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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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偽物たちと戦いましょう

 皆が私の偽物を倒した場所から更に奥に歩くと分かれ道が見えた。……三方向に分岐してるみたいだけど、どこに向かってみる?


「まずは真っ直ぐ進みますか?」

「いや、分かれ道から潰した方が良いのではないか? 分かれ道の先の方が行き止まりになっている確率は高いぞ?」

「じゃあ、左の道から進んでみる?」

「それでいいと思うよ~」


 三つの分岐のうちの左側に進むことに。……また偽物が来るのかな……?


「まあ、何度来てもルーチェさんに化けさせればどうと言う事は」


 ジルが言い切る前にキノコが出現するときのあの音が。……どこから!?


「グリーダーさん!」

「何!? しまっ……」


 グリーダーの方を私が見たときにはすでにキノコがグリーダーの目前まで迫っていた。そのままキノコが光を放ち、変身する。……まさかグリーダーの偽物なんて……。


「あらら……いきなりだね」

「……厄介ですね……。まあ、なんとかできるはずです」


 光が収まると、そこにはもう一人グリーダーが立っていた。……あの真っ黒なオーラも異常に高い身長もそのままなんて……。


「当然だ。俺はグリーダーだぞ?」


 声も当然全く同じ。……本物は偽物から少し離れた場所で黙り込んでいる方かな?


「何を言うんだ。俺が本物だと言っているだろう」

「……判断できませんよね? ルーチェさん」

「うん……全く分からないよ」


 実際には黙り込んでるグリーダーが本物なんだろうけど……。


「う~ん……本物のグリーダーだって主張するなら、証拠を見せてよ」

「証拠だと? 何をしろと言うのだ?」


 マディスの話に便乗しよう。……えっと……。


「本物のグリーダーだったら、オーラの色を変えられるよね?」

「何……?(オーラの色を変える? ……オリジナルはそんな事出来たか?)」


 一瞬だけだけど偽物の表情が変わった。……出来ないのかな?


「ですから、その身にまとっているオーラの色を変えてみてください。まずは白色でお願いします」

「本物だったら出来るよね? グリーダー」

「待て、なぜ俺がそんな事をしなければならん。俺が本物だと証明するための方法は他にもあるだろう」

「何言ってるんですかグリーダーさん。グリーダーさんは日常的に纏っているオーラの色を変えたりしていましたよ? 赤色、白色、黒色、青色……と言う風に」


 まあ、そんなところは見たことないんだけど、どうなんだろ?


「やってください、簡単ですよね?」

「出来なかったら偽物だから死んでもらうよ?」

「な、何だと……?(やり方が分からんな。……不味い。どうするか……)」


 オーラの色を変えなくてももう偽物だって分かってるし(本物はずっと黙ってるから)、さっさと倒すためにも早くボロを出せばいいんだけど……。


「グリーダーさん、お願いしますよ。本物ならこれくらい簡単でしょう?」

「……無茶を言うな。そんなことすぐに出来るわけないだろうが……(どれだけ身体を調べてもやり方が分からんぞ!? どういう事だ!?)」

「何言ってるの。いつもすぐにオーラの色を変えていたじゃない」


 まあ、その場面を見たことはないんだけど。


「すぐにだと?(……ありえん。やり方自体分からんのだぞ? どういう事だ?)」

「ええ、すぐにですよ。早くしてくださいよ、グリーダーさん」

「あんまり待たせるようだと、偽物として処分するからね?」

「……待て。お前ら、もし俺が本物だとしたらどうするつもりだ?」

「オーラの色を変えられないグリーダーさんは偽物ですよ。言い訳ばかりしてオーラの変色を拒むって事はもしかしたら貴方も……」

「違う。そんなはずがないだろう。俺は本物だ。間違いなく本物だ(くそっ、面倒な奴らだ。いっその事、ここで首をへし折るか?)」


 ……殺気? グリーダーの偽物、まさかこっちに攻撃してくるんじゃ……。何があっても対応できるように魔術の準備を……。


「……何ですかこの殺気は? グリーダーさんなら私達に殺気を向けることは無いんですけど……」

「殺気を向けるって事は、やっぱり偽物」

「俺が本物だ! どうしても疑うと言うなら、貴様らにはここで死んでもらおうか! フリーズブレイバー!」


 案の定攻撃してきたよ! いくら偽物でも攻撃的すぎないかな!?


