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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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勇者一行の出発を見届けましょう

「今日はどうします、ルーチェさん?」

「新しい依頼を探そうと思うんだけど……構わない?」

「ああ。だがその前に、一度広場に行かないか?」

「勇者教会が昨日崩壊して、何か発表があるかもしれないしね」

「分かった。じゃあ、先に広場の様子を見ようか」


 教皇も教会騎士団も昨日壊滅したしね。教会が無くなった事を発表するかも。広場に行こう。




ーーーー




「な、なんじゃと!? 勇者教会が無くなっておる!」

「これは一体どうしたことです! 何故こんなことに!」

「そんな……教会が潰れるなんて……」


 ヒローズの広場に行くと、ヒローズ勇者の一行が居た。……昨日何で居なかったんだろ?


「昨日依頼を受けているとき、どうも胸騒ぎがしておったんじゃが、まさか本当に教会が……教皇様が倒されてしまうとは……」


 スロウリーが肩を落として呟いている。まあ、このお爺さんと騎士団長は教会の直属だったからね……。スロウリーなんか勇者=最強だと勝手に勘違いして私に喧嘩を売って来たし。


「……レミッタ。どう思う? 僕たちはこの国に居られるだろうか?」

「……分かりません。ですが、私達が何をしでかしたのかが公表されてしまったら、間違いなくこの国に居られなくなります……」


 財政破綻事件の元凶だしね。


「ルーチェ。これを見ろ」

「え? グリーダー、何それ?」


 いつの間に貰ってきたのか、グリーダーの手には一枚の紙が。……えっと……。


「ヒローズ勇者教会は今回の反乱、そして過去の内政干渉、脅迫行為、破壊行為によってヒローズ政府に与えた損失の代償としてすべての資産、権力、人員を失う。また、人員についても重罪人は全て深淵牢獄に幽閉し、延命断食刑に処す。なお、教皇についてはもはや擁護のしようがない大罪人のため、延命断食刑に加え、熱室刑に処す。……熱室刑って何?」


 言葉からして暑そうな場所に入れられるみたいだけど……。


「とにかく蒸し暑い場所に投獄されるんだよ。延命断食刑で水は制限されないのが唯一の救いじゃないかな?」

「蒸し暑い場所ですか。一日中汗だくになって寝る事すらままなりませんね」

「まあ、生かさず殺さずなら妥当じゃないのか?」

「でも、反省はしないんだろうなあ……」


 畑荒らしの二人やワイナーの前例もあるし。


「そりゃ、こんなことであっさり反省するようなら初めからこんな犯罪は犯さないでしょうね」

「それもそうだよね」


 ジルも言ってるけど、自分が悪いと思わないからこんなことを実行したわけだしね。


「全く、あんな馬鹿ばっかり出てくるんですから……。育てた人間の顔が見てみたいですよ」

「本当だよね」


 一体どんな育て方をしたらあんな酷い人間になってしまうのかこっちが知りたいよ。

 そう考えていた時、広場にヒローズの役人がやってきた。


「ヒローズ政府より新たな発表がある。全員、聞くように」

「ルーチェさん、聞きに行きましょう」

「そうだね」


 何を発表するのか気になるし。行ってみよう。


「これから君たちに発表することは全て決定事項だ。また、全て終わるまで質問等は受け付けないからそのつもりで聞くように。まずはじめに、ヒローズ勇者教会の後釜だが、設置しないことに決定した。これにより、ヒローズには以後我々の政府機関以外存在しないこととなる。また、勇者教会の抱えていた勇者一行についても、ヒローズ政府は特に援助等は行わないこととした」


 政府の役人がまず発表したのは、勇者教会の取り潰しとヒローズ勇者への支援の打ち切り宣告だった。


「な、なんじゃと!?」

「援助が打ちきりですって!? 私たちは勇者一行ですよ!?」


 今まで教会に散々援助を貰っていたからか、元教会所属の二人が驚きの声を上げる。


「尚、援助打ち切りの理由であるが、勇者一行が別の地で行った不手際により、ヒローズ政府は財政破綻寸前まで追い詰められており、教会を取り潰した際に押収した資金も資産も全て負債の返済に充てなければならないからである。また、この件について撤廃せよという声が上がったとしても、我々は一切決定を覆すつもりは無い」


