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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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崩落現場を調査しましょう

 ヒローズを出て、クエストの目的地の崩落現場に向かう事に。……結構歩いてるけど、ヒローズの北の大平原のどこにそんな物があるのか全く見当がつかない。というか、本当にこの平原の下にそんな空間があるのかな?


「あるからこその依頼ですよ、ルーチェさん」

「それもそうなんだけど、でも見渡す限り一面緑の平原なのに、その地下に妙な空間があるって方が信じられないんだけど……」


 ヒローズの北の平原は本当に緑一色の大平原だった。木すら生えていない草原の何処を見渡しても依頼で説明されたような場所とのつながりは一切感じられない。


「でもさ、生き物が全く居ないね~。普通こういう平原には魔物や動物が居る物だけど」

「言われてみるとそうだな。ジル、ルーチェ。魔物の気配はするか?」

「居ないですよ。全く感じられません」

「……本当に何も居ないね……。こういう静かな平原なら小動物くらい居そうだけど……」


 というか、鳥の気配すら感じないよ。……どうしてかな?


「これもその崩落現場の中に居る「偽物に化ける存在」が影響しているんでしょうか?」

「そこまでは分からないけど、関係があるかも……あれ?」


 関係があるかもしれない。そう言おうとしたとき、柵で覆われた場所が視界に飛び込んできた。


「本当にありましたね。近くに行ってみましょう」

「うん」


 ……柵で覆われた場所に近づくと、柵の中に大きな穴があった。……まさか、ここがそうなの?


「柵に貼ってある紙に「この大穴の内部、非常に危険。絶対に入るべからず」などとわざわざ注意書きしてあるあたり、そうだろうな」

「柵は破壊しても良いみたいだし、壊して入ろうか」

「待って! さすがに壊すのは不味いよ! ここが本当に危険な場所で、柵が無いせいで誰かが間違って入ったりしたら……!」

「毎度のことですが、心配性ですよねルーチェさんは。こんな場所に誰が踏み込んでくるんですか?」


 ジルの言うとおり、こんな何もない平原には誰も来ないと思うけど、万が一って事があるでしょ!


「壊さなければいいのだな?」

「うん。壊さなければ……って、何やってるのグリーダー!?」


 グリーダーの方を見ると、大穴の周囲に張り巡らされている柵を地面から引っこ抜いて移動させている。……確かにこれなら私たちが入った後で元の場所に戻せばいいけど……。


「見ての通りだ。邪魔なので引っこ抜いて移動させた」

「わざわざそんなことせずに、素直に柵の鎖を外そうよ!」


 鎖さえ外せば入れるようになるんだし!


「細かい作業は面倒だ」

「別に細かい作業じゃないよ!? 普通に引っかかっている鎖を外せばいいだけだよ!」


 引っかかっている鎖を外せばすぐに入れるようになるんだし、地面からわざわざ柵を引っこ抜くよりもずっと早いと思うよ!?


「まあ、終わった以上わざわざ言わなくていいでしょう?」

「それはそうだけど……」


 だからって柵を丸ごと引っこ抜くのを見て何も言わないのっておかしいよ……。


「さて、早速大穴の中に行ってみましょうか。何が出るのか楽しみですね」

「偽物、か。そんなにそっくりなのか?」


 どうなんだろ……。でも、見分けがつかないくらいそっくりな偽物が出てくると本当に不味そうだよ……。




ーーーー




「真っ暗な洞窟を意識していましたが、明るいですね」

「崩落現場の穴の中なのに、どうしてかな?」


 崩落現場の大穴の中に踏み込んだけど、真っ暗な洞窟のイメージと裏腹に天井が光っていて普通に明るい。……なんなんだろ、ここ……。


「見事に一本道だな。まあ、入口はそんな物か?」


 グリーダーが言うとおり、崩落現場の洞窟の入り口は一本道で、ただひたすら奥に続いている。奥に行けば分かれ道もあるかもしれないけど、入口からはそのような分岐路は見えない。


「まあ、道が一本しかないならまっすぐ行きましょうか」

「でも、本当に静かだよね。……地上の平原もそうだけど、ここも……」


 私たち以外に何も居ないのか、静かで物音一つしないし、何の気配もしない。本当に偽物に化ける物体が居るのかも疑わしいくらい。


「奥に行くぞ」

「うん、行こう」


 でも、今は調査しないとね。それが依頼の内容だし。




ーーーー




「本当に居るんですか? 五分は歩きましたよ?」

「ここまでずっと一本道だしね。見たところ戻されている感じもしないけど……」

「ここまで静かだと拍子抜けするな。暇だ」

「何も出ないのは良い事だと思うけど……」


 その時、突然頭の上から何かが出現するような妙な音が聞こえる。


「……え?」


 振り返って上を見た私のすぐ目前に半透明の緑色の物体が迫っていた。


「ルーチェさん!?」

「……!」


 反射的に払おうとして振るわれた私の手をすり抜けた緑色の物体が私の身体に当たった……と同時に光が発生し、何も見えなくなる。


「わっ……!」


 何も見えない中で突然何かに突き飛ばされ、バランスを崩して床に突き倒された。


「いたた……一体何が……え……!?」


 顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、ジル達と私の間に私と同じ体勢で倒れている「私」の姿だった。


