教皇の様子を見に行きましょう
「教皇ってどこに捕まってるのかな?」
「深淵牢獄の中だと思いますけど、どうなんでしょう?」
「役人に聞いてみればいいんじゃないかな?」
教皇がどこに捕まってるのかを知るためにワイナーが捕まっている牢獄に向かう事に。……教皇はどこに居るんだろ?
ーーーー
「ああ、君たちはワイナーと教皇を捕まえた……」
「教皇はどこに捕まってるんですか?」
「教皇が自分のしでかしたことを反省する気があるのか気になりまして」
「……まあ、反省する気があるかどうかは察してもらうとして、ついてきてくれ」
牢獄の入り口に居た役人に案内してもらう事に。……どこに居るのかな?
「深淵牢獄の中だ。熱室刑と延命断食刑両方を実行している」
「ワイナーが放り込まれた場所と同じですか?」
「ああ、ワイナーが居る場所の近くだ」
「ワイナーが居る場所の近く?」
って、ワイナーは勇者教会にとって重罪人なのに、近くに置いて大丈夫なの……?
「まあ、近くと言っても互いに絶対に近づけないのだ。全く問題ない」
「そうですか。じゃあ早く行きましょう」
……反省してる……わけないか。察してくれなんて言うくらいだしね。
ーーーー
「ここだ」
「はあ……はあ……なんなのよここは……。暑い、暑いわ! 全く寝れないじゃない!」
案内された場所に居た教皇は全身汗だくで服も体に張り付いていた。顔のいたるところを滝のように汗が流れてる辺り、見ただけで相当暑いんだと分かる。
「どういうからくりなんですか? 近づこうと思っても見えない壁に阻まれてしまいますよ」
「教皇は一見普通に立っているように見えるが、実際は下に水を張った透明な板の箱に入っているのだ。その板を下から一定の温度になるように熱し続ければあの箱の中はどんどん蒸し暑くなる。教皇の立っている場所は水が張っている場所の一段上にあるから床が熱くなることはないが、蒸し暑い空間から逃げ出すことは絶対にできない。深淵牢獄ではご存知の通り魔術が使えないからな」
説明を聞いているとき、教皇が私たちの方に気づいたのか睨みつけてきた。
「あんたたち……よくもやってくれたわね! 私は神聖な勇者教会の教皇なのに! こんなふざけた真似をして! 教会騎士団が今にあんた達の首を叩き落としてくれるわ!」
「教会騎士団も全員捕まえましたよ」
「あ、ありえないわ! 私の配下がそんな簡単に捕まるなんて……!」
「自分で攻撃して全滅させたのを忘れたとでもいうの!? 自分の攻撃魔術で全滅させたんじゃない!」
シューティングスターで中に居た騎士団を全滅させたの忘れたの!?
「役に立たないわね! なんて役に立たない連中なの! ……でも、まだよ! 勇者様は私を助けるために来てくれるわ! 私がどれだけ勇者様の手助けをしたと思ってるの!? 勇者様が恩を忘れて見捨てるなんてありえないわ!」
「勇者一行ならもうヒローズを出て行ったよ。追い出されちゃったし、もう帰ってこれないんじゃない?」
「な、何ですって!? 勇者様が私を見捨てた!? スロウリーめ! ベルナルドめ! 政府から捨てられたあんたらを私が拾ってあげたと言うのに! あの愚図共、いったい何の恨みがあるっていうの!? 恩を仇で返しやがって!」
それは恩を仇で返すことになるの……?