 テラストでの一件でヒローズ政府は財政破綻しかけているもんね。


「勇者一行がヒローズの財政破綻を……?」

「不手際だと? そんな奴らがなぜ今まで教会の庇護のもとにのうのうと生きていたんだ?」

「罪にもほとんど問われなかったじゃないか。たった数日で釈放したのは何だったんだ?」


 今まで発表されてなかった内容のためか、当然群衆にざわめきが生じる。


「静粛に。本来であれば、勇者一行は我が国の財政を破綻させた罪により、投獄されなければならない。だが、教会の圧力によりその罪は無かったことにされたのだ」


 勇者教会、本当にろくでもない組織だよ……。


「我々が勇者一行に対する援助を打ち切る理由でもある。犯罪者に援助などできるか? という事だ」

「まあ、当たり前ですね」

「今後、勇者一行に与えられていた特権は全て失われる。これは決定事項である」


 皆黙り込んでるけど、やっぱり、ショックだったのかな?


「そして、今日この時を最後に勇者一行と我がヒローズ政府は以後何の関わりも持たない。以上だ」

「見事に勇者一行は切り捨てられましたね。ルーチェさん」

「まあ、教会の七光りばっかりでまともに仕事も出来てなかったし、当然と言えば当然だよね……」


 教会の作った依頼を受けて達成してたくらいだしね……。難易度1の依頼にすら太刀打ちできないから仕方ないのかも……。


「な、なんという事じゃ……わしらが得ていた特権を奪われた挙句、政府に見捨てられるじゃと……」

「教会騎士団も消失してしまい、仕える場所を失った私はこれからどうすればいいのですか……」


 勇者教会に仕えていた二人は完全に居場所を失って絶望していた。……というか、命があるだけでも良かったと思わないの?


「そこまで考えられないでしょう。元々自分たちの利権だけを考えていた人ですし」

「まあ、完全に自業自得だよね~」

「また政府の役人が発表するみたい。少し喋るのを止めてくれる?」


 今度は何を言うんだろ?


「……ヒローズ政府が勇者一行を断罪しない理由であるが、勇者一行を不用意に処罰すると世界に災いが起きると言う言い伝えがあり、その災いを避けるためである。ゆえに、これ以上の罪を犯さなかった場合、ヒローズ政府は勇者一行に対して特に制裁などは行わない事とする」

「不用意に処罰すると世界に災いが起きる……? 何言ってるんだろ、あの役人……」


 勇者一行なんて言ってもただの人間じゃない……。それもものすごく弱い……。


「その妙な言い伝え、実は勇者が自分を処罰されないために作った物なんじゃないですか?」

「呆れたな……。勇者を処罰しようが始末しようが、その事で災いが起きることなどありえない」

「そうだよね……。そんなことで災いが起きるなら、私がグリーダーを制裁したときに私の身に災いが降りかかっててもおかしくないし……」


 夜中に泥棒に入ろうとしていたグリーダーにお仕置きしたことが一度あったけど……あの時も別に何かしらの災いに見舞われたなんてことはないしね……。


「そんなことまでしたんですか? 酷いですね、ルーチェさん」

「夜中に泥棒しようとして出て行ったグリーダーを止めただけだよ!?」

「攻撃魔術で?」

「味方相手でも躊躇なくサンダーやシャイニングレインを撃ちこんでくる悪魔だ」

「サンダーは泥棒しようとしていた時だし、シャイニングレインはグリーダーが周囲の被害を無視して好き勝手に暴れまわっていたからでしょ! その前に何度流れ弾で殺されかけたと思ってるの!?」


 私の方に公園だった物の残骸や攻撃の流れ弾が嵐のように飛んできたじゃない! 鉄骨や氷の刃が迫ってきたときは死ぬかと思ったもん!


「魔物の仕業だ。俺は何も悪くない」

「嘘つかないでよ!」


 自分から突っ込んでいって暴れまわってたじゃない!


