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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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偽物を倒していきましょう

 大穴の中で出現した、私達そっくりの姿に化けて惑わせようとする危険な魔物「ドッペルマッシュ」の対策のために一旦大穴の外に出てみんなで話し合う事に。……安全な対処法を考えないと騙されて酷い目に遭うかもしれないしね。


「と言うわけで、あのキノコの対処法を考えるわけですが、何か意見はありますか?」

「じゃあ、私から言って良い?」

「何か案があるんですか? ルーチェさん」


 案になるかは分からないけど、対策にはなるかもしれない物が1つあるよ。


「偽物が出現した後は、偽物が消えるまで化けられた人は黙ったら良いんじゃないかな?」

「……どういう事だ? ルーチェ」

「私達の側が喋らなかったら、ペラペラ喋った方が偽物だってすぐにわかると思うんだけど。どうかな?」


 偽物は本物になるために必死でなりきろうとするだろうし、こうすれば対策になるかも……。


「なるほど。でもさ、その方法だと相手が黙り込んじゃったら通用しないよね」

「……そこなんだよ、問題は……」


 私もこの案を考えたときに思ってたんだけど、マディスが言ったように、こっちが黙っちゃって相手が喋らなくなったらこの方法には何の意味も無くなっちゃう。もしこの方法を実行するならそこをどうにかしないと駄目なんだよね……。


「グリーダーさんは? 何かしらのアイデアがあればどんどん言ってください」

「先ほどジルがやったように本来と逆の情報を流して混乱させればいいのではないか? さっきのルーチェの偽物など、見事に引っかかったぞ?」

「だけど、この方法って化けられた人の身体の情報を知っていないとできないよ?」


 ジルだってグリーダーやマディスの事をそこまで分かってるわけじゃないだろうし……。


「さすがに、グリーダーの身体の事は分からないよ?」

「私もルーチェさんだからできただけですしね」

「俺も分かるはずないな。となると、この案は失敗か?」

「最悪分かってる事だけでも出して行って、それで実行する?」


 ……仮に情報を集めたとしても、ネタ切れになったら不味いかもしれないけど……。


「そこが不安要素です。ネタ切れになって判断できなくなったら困ります」

「……どうするか……」

「ねえ、初めから自分たちが「偽物」だってアピールしてみる? 良い案だと思うんだけど」

「偽物だとアピール? ……どういう事、マディス?」


 自分たちが偽物だとアピールするって言われても……。


「……例えば、キノコがルーチェに変身したとして、見分けがつかなくなるでしょ? そこで、キノコが化けた偽物が「私が本物だ」って言うように誘導したタイミングで本物のルーチェが「私が偽物だ」なんて言ったらどう思う?」


 普通と逆の行動を取る……もし対策されなければ確実に判断できるよね。相手は本物になろうとするから私が本物だって言うはずだし、そこで私が偽物だって堂々と言ったらすぐにばれるよね?


「良いアイデアですよ、マディスさん。本物が自分を偽物だって主張する時点で変身した魔物は動揺するでしょうしね」

「相手が「なんで自分が偽物だと主張するんだ!? いや、そもそも発言ずれた時点で不味いんじゃないか……」と思うだろうな」

「それで相手が動揺したらすぐに分かりますね」

「……だけど、これだけだと不安じゃないかな?」


 相手が自分も偽物だと言い出したら使えなくなるよね……?