「スロウリーの屑め! せっかく私がシューティングスターの魔術書まで与えたのに石ころしか降らないなどと意味不明な事を……! あんたの魔力が低いだけでしょボケ老人! 私はちゃんと大岩を降らせられるわよ! 意味不明な事言ってんじゃないわよ!」
「シューティングスターの威力は魔力依存ですか……そりゃあのお爺さんでは使えないわけです」
ファイアボールが途中で消滅するしね……。
「ベルナルドの役立たずめ! 何が騎士団長よ! せっかく教会秘蔵の聖剣まで与えたのにあっさりワイナーとか言う屑に奪われやがって! 何のために渡したと思ってるのよ! 大体、あんな雑魚の何処が騎士団長なのよ! あんなのを騎士団長にしていたなんて、政府は本当に無能だわ!」
「その騎士団長を拾った貴様も十分無能だな……」
グリーダーが言ったけど、そもそも何であんな人を拾ったんだろ……。
「レミッタだったかしら? あの小娘も生意気よ! 私が勇者様に実績をつけなければと思って施した細工の内容をべらべらと勇者様に話しやがって! おかげで私が勇者様に疑われることになったじゃない! なんなのよあの国賊め! 私のやり方が間違っているとでもいうの!?」
「それは間違ってると思ったからこそ勇者に打ち明けたんじゃないの!?」
「ルーチェさんの言うとおりですね」
わざわざ自作自演のクエストまで作って難易度5の依頼をクリアさせようとしてたしね……。
「……それにしても苛々する! なんなのあの勇者は! 召喚したけどまともに難易度1の依頼すらクリアできない役立たずの間抜けめ! 私の言う事だけ聞いていればいずれ最強の勇者と言う実績を得られたでしょうにわざわざ刃向かいやがって! そんな反抗的な態度を取るからいつまでたっても強くなれないのよ!」
「というか、良いんですか? 思いっきり暴言吐きまくってますけど」
自分が召喚したはずの勇者やその一行にここまで暴言吐きまくるって……。
「後でこの発言をまとめて勇者に伝えるつもりだからこれで良いのだ。政府としては何もしないつもりらしいが、あの勇者一行は早くヒローズ勇者の座から引きずりおろしたい」
「引きずりおろして……どうするつもりなんですか?」
「決まっている。勇者でなくなれば何をしても良いのだ。政治犯として処罰できるようになる」
「勇者の時に裁くと天罰が下るなどという迷信を信じているのか?」
「当たり前だ。先祖代々信じられているのだ。何か起こるに決まっている」
だから何も起こらないってば……。ヒローズ勇者の一行を叩き潰した時にも教皇が暗殺者を送ってこなければ何も起きなかったし……。
「さっさと私を助けに来なさいよあの役立たず共! 暗殺者でも騎士団でもなんでもいいわ! 私を助けなさい!」
「……反省の様子もないですね」
「はあ? 私が反省? 何わけの分からないことを言ってるのよ! 屑共から政権を取り返そうとしただけなのよ! 正義を実行しようとしただけよ!」
「暗殺者まで送ってきたじゃない!」
「あんたたちが悪いのよ! 勇者様に手を出す者は全て悪なのよ! 私の邪魔をする者も全て悪なのよ! ヒローズの住民共も全て悪なのよ! 言う事を聞かない政府の無能な役人も全て悪よ! そして、悪は私が粛清しなければならないのよ! あのワイナーもそうだけどね!」
滅茶苦茶だよ……。なんなのこの暴論……。自分の邪魔をする者は全て悪って……。
「反省する意思すら見えませんね。この教皇が入っている場所の温度を更に上げましょう」
「な、何ですって?」
「今の状態でも辛いと思いますが、もっと温度を上げるんですか?」
「反省する気がまったく見られないし、しょうがないよ」
今の状態でも反省する気が無いなら、死なない程度に熱室刑の温度を上げるだけだよ! 火の勢いを強くして!
「な、何なの? 急に暑くなってきたわ……一体何をしたの!?」
「反省する気も一切ないみたいだし、今からこの温度で過ごしてもらうから」
「ふざけんじゃないわよ! 前より更に暑くなっているじゃない! ……この小娘! 暗殺者さえ送れればお前なんか……!」
「その時は全員倒しますよ。ねえ、ルーチェさん」
「送って来たとしても、暗殺者の命の保証はもうしないよ。最初の暗殺者は一応生かして帰してあげたし、教会の騎士団も生け捕りにしたけど、次に仕掛けて来たら魔物同様に排除するから」
「なっ……!」
警告はしたからね。それでも仕掛けてくるなら容赦しないよ。
「……行こう。反省する気が無いなら死なない程度に温度を上げればいいだけだし」
「ああ、もう! 暑いわ! 水! 水!」
「これ渡してくれる?」
「分かりました」
マディスが水を教皇に渡す。当然すぐに飲み干す教皇。
「はあ……はあ……暑いわ……って、何なのこれは!? 辛い! 口の中や喉の奥が熱くなる! 水!水!」
「暑い暑いっていうから、更に暑くしてあげたよ。さ、こんな人は放っておいて行こうか」
「そうだね。もうここから出られないだろうし」
教皇を閉じ込めている透明な板、相当硬そうだしね。武器を持っていない生身の人の力じゃ壊せそうにないもん。
ーーーー
「さて、教皇の様子は見てきましたし、新しいクエストを受けましょうか」
「そうだね、行こう」
これで教皇も教会もおしまいだし、ヒローズでやることは、二つある難易度5のクエストを終わらせるだけだね。
「今日のクエストが終わったら引き払う準備をしないとね」
「あの家処分するんですか? マディスさん」
「まあ、そもそもここに帰ってくるのか怪しいからね~」
「どうして?」
この旅が終わったらまた戻ってこれると思うけど……。
「ヒローズの勇者一行のおかげで税金が跳ね上がってるし、そもそもこの国の上層部の人間にはあまり歓迎されてないしね~」
「実験か」
「そういう事。旅先で自由に実験できる国でも探そうと思うよ」
……そもそもそんな危険な実験を出来る国があるのか疑問なんだけど……。
「絶対できるよ。世界中探せば、戦争をやってる国の一つや二つあるでしょ」
「そもそもそこを通るかどうかすら分からないよ!?」
というか、自分から危険な場所に踏み込もうとするっておかしくないかな!?
