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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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魔物と戦いましょう

「グリーダーさん!」

「任せろ!」


 煙が晴れると、魔物がこちらに向かって来るのが見えた。ジルがグリーダーに指示を出し、氷刃を飛ばす。


「同ジ手ナド食ワヌ!」


 しかし、さすがに二回目は通用しなかったようで、魔物はグリーダーの氷刃目がけて炎を吐き出してくる。氷刃が進む先が炎で閉ざされ、なすすべなく氷刃は消えてしまう。


「頭に叩き込んであげますよ。……ダークボム!」


 でも、炎を吐き出していたらさすがに急には動けない。ジルの魔法が放たれるのに気付いた敵は、なすすべなく飛んできた魔法を受ける。黒い爆風が生じ、魔物の巨体を後方に弾き飛ばす。


「行きますよ、ルーチェさん! グリーダーさん! なるべく下がれる場所は確保しないといけないですから、畳み掛けて奥まで追い詰めます!」

「うん!」

「了解した!」


 ジルの言うとおり、追い込んでいかないと! もし追い詰められたら大変なことになる!


「同胞ノ仇! 貴様ラ皆殺シダ!」


 その時、魔物が吹き飛んで行った窪地から無数の氷刃が飛来してきた。……出来るか分からないけど、防がないと!


「な……氷刃ですか!?」

「何だと!? 炎だけではないのか!?」

「ジル、グリーダー、下がって! ファイアウォール!」


 氷刃と私たちの間に炎の壁を張って氷刃を溶かす。あの魔物にできたのなら、私だって……!


「小癪ナ!」

「貫け漆黒! デモンスピア!」


 氷刃を無効化された魔物が忌々しそうに吐き捨てるのを合図に、ジルが魔術を発動させる。直後、空から大量の紫色の雨、いや、槍のように尖った何かが横殴りの雨のように降り注いで窪地の奥に居る魔物を狙う。窪地の奥にはもう逃げ場はない。


「グオオオオオオ!」

「なっ! 強引に!?」

「ジルの魔法が次々に背中や足に刺さってるけど、全く止まらない!?」


 追い詰められた魔物はジルの攻撃などお構いなしに突っ切ってくる。その背中や足に次々にジルの魔術が突き刺さってるけど、止まる気配が無いよ!


「止まらないだと!? ……デモニックブラスター!」

「サンダーボルト!」


 両手を広げたグリーダーから無数の黒い光線が、私の右手から収束した電流が飛び出して魔物に向かう。正面から突っ込んでくる魔物は魔術を避けきれずに全部直撃しているけど全く止まらないよ!


「死ネ!」

「……! 仕方ありません!」


 全く止まらない魔物の前にいきなりジルが飛び出し、そのまま魔物の爪で切り裂かれて大きく吹き飛ばされる。……って、何やってるの!? 大丈夫!?


「ジル!」

「……少し無茶しましたかね……ですが、止められましたよ……!」

「ガッ……アアアアアアア!?」

「そんな事より怪我は……無い!? 明らかに切り裂かれたよね!?」


 吹き飛ばされたジルは怪我自体負っていない。切り裂かれたのにどうして!?


「簡単ですよ。あらかじめ口に特効薬を入れて切り裂かれた直後に飲んだんですから。……痛みだけは残りますけどね……」


 腕を抑えながら立ち上がるジル。……無茶だよ!


「……ですが、こうすれば、あのように無防備になりますよ? 他の事に目が向くようにするには手っ取り早いです」


 ジルの言うとおり、攻撃を終えた魔物は突然苦しみだしてのた打ち回っている。


「攻撃が成功して気が緩みましたね……決死の特攻が成功したら今まで気にならなかった痛みが気になるでしょう?」

「アアアアアア……!」

「ルーチェさん、止めを!」

「うん……! ホーリー・カノン!」


 魔物の身体は光の砲弾によって吹き飛ばされ、そのまま動かなくなった。……勝った?


「何とか、倒せましたね……」

「これで終わりかな?」

「依頼達成、か?」


 この魔物が討伐対象だっていうなら今度こそ帰れると思うんだけど……。


「グ……ググ……」

「まだ動くの!?」

「様子が変です! 一体何が……!」


 魔物の屍がいきなり喋ったかと思うと、何処からともなく現れた紫色の何かが魔物の屍に纏わりついていく。……まさか……。


「私達が壊滅させた魔物の怨念ですか!?」

「怨念!?」

「亡者化、か」


 倒した魔物が魔物の怨念で亡者化するなんて! というか止めないと!


「シャイニングレイン!」

「……ですが、私達は相手の異変を黙って見ているほどお人よしではないですよ? ファイアボール!」


 紫色の何かが光の雨に次々に貫かれ、中の魔物は炎で焼かれる。……これで止まるよね?


