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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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ジルの偽物を倒しましょう

「ジル……どれだけ探しても見つからないんだけど……? 私があげたリストバンド……持ってるって言ってたのに……」


 まあ、実際には最初から無いっていうオチなんだけどね。そもそも青色のリストバンドなんか私手に入れたこともないし。


「だ、大丈夫ですってば……無くすわけ、ないですって。私を信じてください(そんな物どこにもありません……このままじゃ不味いです!)」


 俯いたままの私を見てどんどん焦ったような口調になる偽ジル。……本物のジルじゃ絶対見れない光景だよね、これ。


「だって……どこにも……無いじゃない……本物のジルなら持ってるはずなのに……。さっきのジルが持ってなかったから、あなたが本物だって信じてたのに……」

「ほ、本物ですって! 間違いなく私は本物のジルですよ! あっちのジルが偽物です!(青いリストバンド……どんな形かさえ分かれば今から服の中で作成してしまえるんですが……)」


 必死に自分が本物だと訴える偽ジル。……いっそあることない事捏造して言ってみようかな? ジルならたとえ偽物でもグリーダーみたいに突然襲い掛かってくることはないだろうし……。


「……捨てちゃったの? 私の事なんてそんな存在でしかなかった?」

「え……? な、何言ってるんですか?(オリジナルが持っているべきリストバンド……そんなに重要な物だったんですか……?)」

「だってそうでしょ? あのリストバンドをあげたとき、私言ったよね? 旅が終わったら二人一緒に暮らそうって……ジルももちろん快諾してくれて……」


 もちろん事実無根の出まかせなんだけど。そんなこと言った覚えが無いし。


「え……ええ! そうですね! 言ってました! 忘れるはずないじゃないですか!(……何ですかこの人……。もしかしてオリジナルとこの人ってそんな関係なんですか……? い、いくら私が何にでも化けられると言っても、同性愛者に化けるのはちょっと……)」

「毎晩一緒に寝て、私の耳元で愛の言葉を囁いてくれたのに……」


 まあ、そんな記憶は全く無いんだけど。


「……何かルーチェが凄い事言ってるよ?」

「ジル、基本的に同じ部屋で寝てるお前が二人きりの時にルーチェに何をしてるのかは知らんし、別に止めはしない。だがほどほどにしておけ。当のルーチェにどう見られても知らんぞ?」

「ルーチェさんは確かに玩具ですけど……あんなことはさすがに言ってませんしやってませんよ!? 確かにルーチェさんは一緒に居ると面白いですけど、毎晩一緒に寝て愛の言葉を囁くなんてさすがにやってませんって! そこまで行ったら私完全に変な人じゃないですか!」


 外野が騒がしいけど無視するに限るよね。


「あのリストバンドも無いって事は……やっぱり、私なんてそんな存在でしか無かったんだ……」

「ち、違いますって! そんなはずないでしょう!?(こ、こんなのどう対応すればいいんですか!? 今まで多数の冒険者や動物をだまし討ちで始末しましたけど……こんな妙な女の子の対処法はさすがに分かりませんよ!?)」

「うう……酷いよ、ジル……あのリストバンド、ジルにあげるために毎晩徹夜して作ったのに……」


 普段のジルってこんな感じなのかな? 一度上手くいくとそのままどんどんあることない事言えるよ。


「ジル、酷いね~。ルーチェ、毎晩毎晩目を擦りながら頑張ってあのリストバンドを作ってたのに、あっさり捨てちゃったんだ」

「へ!?(そ、そんなに大事な物をどうしてオリジナルは持ってないんですか!? ……いや、確かに相手は同性ですけど!)」

「大方その辺に捨てたんだろ。最低だな」

「ジル……その辺に投げ捨てちゃった? やっぱり邪魔でしかなかったの?」


 偽ジルに縋るようにくっついて涙目で言ってみる。……涙目なんて出来ないと思ってたけど、案外簡単に出来たんだ……。


「す、捨ててません! ちゃんと捨てずに持ってますって! だから安心してください!(……ど、どうすればいいんですか……一番頭が回りそうな人を狙ってみたのにその人は同性愛者の女の子だったなんて……。こんなの聞いてないですよ……)」

