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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
61/168

勇者教会と戦う準備をしましょう

本編の続きです。

 ワイナーを捕まえて牢屋に放り込んだ次の日、依頼を受けるためにヒローズギルドに向かう前に通りがかった広場に何故か凄い人だかりが。……何があったんだろ?


「ワイナーを教会に引き渡せ! 勇者教会自らの手で始末せねばならぬのだ!」

「そうだそうだ! 政府はワイナーを存命させているようだな! 極悪人は殺さなければならんのだ!」

「ワイナーは勇者様に仇名した重罪人! 勇者教会が、神の名において裁きを与えなければならんのだ!」


 ワイナーを勇者教会に……? 一体何があったの?


「あの立札を見てくださいルーチェさん。あの立札が全ての原因ではないかと」

「立札?」


 広場の端に立っていた立札の前にも人だかりが。……紙が貼りつけられてるけど、なんて書いてあるんだろ? 行ってみよう。


「これか?」


 グリーダーを先頭にして人だかりを押しのけながら立札の所まで行く。皆すぐに退いてくれるから待たなくていいよね。


「えっと……「重罪人、ワイナーの捕縛に成功。ワイナーは政府地下の深淵牢獄にて延命断食刑に処す。なお、この件についてはいかなる者の抗議も質問も受け付けないこととする」」

「延命断食刑って何ですか? マディスさん」

「延命断食刑は、生存に必要な栄養を小さな物体(注:カプセル)に詰め込んだもの一つと水だけ与えて常時空腹感を与えて苦しめる刑罰だよ。ワイナーは深淵牢獄の鎖に繋がれていたから逃げられないしね」


 酷い刑罰のような気もするけど……でも自業自得なのが何とも……。


「では、ここに居る人たちはワイナーの処罰を政府が勝手にやったことに納得してないんでしょうか?」

「それは……何でだろうね?」

「うーん……」


 食事抜きってだけでもかなり酷い刑罰だと思うんだけど……。あの場所は床も壁も尖った岩ばっかりで普通に過ごすのも辛そうだったし……。


「殺さないと気が済まないんでしょうか? 罪人を生かしたままにしておくことが嫌いな人はあちこちに居ますしね」

「事あるごとに死刑! 死刑! と騒ぎ立てるような人もいるしね」

「でも、すぐ死刑にしちゃったら全然反省も後悔もさせられないよ……」


 少なくとも、ワイナーが自分のやったことを後悔して反省するまでは死刑にしたら駄目だよ……。


「そんなの彼らには関係ありませんよ、ルーチェさん。彼らには罪人は等しく「殺して楽しむもの」なんですから」

「罪人を死刑にしてその首を晒すことが国の不満を逸らす手段にも使われているしな」

「そうそう。特に、ワイナーは勇者を傷つけたんだしね~」


 勇者がこの国の教会の人間にとって最も重要な存在なのは分かってるけど……。


「これより教皇様の演説を始める! 愚民ども、教皇様の演説に耳を傾けよ!」


 教会の兵士と思われる人の怒鳴り声が聞こえたのでそちらを向くと、教会の人達が集まっていた。その先頭には勇者教会の教皇が居る。


「そこの立札にも記したとおり、ワイナーが何者かによって捕えられたわ。まあ、そこまではいいの。あの無能な政府の役人どもは、そのワイナーを私が引き渡せと言っても首を縦に振らないわ! ふざけるのもいい加減にしなさいよ! さっさとワイナーを引き渡せばいいのよ! あんな社会のゴミ、私の元に引き渡された瞬間その場で首を刎ねてさらし首にしてやると言うのに!」


 教皇の愚痴が混ざった演説が展開される……けど、誰も相手にしてない。皆無視して通り過ぎたり一目見るだけで素通りして行ってる。


「まあ、教皇の演説をまともに聞くのは信者と貴族くらいだしね」

「そもそも愚痴が大半を占めていますし、そんなこと言っても聞かないでしょうね」

「だろうな」


 そりゃ、愚痴を大声で言っても誰も聞かないだろうけど……。


「だから私は決めたのよ。この私の言葉を聞かない罪深きヒローズ政府、およびヒローズの政府を動かす役人どもに制裁を与えることをね!」


 教皇はそのままヒローズ政府襲撃を宣言した……って、まさか本当に実力行使してくるの!?


