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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
55/168

新しいクエストを受けましょう

 ルーチェです。昨日ササキを倒した後そのままマディスの家に戻り、翌日まで休んでいたから目や耳も元に戻ったし、今日も頑張ってクエストを受けていこう。……と思ってギルドに入ったんだけど、あれ?


「ねえ、マディス」

「どうしたの?」

「なんか昨日よりずっと人が増えたような気がするけど気のせいかな?」


 ヒローズのギルドの中には昨日は20人も居なかったはずなのに、今日は50人近くの人が居る。……どうしてこんなに人が居るのかな?


「……ここで考えるのは止めましょう、ルーチェさん。今は依頼を受けるのが先です」

「そうだね。ジルの言うとおりだった」


 ……もしこの中に教会の関係者が居たらって思うと、ギルド内で喋るのを避けた方がよさそうだしね。入った時に何故か少し嫌な感じもしたし。


「……ルーチェが感じているその嫌な感じ、どうやら当たりかもしれんな。普通ならこのオーラを恐れて視線を逸らす輩ばかりのため、俺がじっくり見られることなどほぼ無いのだが……」

「私も、周囲に観察されているような感じはしますね。……気をつけましょう、グリーダーさん」


 ……嫌な予感に限って当たるんだよね……。仮に難易度5に新しい依頼があっても、避けた方が良いかも。


「あら、あなたたちは……。……本日は、どの難易度の依頼を見ますか?」


 ギルドの受付の人が警戒心をむき出しにしてるし……人が一気に増えてるけど、やっぱりこの人たち教会の人間なのかな……。


「難易度4の依頼を見せてください」

「分かりました。あちらの席でどうぞ。……混ざっている星5つの依頼には、気を付けてくださいね。難易度5ですから」


 受付の人が難易度4のクエストの依頼表を渡してきたとき、一番近くに居た私にしか聞こえないくらい小さい声でそう囁いた。……星5つの依頼が本来の難易度5……。探さないと!


「とりあえず、抜き出してメモしていこう」

「そうですね」


 えっと……。



 難易度4(の中に混ざっている難易度5)のクエスト↓


 極悪な冒険者ハンター「勝ち逃げのワイナー」討伐

 悪魔討伐

 崩落現場の調査


 ……勝ち逃げのワイナー? どんな人なの?


「知らないんですかルーチェさん? 勝ち逃げのワイナーとは、冒険者や勇者見習いを主に狙った冒険者ハンター(自称)で、特に勇者を狙うみたいですよ」

「ワイナーの被害に遭った勇者はかなりの数らしいよ。しかも、一度戦った相手が強くなって挑もうとしても絶対に再戦せず、逃げるみたいだね。相手が弱いうちに叩き潰してその後再戦の機会を絶対に与えずに逃げると言う卑怯すぎるやり方からこの名がついたみたい」

「ほう……。勇者が旅立った瞬間に魔王に襲われるような物か」


 何なのその最低な人……。


「他には悪魔討伐と崩落現場の調査ってあるけど……」

「悪魔……ですか。すでに魔物の領域を超えていますよね」

「悪魔って魔族の下級種みたいなものだって言われてるしね」

「魔族!?」


 魔王に関係あるかもしれないって事なの!?


「じゃあ、最初はこれから……」

「待ってください。まだ厄介な物が近くに居るこの状況で死闘を繰り広げるのは危険ですよ。ルーチェさん」

「……それは……」


 確かに、私達のすぐ近くに勇者教会が居るこの状態で悪魔討伐を受けて疲れ果てた状態で戻るのってすごく危険だよね……。万が一私たちの正体がばれたら間違いなく襲われるし……。


