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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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劇に参加してみましょう

 翌日。教皇に動きがあるまで私たちの側からは動かないと決めたため、私たちはヒローズの別のクエストを受けるためにヒローズギルドに訪れていた。


「今日は何の依頼でしたっけ?」

「演劇参加だっけ? それをやってみようかなと思うんだけど」

「演劇か~。一見難易度5には見えないけど、それでも難易度5になってたよね」


 うん。だから、受けようかなって思うんだけど。


「演劇で難易度5……昨日の怪物共のような相手との練習試合か? ルーチェ、どう思う?」

「うーん……そこまでは分からないけど……」


 でも、演劇で難易度5って事は相当難しいのかな?


「すいません。この「演劇参加者募集」の依頼を受けたいのですが……」

「……ついさっき勇者一行が受けたけど……問題ないわね。絶対負けるだろうし。構いませんよ」


 勇者一行が負けることを確信してるの!? ……さすがにそれを公言するのは不味いんじゃ……。


「……だって、難易度4のクエストを突破した冒険者が返り討ちに遭うような難易度よ? 演劇と言っても勝負は真剣そのもの。気を抜いたらコテンパンにされて送り返されてしまうわ」

「い、一体どんな演劇なんですか……?」


 真剣勝負をする演劇って……。


「二週間ほど前に新しい劇団員を雇ったらしいんだけど、その劇団員があまりに強くてその日以降姫を助けられる人が居ないらしいのよ。八百長一切なしの演劇だから、実力でその人を倒さないといけないらしいんだけどね……」

「よっぽど強いみたいですね。どんな人なんですか?」


 ジルが受付の人に質問した。


「……誰彼構わず挑戦者を「ムサシ」と呼ぶ凄腕の槍使いよ。妙な術を使いこなし、相手が何人いても容赦なく叩きのめすほどの強さを持つことから、劇団内では「槍魔王ササキ」と呼ばれてるわ」

「槍魔王……また強そうな名前ですね……」

「ササキ……? ムサシ……?」


 あれ? どこかで聞いたことがあるような……。


「ルーチェもか? 俺もその男に覚えがある気がするんだが……」

「二人はササキに会ったことがあるの?」

「……確証はないけど……でも、あの時は最後にグリーダーが空高くまで殴り飛ばしちゃったからもう会うことはないと思ったんだけど……」

「つまり、ルーチェさんとグリーダーさんが戦った男と同一の存在である可能性が高いと言う事ですか?」

「うん。……もし、本当にあの人だったらヒローズの勇者なんかじゃ絶対刃が立たないと思う」


 だって、ありえないくらい強かったもん……。グリーダーが不意打ちしても平然と立ち上がってきたくらいだし。


「それは強敵ですね。さっそく劇場に行ってみましょう」

「そうだね。行こう!」


 まず無いと思うけど、でも、ここまで特徴が一致してたら……。


ーーーー


 ヒローズ劇場に着いたけど、「挑戦者用入り口」って書いてある扉の前に人が立っている。……すぐに挑戦出来ないみたい。まあ、他の一行が依頼を受けてるし仕方ないよね。


「ヒローズ劇場にようこそ! クエストを受けてきたのかな? でも、今は勇者様一行が試合をしているので入れないんだ。終わるまで観客席から見ていてくれ」

「……とのことだし、終わるまで観客席から見ておく?」

「そうだね。今は入れないし……」


 観客席に移動して見物することに。……どんな劇をやってるんだろ?


ーーーー


「さあ、本日初の挑戦者は、なんと、ヒローズの勇者一行だ! 教会推薦らしいが、その実力は果たしてどうなのか?」

「……大丈夫かな?」

「不安です……」

「小娘はともかく、勇者様ともあろうものが戦う前から怯えてどうするのじゃ! このスロウリーやベルナルドが居る以上、負ける要素など皆無じゃろ!」

「そうですよ、勇者様。我々はすでに難易度5のクエストを5つクリアしているのです。実力を信じてください」

「あ、ああ……」


 ヒローズの勇者たちが出てきた。観客席からだと姿は良く見えるけど、何を話しているのかは全く分からない。


「さあ、姫を救うことは出来るのか? 彼らの戦いの果てに立ちふさがるのは、これまであらゆる挑戦者を葬り去ってきた槍魔王ササキだ! 常人ではまず勝ち目がないぞ!」

「……ムサシよ! こりずに姫を救いに来たか! だが、このササキ居る限り、姫には会う事すら叶わぬ! そしてお前は、また返り討ちにあう運命なのだ!」

「……グリーダー! あれ!」

「間違いないな」


 勇者一行と反対側から舞台に上がってきたのは間違いなく、私たちがテラピアの依頼で倒した妙な槍使いのササキだった。まあ、殺したわけじゃないから生きてるんだけど、でもこんなところで何やってるのあの人!?


