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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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畑荒らしを討伐しましょう

「なるほど、遺跡の中はそう言う風に……」

「はい。すごく危険なので気をつけてください」

「なるほど、報告書を見ると、明らかに罠だらけですね……難易度5にしておいて正解でした」


 遺跡の調査の依頼が終わって報酬を受け取った時にはすでに日が落ちてた。そんなに時間がかかったような覚えはないんだけど……。


「ルーチェさんが罠にかかったりしましたしね。特効薬が一気に無くなりました」

「買ってきてもらうしかないな」

「それは言われなくても買ってくるけど……私が罠にかかったのはそもそもジルやグリーダーが滅茶苦茶な事をしたりしたからでしょ!」

「すいません。自分がしたことは全て忘れてしまう体質なので覚えていないです」

「俺もだ。何かしたか? さっぱり覚えていないな」

「何その迷惑な体質!?」


 そうやって責任逃れしようとしても、こっちは全部覚えてるんだよ!


「姑が面倒な進化をしましたよ、グリーダーさん」

「まあ、放っておけばいいのは間違いない。責任を負うのは面倒だ」

「ええ。責任と言うのは、逃れるためにあるんですしね」

「何でそこまで滅茶苦茶な考えをしてるの!?」


 責任は逃れるための物じゃないってば!


「何を言うんですかルーチェさん。面倒事や責任は勇者ではなく、国王にでも押し付けるべきですよ」

「連中はどのみち何もしないからな。責任くらい押し付けてやれ」

「その考えもどうかと思うんだけど……」


 何もしないから責任くらい押し付けてやる! ってどうなの……。


「良いじゃないですか。勇者に貢献できるなら、連中も本望でしょう?」

「ああ、俺たち勇者が負うべき責任だけでも肩代わりしてくれればこれほど有益な事は無い」

「というか、金も物資も出さない、責任の肩代わりもしないだと、もうそんな王族には存在している価値がありませんよね」

「ああ、勇者の役に立たない王族は死んでも構わんだろう」

「何でそう極論なのかな……」


 自分たちに全く貢献しない存在は死んでよし! なんて滅茶苦茶だよ……。


「まあ、これが勇者ですし。そんな事より、ちゃんと特効薬の買い足しはお願いしますね」

「う、うん……じゃあ今から行ってくるけど……」

「それじゃ、明日はまた別の依頼を受けますよ。それでいいですよね、グリーダーさん」

「ああ、問題ない」


 そんな流れで解散して私は雑貨屋に行くことになりました。特効薬を60本買い足したし、問題ないよね?


ーーーー


「畑荒らしの討伐依頼を受けるんですか?」

「はい」

「分かりました。畑荒らしをなんとかして倒してください」


 翌日、さっそく次の依頼を受けることに。次の依頼は畑荒らしの討伐みたい。……やっぱり難易度5じゃなさそうな気がするけど……。


「場所はここの畑です、毎晩毎晩トマト畑やピーマンを栽培している畑が襲撃されて……」

「栽培している人にとっては死活問題だよね……」


 何とかしてあげないと!


「まあ、受けてみましょう。ルーチェさん」

「うん」

「分かりました。では、依頼「畑荒らしの討伐」依頼します」


 さて、問題の畑に行かないと。


「畑荒らしですか……面倒な相手でしょうね……」

「どうして?」

「何せ、相手は目的を持って畑を荒らしているんです。止めさせるには最悪実力行使しかないと思いますよ」


 目的を持って荒らす……そんなこと言われても、何の目的があるのかなんてわからないよ……。


「畑を荒らす目的としては、自分の嫌いな野菜を栽培する農家に打撃を与えて作らせないようにする、自分の好きな野菜をタダで手に入れて奪い取る、転売して利益を得る、辺りが一般的だな」

「理由が全部酷い物ばっかりだよ!」


 そりゃ畑荒らしなんてやる時点で犯罪だけどさ!


