだろうしね」


 偽物の洞窟から出た後、平原で小休止することに。……そう言えば、もうすぐ行くことになるバグリャってどういう場所なの?


「バグリャですか?」

「うん。ヒローズ勇者の一行も旅立って行った場所だけど、どんな場所なのか気になったんだ」


 私はバグリャに行った事ないしね。ジル、知ってたら教えてくれない?


「バグリャは……まあ、ヒローズと似たような場所ですよ。勇者も存在していますしね。違うのは……王宮制度を取っていることでしょうか。勇者は王宮の直属になっているみたいです」

「まあ、勇者を王宮が管理するのって別におかしなことじゃないよね」


 ……グリーダーの姿を見たテラントの馬鹿王はすぐさま私にグリーダーを押し付けて城から叩き出したけど。


「ただ、いい噂聞かないんですよね。あの国は……」

「え? どうして? 勇者も居るのに……」

「その勇者一行が相当な迷惑人間らしいですよ。噂でしか聞いたことはないですが、周囲には女性しか置こうとしないうえ、明らかに男性軽蔑の思考をしているくせに「男女平等に扱っている」などと言う勇者、王様相手でも色目と勇者様の権力で言う事を聞かせ、自分の好き放題に動かないと気が済まない超絶ぶりっ子僧侶、そして戦士と魔法使いの女性は互いに勇者を独り占めするために常に相手の首を叩き落とす機会をうかがっているとか聞きましたよ」

「それ、完全にパーティとして成り立っていないよね……?」


 一見パーティとして成り立ってはいるけど、仲間内で互いに相手を殺そうとする戦士と魔法使い、思いっきり町で問題を起こしそうな勇者と僧侶って図式だよね……? 常に互いに相手を排除しようとしているならチームワークも滅茶苦茶だろうし……。


「他にも、バグリャにはバグッタなる危険地帯が存在するようですよ。文字通りあらゆるものが滅茶苦茶で、常識などまったく通用しないおぞましいエリアらしいです」

「ど、どんなふうに滅茶苦茶なのか知りたいんだけど……」

「そうですね……切ってある肉が動いて襲いかかってくるのは日常茶飯事、野菜を食べたら肉の味がするのも当たり前、道端にあった小石を蹴り飛ばしてみたら小石は実は鉄の塊だった、町人に話しかけたら理解不能の言葉が返って来た……などです」

「本当に滅茶苦茶な場所なんだね……そのバグッタって場所」

「はい。まあ、このようにろくでもない噂しかありませんが、それでも行きますよね?」

「バグリャを通らないと次の場所には行けないからね……行くしかないよ」


 そんな恐ろしい場所だったとしても、私は行くからね。


「命知らずですよね、ルーチェさんは。まあ、今に始まったことじゃありませんか」

「横で聞いてただけだけど、バグリャってそんなすごい国だったんだね~。初めて知ったよ」

「マディスさんも行った事が無いんですか?」

「うん。テラストの方には行った事があるけど、バグリャの方はね……」


 話を聞いたらますますどんな場所なのか気になって来たよ。……次の依頼で悪魔を倒したら、早速バグリャに向かおう。

次話、いよいよ罰強化の話がやってきます。お待たせしました。その話を挟んでからルーチェたちがヒローズに戻ってきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