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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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勇者教会を見に行きましょう

 店を出た後、私たちは人目につかない路地に入って今後の予定を相談することに。勇者教会の事なんて、大声で言えないしね。


「え? 勇者教会に行きたいの?」

「うん。……万が一ここで狙われるようになったら、一刻も早く教皇を倒さないといけないし」

「そうだね~。あの教皇が相手ならなるべく早く手を打っておかないと危険かもしれないね」


 マディスに頼んで勇者教会に連れて行ってもらわないと。……最悪の事態の想定だけはしておかないといけないしね。


「ルーチェさんにしてはまともですよね。まあ、最悪の事態に備えなければいけないのは事実ですが」

「同感だ。相手はテラストの森で何のためらいも無く襲ってきた連中の親玉だ。相手の事を調べておくのは重要だろうな」


 うん。だからこれから勇者教会に行ってみたいんだけど……。


「分かった。……だけど、今の姿のまま行ったら大変なことになるだろうから……」

「変装ですか?」


 確かに、この姿で行ったらすぐに見つかるよね。


「うん。……と言っても、薬で、だけどね」

「へ?」


 直後、マディスに薬を頭からかけられる。……だから、何でいつもいきなりなの!?


「どのみちやるから別に言わなくても良いんじゃないかなって思うんだけど?」

「普通その前に一声かけるよね!? 心臓に悪いよ!」

「……」

「……」

「……? ジルもグリーダーも何で黙ってるの?」

「いえ、ルーチェさん、ですよね?」


 え? 当たり前だけど……。


「はい、鏡」

「……って、これ本当に私!?」


 マディスに渡された鏡に映っていたのは、髪の毛の色が赤みを帯びた金髪に変わり、青だったはずの目の色が赤色に変わった女の子だった。……思いっきり姿が変わってるよ! 元の私と似ても似つかないもん!


「これなら、グリーダーのそのオーラも一時的にだけど消えるんじゃないかな?」

「まあ、敵地に乗り込む以上やむを得ないか」


 マディスの薬がグリーダーにかかった途端、グリーダーの姿が変わっていく。ずっと周囲に存在していたどす黒いオーラが消え、やや黒かった肌が白くなり、背丈が縮んでいく。……ちょっと待って! 完全に別人になってないかな!? 背丈が縮むっておかしいよ!?


「悪魔からクラスチェンジしましたね。ここまで変わると本当に誰か分かりません」

「何だこの姿は……だが、確かにこれなら元が俺だと分かるまい」


 薬をかけられたグリーダーは身長250センチの大男から一転、身長170前後の金髪青目の男性の姿に変わっていた。……いくらなんでもやりすぎだよこれ! もう原型留めてないよね!? 誰か分からないよ!


「……ここまでやったらさすがに誰か分からなくなるでしょ? あのオーラも消えたし、これで安心して入れるよ?」

「これは凄いですね。私にもお願いします」

「もちろん。じゃ、かけるよ?」


 ジルにもマディスの薬がかけられる。……ジルの銀髪が青みがかり、目の色が黒色から紫色に変わっていった。


「へえ……これが一時的なのがもったいないくらいの効果ですよね」

「まあ、一時的にしか使えないからね。じゃ、下見に行こうか」

「って、マディスは姿を変えなくていいの?」

「まあ、手配されてないだろうしね。じゃ、ついてきて」


 ……勇者教会、どんなところなのかな……。


ーーーー


「……石像がたくさん立ち並んでる……」

「ここが勇者教会の入り口。ちなみに、この石像は全部歴代ヒローズ勇者の石像だよ」


 マディスに案内してもらい、到着した勇者教会の広場には無数の石像が立ち並んでいた。……一体勇者を何人呼び出したのこの教会は!?


「公になってるだけで、512人は居ると思うよ?」

「呼び出しすぎですよ。そんなに勇者を呼んで一体何がしたいんですか……」


 全くだよ……。


「何だあれは? 何の貼り紙だ?」

「どうしたの、グリーダー?」


 グリーダーの視線の先には何枚かの貼り紙が。……何だろ?