「さあ、参りますぞ! 勇者様!」

「このベルナルドある限り、勇者一行に負けなど無い!」

「……私も、頑張ります!」

「……行こう!」

「来るがいいムサシよ! また返り討ちにしてやるわ! この剣聖ササキの剣の錆にしてくれよう!」


 一体この試合、どうなるんだろ……。


「あの男がササキですか?」

「うん。間違いない。……やっぱり槍を剣と言い張ってる人だけど……」


 だからそれはどう見ても槍だよ……。


「さあ、姫を救い出すことができるのか? バトル開始!」


 ヒローズの勇者一行と(本当の)難易度5の相手の戦いが始まった。


ーーーー


「我が命ずる。汝の力を我に貸し与えて世界を灰燼と化す……」

「甘いわ!」


 スロウリーとかいうお爺さんが詠唱を始めた直後、ササキがお爺さんの方に槍を向け、槍から放った紫色の謎の光線でお爺さんを吹っ飛ばしてしまった。……あの妙な光線に私も一度やられたっけ……。


「ぐお!?」

「スロウリーさん!? ……ヒール!」

「うおおおおおおお!」


 スロウリーが劇場の壁に叩きつけられて倒れた直後に女の子――――レミッタが慌ててヒールをかける。そして技を放った直後の隙を狙って勇者とベルナルドがササキに突っ込んでいく。


「如何な強者と言えども、あのような大技を放った直後には隙ができる! そこを叩いて一気に決めますよ! 勇者様!」

「……分かってる!」

「ぬ!? 囮とは!」


 確かに今のササキは槍をすぐに振るえないから攻めるのには絶好の機会だけど……。


「はあっ!」

「ふっ!」


 そして勇者とベルナルドの攻撃がササキを捉えた。金属と金属がぶつかり合うような音が響く。


「き……効いてない……!?」

「馬鹿な! 教会最高の剣なのだぞ!?」

「甘い……甘すぎるぞ貴様ら!」


 ササキに当たったはずの二人の剣が見えない壁のような物で弾かれていた。……何なのあれ!?


「この私の剣術、打ち崩せると本気で思っておったか! その程度の剣技では、私の身体に傷一つつかぬわ!」

「くっ……! 何なんだこの妙な感覚は!? 奴の身体に当たる手前で剣が止まる……!」

「まさか、バリアだとでもいうのですか!?」


 バリアまで張ってるの!?


「貴様らでは私の相手など務まらぬわ! わが奥義の前に沈め!」


 ササキがそう叫ぶと、ササキの周囲に無数の槍が降り注ぎ、勇者とベルナルドの腕や腹部を次々に貫き、二人を戦闘不能に追い込んでしまった。……というか、あんなの食らって生きてられるのかな?


「……はっ!? いかんいかん! わしともあろうものが戦闘中に居眠りするなど……」

「ほう、私に倒されるために立ち上がって来たか!」


 前衛二人が戦闘不能になった時にレミッタのヒールのおかげでようやく目が覚めたスロウリー。でも、スロウリーとレミッタだけでどうやって戦うの……?


「小娘! わしのために壁になって詠唱時間を稼ぐのじゃ! わしの大魔法で決着をつける!」

「え!?」

「……最低ですね。あのお爺さん」

「ホントだよ……」


 まさか回復係を兼ねてる女の子に肉壁やらせるなんて……。しかもあのお爺さんは自分が戦力外だという事に全く気づいてないし……。自分が一番弱いって自覚してよ!