「私はこれまでも、何度も何度もヒローズのあの薄汚い豚どもに私の言葉を聞くように忠告をし続けたわ。例えば、勇者様を攻撃した罪深き者がテラストに現れたときにはテラストにヒローズの軍を派遣して連中を捕え、私の名において裁きを与えるように言ったの。そうしたら、連中は動いてくれるはずでしょ? この私の言葉よ」


 ……ヒローズの軍まで派遣しようとしてたなんて……。


「だけど! 連中は! まともに取り合ってくれなかったわ! あの豚ども、私がいくら進言しても財政が~財政が~って、それしか言わないの。……ふざけんじゃないわよ! 財政なんかよりも私の言葉の方が重要に決まっているじゃない!」


 その理屈は明らかにおかしいよ! というか、それはもうただのわがままだよ!


「あの連中と言えば、私の勇者様とそのお供を牢獄に放り込んだりしたわね……ああ、忌々しい! だから私は考えたのよ。あの政府の腐った豚どもに、私が裁きを下してやろうとね! 私の言う事を聞かない腐った豚どもなんて、全員死ねばいいのよ! 生きている資格は無いわ!」


 滅茶苦茶言ってる……。本当にろくでもない人間だよ、この教皇……。


「世も末だよね」

「全くです」


 呆れて何も言えないよ……。


「でも、いきなり襲撃して豚どもが喚き散らすのも問題があるでしょ? だから時間をあげるわ。明日のこの時間まで猶予をあげる。死にたくない愚民どもはその間に逃げると良いわ。それでも残っている者は私と、私の忠実なる騎士団が全て殺しつくすだけよ」


 これって完全に宣戦布告だよね……。この教皇滅茶苦茶だよ……。


「恨むなら、ヒローズ政府の無能な豚どもを恨むことね。私は悪くないの。あの無能な豚どもが私の言うことを全く聞かないからこんなことになったのよ。明日にこのヒローズの町を滅茶苦茶にしてやるわ。覚悟しなさい!」


 言うだけ行って教皇と部下は去って行ったけど……何なのあれ! 自分のわがままを聞かないから腹いせにこの町を破壊するって……!


「迷惑な話だな」

「全くだよ。家に被害がでなきゃいいけど……」

「そんなこと言ってる場合!? 早くあの教皇をなんとかしないと……!」


 勝手なわがままを聞かなかったから町1つ壊すなんて、滅茶苦茶だよ! 止めないと!


「まあ止めるのには同意だが、まずはギルドに行かないか?」

「ギルド?」

「言いませんでしたか? 教会が町を攻撃してくるならヒローズの政府も何かしら対応するかもしれないと」

「……言ってた、けど……」


 ……独力で動くのは不味い事、なの?


「不味いですよ。もし私たちが勝手に動いて教会や教皇を潰したとしたら、ギルドは第三者に依頼を掠め取られた状態になりますからね」

「政府も自分が集めた連中とは無関係の人間が介入したとしたらあまり嬉しくはないだろう」


 まあ、それはそうかもしれないけど……。


「そういう事です。とりあえずヒローズのギルドに行きましょう」

「……分かった。じゃあ、行こう」


 ……もしかしたら、依頼が貼ってあるかもしれないしね。




ーーーー




「……あれ? あの人たちって……」

「ヒローズの勇者たちですね」


 ヒローズギルドに入ると、ヒローズの勇者一行が受付と話しているのが見えた。……何喋ってるんだろ?