「そうですね、これだけでは不安です。もっとたくさん対策用のアイデアが欲しいところですね」

「しかし、他にアイデアが出るか?」

「……」


 偽物……騙す……えっと、これなら……。


「ルーチェさん、何かあったらどんどん言ってくださいね」

「……さっきマディスが言ったように自分が偽物だって主張するのと同時に、絶対出来そうにない事を合わせて言ってみて、本物だったらこれが出来るはずだ、って言ってやらせてみるのってどうかな?」

「ほう? たとえば?」

「私達じゃ絶対にできないこと……例えば、4トンの重りを片手で軽々持ち上げられるはず、とか、体を自由に伸ばせるはず、とか言ってみて偽物にやらせて、それが出来なかったら偽物だから倒す、仮に出来ちゃったらもっと無理な内容をやらせる……ってすれば……」


 私たちは偽物だって主張するわけだからやらなくても良いだろうし……。


「なるほど、本物ならば出来るはずだ、って言って無理難題をやらせるんですね。お酒などよりももっと強烈な方法を取っても良いわけですし」

「なら、その方法と黙り込む方法を合わせるか?」

「それに加えて、最終手段で本物確認の手段を用意しておけばいいんじゃない? 服の内側に隠し持つ形で持っておけばコピーできないでしょ?」

「では、それも一応持っておきましょうか。このリストバンドを全員服の下に入れておいて、本物と偽物の区別が出来なくなったらこっそり取り出してつけましょう。偽物に見えないように、ですけどね」


 そう言ってジルが全員に赤色のリストバンドを渡していく。……隠し持っておけば万が一の保険になるよね。


「これで大丈夫でしょうか。特に問題が無ければ今から大穴の中に戻りますけど、大丈夫ですか?」

「問題ない」

「大丈夫だよ」

「戻ろう。対策もしたし多分大丈夫だと思う」

「分かりました。じゃあ、さっきの場所の奥に向かいましょうか」


 再び大穴の中に戻り、調査を続けることに。……もう偽物が出てきても大丈夫だよね。




ーーーー




「さっきキノコに襲撃されたのは確かこの辺でしたよね」

「そのはずだよ」


 大穴の中に戻り、キノコに遭遇した場所まで戻ってきた。……まだキノコは出現していない。


「もう居ないのかな?」

「どうだろうね?」

「居ないならそれでいいんですけどね」


 さっきのキノコはやっつけたから出てこなくなったのかな? それなら、キノコが出てくるたびに化けさせて片っ端から潰して行けば……。


「とか言っているときにお出ましだな」

「……え!?」


 グリーダーの言葉を聞いて慌てて上を見上げると、緑色の何かが回転しながら出現していた。出現した物が凄い速さで私の方に向かってきた。


「って、また私!?」

「またルーチェさんですか?」


 私の身体に触れた緑色の物体が光を放ち、その直後に私は弾き飛ばされる。光が収まるとそこには私そっくりの偽物が。……とりあえず黙ってジルたちが倒すのを見ていよう。


「ルーチェさんが二人になってしまいましたね」

「どっちが本物だ? 片方が偽物なのは分かっているんだが」

「そんなの決まってるじゃない、私が本物だよ!」


 偽物が本物だと主張する。……私は黙ったままだけど、大丈夫かな?


「なるほど……ですが、あなたが本物だと言う証明ができませんね。なので……」

「な、何?」

「貴方が本物だと証明したいのなら、ルーチェさんの本当の姿になってください」

「ほ、本当の姿? この姿じゃないの?」


 ……偽物に一体何をさせるつもりなんだろ……。


「ええ。実はですね、ルーチェさんのその姿はあくまで仮の姿でしかありません。本当の姿が存在すると常日頃から言っているんですが、その姿を見たことは私達ですらないのです。本人曰く「本当の姿は力を消費するからこの姿で居たい」とのことですが、同じ姿の人が二人も出てしまったらそんなことは言ってられません。やってください」


 仮の姿って何!? 私は追い詰められると変身するモンスター扱いなの!?