「ううん、全然。実験ってのは危険な場所に自分から足を踏み込まなければいけないからね」
「危険だと分かってて自分から踏み込むの!?」
明らかに無謀だよ!
「別にそんなことはないよ。大体の相手は薬を投げつければどうにでもなるしね」
「というか、その薬が一番危険なんだよ!」
戦場の両軍をまとめて生首に変えたとか恐ろしすぎるから!
「そんなの普通だよね? ジル」
「ですよね。戦場ですし」
「そう言う理屈じゃないよね!?」
戦場でもそうでなくても人を生首に変えるなんて駄目だから!
「生首が動こうともがく姿は面白いよ? 戦争自体も中断して両軍ともに大混乱だしね」
「戦争が止まるのは良いけど、その止め方は明らかにおかしいから!」
それに、どう考えても酷い戦法だし!
「ルーチェさん。戦場で酷い、卑怯はお約束ですよ? 正々堂々戦うなんて弱い人がやることです」
「正々堂々戦うのは弱い人がやる事なの!? 違うよ!」
だって、戦記物だと……!
「創作物の読みすぎです、ルーチェさん。卑怯も何も、勝たなければ意味がないんですよ?」
「だけど、マディスが言うような方法はやりすぎだよ!」
戦場の両軍をまとめて壊滅させるなんて……!
「それが戦争だと思うんだけどな~……ルーチェって綺麗ごとばっかり言うよね」
「この人の悪い癖ですよ。姑みたいに小言と綺麗ごとしか言いませんからね」
「そっちが考えてることがあまりに酷いからだよ! 何もしてない人から物を奪おうとしたり火事場泥棒するだけならまだしも……」
生首に変えられた人が元の姿に戻らなかったらどうするつもりなの!?
「どうもしないよ」
「モブはモブですし。そんなどうでもいいことは置いておいて、早く依頼を受けに行きましょうか」
「行くぞ」
「って、話は終わってないのに!」
いつもの事だけど、勝手に打ち切らないでよ!
ーーーー
ヒローズギルドの方に戻ってきたので、今度は依頼を受けることに。一番前を歩いていたジルが受付と話している。
「新しい依頼を受けたいんですけど、よろしいでしょうか?」
「あら。先に昨日の依頼の報酬を渡しておくわ」
ギルドの受付から昨日の依頼の報酬をジルが受け取った。……結局いくら入ったの?
「後で見ましょう。今は先に依頼を受けます」
「分かった。じゃあ、崩落現場の調査依頼を受けて」
「分かりました。……崩落現場の調査依頼を受けたいのですが」
「崩落現場の調査依頼ですね。場所は、ヒローズ北の平野です。その平野の一角に大穴が突然開いたので、内部を調査してもらいたいのです」
ヒローズ北の平野に大穴? ……どうして大穴が開いちゃったのかな?
「大穴がなぜ開いたのかは分かりません。ただ、魔物の仕業ではなさそうですね。入口の調査をした政府の役人によると、ただ単に地面の中に埋まっていた空間が何かの拍子に出て来ただけらしいですから」
「それで難易度5の依頼ですか……? そんなに危険な場所なんですか?」
ジルが言うような単に地下にあった物が突然出てきただけの物なら危険度は低そうだけど……。
「それがですね……中では奇妙なことが起きたようです。自分の偽物が現れるとか……」
「自分の偽物?」
魔物が居るのかな? ……それとも、その場所特有の仕掛け?
「入口の調査をした役人の話だと、緑色の何かに襲われると偽物が出てくるらしいです。気を付けてくださいね」
「……そんなの普通に倒せばいいのでは?」
「攻撃して倒そうとは考えなかったの?」
偽物が出てくる原因っぽいその緑色の何か……ジルやマディスが言ってるように攻撃すればどうにかなりそうだけど……。
「それが……緑色の何かの時は攻撃が当たらないそうです。そして偽物は本物と見分けがつかないそうで、大混乱しているところを狙われるのだとか……」
本物と見分けがつかない……。それが本当なら凄く厄介だね……。
「それでうっかり本物を倒してしまったら大変ですね。……厄介そうですよ」
「まあ、気を付けていくしかないだろうな」
「偽物と本物の区別がつけばいいんだけど……」
どこかに違いがあれば、偽物と本物の区別ができるんだろうけど……。
「無事に崩落現場の中に入ることが出来たら、内部を一通り調査してくださいね。ギルドカードに残っている移動経路を基に見取り図を作りますので」
「分かりました。行きましょうか」
「うん」
「偽物に化ける緑色の物体か~。どんな物なんだろうね~」
「楽しみだな」
いろいろ不安な依頼だけど、やれるだけやってみるしかないよね。ヒローズ北の平野に行ってみよう。
次話から崩落現場の調査です。