「……だけど、させない! ファイアウォール!」


 フリーズブレイバーの氷刃は炎の壁にぶつかってあっさり消滅した。


「ちっ! 防がれたか!」

「攻撃してきた時点であなたが偽物ですね!? 騙そうと思っても無駄なんですよ!」

「こっちを攻撃してくるグリーダーは偽物だよね? じゃあさ、殺処分されても文句は言えないよ?」

「俺の偽物になったらしいが、しょせん偽物は偽物だな」


 今まで黙って傍観していたグリーダー(本物)がこっちに戻ってきた。……いきなり仲間に攻撃してくるなんて、偽物は何考えてるの……。


「俺を疑うモブ共、それはな、全て抹殺対象なんだよ! 勇者の邪魔をする輩は、勇者の俺自ら粛清してやるわ!」

「何その暴論!? こっちのグリーダーでもそんなこと言わないよ!?」

「黙れ! 俺の邪魔をしたこと、万死に値する! 俺に楯突いたことを地獄の底で後悔させてやるわ!」


 ……なんだか、グリーダーを敵に回していた盗賊たちの気持ちがわかる気がするよ……。威圧感もすごいけど、それ以前に滅茶苦茶な事ばっかり言ってるもん……。全く話が通じないよ……。


「それで、俺たちからも奪うのか?」

「当然だ偽物! 俺は本物のグリーダー。真の勇者なのだ! 貴様らモブの持つアイテムも、命も、全て奪ってくれるわ!」


 私たちの側に居るグリーダー(本物)の問いかけに答える偽物の答えは、何かどこかで聞き覚えがある内容だった。……どこだったかな……?


「それのどこが勇者なんですか!? あなたはただの強盗ですよ!」

「黙れ小娘! この世はなあ、勝った奴が正義なんだよ……! つまり、弱者からだろうが、モブからだろうが、魔物からだろうが、偽物共からだろうが、勝って奪えば何でも正義の行いになると言うわけだ……!」


 何この外道グリーダー……。


「さあ、貴様らの命も奪ってやるわ! 命だけでない! アイテムも、金も、何もかも奪おう!」

「典型的な強盗だよね、この偽グリーダー」

「家とか襲いに行きそうですよね」

「……家?」


 ……そう言えば、テラピアで一度強盗を実行しようとしていたような……。思い出したらまた電撃で麻痺させて縄で縛って反省させたくなってきたよ……。


「さあ、俺のためにアイテムだけ置いて死ね偽物!」

「そう簡単に死ねんな。外道に狩られるわけにはいかんのでな」


 二人のグリーダーが斧を切り結ぶ。……何も考えずに見たら鏡を見ているような感覚になりそうだよ……。


「偽物のくせに強盗をするなど生意気です!」

「強盗をやっていいのは本物だけだよ?」

「そう言う問題じゃないよね!? 強盗自体駄目だから!」


 いくら本物でもそれは駄目だよ!


「さっきからうるさい奴め! 貴様から黙らせてやるわ! 俺の邪魔をするモブは皆殺しだ!」

「黙るのは……そっちだよ! サンダーボルト!」

「しまっ……」


 グリーダーの偽物の攻撃をかわし、そのまま左の脇腹にサンダーボルトを叩き込んだ。至近距離で直撃を受けた偽物の身体は何度も痙攣した後、崩れ落ちて動かなくなった。


「あ……が……か、身体……が……くそ、貴様……」

「そんなふざけた考えで動こうとしてたこと、そこで反省して!」

「いや、反省させてどうするんですかルーチェさん……偽物は排除しないといけないですよ?」


 崩れ落ちた偽グリーダーの首をジルのナイフが叩き斬り、偽物は赤い円盤だけ残して消えた。


「今度は俺の偽物か……全く、面倒な相手だな」

「攻撃的になる時点でおかしいですよね?」

「全くだ」

「少なくとも、最初の頃のグリーダーと変わらないと思うよ!?」


 盗賊や魔物にはこっちから攻撃してたし、王宮の人間にはいきなり掴みかかってたし!