「……勇者教会の新しい本の発表でしょうか? 広場の一角で売ってるみたいですね」

「みたいだね~。勇者教会が出してる本は売れてるみたいだよ?」

「……一度見てみる?」


 もし洗脳や脅迫をされて買わされてるんだったら最悪だけど……どうなんだろ?


「まあ、さすがにそこまでやることは……どうだろうね……」


 そこは否定してほしいよ……。


ーーーー


「あれがそうかな? 沢山人が並んでる……」

「……勇者教会の経典でしょうか?」

「みたいだね。勇者教会の経典はヒローズの人の暇つぶしには丁度良いみたいだし」

「暇つぶし用の経典か……」

「うん。何せ、勇者教会に入信したりするのってお金持ちだけだからね」


 何でお金持ちだけなの?


「元々、この国って勇者教会を中心とした貴族政治だったらしくて、今のお金持ちたちはかつての貴族だったんだって。勇者教会が実権を握っていた時には多額のお金を出資して自分の思うように動かしていたみたいで、今もその名残で勇者教会に入信してるみたいだよ?」

「じゃあマディス、今の政治はどうなってるの?」

「貴族と教会を政治からは追放したけど、教会がやっぱり好き勝手に暴れまわるみたいだね。勇者が絡むと確実にいちゃもんをつけてくるみたい」

「……それって、政治の意味が無くなってない?」


 教会が好き勝手に暴れまわるんじゃ、意味ないよね……。


「ま、その辺の事も教会の経典に書いてあるんじゃないかな?」

「……どうやらまだ買えるようだな。そろそろ行くか?」

「ええ。どんな内容なのか楽しみですね、ルーチェさん」

「そうだね」


 どんな内容なのか、一度見てみるのも悪くないよね?


ーーーー


「経典一冊1000ゴールドになります」

「はい(……何なのこの違和感……。笑顔のはずなのに何故かすごく怖い……)」

「こちらが経典になります。勇者様と教会のため、祈り続けなさい」

「ありがとうございます」


 ……経典を売ってる人の目、何か普通じゃないよ……。一見笑っているように見えるのに、目の奥に何かおぞましい物が見える……。早く離れよう。


「何ですかあれは……マディスさん、あれはもう人間の目じゃないですよ?」

「あれが勇者教会に入信して身も心も捧げた人間の目だよ。目の奥に宿る狂気がはっきりと感じられるでしょ?」

「なんていうか、下手に話しかけたら大変なことになりそうな気がしたよ……」

「まあね……下手に話しかけると、四六時中勇者の素晴らしさについて語り続けることもあるらしいし」

「恐ろしい相手ですね……」


 人の話なんて絶対聞かないだろうな……。


「教会の人だからしょうがないよ。……次は教会の中にも入る?」

「そうだな。見ておいて損はないだろう」

「うん。初めからそのつもりだよ」

「経典はマディスさんの家に戻ってからでもいいですね。今は教会の方に行きましょう」


 今度は勇者教会の中に入ってみることに。……中はどうなってるんだろ?


ーーーー


「ああ、ちょうどいいところに。これから教皇様の演説が始まるので、どうぞこちらに」

「え? はい……」


 教会に入った途端に入口で立っていた人に奥へと案内される。……教皇の演説? 何を話すんだろ?


「凄い人だかりですね」

「当然です。勇者教会の教皇様の有難い演説ですから」


 私たちが案内された大広間には人がたくさん居て、とても部屋の奥が見える状態じゃなかった。上を見るとバルコニーのようになっている場所があり、そこにローブ姿の人達が数人立っている。……そこから演説するのかな?


「これより教皇様の有難いお言葉がいただけます。ですが、その前に……一同、教皇様に祈りを捧げよ」


 バルコニーの上から一人が私達が居る場所に顔を出し、祈りを捧げるように告げた。すると、私たちの前に居る人たちは皆両手を合わせて祈りはじめる。……一応、私も祈るふりだけはしておかないと。


「ふふふ……もう祈りは良いわ。今からは私の話を聞いてもらうから。祈りを止めて顔を上げなさい」


 祈りを始めてから3分程度すると、上から女の人の声が聞こえてきた。祈りを止めて顔を上げると、ジルと大して変わらないくらいの見た目の女の子が立っていた。腰まで伸びた凄く長い黒髪と目、全く身の丈に合っていない分厚くて重そうな藍色のローブが特徴だった。


「勇者教会の現教皇、ユミル・ボルトウェイブだよ」


 マディスが私に耳打ちしてくれた。……あの子が暗殺者を私達に派遣してきた教皇なの!?