「まあ、畑を荒らす理由なんて大体そんなもんです。さて、畑荒らしが来るまで、私たちはこの畑の中で待つとしましょうか」

「うん……」


 私たちが居るのはピーマンとトマトの栽培をしている畑。……何で畑荒らしなんてするんだろ……。


ーーーー


「日が落ちてきましたね。畑荒らしが現れる時間帯はもうすぐです」

「どんな人なんだろ……」

「理由はどうあれ、畑を荒らして勇者としての活動を行う英雄だ。悪人ではあるまい」

「畑荒らし自体がすでに犯罪だよ!?」


 泥棒は犯罪だもん!


「だが、魔物からの追剥は……と、お出ましのようだな」


 グリーダーが言った通り、畑荒らしが現れたみたい。行かないと!


「よし、いいか! 手筈通りにやるんだ! ……任せろ、お前の嫌いなピーマンは、二度とこの世界に存在できないように俺が焼き払ってやるからな!」

「……うん! トマトなんて、二度と出荷できないようにしておくからね。私達の嫌いな物を作っているこの家の人が悪いんだから」


 何なのその自分勝手で滅茶苦茶な理由!? そんな理由で畑荒らしをしてるの!?


「だから言ったじゃないですか。さあ、取り押さえに行きましょう」

「当たり前だよ! あんな身勝手な理由で畑荒らしをするなんて!」

「な!? 誰だ! 姿を見せろ!」


 畑荒らし二人組のうちの男の方が声を張り上げ、それにこたえるようにジルが男の前に出て行った。


「身勝手な理由で畑を荒らして人を困らせる畑荒らし、その言質も取りましたよ。言い逃れは出来ないですね」

「ど、どうしよう……ギルドに依頼でも出されちゃった……?」

「貴様ら外道の行い……勇者として、裁きを下す」


 畑荒らしの女の子の方にグリーダーが回り込む。


「く、くそっ! 俺たちは、崇高なる使命を果たすため、負けるわけにはいかないんだ! 当然、此処で捕まるわけにもいかない!」

「何が崇高なる使命なの! 明らかに自分勝手で身勝手な理由じゃない!」


 嫌いな野菜を栽培しているからそこに対して畑荒らしを行うって……本当に何考えてるの!


「何言ってやがる! 俺の嫌いな物を作ってる奴を潰すのは、俺の勝手だろ!」

「そんな理由で人の努力を踏みつぶしてるの!? 最低だよ!」

「くそ! 話が通じない! やるぞ! エンゲル! こうなったら実力行使だ! 何としてでもピーマン畑を燃やしてやる!」

「うん! ディイド! 二人の目的、こんなところで止められるわけにはいかないもんね! 必ず、トマト畑を無茶苦茶にするんだもん!」

「「世界の救済のために! 俺(私)は戦う!」」


 何なのこの二人組! 全然話が通じないよ! ……お仕置きするしかないよね!


「俺たちの正義を知らしめるんだ! 邪魔をするな!」

「どこが正義なの!? 最低な迷惑行為じゃない!」

「違うもん! 私たちは自分たちの正義のためにやってるんだよ!」


 武器を構えて尚自分勝手な理由を述べる悪党二人組。もう話を聞く必要もないよね!


「ええ。やってしまいましょう、ルーチェさん」

「報奨金のためにこいつらを潰せば、特効薬を買い込んだ分の損失が埋められるな」

「金のために俺たちの邪魔をするのか!?」

「当たり前です。世の中は金で動いているんですよ。そんなことも……いえ、モンスター「畑荒らし」には分からないですね。すいません。――――排除します」

「私達は畑荒らしじゃない! 崇高な理念と目的のために働いてるの! 畑荒らしはそのために必要な事なの! 正義のためなんだよ!」

「貴様らごときが正義を語るなど虫唾が走る! 貴様らのような正義ぶった屑どもは皆殺しだ!」


 ……なんでかな? こっちの方が悪役になってるような錯覚がするよ……。


「正義の目的のために、実力行使するだけだ! エターナル・ファイヤー・ブレイバー!」

「無駄です。……この程度ですか?」


 畑荒らしの男――――ディイドだっけ?の方が突然双剣を振り上げて放射状に火炎放射を発射してくる。でも、ジルが居ればどうってことないよね? 案の定フォークに無効化されちゃったし。