「……じゃあ、どうして持ってないの? 肌身離さず着けるって……約束したじゃない……」


 声まで涙声になってる。……というか、涙出てそうだよ。……もちろん、偽ジルが慌てふためく姿が面白くてだけど。


「だ、だってそれは……」

「それは?」

「せ、戦闘で破損したら困るじゃないですか!(こ、これなら言い訳として通用しますよね!?)」


 戦闘で破損……まあ、言い訳にするならちょうど良い理由だけどね。でも……。


「ジル、リストバンドを私があげた時に言ったよね? いつも着けておくって」


 逃げ道なんて片っ端から潰すよ?


「で、ですが……もし魔物の攻撃で壊れちゃったら悲しいじゃないですか! その事を考えると、やっぱり無理でした……(と、とにかくでまかせを言ってこの場を凌がなければ……!)」

「……ずっと着けるって約束してたのに……酷いよ……」

「それは確かにジルが酷いよね」

「約束くらい守れ、ジル」

「わ、私はただ壊さないようにしようとしただけなんです……(形だけでも……形だけでも分かればまだ……! ですけど、そんなもの教えてくれませんよね……)」


 まあ、普通ならそれが正しい方法だと思うよ。町中でだけ着けておけばいいだろうし。


「そんなの理由にならないよ! ずっと着けるって約束してたのに! ジルの馬鹿!」

「どう考えてもジルは謝った方が良いよね」

「だな」

「ええ!? ご、ごめんなさい……(も、もうわけが分かりませんよ!)」


 申し訳なさそうに謝るジルも初めて見るかも。


「本来とは逆に散々遊ばれている自分の姿を見た感想はどうだ? ジル」

「……ルーチェさんは私に何か恨みでもあるんでしょうか?」

「……それこそ胸に手を当てて考えるべきじゃない?」

「……確かに散々弄りましたが、本気で怒らせるようなことはしていないはずですけどね……」


 敢えて言うなら玩具発言かな……。


「謝っても許さない! 約束したのにそれも平気で破るような本物のジルなんか知らない! そんな本物よりもこっちの偽物の方がよっぽど信用できるよ!」

「……え? ……あの、ルーチェさん……? 何やって……」


 偽物に怒った直後に本物のジルに抱き着く。……ちょっと付き合ってね。


「……上手く本物も巻き込んだね」

「まあ、これをしばらく続けるのも悪くないんじゃないか?」

「見てる分には面白いしね」


 ……私としてはこういうのは実際にやる方が面白いような気がするんだけどな……。


「ま、待ってください! その人は私の偽物ですよ!? 連れて行ってしまったら、そのまま殺されちゃいますよ!?(こ、このままじゃ不味いです! 何とかしないと……!)」

「それでも! 約束したのに平気で裏切る本物よりずっとましだよ!」

「……(な、何ですかこの展開は……。どうして私まで巻き込んでるんですかルーチェさん……)」

「本物なんか信用できないよ! ……それなら、例え偽物だったとしても……」


 言いながらジルの肩に顔をくっつけてみた。偽物に背中を向ける形になったけど、あんな状態の偽物なら多分大丈夫だよね。


「え、あの……どうしてこんなことに……(に、偽物討伐の際は化けられた人は見てるだけのはずなんですが……それに、ルーチェさん何やって……)」

「本物もかなり動揺してるよね。さっきからどうしていいか分かってないよ」

「普段冷静……というか、マイペースなだけに、なかなか新鮮な光景だな」


 ジルの顔をちょっと覗いてみたけど、普段と違って本当に慌ててるみたい。……ジルでもこんなこと急にされたら狼狽えるんだね。


「だ、駄目です! その人からすぐに離れてください! 殺されてしまいますよ!?(ど、どうにかしなければ不味いです……! このままじゃ私が狩られますよね!?)」

「本物なんてもうどうでもいいよ! みんなが偽物だって言っても、こっちのジルが私にとっての本物になるんだから!」

「……え、えっと……(あ、頭がまともに回りません……いきなりすぎてどうすればいいのか……と、とりあえず離れてくださいルーチェさん……)」


 ……次は何しようかな?


