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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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ワイナーにお仕置きしましょう

 ……あれ? 何で私が倒れてるの!? 確かにワイナーを叩き潰したのに! というか、無傷でワイナーを倒したのに何故かすごい疲労感があるんだけど!?


「はあ……はあ……俺が……負けるわけないんだ……! 俺は……必ず勝つんだからな……!」

「何、ふざけたこと……言ってるの!」


 顔を上げるとワイナーが勝ち誇っているのが見えた。……妙な術で無理やり結果を変えようとしたんだろうけど、させないから……! 立たないと……!


「な……何で立ち上がってるんだ!? 俺の勝ちイベントなのに! お前らは俺に負けて装備を奪われる存在なのに!」

「何が勝ちイベントなの! ふざけたこと言わないでくれるかな!?」


 立ち上がったら全身の疲労感が消えていった。……さっきの疲労感は、ワイナーの妙な術にやられたから生じたのかな……。


「あ……ありえない……。このワイナー様の勝ちイベントが……壊される……」

「勝ちイベントとか負けイベントとかどうでもいいから!」


 今度こそヒローズの役人に突き出すからね!


「ふざけるな! 俺は、役人なんかに捕まる存在じゃないんだ! 俺は貧弱な冒険者を狩る優秀なハンターなんだぞ!」

「何が優秀なハンターなの! ただの悪質な強盗のくせに!」


 魔物の群れで弱らせた後で襲撃して倒すなんて酷い事をやってたくせに!


「うるさい! 装備を奪われる弱い奴が悪いんだよ! 俺は悪くねえ! 俺は悪くねえ!」

「……反省して罪を償う意思があったなら使わなかったけど、仕方ないよね。無理やりにでも役人に突き出すから! チャーム!」

「な……!? て、手前! 俺の身体に何しやがった! 身体が動かねえ!」

「今すぐ土下座して犯した罪を自白して」


 こんな酷い人にはもう慈悲なんて要らないよ! 身体を操ってでもやったことを全部自白させるし、何を言っても必ず役人に突き出して投獄する!


「な、何だ!? 身体が勝手に……! 土下座なんて誰がするか! くそっ! 手前!」

「大人しく罪を白状して」


 どうしても反省しないなら、身体をチャームで操ってでも役人に突き出すからね? どれだけ酷い事をしたのか、全部白状して!


「俺は魔物を使って弱らせてから襲撃する手法で冒険者を計562人襲撃し、装備を奪って防具屋に売りさばきました。その内の何割かは魔物と戦っているときに魔物にやられて死にました……くそ! 手前! よくも人の身体を! 何だって俺が手前なんかに自白しなきゃなんねーんだよ!」

「……こんな事をした動機は? 言って」

「んなこと誰が言うか……っ! ……最初は、周囲の冒険者が自分の装備よりも良い物を持っていたので、奪い取ってやろうと考えていました。その内、弱者を甚振ることが楽しくなってきたので、最近は弱者が魔物の大群に押しつぶされる様や自分に叩き潰されて惨めに這いつくばる姿を見たかったからやっていました。……くそ! 何で勝手に身体が動きやがる! べらべら勝手に喋るのを止められねえ!」

「……本当に最低だよ」


 チャームで身体を操って無理やり自白させるなんてやりたくなかったけど、ここまで酷い人だったらもう遠慮なんて要らないよ……。


「……あれ? 何で私が倒れてるんですか?」

「起きた、ジル? ワイナーの術にやられたみたいだから、二人を起こしてくれる?」

「分かりました」


 グリーダーとマディスを起こしてからワイナーをヒローズまで連行しないと。 


「起きてください。マディスさん、グリーダーさん」

「……妙な術だね……見事にやられるところだったよ」

「全くだ……」

「二人とも大丈夫? 立ち上がったら疲労感も消えると思うから頑張って立って」


 二人も無事みたいだし、ワイナーを役人に突き出さないと。


「何で動かないんだよ! 動け! 俺の意思に従え俺の身体! 俺は捕まるわけにはいかないんだよ!」

「ヒローズの役人に突き出して、牢獄に放り込んでもらうから」

「ふざけんな! 俺は悪い事なんかしていねえ! 俺がやったのは、雑魚を倒して装備を巻き上げただけだ!」

「それが悪い事なんですけどね……」

「ジル、ワイナーにそれを言っても無駄なんじゃない?」

「俺は悪くねえんだよ! 悪いのは弱者の方だ!」

「でしょうね……。こんな事言っていますし」


 見ての通りワイナーからは反省する意思を全く感じないから、チャームで身体だけ操ってヒローズの役人の所まで連行するよ。


「仕方ないでしょうね。……それにしても、意識だけ残すなんてルーチェさんも酷い事を……。本来ならチャームは意識も奪って操り人形にする物でしょうに」

「何か言った?」

「い、いえ……行きましょうか、ルーチェさん」

「くそ! ふざけんな! 俺が捕まるなんて」

「ワイナー。煩いから黙ってて」

「手前ふざ……! ……! ……!(くそ! 全く口が開かねえ!)」


 さ、ワイナーを役人の所まで連れて行こう。




ーーーー




「あれ? ……随分町が騒がしいよ?」

「何かあったんでしょうか?」


 ヒローズに戻って来たけど、町の中が何故か騒がしい。何かあったのかな?


