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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
53/168

傭兵と戦いましょう

「来たかムサシ! 懲りずにまたやってくるとは……よっぽど暇なようだな? だが、この私が居る限り姫は返さぬぞ?」


 私たちが舞台に上がると、ササキが話しかけてきた。……私達今日初めて参加したんだけど!? まあいいや。えっと……。


「……あなたを倒すのが私たちの役目。だから、あなたを倒して姫を返してもらうから!」


 一応演劇だし、これくらい言っても良いよね?


「えっと、ルーチェさんは何言ってるんでしょうか?」

「一応演劇だし、遊びたかったんじゃないかな? ま、戦闘開始前のやりとりくらい良いんじゃない?」

「ムサシが何人現れようと同じこと! さあ、私の剣術の前にひれ伏すがいいわ!」


 ササキが槍を構える。……ここからは真剣勝負だし、気を引き締めていかないと! ……まずは……。


「焔来たりて……」

「甘いわ! 私の目の黒いうちは術など使わせぬ!」


 少しだけ三人から離れてから詠唱をする「ふり」をしてササキの攻撃を誘う。案の定ササキは私の方に槍を向けて来たけど、実際に詠唱しているわけじゃないし、何が飛んできても避けられる!


「消えるがいいわ!」


 私の方に向けられたササキの槍からさっきの試合でスロウリーを吹き飛ばした物と同じ紫色の光線が放たれたけど、すぐに横に飛べばあっさりかわすことができた。


「ぬ!? 避けたか!」

「こっちも行きますよ!」

「覚悟してもらおうか」


 私の方にササキの注意が向いた隙にジルとグリーダーが突っ込む。……ここまではさっきの勇者一行とほとんど変わらない。でも、この攻撃も凌がれるだろうから……。


「マディス!」

「骨と魔石と……念のために鉱石と樹皮も! 投薬!」


 マディスの薬がかかった直後、急に体の奥から力が湧き出すような感覚が生じる。これなら……!


「……ついでにこれも。……これの効果は使われない方が良いんだけど、最善は尽くす必要があるしね」


 マディスがすぐ近くで何か言ってたような気がするけど、すでに詠唱を始めていた私には聞こえなかった。


「……硬いですね……」

「おのれ! 私のバリアを貫くと言うのか!?」

「フォークしか通用しないなんて詐欺ですよ! このフォークは本来防具だと言うのに……!」

「ちっ……ふがいないがジルのフォークだけが頼りのようだな……! 俺の攻撃では通用しないか」


 ジルとグリーダーはササキと切り結んでいるみたい。……でも、グリーダーの攻撃でも通用しないなんて……。というか、フォークしか通用しないってなんなの!?


「ええい! 忌々しい! 貴様らとの戦いも終わりにしてくれるわ! 振り来たれ槍の雨!」


 槍の雨……さっき勇者を倒したアレの事!? 不味いよ! 二人とも下がって!


「上空から無数の槍が!?」

「ちっ! 下がるとルーチェやマディスが狙われる以上避けようがない!」

「貴様らも先ほどのムサシと同じ末路を辿るがいいわ!」


 その直後、無数の槍がジルとグリーダー目がけて降ってきた。


「さっきの勇者のようにはいかないよ? 鉱石と樹皮、調合」


 マディスの声が聞こえた直後、私の後方から凄いスピードで二つの光が放たれ、ジルとグリーダーに纏わりついた。直後、二人目がけて降ってきたササキの攻撃がジルとグリーダーを頭から貫……かなかった。ジルとグリーダーに当たった槍は全て二人に纏わりついた光によって弾き返され、そのまま地面に落ちて行った。


「な……!? 馬鹿な! かつて私を倒した連中すら貫けるような威力にした技だぞ!?」

「そう簡単には貫けないよ? 薬の強化、侮らないでね?」

「お、おのれ……! ならば……!」


 ササキの周囲に紫色のオーラが見えた直後、ササキが上空に飛び上がって紫色のオーラを放つ巨大な槍を私たちの方に投げつけてきた。……って、このままじゃ避けられない……!