「完全に普段と立場が逆転してるな」

「普段はジルがルーチェを玩具にしてるからね。今はルーチェがジルを玩具にしてるよ」

「あのジルには普段の面影は全く無いな」


 普段からジルがこんな調子だったら私がジルを玩具扱いしてたのかな?


「も、戻ってきてください! 偽物について行っちゃ駄目です!(……もしこのままオリジナルと一緒に攻撃してきたら不味いです……! そうなる前に懐柔したかったんですが……)」

「煩い! 約束も平気で破る本物なんか知らないよ! 燃え尽きちゃえ! ファイアボール!」


 慌てるジルも見たし、そろそろ終わらせようかな? 完全に当てるつもりでファイアボールを撃ってみよう。避けなかったら黒焦げだよ。


「あ、危ないじゃないですか! どうして攻撃するんです!? 私は本物ですよ!?(よ、避け損ねたら大火傷するところでした……!)」

「私にとっての本物のジルはこっちなの! だからもうあなたなんか要らない! 約束を平気で破るあなたなんか……!」

「ま、待ってください! 私は……!(ど、どうすれば……!)」

「死んじゃえ! サンダーボルト!」


 ファイアボールは避けられたけど、サンダーボルトはどうかな? 本物ならたぶんフォークで防ぐんだろうけど……。


「避けきれな……ああっ! ……うっ……!(し、しまった……腕が……!)」


 やっぱり偽物はあのフォークは持ってなかったみたい。まあ、偽物の服の中を調べたけど、あのフォークは見つからなかったしね。……そういえば、ジルはあのピコハンどこから出してるんだろ?


「…………っ! いつまでもぼんやり突っ立っている場合じゃ……!」

「ルーチェにいきなり巻き込まれた気分はどう? ジル」

「……心の準備も何もできてないと言うのに……いきなりすぎますよ……全く……」


 だってそうでもしないと……ね。


「さあ、覚悟は良い? 本物さん……私の事裏切ったんだから、お仕置きするね……?」

「ひっ……! ど、どうか命だけは……!(も、もう手段を考えていられません! 青色のリストバンド、急いで作ります!)」

「ジルが悪いんだよ? 私がせっかく作ってあげたリストバンド着けてくれないんだから……」

「……ま、待ってください! 確かに見つからなかったですが、あなたの調べ方が甘かっただけかもしれないじゃないですか! もう一度調べてからでもいいんじゃないですか!?(右手の服の中に……急いで作成しなければ……! 時間がありません!)」

「……」


 仮に作って私に渡したところで、「こんなの手に入れた覚えが無いのに持ってる……あなたが偽物ね!?」とか言って攻撃するだけなんだけどな……。……あ、でもそこはやっぱりマディスの薬を借りてきて……。


「あの顔は……何か企んでるよね。間違いなく」

「……何か今日のルーチェさん……いつもと違うんですけど……」

「普段から余計な事をしてストレスを溜めさせたんだろ?」

「ルーチェさんが姑なのも玩具なのもいつもの事じゃないですか……」

「お前のその態度が偽物に対する仕打ちになったんじゃないのか?」

「……謝った方が良いでしょうか?」


 って、ただ偽ジルで遊んでるだけでどうしてそこまで思われるの!? 私ってそんなに悪ふざけするイメージ無かったの!?


「……で、調べていいの?」

「え、ええ! もう大丈夫ですよ(右手にさっきは無かった青色のリストバンドを作りましたしね!)」


 大丈夫と言いながら右手を出してくる偽ジル。大方急いで作ったんだろうけど、そんなに強調しなくて良いのに……。まあいいや。


「……これって……」

「ほら……ちゃんと持ってるんです。捨てたわけじゃありませんよ?(これでどうです?)」


 右手の袖には青色のリストバンドが。……これって外せるのかな?