「ルーチェさんが……二人に?」

「これが偽物が出現すると言う話か……?」

「うわあ……見分けが……全くつかないや」


 三人も驚きを隠せない様子。……本当に私と偽物、見分けがつかないよ……。


「一体何があったの……って、え!? 私が……もう一人……!?」


 偽物が私の方を見て声を発する。……声まで全く同じなんて……。驚きで声がまったく出ないよ……。


「ルーチェさん、大丈夫ですか?」

「う、うん……」


 ジルが近くに居た偽物の方を起こす。……って、ちょっと! その私は……! いつまでも倒れてないで立たないと……!


「グリーダーさん、どう思います?」

「間違いなく片方は偽物だな。先ほどの緑色の物体が化けた物だろう」

「じゃあ、片方を始末すればいいの?」

「そうなりますね。とりあえず、さっさと殺しちゃいます?」

「「ちょっと!? 私が本物だったらどうするの!?」」


 私と偽物の声が被る。そっちは明らかに偽物でしょ!


「そこなんですよね~……本物のルーチェさんを殺すわけにはいかないですし……確かめるしかないですね」

「どうやって確かめるつもりだ? 外見に全く違いが見当たらないぞ?」

「声も全く同じだしね。どうするつもり?」


 ど、どうやって確かめるつもりなの……? 全く見分けもつかないのに……。


「こうします」


 言うなりジルが私の方に近づいてきて、私の口を塞いでから私の胸に手を当ててきた。……って、こんな方法で確かめられるって本当に思ってるの!?


「いきなり大胆だね~……」

「本当にそんな方法で大丈夫か?」


 同感だよ……。こんな方法で確かめられるわけないじゃない……。


「やっぱり、出るとこ出てますよね。服で隠れてるだけであって」


 ……え? いきなり何言ってるの? 相変わらず全く出てないけど……?


「となると……偽物はまな板の方ですね」


 ホントにいきなり何言ってるのジル!? 全く意図がわからないけど……。


「正体が判別出来次第、偽物さんには……潰れてもらいましょうか」


 さっきから独り言をグリーダーや偽物にも聞こえるように言ってたけど、一体どういう事なの……? ジルが何をしたいのかさっぱり分からない……。


「……さて、もう一人も確かめましょうか。貴方もとりあえずついてきてください。ルーチェさん」

「え? え……?」


 本当に、何がやりたいの……?


「わ、私も確かめるの?」

「当たり前です。偽物がどちらか調べるんですから」


 私の偽物の前に立ったジルがそう告げる。……あれ? 私の偽物の身体、何か違和感が……。


「……分かった。ジルを信じるから」

「ありがとうございます。じゃあ、始めますね」


 そう言うなりさっき私にやったのと同じように偽物の胸を……って、あれ……? 何で、偽物の胸はちゃんと出てるの……? 一体どういう……。


「ですよね、ちゃんと出てますよね。本物ですし」

「あ、当たり前だよ……というか、何でこんな事……。こんな事で本当にどっちが偽物か確かめられるの? 同じ姿なんだし、どっちも同じじゃないの?」


 偽物でなくてもそう思うけど、本当に確かめられちゃってるんだよね……。


「そういう事か」

「なるほどね」


 でも、こんな方法で判別されるのもそれはそれでショックだよ……。


「で、どちらが本物か分かったのか?」

「はい、完全に分かりましたよ。本物はこっちです」


 そう言って偽物の方を本物と言うジル。


「ただ、どうしても確かめたいことがあるんですよね。本物のルーチェさんは大酒飲みですから、絶対に酔わないんです。この人が本当に本物なら酔わないと思うんですが……」


 え? 私お酒なんて全く飲まないよ!? 偽物に何をさせるつもりなの……?


「もしあなたが本物のルーチェさんならば、この一升瓶の中に入っているお酒を一気飲みしても大丈夫なはずです。あ、そこの偽物さんにはこんな物は絶対飲めませんので、飲めればあなたが本物だと確認できますよ」


 そう言ってジルが取り出したのは縦横両方一メートルはあろうかという巨大な一升瓶。どこから出したのそんな物!?


「大丈夫に決まっているじゃない。私が本物だよ?」


 そう言って自信満々に一升瓶の中の酒を飲もうとする偽物。……いくら偽物でも、成人してないのに自分が酒を飲む姿を見るのってちょっと複雑だよ……。


「ですよね。信じていますよ、本物さん」


 ジルがそう言うより早く一気飲みを始める偽物の私。……こんなことさせて無事でいられるのかな? 倒さなきゃいけない相手だけど……。


「アルコール度数75%の超強力な酒なんですが……魔物に効くでしょうか?」


 ジルがそんなことを言っている間に飲み終わったのか一升瓶を地面に置く偽物。……顔があっという間に真っ赤になっていき、目の焦点も定まってない。どう考えても中毒になってるよこれ……。