「卑怯者メ! ダガ、無駄ダ!」


 光の雨の中から魔物の声が聞こえた直後、地面から紫色の煙が噴き出して魔法を弾き返すようになり、私達の攻撃が通らなくなってしまった。そのまま魔物の本体は煙に包まれてしまう。


「効かない!? ……どうしよう!」

「相手が動かないなら、今のうちに特効薬を! 動き出せば攻撃も通るでしょう!」

「……分かった!」


 相手が動かないなら私達も回復しておこう! もし回復せずに連戦なんてことになったら……。


「この地で貴様らに消し去られた魔物たちの怒りと恨み、知るがいい!」


 魔物を包み込んでいた煙が卵の殻のように弾け飛んで消えると、先ほどの魔物の身体に無数の魔物の顔らしき物が浮き出た化け物が現れた。……何なのこれ!? 文字通り化け物になっちゃったよ!


「まさかこれ以上進化するなんてことはないですよね……?」

「我らの怒りと恨みを知るがいい!」

「ちっ! 来るぞ!」


 先ほど同様に四足歩行でこちらに向かってくる魔物の身体のいたるところにある顔から次々と赤い弾が吐き出される。弾が当たった場所が次々に燃えてるってことは……あれは全部火炎弾!?


「上にも気を付けてください! 上からも攻撃が降ってきます!」

「嘘!?」


 ジルが叫んだ通り、魔物の攻撃は上からも容赦なく降ってくる。さっきに比べてずっと魔物の動きは遅くなってるけど、それでもこれは不味いよ!


「……防壁作成! アクアウォール!」


 上空からも火炎弾が降ってくるなら防げるのはこれしか……!


「目障りだ! 消え失せろ!」

「何か来ます! 左右に!」

「え!?」


 魔物の叫び声が聞こえた直後、アクアウォールの中央を巨大な黄色い光線が貫き、アクアウォールは霧散した。アクアウォールがこんなに簡単に貫かれるなんて……まさか今のはサンダーボルト!?


「炎、雷を別々に使えるんですか……? しかし、私が盾になろうにもフォークで吸収できるのは1つだけですし、その間に上空や足からの攻撃でやられますね」

「地形は何とか利用できないか? 下敷きを狙うとかどうだ? 失敗しても一応足止めになる」

「……試してみましょうか。ルーチェさん!」

「分かった! しばらくお願い!」


 この辺りにある木のほとんどがあの魔物の顔から絶え間なく吐き出されている火炎弾で燃えているから、これを上手く魔物の上に倒せば……。


「さあ、貴様らも冥土に行くがいいわ!」


 魔物がそう言うなり、魔物の前足についている無数の顔から次々に火炎放射が吐き出され、周囲の木々を焼き払っていく。こっちにくる炎はジルやグリーダーが防いでくれているけど、全身の顔から自由自在に攻撃を放つって本当に反則性能だよ!


「魔物を虐殺した愚かさを悔いながら無に帰るがいいわ!」


 一番大きな顔……というか、この怪物の元になった魔物の顔が怒鳴りかけてくる。……こんな化け物相手なら普通ならとっとと諦めてもおかしくない、でも!


「……でも、私は絶対に諦めない! ウインドカッター!」

「魔物を虐殺した愚かさを私に悔い改めさせたいのならば、金貨1000万枚積んできてください! ダークボム!」

「俺の前に立ちはだかる限り、俺は貴様を排除するだけだ! デモニックブラスター!」

「まだ抵抗するか!? だが、私に抵抗するなど無駄だ! わが同胞の怨念が全ての攻撃を迎撃する!」


 黒い球体と無数の光線が魔物に向かって飛ぶ。当然魔物の無数の口から攻撃が飛んできて迎撃してくるけど、迎撃に集中しているから私の事は目に入ってない! 今のうちに木を一気に切断して……!


「何!? 自然までも壊すと言うのか!? だが……」

「倒すのに、もう手段は選べないから! アクアウォール!」


 倒れ掛かった木に水を纏わりつかせる。魔物の背中と右半身についた口から火炎弾が発射されるけど、水の壁は雷でもなければ簡単には消えない!


「くっ! 一旦下がって私の雷で……」

「逃がすと思うか? サンドストーム!」


 魔物はこの木に対処するには炎ではどうにもならないと悟って木を避けるために下がろうとするけど、グリーダーの魔術で砂地獄に飲まれて動けなくなる。


「くっ! だが、首だけでも向ければ……!」

「させない! ホーリー・カノン!」

「おのれええええ!」


 魔物も当然倒れてくる木をなんとかしようとするけど、黙って見ているだけなんてことはしない!


「デモンスピア!」


 光と雷が相殺された衝撃で砂埃が巻き上がり、視界が見えなくなる。そこに紫色の槍が無数に叩き込まれる。直後、私の魔法で真っ二つになった木が魔物を下敷きにして地面に落ちた。


「ギャアアアアアアアア!」

「当たった!?」


 これで終わってくれると嬉しいんだけど……。


「ア……アア……」


 視界が晴れると、そこには木の下敷きになった魔物の姿があった。無数の顔は木に潰されるか槍に貫かれてすでに動かない。まだ本体は動いているけど、ここで止めを刺せばもう動かないよね?