「そういう事だ。万が一疲れ果てた状態で襲撃されたら不味いことになる」

「僕もさすがに、死人は蘇らせられないしね……。今は避けた方が良いんじゃないかな」

「……分かった。じゃあ、崩落現場の調査とワイナーの討伐のどちらかになるかな?」

「そうなりますね。ルーチェさん、どちらから受けていきます?」

「うーん……」


 やっぱり、そのワイナーとかいう人をなんとかしないと不味いような気がするよ。


「ワイナーの討伐だね? じゃあ、依頼を受けることを話してくるよ?」

「お願い」


 マディスが依頼を受けるための手続きをするために受付に向かっていくのを見ていた時、ギルドの建物の中に四人組が入ってきた。……あれ? 今ギルドに入ってきた四人組って確か……。


「何を考えておるのじゃ! 勇者としての実績が疑われますぞ!」

「そう思うなら、君たち二人は戻って待っていてくれればいい。僕とレミッタで何とかする」

「いえ。そうはいきません。教皇様より、勇者様の力となるように言われておりますので」

「なら、僕が依頼を受けるのを邪魔しないでくれないか?」


 ヒローズの勇者一行だよね? ……何か凄くギスギスしてるけど……。


「遠目にしか分かりませんが、明らかに内部分裂しかけていますね。あのまま放っておけば勝手にヒローズ勇者パーティは解散してしまうでしょうね」

「ま、他のパーティがどうなろうと俺たちにはどうすることも出来んな」

「仕方ないよね。というか、他のパーティの事まで下手に干渉していったら明らかにお節介だし」


 自分達の事じゃないからどうすることもできないよ。私達も他のパーティの事まで面倒を見れるほど余裕があるわけじゃないし。そもそも赤の他人だし。


「おまたせ~。……討伐対象はヒローズとバグリャの国境にあるバグズ平野に出没するらしいよ」

「バグリャ? 初めて聞く国だよ」


 というか、そもそもバグリャってここからどの方角に向かえばいいの?


「バグリャの首都自体はヒローズの東にあるよ。だけど、ワイナーが出没する場所はヒローズ中心部から北東にある「バグズ平野」らしいよ」

「バグズ平野……ヒローズやバグリャの駆け出し冒険者や勇者が良く訪れる場所ですよね? マディスさん」

「そうだよ。ワイナーは弱者を倒すことのみに命を懸けているみたいだから、冒険を始めたばかりの冒険者や勇者が修行しに来るバグズ平野に出てくるんじゃない?」


 酷い……なんなのその人! 山賊と同じじゃない! ……ううん、弱者を倒す事に命を懸けている時点で山賊よりも質が悪いよ!


「その人……見つけ次第絶対に倒そう! そんな最低な人野放しに出来ないよ!」

「そうですね。そんな人を放っておいたらこっちが襲われるかもしれないですしね」

「じゃ、今すぐにバグズ平野に向かう?」

「そうだな、早い方が良いだろう。マディス。案内を頼む」


 勝ち逃げのワイナー……どんな人か知らないけど、冒険者狩りなんて絶対に止めさせないと!


「行くぞ、レミッタ」

「はい」

「なぜこのわしが難易度1のクエストなど受けなければならんのじゃ……」

「同感ですよ、スロウリー様……。私たちは難易度5のクエストのみを受けるべきだと言うのに……。何故よりにもよってバグズ平野の魔物退治なのですかね……」

「まあ、最終的にギルドカードを弄って結果を改竄すればいいだけなのじゃがな」


ーーーー


 ワイナーを倒すため、私達はバグズ平野に向かう事に。……ところで、ちょっと気になることがあるんだけど……。


「ワイナーって人、バグズ平野のどこに居るのかな?」


 その平野の中にアジトがあるわけでもないだろうし……。


「さあ……手当たり次第に探すか、もしくは……」

「もしくは?」

「私達が初心者冒険者であるかのように振舞い、ワイナーの方から来てもらうかですね」

「つまり、弱い魔物との戦闘で敢えて手を抜くと言う事か? ジル」

「そう言う事です。私たちがその辺の魔物に苦戦するような実力の者だと知ればワイナーの方から向かってくるでしょう」

「ジルが言った方法で良いと思うよ。もしワイナーがこっちの様子を見ていたとしたら、魔物に苦戦する冒険者を優先的に狙うと思うし……そうだ。初心者用の武器を敢えて装備してよりそれらしく見せない?」