「さて、何から話しましょうか……そうだわ。皆も、私の勇者様を貶めた犯罪者のその後を知りたいでしょう? まずはそれから話してあげるわ」


 教皇の勇者を貶めた犯罪者……思い当たるのは私達しか居ないよね……。


「連中とは昨日、ヒローズで私の私兵団が交戦、顔も確認したわ。ふがいない事に全員やられたみたいだけど……ああ、忌々しい! 私の勇者様に濡れ衣を着せて貶めるなんて……! あの政治家連中と結託して私の勇者様を貶めようとしてもそうはいかないわ!」


 濡れ衣も何も、ヒローズの勇者の仲間が犯罪者の手助けをしたのは事実なんだけど……。


「だけど大丈夫よ! 連中がテラストを通ってテラピアの方に向かっていくのは予想済み! あいつらが何処に逃げようと、私の教会騎士団から逃げ切ることは出来ないわ! 地獄の果てまでも追いかけて、連中の首を叩き落としてあげるわよ!」


 ……あなたの目の前に私たち居るんだけど……。


「それに、勇者様を貶めようとしても無駄よ! 私が動けば、一月の罪でも一週間に短縮できるんだもの! 私の力があれば、スロウリーやベルナルドは絶対に守れるのよ! 再教育などと言う名目で追放しようとしてもそうはいかないわよ!」


 一月を一週間にって……まさか!


「罪をべらべらと自白していたあのお爺さんがあんなに早く釈放されているのはおかしいと思いましたが、そういう事ですか」

「滅茶苦茶だよ……」


 教会の権力を使ったのかな? 罪人の拘留期間まで短縮させるなんて……。


「教皇様。まずは必要な案件だけ言いましょう」

「ああ、そうね……。勇者様のクエストは全く問題ないわ! あの調子でどんどん難易度5のクエストを受けさせて、私の勇者様が素晴らしい実力者だという事を思う存分知らしめるのよ! 最低20個は難易度5のクエストを受けてもらう予定よ! 更にギルドカードもいじって、今までに受けた依頼の難易度も書き換えてあげたわ! これで名実ともに勇者様は難易度5の依頼のみを攻略したことになるのよ!」

「教皇様! つまり、我々の勇者様が名実ともに世界最高峰の実力を有することになると……!」

「ええ! その通りよ! どこかの冒険者が難易度5のクエストのみを攻略しているなどと言うふざけた嘘が飛び交っているけど、そんなのありえないわ! 難易度5のクエストのみを攻略する……そんなことができるのは、私たちの勇者様だけなんだから!」


 嘘じゃなくて本当なんだけど……。でも、この分じゃ言っても無駄なんだろうな……。


「無駄でしょうね。しかし、随分おめでたい思考の持ち主みたいですね。本当に常識が通用しませんよ」

「ジルの言うとおりだね~。でも、これが勇者教会の教皇だからね……」


 勇者教会の教皇、こんな無茶苦茶な人だったなんて……。


「それで、教皇様! あの連中はいつになったら勇者様を貶めた犯罪者どもを追討する部隊を出すのです?」

「あの役立たず共、何を言っても「財政が~」「負債が~」「今それどころじゃないので~」と言うばっかりで何の役にも立たないわ! ああ忌々しい! あんたたちが働かないから、私の私兵団だけで追いかけなければいけないんじゃない!」

「……教皇様! いっそヒローズの町中を滅茶苦茶にしてでも連中に言う事を聞かせればいいのではないでしょうか!?」


 この信者たち、何考えてるの!? ヒローズは自分たちの町だよ!?


