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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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罪人の末路を考察しましょう

「で、では、これで勇者一行の件は不問と言うことで……」

「ええ。いいですよ。このお金が条件ですからね」


 ルーチェです。途中でヒローズの勇者一行に乱入されて大変な事になったけど、無事に畑荒らしは捕まえ、勇者一行も何とか対処出来ました。……ところでジル、少しいいかな?


「何ですか? ルーチェさん?」

「この持ちきれないほどの大金は一体何!?」


 ジルがヒローズの人と何を話してたのかは分からないけど、私の背丈の4倍はありそうなこのお金の山は一体何なの!?


「決まっているじゃないですか。ヒローズから毟りとった賠償金ですよ」

「賠償金にしては多すぎない!? だってこれ中身全部金貨だよ! 億は確実に越えているよね!?」


 金貨数十万枚って普通じゃあり得ない額だよ!? 一体いくらあるの!?


「1兆ゴールドですよ。ヒローズの国家予算丸ごとです」

「取りすぎだよ! 国家予算丸ごと賠償扱いで奪い取ったの!?」

「ええ。私たちは勇者一行の妨害で大怪我したという設定ですしね」

「ちょっと待って! 怪我自体していなかったよね!? 私の記憶に有る限りジルもグリーダーも怪我自体していないよ!?」


 一方的に追い詰めた記憶しかないもん! というかそもそも何なのその包帯!?


「当たり前です。あなたがチャームで操られてから怪我を演出したんですよ。この包帯はそのために巻きました」

「チャーム!? 私誰に操られたの!?」

「私ですよ。お仕置きに走るルーチェさんを健気にチャームで止めました」

「それ以前に、何で私を操るの!?」


 チャームって味方に使う物じゃないよね!?


「ええ。普通であればそうでしょうね。ですが、こうしなければお金が手に入らないですし」

「またお金なの!? お金のためだけに私にチャーム使ったの!?」

「当たり前です。そうでなければ、何が嬉しくてルーチェさんにファーストチャームを捧げるんですか」

「チャームはただの魔術なんだから大げさな言い方しないでよ!」


 というか何なのファーストチャームって……別に中身は変わらないよね……?


「何言ってるんですか。ファーストキスと二回目以降で変わるように、気分が変わりますよ」

「チャームは魔術なんだし、気分なんかどうでもいいじゃない!」


 そもそも戦闘用の魔法でしょ!?


「何言ってるんですか。寄付を募るための魔法ですよ」

「だからそれはやっちゃ駄目だってば!」

「寄付を募る以外に使い道があると考えているんですか? 馬鹿なんですか? 死ぬんですか?」

「何で!?」


 戦闘の際に敵を混乱させるような使い道が普通だと思うんだけど!?


「そんな時代遅れなことはしないですよ。現代のチャームは寄付を募る魔法です」

「戦闘の際に使うのは時代遅れなの!? おかしいよ!」


 そもそも使い方がおかしいと思うし!


「いえ、おかしくはありません。こうすることで勇者に対して寄付金を出さない罪深いモブからお金を吸い上げたり、金を持った勇者からお金を恵んでもらったりすることができるんですから」

「お金以外に使い道無いの!?」

「お金以外に無いですよ」


 技能の無駄使い……。


「まあ、その話はおいておきましょうか。これだけの賠償金を奪い取り、更に畑荒らしも討伐できた。素晴らしい成果ですよ」

「そもそも怪我すらしてないのに何で怪我を演出したの!? それと、私別にチャームで操られる必要なかったよね!?」

「ああ、あのような正義ぶった人間は制裁されると喜ぶ人たちがいるんですよ。だからと言ってルーチェさんが肉体的に痛めつけてしまうと、何故かこっちが悪いことになってしまうので、そうさせないために止めました」