「新しい依頼を受けようと考えていたのに、どうして依頼が受けられないんだ?」

「現在、ヒローズギルドには勇者教会の宣戦布告に対処するための依頼以外は受注させてはならないと言う命令が入っております。規則ですので」

「何が規則じゃ! わしらが誰か忘れたのか小娘!」

「ヒローズ勇者教会の崇める勇者様ですよね。分かっておりますよ」

「そこまで分かっていながら何故我々の命令が聞けないのです? 勇者様に逆らうとでも言うのですか?」

「私の所属は教会では無く、政府の一機関であるギルドです」


 ……何か険悪な言い争いをしてるけど……。


「まあ、勇者一行が依頼を受けても大したことは出来ないですよ。バグズ平野の依頼すら失敗したんですしね」

「さすがにアレは除外してあげようよ……。あの一行がワイナーに勝てるわけないからさ……」


 そもそも実力が足りないし、戦力外が一人居るし……。


「我々に依頼の提供を拒んだこと、明日その身で後悔させてあげますよ! 我々勇者教会の天罰が、貴方とこのギルドに降りかかっても文句は言えないですからね?」


 騎士団長が捨て台詞を吐いて出て行く。……思いっきり自分と勇者教会がグルだって言ってどうするつもりなのかな……。


「まあ、周知の事実なのでしょう。しかし、これであの一行はこの場所に居る事が出来なくなりましたね」

「どうして?」

「勇者教会が明日負ければ、あの一行はこの国にお膳立てしてもらえなくなるから、財政破綻の責任追及が出てくるよね。そうなったらとっとと出て行くと思うよ」

「自業自得だな」

「でも、あの一行が他の場所に向かって上手くやっていけるのかな?」


 少なくとも、難易度1の依頼で苦戦するような人たちだし……。


「無理でしょうね」

「無理だよ」

「無理だな」

「……だよね」


 ヒローズの中だから教会が用意していた難易度5(自称)を攻略していたりギルドカードを改竄できたりしていたけど、他の場所に向かうとなるとどうしようもないよね?


「現実を知ることもできるんじゃないでしょうか? ……学習能力さえあれば」

「多分無理だね。まあ、あの一行の話は置いておいてさ、依頼の確認だけしておかない?」

「そうだね。元々そのために来たし」


 新しい依頼……というか、教会との対決が確実になったんだからその依頼が出てるはずだけど……。とりあえず受付に行かないと。


「ああ。昨日はご苦労様。でも、今日は残念だけど新しい依頼は受けさせてあげられないわ」

「教会に対抗するための戦力募集ですよね?」

「ええ。さっきの勇者たちの親玉が攻めてくるって言うから、対抗してくれる人間を集めないといけないのよ」


 普通ならヒローズの軍でも使うと思うんだけど……。


「それがね、ヒローズ政府は今軍を動かせる余裕なんかないの。でもこの依頼も大した報酬が出せないだろうからって誰も受けようとしなくて……」

「ヒローズ防衛依頼ですか……」

「見せて、ジル」


 ジルに渡された依頼書には「ヒローズ防衛のため、冒険者を集める必要がある。なるべくたくさんの冒険者に力を借りたい」と書いてある。……肝心の報酬の部分がどうして不定になってるんだろ?


「何人参加するかによって報酬の額が変わるらしいわよ」

「人数が少ないと貰えるお金が増えるんでしょうか」

「さあ……そこまでは知らないけど……」


 でも、報酬が不定の依頼に参加するって結構リスクが大きいよね……。最悪報酬が得られない可能性もあるだろうし。


「流石にそれは無いわ。教会を取り潰してお金を奪って、そこから出すつもりよ」

「受けましょう。ルーチェさん」

「うん。どのみち、あの教皇は許しておけないしね」


 それに、私たちはあの教皇に狙われてるもん。だけど、教会を叩き潰せばもう襲撃を受けることはないだろうしね。


「受けてくれるの? じゃあこれを渡すわ。ヒローズの依頼を受けたことを示す勲章よ。これさえ無くさなければ、報酬はちゃんと受け取れるわ。教会騎士団が動き出したら即座に攻撃してくれていいと伝えるように言われてるから、連中が動き出したら町に被害が出る前に攻撃してね」

「了解した」

「分かりました」


 受付の人からヒローズの旗の模様をかたどった勲章を渡された。これさえ持ってれば明日教会騎士団と戦っても咎められないよね?