「まずは貴様らから潰してやるわ!」

「……高級品だから温存したかったけど、こんな状況じゃ仕方ないか……」


 巨大な槍が私に当たる寸前にマディスが私の前に立ちふさがるのが見えた直後、マディスに当たった槍が大爆発を起こし、舞台の一部を吹き飛ばした。……って、何でマディスも私も吹き飛んでないの!? 普通ならとっくに吹き飛ばされておかしくないはずなのに……。


「ば、馬鹿な! またしても効かないだと!」

「二人とも一旦離れて! ルーチェ!」

「分かってる! ホーリー・カノン!」


 空中から地上に落ちてくるササキにはもう避けることも出来ない。普段よりはるかに威力の大きくなったホーリー・カノンの光弾がバリアを粉々に破壊し、轟音を伴い生じた光の爆風がササキを飲み込み大きく吹き飛ばして舞台に叩き落とした。


「ぐはっ……!」

「行きますよ、グリーダーさん!」

「今のうちに畳み掛けて一気に終わらせてくれる!」


 ササキが怯んだ今ならバリアも無いだろうし、これで終わりかな? ……二人とササキが交戦してる最中に魔術で援護したら誤射する可能性があるからうかつに撃てないし、後は傍観するしかないかな?


「ルーチェ、二人に当たることは気にせず魔術を撃ちこんで」

「ええ!? そんなことしたら二人も巻き添えにしちゃうよ!?」

「大丈夫。対策はするから」

「……対策ができるって言うなら一応、やってみるけど……」


 ……シャイニングレインなら万が一のことがあっても大丈夫、だよね? グリーダーごと巻き添えにしたことがあるけど、あの時も無事だったし。


「……じゃあシャイニングレインを使うけど、本当に大丈夫?」

「もちろんだよ。……シャイニングレインならおそらく光属性だから、光結晶と水晶を調合して……」


 さっきの光とは別の光がマディスの手から放たれ、グリーダーとジルに纏わりついた。マディスの「対策」を信じて使ってみるしかないよね。


「いい加減に倒れてくれませんか!?」

「往生際の悪い奴め! さっさとくたばるがいい!」

「そうはいくか! このササキ、最後まで戦い続けてやるわ!」


 ジルとグリーダーはまだササキと交戦している。……見た感じバリアも無くなってるし、攻撃が通ればダメージが入るはずなのに……。というか、ジルのナイフやグリーダーの斧がちゃんとササキに当たってる時が何度かあるのに何でダメージが入ってないの?


「うーん……あの人、攻撃を食らう度に回復してないかな? 二人の攻撃が刺さるたびに別の傷口が塞がってるよ」


 その時、ジルのテーブルナイフがササキの右肩を切り裂いた……と同時にササキの左足の傷が治ってしまった。……ちょっと! なんなのあの回復能力!?


「このままじゃシャイニングレインも通用しないんじゃないかな? 光の雨が当たるたびに別の場所が治ってしまってダメージにならないよ?」

「またホーリー・カノンでやるしかない?」

「多分ね。あのままじゃ小さいダメージを与えても何度でも回復するよ?」


 ええ!? 何その治癒能力!?


「……ルーチェは詠唱お願い。ジル! グリーダー! その傭兵、攻撃を食らう度に別の傷口が塞がってる! 下手に攻撃しても倒せない!」

「なんですって!?」

「なんだと!?」


 マディスが二人にササキの特徴を伝えると、二人は凄く驚いていた。……そりゃ、自分たちが攻撃するたびに別の場所の傷口が塞がっていくなんて聞いたら驚くよね……。


「ほう。私の自然回復能力を見抜いたか。だが、見抜いたところで私を倒すことは出来はしない! ムサシ、貴様らはここで私に倒されるのだ!」


 攻撃を食らう度に傷が塞がる能力なんて反則だよ!


「ルーチェ。この場所ごと消し飛ばすくらいの威力で撃ちこんで。それくらいやっても多分あの傭兵は生き延びるだろうから」


 この場所ごと消し飛ばすくらいの威力って……。観客席に人が居たりしないよね? というか、ここの他の役者が!