「誰が喜ぶの!? 人の話を聞かないのはアレだけど、自分の正義のために進んでるだけだよね!?」


 だってあの三人は……。


「良いですか? あのような正義ぶった人間は、口では「関わりたくない」「殺したくない」とか言ってますけど、実際は嬉々として関わってきたり相手を殺し、踏み台となる相手を見下しながら再起不能になるまで痛めつけて殺害もしくは社会的に抹殺し、ご都合主義的洗脳で何人も落とし、そのまま複数人の女性と関係を持てば鈍感を装ってさり気なく何股もかけ、最終的には何故か全員と結婚している。そのような人種ですよ」

「言ってる事とやってることが矛盾してない!? 何股もかけて何故か全員と結婚とか色々滅茶苦茶だし! ご都合主義的洗脳とか怖すぎるよ!」

「これだけの事をしておきながら何一つお咎めなしですよ。――――もちろん、私やグリーダーさんがこんなことをやろうとしたら3分で牢獄に放り込まれるでしょうね」

「普通ならそうなって当たり前だから!」


 それはジルやグリーダーがおかしいんじゃなくて捕まらない方がおかしいよ!


「こんなの一部ですよ。なかには、文字通りの下種野郎――――自分以外に男性を入れないように、周囲に近づけないようにする人間とかもいますし。無自覚か意図的かは分かりませんが」

「そこまでするの……?」


 それはさすがに……何も言えないよ……。


「そして、先週捕えた彼らも同じような輩です。彼らの場合、畑荒らし達は「何をやっても自分たちが正義と思い込んでいる」タイプであるため、追い詰められるとヒーローのピンチみたいに仲間を呼びます。ついでに、彼ら二人の見た目はまさしく主人公のような美形です。なので、ますますヒーローのピンチみたいな絵になります」

「何をやっても正義と思い込むってとにかく面倒だよ……」


 説得以前に叩き潰すしかないもん……。


「そして、勇者の一行。まあ、あのお爺さんが畑荒らしと同じようなタイプですね。こっちは制裁されても忘れる生まれつきの馬鹿です」

「捕まえても私たちが悪いみたいに言ってたような気がするし……」


 畑荒らしが捕まったのにまだ言うの!? って思ったけど……。


「覚えているんですか? 実際は操られたふりをしていただけで制裁に乗り気だったって事ですかルーチェさん?」

「そんなはずないでしょ!? 何でか知らないけど意識が無かったのに覚えてるんだよ!」


 その時にはとっくに意識が無かったような気がするもん!


「ああ、覚えているふりでしょうか? まあ、いずれにしても忘れたように振舞う演出ですね。分かってますよ、ルーチェさん」

「全然わかってないから!?」


 覚えているふりなんてしてないよ!


「まあ、いずれにしてもこれでヒローズの勇者はこの先地獄を見ますよ。国家財政が空になれば負債をなんとかするために増税するしかありません。そうなると突然の大増税に対して国民は理由を知りたがります。勇者の仲間が不手際を起こしたことが知れ渡れば、ヒローズ国内での勇者の名声はガタ落ちです」

「酷い事なのに自業自得と思ってる私が居るよ……」


 まあ、犯罪者に加担しようとしていたし……当たり前なのかな?


「話は終わっていませんよルーチェさん。そうなれば当然逃げ出す国民が出るでしょう。そして逃げ出した国民が他の場所でヒローズの勇者のせいで生活が苦しくなったことを暴露します。そうなると、他の場所でもヒローズの勇者の評判が悪くなります。すると、世界中どこでも後ろ指を指される勇者一行の出来上がりです」

「かなり酷い末路しか見えないよ……」

「当たり前です。勇者の犯罪に対する正当な措置ですからね」


 ……あれ? 確か金を払わなかったら私たちがその事を各地で言いまくるって言っていたような……。


「ルーチェさん、やっぱり操られていたふりだけしてたんでしょう? まあ、それはともかく、その通りですよ。この場合、外から中に勇者の悪評が知れ渡るのでどのみち制裁を食らうでしょうね。何らかの形で正体を明かした瞬間、出て行け! です」

「って、どっちにしろ破滅するの!?」

「当たり前です。誰が好き好んでお優しい慈悲を与えると思いますか? 勇者の行動を邪魔した勇者は勇者法521条によって裁かれることが決定されているんですよ」

「慈悲はともかく、そこまで徹底的にする必要あるの!?」


 やっぱりやりすぎじゃないかな!?