「じゃあ、明日はお願いね」

「はい」


 これで教会騎士団との戦いを行える準備は出来たよね。……次はどうしよう?


「せっかくですし、ワイナーの様子でも見に行きません?」

「ワイナー? どうして?」

「一日投獄されてどんな様子が気になるじゃないですか」


 ……反省してくれればいいんだけど、どうなのかな? 一応、見に行こうか。




ーーーー




「くそっ! 何で俺が何も食えねえんだよ! あの屑共、人の目の前で飯食いやがって……!」


 ワイナーを捕縛した張本人だからか、すんなり地下牢まで通してもらえた。鎖でつながれてるワイナーは何故か荒れてるけど……。


「おやおや、極悪人のワイナーさん。どうかしたんですか?」

「ん? ……なっ! 手前ら!」


 灯りが付けられたからワイナーの顔が見えるようになった。……反省したのかな?


「くそ! 手前らのせいで俺は昨日から今までずっと飯抜きだ! 手前らのせいだぞ!」

「自業自得じゃないですか?」

「ふざけんな! ここの屑共はあろうことか何も食ってねえ俺の目の前で食事しやがる! しかも俺が食えるのは一日一個の変な丸い奴と水だけだ! こんな生活しなきゃいけねえのは手前らのせいだからな!」

「それ相応に酷い事散々やってたじゃない!」


 追剥ならまだしも、その追剥の際に魔物をけしかけてたから殺された人だって居たんだよ!?


「だから何なんだよ! 全部弱い奴が悪いんだよ! そんな事より俺に飯よこせよ! あの変な丸い奴一個以外何も食ってねえから腹減ってんだよ!」

「さすがに一日放置しただけじゃ反省しないよね……」

「まあ、仕方ないでしょうね。こういう輩は刃向かう気力が無くなるまで屈辱を与え続けるしかないでしょうし」

「こんなのでも反省するって考えた私が悪いのかな?」

「まあ、そう考えずに私達も何か食べましょうよ。昨日一日まともに食事をしていないワイナーの目の前で」


 ……ここまで性根の腐った人間が相手じゃ、目の前で何か食べても罪悪感すらわかないよ。


「さすがに可哀想だから、これでも恵んであげるよ」


 いきなりマディスがワイナーの口に飴を入れた。……ちょっと!? 何やってるの!


「おいおい、マディス。何考えてるんだ?」

「まあまあ……だってね」

「話が分かってんじゃねえか! ……って、何だ……? 急に体中が痒く……!」

「そんなにお腹が空いてるなら、毒入り飴の実験台にも丁度いいかなってさ」

「毒だと!? 手前! ああ、体中痒い! 誰か俺の身体の痒みを止めてくれ! 動けねえ! 手が届かないから掻けねえ!」


 必死に動かない身体を動かして擦れる部分を擦ろうとするワイナー。飴玉1つ貰えたんだから良かったじゃない。


「明日の朝まで続くからね~。いくら眠りたくても全身痒くて眠れないと思うよ~」

「目が、背中が、足が、顔が……! 痒みが止まらねえ! 何で止まらねえんだ!」

「なるほど。拷問の代わりか?」

「そういう事。全身毒で痒くてたまらないだろうけど、手が鎖で繋がれてて動けないから痒くても掻けないからね。じゃあ、帰ろうか」

「そうですね。反省しなかった場合はもっと強力な物を与えていけば……」

「痒い! 誰か止めてくれ~!」


 ワイナーが縋るように叫んでるけど知らない。自業自得だよ。これから、今日一日その状態で苦しんでじっくり反省して!


「さて、明日の教会騎士団に備えるために今日は休みますか?」

「そうだね。薬だけ買っておいて、一日ゆっくりしておこう」


 明日は勇者教会と教皇を叩きのめすことになるだろうしね……。

教皇様との対面が近くなってきました。ついでに勇者教会への攻撃も。

この話では悪人には等しく罰を与えます。因果応報。

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