「そうだな。もし強力な武器を持っていたら怪しまれるかもしれん」

「……じゃあ、まずは武器屋で適当な装備を買って行こう。それからバグズ平野に向かおう」


 初心者が持つような装備だったら、ワイナーにも怪しまれないだろうしね。……もちろん、普段使う武器もちゃんとすぐに取り出せるようにしておくけど。


「バグズ平野につき次第、ワイナーを誘き出すための戦いをしましょう。ルーチェさん、手伝ってくださいね」

「え? 手伝うって何を?」


 魔物との戦闘で攻撃魔術以外に手伝える事なんてあったかな?


「ありますよ。この中では私とルーチェさんにしか出来ないうえ、かなり重要な事です」

「……? ちょっと思いつかないけど……」


 この中では私とジルにしか出来ない? 何だろ?


「まあ、到着したら話します。今はワイナー討伐の準備をしましょう」

「あ、うん。そうだね」


 気になるけど、今はワイナーとの戦いのための準備をしないと!


ーーーー


 武器屋で安い武器も買い、ワイナーを誘き出す準備を終えたのでヒローズを出て北東にあるバグズ平野を目指します。ワイナーはどこに居るのかな……。


「……バグズ平野で強い装備をしてたらすごく目立つと思うんだけどね……」

「そうなの? マディス」

「うん。バグズ平野は弱い魔物しか生息していないし、冒険者も駆け出しばかりが集まるからね。そんな所に強力な装備をした人間が紛れ込んでいたらかなり目立つよ」

「そんな初心者ばかりの場所に来てまで弱者狩りをするなんて、悪趣味な人ですね」


 ジルの言う通りだよ……。というか、それは悪趣味なんてものじゃないよ。


「まあ、ワイナー自身は「貴様が俺に負けて装備を奪われるのはこれが俺に負ける負けイベントだから仕方ないのだ! 諦めて金を稼ぎなおすんだな!」とか言っているみたいだけどね」

「滅茶苦茶ですね。ワイナーは追剥の風上にも置けませんよ」


 負けイベントなんて言われても……この世界にそんな物無いよね?


「ああ「この世界には」無いな」

「この世界には? じゃあさ、他の世界にはそんなわけの分からないイベントがあるの?」


 マディスがグリーダーに尋ねる。……というか、負けイベントってそもそも何!?


「ルーチェさんは相変わらず無知ですね。負けイベントと言うのは、どんなに頑張って戦闘に勝っても、例え相手を実力で叩き潰しても、何故か負けたことにされてしまう恐ろしいご都合主義ですよ」

「その上、対戦相手は昨日のササキなど比べ物にならないほどの回復能力を持っている。酷い物になると、どんなにダメージを与えても即座に全てのダメージを無効化してきたり無敵になったりするくらいだ」

「即座に全てのダメージを無効化したり無敵になるってもう反則だよね!? そんなことされたらどんなに足掻いても倒せないよ!」


 というか、そもそもそんな相手と出くわしたら逃げようよ! 絶対勝てないじゃない!


「何言ってるんですかルーチェさん。逃げようとしても何故か回り込まれたり、戦闘自体を回避するために瞬間転移の魔術を唱えてもこれまたご都合主義で無効化されるんですよ」

「壁を抜けたり自由自在に浮遊する技を使えれば逃げおおせることは可能だが……」

「やっぱり、必ずどこかで戦わされるようになってるの?」

「その通りだ、マディス。どのような手を使おうと、運命は変わらん」


 ……待って。それよりも、どうして勝ったのに負けたことになってるの? 戦闘には勝ったんだよね?


「ええ。戦闘には勝ちましたよ。そして相手は倒れています。にもかかわらず、何故か負けたことになっているんです」

「それってやっぱりおかしくない!? 勝った方が負けたふりでもしない限りありえない展開だよ!?」


 どう考えてもそれ八百長じゃない!