「何を言うんだ。俺ほど穏やかで大人しい勇者は居ないぞ?」

「自分の行動思い出してから言ってよ!? というか、グリーダーは一回穏やかや大人しいって言葉の意味を勉強した方が良いと思うよ!」


 見事に正反対じゃない!


「まあ、そんな人私たちの中に居ないですよね」

「というか、まずそんな人と縁が無いんじゃないかな?」

「そうだな。そんな人間と出会ったこと自体無い」

「確かに、出会ったことないよね……」


 ヒローズまで旅してるんだし一人くらいいてもおかしくないはずなんだけど……。


「まあ、そういう人はそもそも冒険者やらないか、冒険者になっても他のパーティに引っ張りだこでしょうね」

「……何で?」


 穏やかで大人しい人が他のパーティに引っ張りだこになる理由がよく分からないんだけど……。


「なるほど、穏やか、大人しい、かつ女僧侶とくれば王道か」

「そういう事ですよ、グリーダーさん」

「ま、ますますわけがわからないんだけど……」


 何で女僧侶? ますますわけが分からないよ……。


「ルーチェは知らなくていいんじゃないかな?」

「ええ。ルーチェさんにはまだ早いです」

「どういう事? だからどういう事なの……?」


 そんなこと言わずに教えてくれても……。


「まあ、その話は置いて先に進みましょう。この先がどうなっているのか気になりますし」

「そうだな。……行くか」

「……教えてくれてもいいのに……」


 何の話なのか気になるよ……。




ーーーー




「……行き止まり、でしょうか?」

「行き止まりに何かあるけど……」


 グリーダーの偽物を倒した後そのまま奥に進んだけど、その先は行き止まりだった。


「まあ、調査目的である以上行き止まりだから行かないと言う選択肢はあるまい」

「それもそうだよね」

「あの壁まで進んだら一度小休止しますか?」

「どうする? ルーチェ?」

「何も居なければ少し休憩するのも良いk」


 休憩するのも良いかも。そう言おうとしたとき、またキノコが出現するときの音が。……どこから!?


「ジル! キノコが!」

「……今度は私ですか!?」


 不意打ちを避けきれず、ジルにキノコが当たってしまった。当然キノコが光を放ち、変化していく。


「今度はどうやって判別すればいいんだろ……」

「ジルの偽物は厄介だよね」

「さて、どうやって調べるか……」


 ……上手く判断できるかな?


「うう……全く、何で私がこんな目に……」

「ジルが弾かれてこなかったね」

「今度は本物のジルが吹き飛ばされてないから立っている位置だけじゃ分からないよ……」


 起き上がったジル二人の立ち位置がほとんど離れていないせいでまずどっちが偽物か分からない。……じゃあ、どっちが本物か聞いてみればいいのかな?


「……どっちのジルが本物なのかな?」

「全く見分けがつかないね。本物はどっち?」

「……」

「……」

「って、両方無反応!?」


 片方は本物なんだろうけど、何で偽物まで全く反応しないの!?


「……どっちが本物なの? 答えてくれないと、倒すよ?」


 まあ、あくまで脅しなんだけど……。通用するかな?