「……前衛だから当然ですよね?」

「一度巻き込まれたら絶対そんな事言えないから!」


 流れ弾を避けることに全神経使うことになったんだし!


「大げさですね、ルーチェさんは。まあいいです。今は役人の話でも聞きましょう」

「私はジルみたいに防御手段があるわけじゃないんだよ!?」


 ジルが持っているフォークみたいなものがあれば話は別だったかもしれないけど……。……とりあえず今は役人の話でも聞こう。


「これで発表しなければならないことは終わりだ。何かしらの疑問があるなら聞こう」


 役人のその言葉に、群衆はすぐに反応した。


「勇者一行は犯罪者なのに、断罪もせずに放置するのか!?」

「財政破綻させた元凶じゃないか! それが事実なら、勇者一行のせいで急激に税金があがってこっちは迷惑してるんだぞ!? 断罪しろ!」

「政府の役人は出鱈目な伝承に怯えて犯罪者に手を出さないつもりか!? 犯罪者を見過ごすな!」

「勇者一行に賠償させろ! 財政破綻の責任を取らせろ!」


 役人の話が終わると同時に巻き起こる断罪を求める抗議の声。でも、ヒローズの勇者一行は実際にそれだけのことをしでかしたんだしね……。


「スロウリー、ベルナルド、レミッタ……。君たちは、なんてことを……」

「身を隠しましょう、勇者様。このままここに居ては危ない」

「逃げましょう……勇者様。もし彼らに見つかれば、何をされるか分かりません……」

「全く、なんて奴らじゃ……わしらを事もあろうに犯罪者扱いするなど……天罰が下るぞ!」


 そのまま勇者一行は逃げ去っていった。……追いかけてみる?


「当然です。面白い物が見れると良いですね」

「その面白い物が何かはあえて聞かないけど、悪趣味だよ……ジル」


 まあ、気になるからついて行って様子を見に行くんだけどさ。




ーーーー




「あら、教会の依頼以外何もできない勇者(笑)のご一行さんじゃないですか」

「き、貴様……それが自国の勇者に対する言葉か!?」


 ヒローズギルドに入って行った勇者一行の後を追いかけてみると、受付の人と勇者一行が喋っている場面を目撃した。……受付の人の態度急に変わりすぎでしょ!?


「教会が潰れればもう勇者一行に対する内心の評価を隠す必要もありませんからね」

「あれも実力相当の扱いだから仕方ないんじゃない?」


 でも、急に酷い態度になりすぎだよ……。そりゃ、あの人たちは色々残念な人だけどさ……。


「貴方の話などどうでもいいです。我々は新しい依頼を受けたいのですが、よろしいでしょうか?」

「あら、難易度5の依頼を受けるんですか? どうせ失敗するんですし、雑魚は雑魚らしく難易度1でも受けていればどうです?」

「受付の態度じゃないよね!? もう完全に侮辱だよね!? 事実だけどさ!」


 どうせ失敗するんですしとかそんな事言っちゃまずいでしょ!?


「煩いですよルーチェさん。それがこの国の勇者一行の正当な評価なんですから、しょうがないでしょう?」

「……」

「どうしたの、グリーダー?」

「いや……どの世界でもモブはモブだな、と思ってな」

「……?」


 他の世界に居たときに何かあったのかな? ……そう言えば、私グリーダーの過去とか全く知らないような……。


「ぐっ……失敗するかどうかはやってみなければわからんじゃろ!」

「やる前からわかりますよ。あなたたちなんて名前だけの雑魚キャラなんですから。私が個人的につけている冒険者リストの中ではぶっちぎりの最弱ですよ?」

「……難易度1の依頼を受けるつもりだったんだが」

「良いんですか~? そんなことしたら、冒険者としての格が下がるんじゃないですか?」

「構わない。……弱いのは事実だ」

「ああ、勇者様だけは真人間でしたね。……さっさと難易度5や4の依頼に踏み込んで自爆すればいいのに……つまらない」


 小声だったけど、何てこと言ってるのあの人!? 受付が言って良い事じゃないよ!