「聞きなさい愚民ども! 私の勇者様がワイナーなる反逆者によって襲撃され、装備を奪われた。我々勇者教会はワイナーを断罪することを決定したわ。ワイナーを見つけたら遠慮はいらない。すぐさま殺してしまいなさい! いいわね!?」

「……勇者教会? ワイナーを始末しようとしてるみたいだけど……」


 もしここで引き渡したらすぐさまワイナーを渡すことになるだろうけど……。


「……駄目ですよルーチェさん。教会に引き渡したら、おそらくすぐに処刑されるでしょう。それではワイナーに地獄を味わわせる事ができません」

「役人に突き出して、魔術も何も使えない状態で、真っ暗な監獄の中に鎖でつないで閉じ込めてもらうのが一番だと思うよ」

「……!? ……!(はあ!? 何でこのワイナー様がそんなことしなきゃなんねえんだよ!)」


 ものすごく酷い事をやってるのに、反省する気が一切ないからだよ!


「監獄に放り込むように提案だけはするよ。まあ、まずは役人の所まで持って行こう」

「そうだね」


 勇者教会には見つからないようにしないと。……引き渡してすぐに処刑されちゃったら自分がやったことを反省させることすらできないし。


「さて、役人の反応はどうなるか……」

「勇者教会には悪いですが、すぐに処刑しても面白くないです」

「監獄はこっちだよ。ついてきて」


 役人の所まで行かないと……。




ーーーー




「な……その男は賞金首のワイナー!?」

「余りに残虐な行為を行っていたので取り押さえ、此処まで連れてきました」


 ワイナーの姿を見たヒローズの役人は凄く驚いてた。まあ、捕まえられるとは思ってなかったんだろうけど。


「……! ……!(俺を役人に突き出すとかふざけんじゃねえ! 役立たずの身体め、言う事聞け!)」


 ワイナーが喚いてる。……取り調べの時に思う存分喋らせてあげるからそれまで黙っててくれる?


「し、しかし……一体どこに入れればいいのやら……」

「この場所で一番下にある天然の地獄ならどう? 魔術は使えなくなるし、真っ暗闇で普段は何一つ見えないよ」

「……あの場所ですか……確かに、これほどの人間はあの場所以外無いでしょうね……」


 マディスが役人に提案してるけど、天然の地獄って何?


「ヒローズの地下に「深淵牢獄」なんて言われる場所があるんだ。そこでは魔術が何故か使えなくなって、しかも光が一切入らない。どういう事か、分かるよね?」

「魔術が一切使えないから逃げられず、光が入らないから何も見えない……って事?」

「そうです。ただ、さすがに特定の場所に鎖で固定しますけどね」


 ……それなら、さすがに脱走できないかな? 鎖で固定してくれるなら尚更。


「ええ。これならさすがのワイナーでも逃げられないでしょう。さて、鎖で繋いでから取調べしましょう」


 ワイナーにはまだ聞かないといけないこともあるしね。売りさばいていない盗品の行方とか。


「こちらです。ついてきてください」


 監獄の地下にある「深淵牢獄」に行くためにヒローズの役人について行くことに。……どんな場所なのかな?




ーーーー




 ヒローズの役人について行った先は真っ暗な場所だった。文字通り真っ暗で、床も天井も全く見えない。光がまったく入らない場所みたい。


「……真っ暗で何も見えないよ……」

「私にも何も見えません」

「深淵牢獄ってだけのことはあるね」

「ええ。何せ、光すら入らない天然の牢獄ですし」

「……! ……!(ふざけんな! 誰がこんな場所に入るかよ!)」

「ここに放り込むんだな?」


 こんなところに鎖を繋がず放り込んだら確実に見つからなくなりそうだよ……。


「ええ。ここに放り込むんです。この壁にある鎖の1つに繋いでおきます」

「……と言われても……何も見えません」


 真っ暗闇だしね。少し前を歩いている人すら見えなくなるよ……。


「ですよね。まあ、我々はここの中の松明の場所も覚えているので問題ありません。つけてきましょう。さて、ワイナーを渡してください」


 言うなりヒローズの役人が壁のあちこちにある松明に火をつけていく。15本灯った段階で周りの様子がはっきり見えるようになった。深淵牢獄の中はやや角ばった岩が壁、床、天井問わず無数に組み合わさった洞窟みたいな場所で、松明が無ければ歩くだけで怪我をしそうな場所だった。