「そ、そんなこと言うなら、そこの偽物にもやらせればいいじゃない! 私だけそんなことするの!?」

「そうですね。ですが、あなたが本物だと言う事を証明するためにやってもらいたいだけですよ。あなたが本物だと証明できればルーチェさんの偽物は調べる必要もないですからね」

「そういう事だ。本物だと俺たちに認められたいなら、その姿を捨てて本当の姿を出せ、ルーチェ」


 本当の姿も何も、この姿が普通なんだけど……。キノコを倒すための作戦とはいえ、三人とも思いっきり遊んでるような気がするんだけど……。


「……(ど、どうしよう……)」

「出来ないの? 出来なかったら偽物だから死んでもらうよ?」

「だ、だって……あの姿は……(そんなこと言われてもオリジナルの本当の姿なんて分からないよ!)」

「やってください。本物のルーチェさんなら簡単でしょう?」

「ここで本当の姿に戻るだけで良いんだ。それだけでお前が本物だと証明できる」


 偽物にちょっと同情するかも……。私と同じ姿だからかもしれないけど……。


「戻れないんですか? なら、偽物として殺処分するだけですね」


 言うなりクリスタル製のピコハンを取り出したジル。殺意むき出しで言わなくても……。


「ま、待って! 私が本物だったらどうするの!?(こ、このままじゃ私殺されちゃう……!)」

「本当の姿に戻れないんでしょう? 戻れないと言う事は、すなわち偽物です」

「そうそう。ルーチェは常日頃から僕らの見てないところで本当の姿に戻ってるって言ってたしね~」

「お前自身の事はお前が一番よく知っているだろう。ほら、本当の姿に戻ってみせろ」

「で、でも……(ど、どうしよう……そのための技能が、さっき情報を取り込んだのにこの身体のどこにも見当たらないよ……)」


 偽物完全に涙目になってる……。そもそも変身能力なんて無いっていうオチなんだけど……。


「ああもう、じれったいですね。あんまり待たせるようなら、潰しますよ?」

「わ、分かったよ! 変身する! 元の姿に戻るから少し待って!」

「分かればいいんだよ」


 偽物の私の身体が光に包まれ、その姿を変えていく。……言わないけど、変身を実行したことであの偽物は自分が偽物だって完全に自白しちゃったよね。


「ど、どう? 元の姿に戻ったよ。これで満足?(咄嗟に思いついた姿に化けたけど……この姿で大丈夫なのかな……?)」


 変身した偽物の身体は人型こそ保っているものの、背中からは紫色の大きな翼が生え、前髪の間からは二本の短い角が突き出ていた。……って、完全に悪魔じゃないそれ! 尻尾まで生えてるもん!


「なるほど……それがルーチェさんの本当の姿ですか」

「そ、そうだよ! これが私の本当の姿だよ!(だ、大丈夫なはずだよ! 見たことないって言ってたし!)」


 どこが!? それもうただの悪魔だからね!? 私普通の人間だから!


「そのような姿を持っていたなら、初めからそうすればいい物を」

「いえ、こんな姿で町中歩けないでしょう。ですよね?」

「あ、当たり前じゃない! こんな姿で町中歩けないってば!」

「まあ、それもそっか。ところで、喉乾かない? 水飲む?」


 そう言って水の入った入れ物を取り出すマディス。……まさかあれって……。


「あ、ありがとう……(誰のせいだと思ってるの! 一瞬本当に焦ったんだから……!)」


 差し出された物を飲み干す偽物。その直後に地面に座り込んでしまった。


「あ、あれ……体の力が……抜け……」

「さ、始末しましょうか。グリーダーさん」

「ああ。……覚悟してもらおう」


 そして斧を構えるグリーダー。偽物は力が抜けたのか全く動けないみたい。


「な……何で!? 本当の姿も……見せたよ!?」

「一言言っておこう。俺たちはお前にルーチェには本当の姿があると言っていたが……」

「そうだよ! 言ってたじゃない! しかも見たことないって言ってたよね! どういう事なの!?」

「実はそんな物など無かった。つまり、化けた時点でお前の負けだ」

「ひ、酷いよ! 騙したの!?」

「酷くはないな。これは……ただの判別だからだ」

「こんなの理不尽だよ!」


 そう言ってグリーダーが斧を振りおろし、偽物を叩き切った。偽物は最初のキノコと同じように真っ二つになり、赤い円盤を残して消滅した。


「うーん……やはり何か物足りませんね。本物と異なり、追い詰めたりすると涙目になるルーチェさんは斬新ですが……やっぱりこれじゃない感が……」

「魔物は無事に倒したんだからそれでいいじゃない!?」

「何言ってるんですか。本物のルーチェさんで出来ないことだって出来るんですよ? 水と称して毒物を飲ませたり、先ほどのように無茶をやらせてみたり……本物と違って代わりが効くんですから、色々遊べるんですよ?」