「ありますよ。罰を受けないからこそつけあがるんです。あのお爺さんのような老害が生まれるのは罰を受けないからです。正しい罰を与えて絶望させ、自害に追い込むのが勇者法の理念です」

「自害に追い込んだら駄目じゃない! 反省以前の問題だよ!」


 反省させて復帰させるのが目的じゃないの!?


「ええ。勇者が犯罪を犯そうものなら、万死あるのみです。勇者法であろうと、何もしない押しつけ大王の作った法律であろうと、それは変わりません」

「王様の事を押しつけ大王呼ばわりは止めようよ!」


 そりゃ押し付けるだけで何もしない人かもしれないけど、でも!


「勇者を無理やり選抜する権力の塊ですしね。ですが、そんなの力でどうにでもなりますよ」

「力に力で対抗してどうするつもりなの!?」

「もちろん、戦争ですよ。城の兵士なんか、勇者が本気で相手をすれば一瞬で倒せるでしょう。勇者の仲間の騎士団長だってグリーダーさんに剣を掴まれて何もできませんでしたし」

「ちょっと!? さすがに戦争は不味いよ!」


 関係ない人がたくさん死ぬだろうし、こっちだって無事で居られる保証は無いんだよ!?


「難易度5のクエストすら超越した内容ですしね。クエスト名は「王国戦争:勇者無双」でしょうか?」

「なんなのその王国の兵士はその他大勢の雑魚ばっかりだと決めつけたようなクエスト名!? 王国の兵士だって強さは場所によって変わるから最悪足元救われるよ!?」


 さすがに弱い兵士ばかりじゃないよ!?


「まあ、しょせんモブですから。最悪ご都合主義で何とかなりますよ」

「ならないよ!? そんなのあったら私達ここまで全く苦戦してないよね!?」


 あの機械とか、魚とか! 命がけで戦った記憶しかないよ!?


「……私たちは主人公の補正が無いですからね。そんなものがあれば、すべての攻撃がクリティカルヒットして何の苦労もすることなく敵を倒せるでしょうけど」

「もう補正って言うよりインチキじゃない!」

「当たり前ですよ。俺最強の補正ですから。数字を打ちこんで中のデータをいじるんですよ」

「そもそもデータとかないから!」


 というか、何の話をしてるの!?


「仮想空間の話ですよ? 何か?」

「ここは仮想空間じゃなくて現実だからね!?」


 斬られたら血だって出るし、死んだら生き返らないから!


「生き返るでしょう? 教会に持って行って、寄付金を払えばオルガンの音色と共に復活しますよ?」

「しないよ!? 死んでしまったらそれまでだよ!?」


 少なくとも死んだ人が蘇るなんてありえないよ!?


「大丈夫です。首を落とされてもくっつければ蘇りますから」

「だから不可能だよそんな事!」

「ルーチェさん? 不可能だ不可能だと言っていると、いつまでたっても何もできないですよ?」

「これとそれとは違うよね!?」


 そう言う話は知っているけど、どうやっても不可能な事を出来る出来ると言うのもおかしいよ……。


「自己暗示は成功の元ですよ」

「自己暗示したって無理な物は無理だよ!」

「何言ってるんですか。自己暗示は失敗よりも成功の元になりますよ?」

「ありえないってば!」


 自己暗示したって空は歩けないよ!


「え? 歩けるでしょう? 何も気づかなければ、人は海の上や空だって自由自在に歩けます」

「そんなの物語の中だけの話だよ!」

「はあ、否定ばっかりして、夢の無い人ですねえ……」

「否定も何も当たり前のことを言ってるだけだよ!?」


 だってどんなに頑張っても歩けないもん!


「もしかして信じて実際に空を歩こうと挑戦したんですか? 痛い人ですね……」

「子供の時にやっただけだよ! そんな頭の残念な人を見るような目で見ないでよ!」


 今やってるはずないから!