「ふふ……ろう? これてわらしが本物らってひょうめいできたれしょ?」

「ええ。そうですね。証明できましたよ」


 そう言ったジルの手には例のクリスタルピコハンが。まさか……。


「本当の本物のルーチェさんは完全なまな板なのに、私が言った出まかせを聞いて大慌てで胸を細工して正体を明かし、そしてばれていると気付かないままにお酒を飲んで動けなくなったんですから」

「ま、まさか……わたひをだまひたの!? ひろい!」


 そう言って逃げようとする偽物。だけど、酒が入りすぎて足も腕もまともに動かない。


「騙したのはそっちですよ。さて、悪いルーチェさんにはお仕置きです」

「ま、まっれ! せいしょうきがきらんらよ! これは……!」

「お仕置きです!」


 そのまま躊躇なくピコハンを偽物に振り下ろしたジル。ピコハンの物とは思えない鈍器で殴ったような鈍い音が響き、偽物の身体はあっけなく潰れた。潰れた偽物の身体は消滅し、赤色の丸い板だけが残された。


「全く、迷惑な魔物ですね」

「い、一体何なのこの魔物……。変身能力でも持っているの?」

「そんなところでしょうね。仲間の一人に化けて同士討ちを誘ったり、不意打ちを仕掛けるんでしょう」


 ……もし間違って本物の仲間を倒しちゃったら不味いし、かといって不意打ちで倒されるわけにもいかないし……。


「馬鹿で助かりましたよ。私が適当に言った嘘を信じてわざわざ自分から正体を明かしたんですから」

「よくあんなもので出しぬけたな……」


 本当だよ……というか、最初に偽物の方を調べた場合はちゃんと判断できたのかな……?


「大丈夫ですよ。仮に最初に偽物を調べた場合、あの独り言を聞いた偽物は完全な変身を失敗したと思い込んでしまう事で恐怖の表情か焦りを浮かべます。そして私の手が離れた直後に急いで体を手直しするでしょうね。一方、本物のルーチェさんは私が明らかな大嘘を言ってるわけですから困惑しかしないでしょうね」

「それは……まあ……」


 実際ジルがいきなり妙な事を言い出した時はわけが分からなくなったし……。


「ああ……変身でなりきる時に怖いのは失敗してる事だからね……」

「それは魔物でも同じ、か?」

「そういう事です。……それにしても、この魔物って何なんでしょうか?」

「テラピアでもらった本、見てみる?」


 モンスターのデータ……というか、生態が載ってるから、さっきの妙な魔物のデータも載ってるかも。


「そうですね。じゃあ、調べてみますか」


 そう言ってギルドカードを本に当てるジル。さっきの妙な物体にとどめを刺したのはジルだから、これで詳細が表示されるかも。


「……えっと、これですね。見てください」

「どれ? ……魔物名「ドッペルマッシュ」……?」


 ドッペルマッシュ……半透明の緑色のキノコのような姿をした魔物で、キノコの姿の時には一切攻撃が効かない。異世界において特定の場所を通ると唐突に出現し、赤い帽子の配管工を地獄の果てまで追い回しているうちに能力が進化し、赤い帽子の配管工に限らず、あらゆる触れた存在に化ける能力を有することになった。……異世界ってどこなの!? それに地獄の果てまで追い回すとか怖いよ! ストーカー以上に恐ろしい存在じゃない!


「異世界は異世界でしょう。赤い帽子の配管工と書かれていますし、恐らく星を120枚集める世界ですね。ところで、解説に続きがありますよ」

「えっと……」


 なお、偽物に化ける理由は元々このキノコが触れるとその物の身代わりを作り出す特性があったことに由来している。身代わりを作る能力が獲物を狩るために追い回す過程で偽物を作る能力に変わった物と思われる。触れられると本人その物の姿の偽物に化けられてしまう。


「対処法は書いていないのか?」

「……対処法は……ないですね。モンスター図鑑にそんな対処法が載っている方が不思議ですけど」


 ……結局、どうやって対処すればいいのかが書いてないじゃない……。


「書いてない以上、私がさっきやったような方法しか有効打が思いつかないですね。本物になりきろうとする性質を逆手にとって罠にはめるしか……」

「結局そこか」

「でも、それしか対処法が無いよね。偽物と本物の姿が同じ以上」

「……本物は偽物が出たらずっと黙っておく、とか?」


 そうすれば、喋った方が偽物だってすぐにわかるけど……。


「それも含めて、対処法を少し考えてみましょうか。思いつかなかったり考え付く前に敵が出たときはさっきと同じ方法でやりますけど」

「そうだな、考えて損はあるまい」


 どうやって偽物に化ける魔物に対処するか……うーん……。

緑の悪魔は追ってくる。地獄の果てまで追ってくる……。偽物になるならだまし討ちすればいいだけですけどね。さて、次話以降どんな手法で偽物を虐めましょうか……。なお、赤い円盤も緑の悪魔の関連品です。8枚マラソンは一種の芸術。


それにしても、仲間に化ける偽物は割とよく出ますが、どうして攻撃される前から見分けがついてるんでしょうねえ?

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