「倒しに来たんだよね!? 遊ばなくていいじゃない!」


 というか、この大穴の調査に来たんだよ!?


「え? 偽物で遊ぶために来たんじゃないんですか?」

「違うから! 調査のために来たんだってば!」


 依頼内容忘れないでよ!


「そんな依頼でしたっけ? 偽物が出るので倒してくださいって言う依頼だったような……」

「そのはずだよね?」

「違うってば!」


 そんな依頼受けてないよ!?


「まあ、そんな細かいことは一々気にするな、ルーチェ」

「細かくないって! 依頼内容を勘違いしてる時点で問題だから!」

「今度ルーチェさんの偽物が出たときには一度普通の会話の反応を見てみたいですよね」

「姑じゃない反応が出来るかどうか?」

「はい。こんな反応を出来るのかどうか気になりますしね」

「楽しみだね~」

「遊びに来てるんじゃないんだよ!?」


 対処法は考えたけど、それでも偽物に化ける能力持ちのかなり厄介な魔物なのに……。


「ですから、対処法をたくさん考えたじゃないですか。細かすぎますよ、ルーチェさん」

「それでも、油断しちゃ駄目だし気を抜いちゃ駄目だって言ってるの!」


 もしかしたら想定外の対応をしてくるかもしれないし……!


「……大丈夫ですよ。いくら偽物が出てきたって、ルーチェさん本人になりきるのってまず不可能ですしね」

「何でそう言いきれるの?」


 私の偽物なんて普通にさっきも出現してたけど……。


「決まっているじゃないですか。散々本物のルーチェさんで遊んでいる私の目をごまかせる偽物なんて作れませんよ。対応の違いも表情の違いも簡単に分かりますしね」

「……本当に?」


 何か疑わしいけど……本当に大丈夫なの?


「当たり前です。対応や表情だけでなく、流れる血流量の変化や血管の位置、心拍数の変化も手に取るように分かりますからね。直接触れなくても全て完全に分かります」

「ちょっと待って! それは明らかにおかしいよね!? そこまで行くと信頼できるかどうかを通り越してものすごく怖いよ!」


 対応や表情の変化は分かるけど、流れる血流量の変化や血管の位置って見えないよね!? 絶対分かりようがないと思うんだけど!?


「何言ってるんですか。何年一緒に過ごしてきたと思ってるんです?」

「何年どころか、まだ一月にも満たないと思うよ!?」


 テラピアから一緒に行動するようになったけど、まだ半月程度しか経ってないはずだし!


「つれないですね。160年一緒に過ごした仲じゃないですか」

「そんなに生きてないからね!? 私の年齢の10倍の時間じゃない!」

「そろそろ行くぞ。ルーチェに付き合っていたら日が暮れかねん」

「まあ、見物は良いけど魔物が出ることは確かだしね。先を急ごうか」

「そうですね。……全く、ルーチェさんが一々騒ぐから……悪いのは全部ルーチェさんですよ?」

「どう考えても私悪くないよね!? 目的を忘れないでって言っただけだよね!?」


 普通にずれてる目的を修正しようとしただけじゃない!


「何寝ぼけたこと言ってるんですか。私が悪いって言ったら全部ルーチェさんが悪いことになるんですよ?」

「何その理不尽!? 酷くない!?」

「別に酷いとも思いませんけどねえ?」

「思ってよ!?」

当然、まだまだ偽物との戯れは続きます。

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