「勝利のための捨て石となるのじゃ! わしらの勝利のためには、これもやむを得ぬことよ!」

「……ファイアボール!」

「血迷ったか! 貴様程度では時間稼ぎにもならんわ!」


 レミッタがササキにファイアボールを数発放つけど、ササキの槍の一振りであっさりと打ち消されてしまった。……やっぱりあの勇者一行にこの人の相手は無理だよね……。


「貴様では私を倒すことも出来ぬわ! 散るがいい!」

「きゃあっ!? ごめん……なさい……勇者さ……ま」


 もう一度ササキが槍を振るうと槍の先端から衝撃波が飛び出し、レミッタを吹き飛ばして壁に叩きつけ、戦闘不能に追いやってしまった。


「ちっ! 使えぬ小娘め! だが詠唱は完了した! 教会の秘術見せてくれよう! 来たれ彗星! シューティングスター!」

「何やら強そうな魔法ですね。どうなるんでしょうか?」

「さあ……」


 魔法の名前は確かに強そうだけど、でもあのお爺さんだし……。そう思っていたら、劇場の舞台の上空から小さな何かが大量に降り注いできた。


「あれは……何でしょうか?」

「あれが舞台に落ちたときの音が小石を落としたような音だけど……」


 魔法の名前と裏腹に何かものすごく頼りない感じがするよ……。小石を落としたような……じゃなくて、本当に小石を落としてるんじゃ……。 


「これがシューティングスターの……な、何じゃこれは!? 小石を降らせる魔術などわしは頼んでおらんぞ!?」

「雑魚に語る言葉は無い。……散るがいいわ!」

「ぐおおおおおおお!?」


 魔法の効果が想像と違う事に驚いていたお爺さんはそのままササキの槍で薙ぎ払われ、戦闘不能になってしまった。……ヒローズの勇者一行、本当にあっさり負けちゃったね……。ササキにダメージすら入ってないよ……。


「まあ、これが連中の限界でしょう。しかし、最後のシューティングスターを見ていると「なんだそのあわれな術は。流星とはこうして使う物だ!」と言ってやりたくなりますね」

「あのお爺さんの魔力じゃ無理がありすぎたね~。……当たり前だけど」

「だな」

「……」


 私にも使えるのかな? あの魔法……。


「まあ、小石を降らせる程度ですし、目くらましになら出来るでしょうね」

「使っても問題あるまい」

「試すだけ試しても良いんじゃないかな? 実戦では使い物にならないだろうけど」


 ……なんかそれだけじゃないような気がするんだけどな……。まあ、この依頼が終わってから考えればいいか。


「おお! 勇者一行ともあろうものが倒れるとは情けない! しかし、魔王の力はそれだけ強かったのであった! ……このままだと、劇が最初に戻ること自体無さそうだ。……ああ困った」


 挑戦者用の入り口の前に立っていた人が舞台に上がってきて劇の終了を告げた。……最後に何か言ってたけど、やっぱり遠くて聞こえない。


「マディス。ここの劇ってもしかして……」


 冒険者がこの劇団の人と模擬戦を行って進めていくの?


「そうだよ。この劇団の別名は「決闘劇団」だからね。ある冒険者が負けても別の冒険者が劇の続きをやるって仕組みになってるみたい」

「なんか……思ってたのと随分違うよ……」


 てっきり冒険者参加の楽しい演劇かと思ったのに……。


「ルーチェさん。そんな物は難易度1のクエストですよ? これが難易度5のクエストだからこういう内容なのでしょう」

「……そんな事だろうと思ったけど……」


 そりゃ難易度5のクエストに楽しい物なんて無いけどさ……。全部命がけだけど……。


「さ、今度は君たちだ。準備が出来たら呼ぶから少し待っていてくれ」

「分かりました」


 ……問題は、どうやってササキを倒すかなんだけど……。


「あのバリアごと破壊しないと駄目でしょうね。となると……」

「ルーチェに薬を使って、強力な魔法でバリアごと破壊する?」

「前衛としては不服だが、それが一番有効だろうな。マディス、任せた」

「というわけで、頼みましたよ、ルーチェさん」

「なんで私抜きで勝手に話が進んでるの!? ……魔法でどうにかするしかなさそうだしやってみるだけやってみるけど」


 あのバリアを破壊できれば、グリーダーやジルの攻撃も通るはずだし、私はバリアの破壊に全力を尽くそう。……これで良いよね?


「ええ。問題ないですよ。バリアさえ無くなれば数の暴力でどうにでもなるでしょう」

「って事だし、作戦はこれで良いよね?」

「作戦と言って良いのか微妙だけど……」


 でも、集団で一人に当たるのって勝負の上では重要だからね……。かなり卑怯だけど。


「そういう事だ」

「そもそも、卑怯とか言っている場合じゃないと思うよ? 生き残らないと意味が無いんだし」

「……そうだね。負けるわけにはいかないし」


 正々堂々戦いたいのが本音ではあるけど、負けたら意味が無いから……。


「待たせたね。準備は出来たから、ついてきてくれ」

「行きましょう。ルーチェさん」

「……うん!」


 ……相手が相手だし、気を引き締めていかないと!

ヒローズの勇者一行が本物の難易度5で勝てるわけないでしょう。な話。まあ、当たり前です。前衛の攻撃が効かなかったのはともかく、小石を降らせるシューティングスター(笑)とかやってる時点でねえ。


「貴様らに私を討伐することは出来ぬ! 愚かなムサシ共よ! 這いつくばるがいいわ!」


ササキ初登場場所→8話目「異界の傭兵を討伐しに行きましょう」

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