「……」

「……」

「駄目だね」

「両方答えないなんて初めてだよ……」


 これじゃどっちが本物なのか全く判別できないし……。


「……身体関係で調べればどうだ?」

「……」


 グリーダーが耳打ちしてくれたけど、多分通用しないよ。……一応やってみるけど……。


「……どっちが本物か調べるために身体を調べるけど、良いよね?」

「「ええ」」

「じゃあ、調べるよ」


 ……声まで被せるなんて……ジルって元々泥水を聖水として売ってたりお金をだまし取ってる前科があったから悪知恵が働くと思ってたけど、まさか偽物の考えにも反映されてるのかな……?


「……その前に、二人を一旦別々の場所に移動させた方が良いよね?」

「確かにな。こっちのジルは見張っておこう」

「……お願い」


 ジル二人を別々の場所に置けば判別しやすくなるかもしれないしね。


「……じゃあ、調べるよ」

「ええ。お願いします」


 ジルが私にやったようにすれば判別しやすくなる、はずだよ……。……多分。


「……」

「……本当に判断できると思ってますか? ルーチェさん」


 私が調べている方のジルが小声で話しかけてくる。……情けないけど、こんな方法で判断できるのはジルくらいだと思うよ……。


「……(実際にジルの身体に触って確かめたわけじゃないし全く分からないんだけど……)」

「……しょうがないですね、ルーチェさんは。……これなら分かりますよね?」


 偽物に見えないように服の中から赤いリストバンドを取り出して見せるジル。……これって確か……。 


「……顔に出さないようにお願いします」

「う、うん……」


 ……そうだ! これを使えば……!


「……何か思いついたようですね。……後は頼みますよ」

「……うん」


 もう一人のジルがリストバンドを持ってなければ確実に判断できると思うんだけど……。まあ、やってみようかな。


「戻って来たって事は、今度はこっちを調べるの?」

「うん。だから、二人は向こうのジルを見ていてくれる?」


 こっちが偽物かどうか……懐のリストバンドを探せば分かるよね? 念のために色もごまかしておいて……。


「調べるよ?」

「ええ、お願いします(まあ、判断できるはずないでしょうね)」


 ……今から調べるのはジルの身体じゃなくてリストバンドの方だよ。えっと……。


「へ? ……い、いきなり服の中に手を入れられても……(いきなり服の中に手を入れる……身体を調べるにしてはちょっと変ですね……)」

「ああ、ごめんね。でも、こうでもしないと調べられないから」

「は、はあ……(……服の上から私の身体に触るだけ触って、結局分からないまま終わりそうだったんですけどね……)」


 ……見つからない? おかしいな……。


「あ、あの……何を調べてるんですか?(おかしいですね。単に体を調べるだけならこんなことはしないはず……)」

「ジルにあげた青色のリストバンド。あれさえ見つかればすぐに本物だと分かるんだけど……」

「青色のリストバンドですか……?(え? そんなものありましたっけ? ……ですが、この人の口ぶりからすると本当にありそうな気が……)」

「……見つからない……もしかして、あなたが偽物なの? それとも、無くしただけ?」


 いくら嘘でも、俯いて不安げな声で言ってみれば信じるよね……? 顔見えないし。


「な、何言ってるんですか? 私が偽物のわけないじゃないですか……。それに、無くすわけないでしょう?(な、何ですかそれ……。そんな物聞いたことが無いんですけど……。ですが、このまま見つからないのも不味いですね……)」

「……ジル……無くしちゃったの……?」

「そ……そんなわけないじゃないですか! ちゃんと大事に持ってますよ!?」


 ……どんどん偽物の表情が変わってる……。普段私が玩具扱いされてるからある意味新鮮かも……。思い出したら何故かこれで遊びたくなってきた……。


「……ルーチェさんが私の偽物に何をするのか、観察しましょうかね」

「そのリストバンド……お前が本物だな?」

「ええ。……それと、1つ気づいたことがあるんですが」

「何だ?」

「あの偽物……ルーチェさんの名前、呼びましたっけ?」

「どうだったかな……?」


 向こうで何か話してるみたいだけどまあいいや。……このジルの偽物で遊んでから倒しても良いよね?

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