「やりましたね」

「うん。今度こそ……ホーリー・カノン!」


 木の下敷きになった魔物目がけ、攻撃を放つ。もう攻撃を防ぐ体力は無かったらしく、魔物は上に乗っている木もろとも光に飲まれて跡形も無く消えた。


「ようやく終わったな」

「何で復活するの……というか、何なのあの反則性能……」


 もし周囲の口からも雷が吐けたらどうなってたか……。


「まだ終わってませんよ、ルーチェさん」

「え?」


 魔物は倒したよ?


「あの魔物の攻撃であちこち燃え盛っています。これをなんとかしないと帰れませんよ」

「最後の最後まで最悪な魔物だよ!」


 遠くから煙が上がってるのを見れば分かるけど、あちこちで森林火災が起きてるし! 空に無差別に火炎弾をばらまくなんて本当に最悪な攻撃だよ!


「豪雨を降らせて何とかしろ」

「無理だから!?」

「じゃあ、氷漬けにしてください」


 それしか……ないよね? 雨のように降らせるのは無理だし、フリーズなら範囲指定でまだどうにかできるし。


「燃えている場所とその周辺全部凍らせて! フリーズ!」


 直後、急に周囲の木々が凍りつきはじめ、瞬く間にテラスト西の森は氷の森へと変貌してしまった。でも、火災はこれで止まったし、大丈夫だよね?


「そのうち、氷の森として観光名所になりますね」

「ならないよ!? こんな所そもそも観光名所以前に安易に立ち入ることすらできないから!」


 あの化け物以外にも、無数の魔物が集まっている場所だってあるのに……。


「まあ、後の事は全て近くの町のモブがどうにかすることだ。俺たちには関係ない」

「ですよね。私たちの役目はただ魔物を討伐することです。その際森をどうしようと私たちの知ったことではありません」

「普通一番気にしないといけないことだよ!?」


 今日は……あんな化け物が相手だから仕方なかったけど……。


「でもそうやって仕方ないの一言で正当化するでしょう? 勇者ってそんな物なんですよ、ルーチェさん。自分に都合の悪いことは魔物辺りの責任にして仕方ないの一言で正当化するんです」

「じゃあ、どうすればいいの!?」

「もちろん、考えてください。と言われるだけですよ」

「勇者ならば何も考えることはない、だが、勇者だから考えなければならん、と言う事だ」

「思考放棄せずに考え続けろって事?」


 まあ、当たり前だけど……。


「と言うわけで、この惨状の言い訳を考えてくださいね、ルーチェさん」

「何で!?」

「だってあなたがやったんですし」

「ああ、お前の魔法が全てのきっかけだからな」

「ちょっと! 何その理屈!? というか、指示したのは二人じゃない!」


 だって、二人が周辺の被害など考慮するなって!


「何ですか? 先生がやれって言ったからやっただけだよ! 私は悪くない! 私は悪くない! とでも言うんですか?」

「先生ってそもそも誰!?」

「先生も知らんのか? 自分は強力な魔術を使える癖に生徒には剣術しか教えていない駄目男だぞ?」

「27なのにありえないくらいの老け顔ですよ」

「知らないよそんな事!」


 というか、何で私だけが言い訳を考える必要があるの!?


「ルーチェさんの魔術でこのような惨状が発生したからですよ」

「だからやれって言ったのは……!」

「ルーチェさん自ら率先してやったでしょう? だからですよ」

「率先してはやってないから! 二人に攻撃を指示されたけど、その前に自ら仕留めようと率先して魔法を使ったりはしてないよ!?」


 魔物討伐だから仕方ないじゃない!


「で、仕方ない、で済まされるんですよね。それが勇者ですけど」

「まあ、仕方ないな。とっとと依頼達成の報告をしてヒローズに向かうぞ」

「……無事に入れるのかな? というか、いくら通り道でも、戦闘力を高めるためでも、悠長にクエストを受けている場合じゃないような……」


 普通ならさっさと通り抜けた方が良いだろうし、私もそうしたいけど……。


「何言ってるんですか。勇者が旅先で襲撃されるなど、イベントでもなければありえないんですよ? モブは常に同じセリフを吐く機械ですから、イベントが起きない限り大丈夫です」

「ああ。敵地で散々暴れまわっても、町の中では平然と施設を利用できるからな。というか、敵の本拠地に乗り込んでもいつでも脱出して補給が行える」

「だからそんな変な常識通用しないんだってば!」


 そんな常識通用するの物語だけだよ!


「ルーチェさんの懸念など当たらないので大丈夫です。というか、無数の敵を一瞬で支配下に置いたチャームの威力を忘れましたか? これを使えば、役人でも国のトップでも私の支配下に置けますよ?」

「余計に重大な問題を引き起こしそうだからやめて!」

「安心しろ。調子に乗るモブは首をへし折って順次改心させる」

「相手が改心する前に私たちが捕まるからね!?」


 本当にこんな調子で大丈夫なのかな……。

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