「……子供の時も何も、今も子供じゃないですか。私より背も低いですし、丸太ですし、細いですし。ルーチェさんが16歳で私より年上なんて常識的にありえないですよ?」

「気にしてる事を……!」


 何で15歳のジルに背も胸も負けてるの……。何なのこの理不尽……。


「精神が子供だからですよ、ルーチェさん。私みたいに、誰彼構わず襲撃してアイテムを巻き上げるようになれば成長しますよ」

「それって絶対悪い方向に進むよね!? というか、少なくとも私の方が精神年齢は高いと思うよ!?」


 滅茶苦茶な行動を自制できるくらいには……!


「とか言いながら山賊行為や追剥をやっていた前科がありますよね? 盗賊のアジトを襲撃して中にあった物をほぼ全て奪って逃げたとか」

「急に叩き出されてお金も物資も無かったんだもん!」

「グリーダーさんごと敵を倒したりしましたよね?」

「そうしないと周囲の被害が大変なことになるから!」

「逆ギレしてボケた老人を魔法で散々虐待しましたよね?」

「あの人があまりに調子に乗ってるから……!」


 仕方ないじゃない!


「ここまでやっておいて言い逃れできるとか本気で考えているんですか?」

「やるしかなかったから! 仕方ないんだよ!」

「罪には罰を、ですよ、ルーチェさん。このピコピコハンマーで後頭部を全力で殴られれば勇者たちの魂もお許しになるでしょうね」

「ちょっと待って! そのピコピコハンマーってクリスタル製だよね!? それで全力で殴られたら間違いなく私死ぬよね!?」


 クリスタル製の超頑丈なハンマーだもんそれ!


「何言ってるんですか? これの何処がクリスタル製だと言うんです。叩きつけても「ゴスッ」ピコッという音しかしないでしょう?」

「何処が!? 明らかに鈍器で殴ったような鈍い音しかしていないよ!?」


 それはもうピコピコハンマーじゃないもん! 見た目だけ同じにした金槌だよ! 実際「ゴスッ」っていう明らかにピコピコハンマーじゃない音がしてるもん!


「そんなはずないじゃないですか。殴ってもピコッという音しかしないはずですし。当たってもダメージは無いですし、気絶しかしないですよ?」

「それが当たったら気絶以前に永眠しちゃうよ!」


 そのピコピコハンマーはもう玩具じゃないよ! ただの凶器だよ!


「この期に及んで罪から逃れるために言い逃れやいちゃもんをつけるつもりですか? 勇者の魂は常にあなたが犯した罪を見ているんですよ。聖水を泥水と偽って罪も無い一般人にかなり高い値段で売りつけたりしましたよね? 知ってるんですよ?」

「それはジルがやったことなんじゃないの!? 私は少なくともそんなことしてないよ!」


 泥水を売りつけたことなんかないって!


「私は確かに泥水販売をしましたが、勇者の旅の資金のためなので勇者の魂もお許しになってくれていますよ」

「何でそう言う許しちゃ駄目な事ばっかり許されてるの!? おかしくない!?」

「決まっています。巻き上げた資金の一部を勇者の魂に寄付したからです」

「どうやって魂に寄付するの!? そもそも見えないよね!?」


 見えない物にどうやって寄付するの!?


「三途の川で払えばいいんですよ」

「三途の川って、寄付金を払うには死んで来いって事!?」

「当たり前です。どう足掻いても死ぬように作ったルールですから」

「滅茶苦茶だよ!」


 それじゃ生きてる限り払いに行けないじゃない!


「……そういえば、私たちは今日何するんでしたっけ?」

「え? テラストで最後の難易度5の依頼を受けに行くんじゃなかったの?」

「いけませんね、ルーチェさんが騒ぎ立てるのでまたもや目的を見失ってしまいました……本当にこの人は……」

「私悪くないよね!? 勝手にジルが話の内容を変えていったんじゃなかったの!?」

「まあいいです。時間もありませんし、畑荒らしの末路でも見て哀れな最期を鼻で笑いながら最後の依頼を受けるために移動しましょう」

「いくら犯罪者だからって鼻で笑うのは酷くないかな!?」

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