「それくらいしないと、あの回復能力は突破できない。つまり、勝てないと言う事だよ。あの手の回復能力を持つ魔物は一撃で消し飛ばさないと何度でも回復するから、一発で決めないと倒せない。あの傭兵はかなり強いから、本来なら普通の魔物みたいに長期戦でじっくり追い込んでいきたいけど、あの回復能力はその戦法を完全に無効化してくるからこの方法しかないよ」


 ……劇場が壊れるかもしれないけど……でも、それくらいの威力でやってもあの傭兵なら耐えそうだしね……。仕方ない、よね?


「うん。仕方ないんだよ。これが難易度5のクエストの戦闘だから、ね」

「……」


 さっきの物より威力を高くして撃ちこんでみるしかないか。……これで決まってくれればいいんだけど……。


「ぬ!? だが、何度も同じ手は食わんぞ! 私の回復能力と障壁があれば、負けることはないのだ! 光攻撃を無効化すればどうと言う事はない!」


 ササキの周囲に白いバリアーが張られる。……光無効のバリアなんて……マディスに対策が無いといくらホーリー・カノンが使えても効かないよ?


「……大丈夫。光結晶と亡者の欠片調合」


 小声でマディスが呟いたのが聞こえたと思ったら、光がササキに纏わりついた。……って、何やってるの……!?


「マディスさん!?」

「……手元を狂わせたか、愚か者よ! だが、いずれにしろ私に倒される運命は変わらぬぞ!」


 ……本当に何やって……!


「今ので光攻撃無効は消えた。次は防御能力を落とすから次の光が纏わりついたら止めお願い」


 私の耳元でそう呟くとマディスはジルやグリーダーの方に行ってしまった。……ちょっと!? このままじゃ私確実に狙われるよね!?


「長々と詠唱など……と言いたいが、先ほどの魔術などもう通用しない。貴様をわが剣で斬り捨てるのは後回しでもよかろう。と言うわけで、貴様らからわが剣の錆になるがいいわ!」


 私の攻撃は効かないって確信しているらしく、ササキの槍の矛先がジルやグリーダーに向いた。……この隙に詠唱を完了させて出来るだけ威力を上げておかないと!


「マディスさん! 一体どういうつもりですか!?」

「……」

「え? ……では、次の物も」

「私を前にして雑談するとは余裕だな! 散れムサシ!」

「散るのは貴様だ! デモニックブラスター!」

「くっ! 邪魔な弾幕め!」


 マディスがジルの近くに行って何か話してるみたいだけど、かなり離れちゃったから全く聞こえない。当然ササキがそんな隙を逃すはずがないけど、グリーダーがオーラから大量の光線を発射しているためジルやマディスに近づくことは出来なかった。


「このササキの奥義でさっさと沈むがいい!」


 弾幕に邪魔されて近づけないと判断したササキは今度はグリーダー目がけて槍を構え、紫色の光線を放つ。


「こっちの攻撃が当たった時のために肝と骨を……」

「沈むのは貴様だ! フリーズブレイバー!」


 マディスの手から放たれた光がグリーダーに纏わりつく。その直後にグリーダーの斧が舞台に叩きつけられ、氷刃が発生した。氷刃は舞台を破壊しながらササキ目がけて突き進んでいく。ササキの光線と正面から激突し、どちらの攻撃も相殺された。


「甲羅と王水……。ルーチェ、止めは任せるよ」


 マディスの言っていた、防御能力を落とすための光、かな? ……マディスの言葉を信じるなら、ここで当てれば……!


「ナイフが駄目なら魔術ならどうです! ダークボム!」

「甘いわ! そんな物効くか!」

「……終わらせるよ。ホーリー・カノン!」


 ササキに攻撃が通用するはず!


「ほう、無駄なあがきを! 愚かなムサシよ、そのような攻撃、片手で止めてくれるわ!」


 ササキがこっちに向いて手を突き出した。ササキの手の先にもバリアがあり、ホーリー・カノンの光弾がバリアとぶつかる。


「このような物、効くはずが「ガシャン!」な……」


 光無効のバリアはマディスの薬でその効果を消されてる。それに、どんなに防御力があっても薬の効果で下がってしまえば……!