「……そうね……。そっちの方向で考える必要もあるかもしれないわね……。でも、まだよ。私は心が広いから、まだ待ってあげるわ。私たちのいう事に従ってくれさえすれば、町を壊さなくても良いんですもの!」


 最悪だよ……。ここまで狂った考え方をしてるなんて……。


「いずれにしても、もうしばらく時間が必要ね。私も早く役人どもに言う事を聞いてもらいたいところだけど、今は勇者様を強くすることが優先ですもの。なので、もう少し現状を維持する方向で動くことにするわ!」

「全ては、勇者様のために、ヒローズ勇者教会の永遠の繁栄のために!」


 現状を維持する……って事はまだ大丈夫なのかな? 教皇はもうバルコニーの奥に戻ってしまったし、この話も終わったの?


「教皇様のお話は終了しました。さあ、勇者様と教会に祈りを捧げる生活に戻るのです」


 終わったんだ。じゃあ、もうここを出ようか。


「そうですね。行きましょうか、ルーチェさん」


 教皇がどんな人間かはよく分かったしね。


ーーーー


「あ、あれ? 戻ってる?」

「まあ、効果は一時的だからね」


 マディスの家に戻ってきたときには薬の効果が切れていて、私たちの姿は元に戻っていた。


「しかし、酷い人ですね。事もあろうに勇者を貶めたなんて言い出すとは思いませんでした」

「全くだよ……」


 というか、そもそも最初に仕掛けてきたのは向こうだよ!


「ね? 全く常識が通用しないでしょ? あれが勇者教会の教皇だよ」

「ルーチェ。ベルナルドとスロウリー……これは勇者一行の仲間か?」

「そうみたい。勇者が騎士と魔術師を呼んでいた時にその名前で呼んでたから」


 ……騎士団長ベルナルド、魔術師スロウリー。両方勇者の仲間だよ。


「それにしても、何をやらかすつもりでしょうか。ヒローズの町を滅茶苦茶にしてでも私達を追討するための部隊を出してほしいみたいでしたけど」

「多分、この辺り一帯を壊しつくすんじゃないかな? この辺りは元平民ばっかりが住んでるから、壊したところで痛くも痒くも無いだろうし」

「そんなのさせたら駄目だよ! 絶対止めないと!」


 あんな滅茶苦茶な理由で町を壊すなんて許せないよ!


「ルーチェさんの言いたいことも分かるんですが、それは同時にあの頭の痛い人を私たちの手で始末することも意味しますよ?」

「そうだね~。やるなら確実に教皇を倒さないと、何のためにヒローズに来たのか分からなくなるだろうし」

「……」


 確かに、ここでもし暴れたら確実に私たちがこっちに居ることがばれるから、そうなったら教皇と戦うことは避けられないよね。倒さなかったら以後ずっと暗殺者に狙われることになりそうだし……。


「まあ、国が黙って見ているはずはないだろう。もし教会が町を破壊しようものなら、たいてい事前に最後通告があるはずだ。その時に新しいクエストが発表されるのではないか?」

「でしょうね。グリーダーさんの言うとおり、国の軍隊だけで抑えられるか分からない相手ですし、依頼がギルドに入るかもしれません。その時に依頼を受けて戦うのが最善策ですよ」

「……分かった。でも、その依頼が来たら絶対に受けるよ? 構わない?」


 私達にはこの国は関係ないけど、あんな滅茶苦茶な人は放っておけないよ!


「その時が来たら、暗殺者を送ってきたときのお礼もしてやりましょうか。徹底的に叩き潰して、勇者教会を壊滅させてしまいましょう」

「俺たちは一応冒険者として動いている。だから依頼として教会と教皇を潰せるものが来たら俺は独断でも受けるぞ?」

「君たちに付いちゃったからね~。このまま流れに乗ってみるよ。あの教会があったら安心して旅も出来ないだろうし」

「……分かった。もし教会討伐の依頼がギルドに来たら、教会とあの教皇を倒そう! あんな馬鹿な事を平気でやる人、この国のためにも放っておくわけにはいかないから!」

元から電波設定のオリキャラを使っただけの事がある。擁護不可能な暴論の塊だ。


「何なのあれ! 事もあろうに自分たちの町を壊してでも言う事を聞かせるって最悪だよ!」


ここまで電波化するとは想定外だったが、まあ、同情の余地すらない悪役だし丁度良いよね。こんな滅茶苦茶な人絶対仲間にしたくないけど。


「当たり前だよ!」

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