「はい」

「……! ……!(くそ、ふざけんな! 何でおれがこんな場所で鎖に繋がれなければなんねえんだよ!)」


 引き渡したワイナーの足に鎖が巻きつけられた。……もう逃げられないよね。


「さて、取り調べを始めましょうか。盗品のありかについて聞きださなければ」

「自白して」

「やっと口が……! 大部分の装備は売り払って金に換えた。使える物は手元に残してある。……くそ! 口が開いたと思ったらまた勝手に喋りやがって!」

「い、いったいどういう事でしょうか……?」

「そのまま連行するのが困難だったので、大人しくするように魔術で操ってました。魔術の効果で嘘はつけないので、安心してください」


 少なくとも、チャームに逆らう事なんて出来ないだろうし。


「な、なるほど……。では、盗品は全て渡してもらいましょうか」

「今持っている盗品、全て渡して」

「はあ!? 誰がそんなことするか……! だから、何で身体が勝手に動くんだよ! 止めろ! 俺の戦利品を奪おうとするんじゃねえ!」


 貴方が奪った物、持ち主に返すから。


「止めろ! 渡すな! 俺の戦利品を渡すんじゃねえ! 止まれ俺の身体! 止めろー!」


 ワイナーの身体からは様々な装備が出てきた。その数は100を軽く越えている。市販品じゃなさそうだけど……。


「……どれだけの冒険者から巻き上げたと言うのか……」

「本当に凄い量だね。しかもその辺の武器屋や防具屋で売ってる装備じゃないよ、これ」

「……これだけの装備の山、できれば欲しいですが、持ち主に返した方が良いですよね」

「当たり前だよジル。ちゃんと取られた人に返してあげないと」


 ここで奪ったら、ワイナーと同じになっちゃうよ。


「……仕方ないな。ただ……持ち主がどうしても見つからなかった物に関しては構わないだろ?」

「え、ええ。あなた方が捕縛した罪人ですし、我々としても現在ワイナーの捕縛に対する礼金が出せないので……」


 やっぱり財政破綻してるんだ……。


「じゃあ、持ち主が分からなかった物は後で僕の家まで届けておいてくれる?」

「分かりました。後でマディスさんの家に届けさせます。他の皆さんも、それでよろしいですね?」

「ええ。問題ないですよ」

「同じく」

「お願いします」

「おい! 何持ち主の俺を無視して勝手に決めてるんだよ! 持ち主は俺だぞ!」


 強盗が喚いてるけど、無視していいよね。……あ、そうそう。


「服役中、脱走しないように命令しておかないとね。出口に近づかないようにすればいいか」

「念には念を、ですね」

「ふざけんな! 誰がそんな命令守ってやるか! お前らが出て行ったら、すぐさま俺の魔術でこんな鎖破壊して……」

「反抗できないように、攻撃できないようにしておいた方が良いかな?」

「まあ、魔術自体使えないから問題ないと思うけど、保険はかけた方が良いよね」


 そうだね。一応、脱走も反抗も出来ないようにしておけばいいか。万が一脱走しようとしたら困るし。さて、今日はもう休もう。


「畜生! よくも俺の戦利品を! ふざけんな! 返しやがれ! 俺から奪うなんて大罪だ!」

「では、ワイナーの処分はお任せします。……反省する気も一切ないみたいなので、厳罰でお願いします。それでは失礼します」

「え、ええ。無論そのつもりですよ。彼は寿命で死ぬまでこの尖った岩だらけの真っ暗な場所で過ごすことになるでしょうし。……ワイナーを捕えていただいたこと、感謝します」


 これで冒険者の襲撃も無くなるだろうし、バグズ平野の魔物が集団で襲撃してくることも無くなるよね。




ーーーー




「探せ! 必ずワイナーを殺すのだ!」

「勇者様に反逆する者は断罪せねばならん! 必ず殺すのだ!」


 ヒローズギルドに戻る途中、教会の私兵団がヒローズの町中を走り抜けていくのが見えた。……ワイナーを役人に引き渡したこと、伝わってないみたい。


「まあ、伝えるわけにもいかないでしょう。もし引き渡したら、即座に処刑されてしまうでしょうからね」

「でも、案外すぐに捕まったことが公表されるかもね。ワイナーみたいな重罪人を捕まえたんだし、さすがのヒローズ政府も公表しないわけにはいかないでしょ」

「まあ、俺たちには関係ない事だな」

「……関係なくないよね? 教会の人は町を襲撃することもやりかねない集団だし」


 だって、勇者一行をちょっと叩きのめしただけで私兵団を差し向けてくるくらいだし……。


「気を付ける必要があるでしょうね。もしかしたら、依頼が増えるかもしれませんし」

「何も無ければ良いんだけど……」

酷い? いえ、自業自得です。奪った物は自分の手で返さないとね。本人は嫌がっている? 何を言うんですか、罪人には人権は無いんですよ? それに、更生自体不可能な人間ですしね。ワイナーは。

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