「そ、そんな馬鹿な……!」


 光弾がササキに直撃した瞬間、光弾が爆発し、耳が潰れそうになるほどのとてつもない爆音と視界を完全に失わせるほどの閃光が生じ、私はたまらず目を閉じ、両手で耳を塞いで地面に蹲った。


「私の……だと!? ……ムサシ、この勝負は預け……また会お……さら……だ!」


 ホーリー・カノンの爆音に紛れてササキの叫び声らしきものが聞こえた気がするけど、爆音にかき消されてまともに聞き取れなかった。


ーーーー


「何と言う事だ! 魔王と一緒に我々の劇場も木端微塵になってしまった! しかし、それだけの威力を誇る攻撃を放ったおかげか、魔王は消え去り、姫は確かに救われたのだ!」

「ああ! ようやく救われたのね……! これで、再び自由の身だわ!」


 ……あれから何分経ったんだろ? ようやく耳や目が元に戻って来たけど……。


「見事に決闘劇場を滅茶苦茶にしましたね、ルーチェさん」

「普通にやっても倒せなかっただろうし、倒すためには仕方なかったんだよ!」


 ようやく見えるようになった私の目に飛び込んできたのは、劇場だった物のなれの果てだった。天井部分は大きな穴が開き、観客席は天井の破片などが積み重なり、舞台は跡形もなくなっていた。周囲の外壁も亀裂だらけになっていて、次にある程度威力の高い攻撃が直撃すればひとたまりもなさそうだった。


「新たなる勇者一行のおかげで、この劇は再び振出しに戻る事が出来た! 次は、どのような挑戦者がこの決闘劇場に参加するのか……! そして、次なる魔王は……! では、これにて終幕!」


 って、またこの劇は振出しに戻るの!? 今度はあんな滅茶苦茶な人じゃなくて普通の冒険者でも倒せる程度の実力の人を呼んでもらわないと誰も攻略できないよ……?


「ササキと言う傭兵、侮れないですね……」

「うん……。今日の戦いではマディスが補助してくれたおかげで大きな被害も無く終わったけど……」


 もしあの薬が無かったら今頃ジルもグリーダーも戦闘不能になっているだろうし。


「未だに目が狂っているな……」

「あはは……さすがにここまで強烈だとは思わなかったよ……。光属性への対策をしたグリーダーを壁にしてもあっさり吹き飛ばされそうな威力だったしね……」


 ……二人とも大丈夫?


「まあ、しばらくしたら治るよ。ただ、さすがにこれじゃ他の依頼も受けるのは無理かな」

「目がまともに機能しない以上、今日はこれ以上戦うのは不可能だろうな」


 ……まあ、目も耳も潰れそうになるほどの威力だったしね……。


「まさか劇場ごと破壊するような威力の技を持つとは! 私は今日信じられない物を見た! それはともかく、君たちは依頼を果たしたわけだ。ギルドの方で報酬を受け取っておいてくれ」


 この劇団のリーダーっぽい人が依頼の達成を認めてくれた。……無事に終わってよかった。


「分かりました」


 さて、ギルドで報酬を受け取ったらマディスの家で休もう。一応ましにはなってるけど、まだ目や耳に違和感が残ってるしね……。


「あれほどの実力をもつ魔王すら排除されるとは……では、次はどのような魔王をスカウトするべきか」


 ……え? もしかして、また強い魔王役をスカウトするつもりなのこの人!?


「ん? 当たり前じゃないか。決闘劇団の魔王役たる者、世界屈指の強者でなくては勤まるまい」

「でもそれじゃ、誰もクリアが……」


 今日のササキみたいな人でも、よっぽど強くないと太刀打ちできないし……。


「確かに劇である以上、完結できなければ駄目だろう。だが、どのような人間にも完結できない程の強さを誇る魔王役を使った決闘劇団も面白いと思わないか?」


 言わんとしてることは分かるよ。でもね……。


「一応劇である以上、完結できないとそもそも意味ないじゃないですか!」


 どのような事をやっても完結できない劇なんて、いくらここが決闘劇団でも本末転倒だよ!

「また会おう! さらばだ!」

そして傭兵はホーリー・カノンの爆風によって新たなる地へ。


仮にバリアが無くてヒローズの勇者たちがササキにダメージを与えることができても、攻撃を食らう度に発生する自動回復ですべてが無駄になり、結局ヒローズ勇者では勝てないという。

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