「確かに八百長ですね。ですが、お話の都合上邪魔な存在はこうやって消されるんですよ」

「理不尽にもほどがあるよ! 勝っても強制的に負けたことにされて必ず消されるってあんまりだよ!」


 そんなのがあったら、努力しても全く意味が無いよね!? どれだけ努力しても結果が決まってるんだもん!


「いえ、残念ながら、そうもいかないんですよ。この超ご都合主義のルールに一見似ていて全く違う「勝たないといけない超強敵」なんてものまで紛れ込んでいるんです」

「当然こちらは負ければその場で終了だ」

「異世界のルールって、かなり理不尽だね~」


 本当に理不尽だよ……。


「まあ、ワイナーが理不尽な負けイベントに当てはまるとは思いませんけどね。ですが、これも難易度5の依頼ですから警戒はしておきましょう」

「……そうだね」


 ワイナーを倒して、冒険者狩りなんて止めさせないと!


ーーーー


「ここの魔物を倒して少しでも強くならなければ。このまま難易度5のクエストばかりに挑んでいても僕たちは絶対強くなれない」

「……はい」


 バグズ平野に向かう途中、聞き覚えのある声を聞いたのでそちらに顔を向けると、ヒローズの勇者一行の姿があった。……バグズ平野に向かうのかな?


「バグズ平野の魔物を倒し、少しでも実戦慣れしなければいけないんだ」

「勇者様も心配性ですね。何も恐れることなど無いというのに」

「全くじゃ。わしらに難易度1の依頼など、クエストの難易度が明らかに不釣り合いじゃな」


 ……本当に駆け出し勇者や冒険者の修業のための場所になってるんだね、バグズ平野って。ヒローズの一行もバグズ平野に向かっているみたい。私達には気づいていないみたいだけど。


「ええ。ですので、ヒローズもバグリャもこの場所には国境を設けていません。冒険者や勇者を訓練させるために必要な場所ですからね」

「その代りに、バグズ平野の周囲には巨大な柵があるけどね。限られた場所からしか入れないよ」

「今私たちが向かっているのはその限られた場所?」


 でも、どうしてわざわざ柵で囲んでるんだろ……。


「それはもちろん、中の魔物が移動したりどちらかの軍がこの平野を支配しないためでしょう。バグズ平野を抑えられたら駆け出し勇者や冒険者を育てにくくなりますからね」

「そんなに大事なんだ……」


 狩場なんて重要じゃないって思ってたけど……。


「何を言っているんだ、ルーチェ。狩場が無ければ、効率のいい修行も出来ないぞ?」

「狙った素材の採取も苦労するしね」

「弱い人でも危険を冒さず安全に稼げる場所は必要ですよ?」

「そ……そうなんだ……」


 特定の魔物の素材が欲しいって思う事も無かったし、特定の魔物を狙って狩ろうなんて考えたことも無いから、狩場の必要性が良く分からないんだよね……。


「この依頼が終わったら、狩場の存在意義と役割について勉強しておいてくださいね、ルーチェさん」

「う、うん……」


 そんな事言われても……。まあ、一応考えておくけど。


「話してる間に目的地が見えてきたよ。あの門の先が目的地のバグズ平野」


 マディスが指さす方向を見ると、城壁のような巨大な門がそびえたっていた。バグズ平野の入り口についたみたい。


「さて、どこに居るかは分かりませんが、ワイナーを探さないといけませんね」

「油断するなよ?」

「うん、ここからは気を引き締めないとね。行こう!」


 そして私たちは、バグズ平野の入り口を示す門の中へと足を踏み入れた。

「悪役は徹底的に潰す」は徹底しないと駄目ですね。更正なんて生温い!


しかし、話の展開が展開なので仕方ないとはいえ、ずっとシリアスですね。「自称」コメディーが本当になり、ジャンルがコメディーからファンタジーになったらどうしましょうか。

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