「この程度の実力で正義を語るんですか? 主人公(笑)にはここで退場してもらいますよ! ダークボム!」


 ジルが高く掲げた右手の先に黒い球体を作りだし、ディイド目がけて投げつけた。球体はディイドに直撃した瞬間に大爆発を起こして爆風に飲まれたディイドは上空に跳ね飛ばされ、受け身も取れないまま地面に叩きつけられた。


「ぐああああ……!」

「これまでですね。こんなにあっけないモンスターは初めてです」

「ディイド! しっかりして!」

「ち、ちくしょおおお……!」

「さあ、どうします? このまま私のテーブルナイフで真っ二つに両断され、相方さんの目の前で即興解体ショーの主役になるか、農家の方の前に突き出されて死ぬまでトマトを食べさせられる刑に処されるか、どちらがいいですか?」


 あくどい笑みを浮かべながらジルがディイドに迫る。……どうしてかな。むしろ私たちの方が悪役にしか見えないよ。


「ぐっ……卑怯者め!」

「ディイド! 今助けに……!」

「おっと、動かないでくださいね? 少しでも動いてみなさい、この人の首と体はサヨウナラですよ!」

「何でか知らないけど、ジルの方が悪い人みたいに見えるよ!」

「気のせいでしょう。私は正しい事をしていますよ」


 テーブルナイフをディイドの首元に突きつけながらあくどい笑みで少女――――エンゲルだっけ?を見ているジルはもうどこかの人質を取った悪い人にしか見えないよ!


「さあ、制裁の時間だな」

「……!!」


 斧を構えながら残忍な笑みを浮かべて少女に迫るグリーダー。畑荒らしを討伐するはずなのに傍から見てると無抵抗の少女を狙う暴漢にしか見えないよ! どうして!?


「さあ、思う存分叩き潰してやってくださいグリーダーさん。この人の首元に私がテーブルナイフを突きつけている限り、その人はそこから動けません。さて、そこの哀れな少女に一言言ってあげますか。――――この人の命が惜しくないと言うのであれば、存分に戦いなさい。その場合、この人の魂は永遠にトマト畑をさまよう事になりますけどね!」

「ジルがそんな事言ってるとやっぱり私たちが悪いことしているように見えるよ!」

「くっ! エンゲル! 俺の事は良い! 逃げるんだ!」

「ディイド……!」


 畑荒らしも畑荒らしで何か話の主人公とヒロインみたいなことしてるし!


「あなたの発言を許した覚えはありませんよ? 罰としてトマト爆弾の刑です」

「や、やめ「ベチャ」うごあああああああああ!」

「何でプチトマト一個でそんな大げさな反応するの!?」


 プチトマト一個が口に当たっただけで絶叫を上げて悶え苦しむようなそぶりをするって本当にありえないよね!?


「ディ、ディイド! お願い、止めて!」

「貴様らは、ここで滅びる運命だ! 無様に命乞いして、起きるはずもない奇跡に縋り、絶望しながら死んでいけ! 貴様からあの世に送ってやろう!」

「グリーダーが畑荒らしを倒すはずなのに無抵抗の少女を惨殺する悪人にしか見えないから何も言わずにさっさと倒してよ!」

「何言ってるんですか? こういうのは雰囲気が重要ですよルーチェさん」

「その雰囲気が悪人にしか見えないんだよ!」


 私たちが畑荒らしを討伐するはずなのに、なぜか主人公を人質に取ったジルとグリーダーが無抵抗になったヒロインを嬲り殺す光景になってる気がするもん!