「ホントだ……って、さっきまで無かったような気がするんだけど、どういう事なの?」

「だから、あなたの探し方が甘かったんですよ! 分かるように手首に巻きました(今作った物ですからごまかせるかは分からないですが、その場しのぎにはなるでしょうか……?)」

「ちゃんと持ってるなら、持ってるって言ってよ……ジルの馬鹿……」


 最初の段階で慌てて作成してれば、これで偽物だって証明させられたのに……。


「……はあ、肝が冷えましたよ……これで本物だって確認できましたよね?」

「うん。……無くしたとか捨てたって勝手に言い出して、ごめんね?」

「いえ、早く出さなかった私が悪いんですよ……(ふう、これでなんとかごまかせましたか!)」

「……汗だくだけど、何か飲む? ジル?」

「え、ええ……お願いします……安心したら喉が渇いて……」

「水持ってくるから、ちょっと待っててね」

「はい……(何とかなりましたか……!)」


 さてと……。マディスの薬で動けなくして、それから倒そうかな。その時にリストバンドのネタばらしもするけど。


「マディス、水出してくれる?」


 もちろん、マディスは普通の水なんか出さない。マディスが出したのは強力な劇薬。


「あ、ルーチェも一応これを飲んでね」

「……え、うん(……特効薬かな?)」


 まあ、私が飲まないと自分だけ飲むことになって毒でも盛ったんじゃないかって怪しまれるかもしれないしね。


「お待たせ、ジル」

「……あなたは飲まないんですか? あなたも喉が乾いたのでは?(まさかとは思いますが、毒でない可能性は捨てきれないですしね……一緒に飲めば大丈夫なはずです)」

「え? もちろん私も飲むよ。ほら」

「そうですか(大丈夫……ですよね? これでもまだ不安が……)」


 偽ジルが悩んでいる間にマディスに渡された薬を飲む。私が渡されたのは特効薬だから何も起きない。


「……飲まないの?」

「え? いえ、飲みますよ(飲まざるを得ませんね……)」


 偽ジルが水を飲んだ直後、薬の効果が発動する。偽ジルの身体が突然震えはじめ、そのまま後ろに倒れてしまった。


「あ……これ……は……(し、しまった……毒を……)」

「察しの通り、劇薬だよ。偽物にはそろそろ退場してもらうから」

「い、一体……どこで……(どこでばれたって……言うんですか……)」

「どこでばれたのかって言いたそうだから教えてあげる。あなたに散々要求した青色のリストバンド……これの事だけどね……」


 そう言いながら偽ジルの右手首についているリストバンドを外す。


「私、初めからこんな物持ってないんだ。もちろん、手に入れたことも無いの」

「な……なんですって……!?(まさか、初めから……!)」

「それに、本物のジルとは一緒の部屋で寝てはいるけど、さすがにあんなことしてないし」

「そ……それも……嘘、だったんですか……!?」


 そういう事。確かにジルとは一緒に居るけど、そんな関係じゃないもん。


「そういう事だから、もう倒れてね。……ファイアボール!」

「こんな……はずでは……!」


 今度は身体が動かないため、偽物もファイアボールを避けられない。偽ジルの身体は炎に包まれ、赤色の円盤だけ残して跡形も無く消えた。


「終わったか?」

「うん。じゃあ、反対側の通路も調べようか」


 ここは行き止まりだしね。


「それは良いんですが、ルーチェさん。そのリストバンドまだ持ってるんですか?」

「え?」


 偽ジルから取ったリストバンドは消えずにまだ残っている。……何で?


「燃えなかったからでしょうね」

「……じゃあジル、持ってて」

「愛の証ですか?」

「そういう事になるかな」


 まあ、冗談だけどね。


「……え? 偽物にあんなこと言ってましたけど、ルーチェさんってやっぱりそっちの……」

「止めはしないが、街中では自重しろよ?」

「まあ、誰が誰と恋愛しようと自由だけど……」

「冗談だってば!」

ネタに走りすぎました?まあ、他の話を見ればこの話にガールズラブ要素など一切無いと言う事はすぐ分かりますが。

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