「……この「薬草納品」の依頼を受けたい。納品する薬草はこれで良いだろう?」

「…………ええ、そうですよ。……確かに20枚受け取りました。納品ありがとうございます。薬草納品の報酬がこちらになります。どうぞ」


 まあ、納品依頼だったらすでに納品するアイテムを持ってれば危険はないもんね。


「……行こう、皆。僕たちはもうここには居られない。東に……バグリャに向かおう……」


 勇者一行はギルドを出て行った。……ヒローズを出て行くまで追いかけてみよう。




ーーーー




「おっと、この先は通行止めでな。どうしても通りたいなら通行税50000ゴールドを払いな」


 勇者一行はヒローズの東門からバグリャに向かおうとしたけど、東門はヒローズの人達によって通行止めにされていた。……何やってるのこの国の人達……。


「……仕方ない。バグズ平野を通ろう」

「ああ、そうしてくれ。……最も、教会の七光り勇者様じゃあその辺の魔物にやられちまうだろうがな」

「ああそうそう。バグズ平野に入ったら二度と戻れなくするからな? 装備品はちゃんと整えておけよ? まあ、まともに依頼も達成できない連中には買えるはずないだろうがな」

「もうお前たちには魔王を倒す以外に価値は無いんだよ。お優しい俺たちがこうして見逃してあげているだけでもありがたく思うんだな。政府さえ許可を出せば手前らなんかこの場でぶん殴ってやると言うのによ」


 どれだけ教会に恨みがあるのか知らないけど、これじゃただの陰湿な虐めじゃない……。


「まあ、あれも全て自業自得でしょうね。実力も無いのに威張り散らしたわけですし」

「力が無い者が調子に乗るとああいう末路を迎える。覚えておいて損はないぞ」

「自業自得だよね」

「……そもそも、力があっても調子に乗っているといずれああなると思うんだけど……」


 自分より強い相手なんていくらでもいるのに、自分たちが最も力が強いなんて思い込んでいたらそれこそいずれ身を滅ぼすし……。そうでなくても傲慢は……。


「話している間に勇者一行がバグズ平野の方に歩き出しましたね。追いかけましょう」


 見ると勇者一行がバグズ平野の門の方に歩いて行っている。行かないと。




ーーーー




「これはこれは勇者様。いつまでたってもまともな成果を出さず、本当に呑気な事で……」

「……バグズ平野に行きたい」

「おお! とうとう決心しましたか。さあ、どうぞ。……言っておきますが、バグズ平野からこちらに逃げ出そうなんて考えない方が身のためですよ?」

「……」

「さあ、早く行ってくだされ! そして魔王を倒すのです。魔王を倒すまで、この場所の門は勇者様一行には決して開かれません故……」

「分かっている……行くぞ、スロウリー、ベルナルド、レミッタ」

「はい……」

「くう……なんと傲慢な奴らじゃ……」

「これが勇者に対する態度ですか……!」

「さっさと出て行きなされ! そして途中でのたれ死ぬがいいわ!」

「二度と帰ってくるんじゃねえぞ! 貴様らみたいな疫病神、ヒローズには要らないんだからな!」

「南の門もこちらの門も見張ってやる! 貴様らが二度と入れないようにな!」


 ヒローズの一行が出て行った直後、ヒローズとバグズ平野の間にある門が閉ざされてしまった。本当に帰れなくするなんて……。


「迷惑甚だしいですね。まあ、今の私達には関係ないですが」

「……それじゃ、今から依頼を受けに行く?」

「いえ、その前に教皇様の様子でも見ましょうよ。どんな状態なのか気になりますし」

「そうだね。……反省してくれればいいけど、それは無いよね」

「それを確かめるためにも行くんだろ?」

「はい。行きましょう、ルーチェさん」

「分かった。じゃあ、次は教皇の様子を見に行こう。依頼はそれからで良いよね?」

朝の時点で9割出来てたのに遅くなってしまった……。朝に作成が間に合わなかっただけでこの時間になってしまいます。

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