「気のせいですよ。正義の執行です」

「ああ、無抵抗の罪人を浄化の刃で斬り捨てるだけだ」

「何が正義だ! こんなことをして、正義を語るんじゃねえ!」

「少なくとも畑荒らしにはそんな事言われたくないよ!」

「浄化の刃、食らうがいい! 死ね!」


 グリーダーの一閃が畑荒らしの少女を捉えた……はずだった。何故か少女の周りに壁が出来てて攻撃が通らない。


「な、何ですかこの展開は! 防御魔法の使い手でも居るんですか!?」

「結界!? いつの間に!?」


 何で私たちが結界に閉じ込められてるの!?


「そこまでじゃ! 無抵抗の少女を暴行しようとした許されざる罪人! 我々勇者一行が、この場で討伐してくれよう!」

「ちょっと! 私たちは畑荒らしを討伐しようと……!」


 というか、何でヒローズの勇者一行がここに居るの!?


「黙れ小娘! 貴様らの悪行、この目で見させてもらったぞ! このスロウリーの目が黒いうちは、犯罪者は誰一人として見逃さぬ!」

「ヒローズの騎士として、そのような行為は見過ごせないな。今すぐ人質を解放し、降伏するんだ」

「人の話聞いてよ!」


 何でこうなったの!?


「どうしてでしょうか? 私たちが悪人扱いされてますよグリーダーさん。ちょっとこの畑荒らし達の顔が善人ぶってるからってこんなのあんまりじゃないですかねえ?」

「全くだ。主人公面している悪人ほど見ていて虫唾が走る物はない」


 本当だよ! ちょっと主人公っぽい喋り方してるからってだけでヒーローのピンチみたいに……!


「き、騎士様! 私達を助けてください! あ、あの恐ろしい人に仲間が倒されて……!」

「分かっている。危ないから君は下がっているんだ。このベルナルド、騎士として務めを果たす」

「……この勇者一行に任せてあなたが逃げたりしたらどうなるか、分かりますよね? この畑荒らしの首を斬り落としますよ? 犯罪者はさっさと捕まってください」


 そうだよ! この人畑荒らしだよ! だから倒して捕まえたのに!


「い、今すぐその人を解放してあげてください! 今ならまだ間に合います! 裁判になっても私が減刑を進言します、だから……」

「何なのこの思い込みの激しい人たち……。全然話が通じないよ……」


 何でこう人の話を聞かないの……。


「お前たちのような悪人が、正義を語るからだ! 俺たちの正義は、止められていない!」

「畑荒らしのくせに何ふざけたこと言ってるの!?」

「もう許しませんよ! 戦いが終わったら、トマト畑の中に牢屋を作ってあなたをぶち込んでやります!」

「そこの貴様も、永遠にピーマン以外を食べられないようにしてくれる! 死ぬより恐ろしい刑罰を味わわせてやるわ!」

「ディイド……待ってて! この人たちが、あなたも助けてくれるから!」

「ああ! 俺たちの正義のために、今は耐えよう!」


 この二人組……! ふざけるのもいい加減にしてくれるかな!?


「勇者様は宿で休憩中ですが、呼びつけるまでもありません。ヒローズ騎士団長ベルナルド、参る!」

「ヒローズ最強の魔術師、スロウリー、悪漢どもは生かして帰さぬ!」

「……ヒローズの治癒術師、レミッタ。行きます!」

「楽な依頼だと思っていたのに最悪な展開ですよね、ルーチェさん」

「本当に最悪だよ! 何でこんなことになるの!?」

身勝手な理由で犯罪を行う畑荒らしであろうと、主人公体質を所持していて、見た目さえよければ勇者に守ってもらえるのだ!


「正義のための行動だからな!俺たちは正義の行いをしてるんだ!」

「そうだよ!私達の正義のために、トマトとピーマンを根絶するんだもん!」

「そんな身勝手な理由でやってる畑荒らしのどこが正義の行いなの!?」


乱入者が出ましたが、依頼の関係上ルーチェ達が正義側であることは言うまでもありません。討伐依頼なのでターゲットを駆除できればどうしようと自由です。

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