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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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重りを落としましょう

前話の番外編の前の続きです。要するに本編。

「さて、重りを手に入れたので、あのふざけた階段を叩き壊しますよ」

「だから階段を破壊したら帰れなくなるってば!」


 そりゃ爆弾を飛ばした仕掛けは危険だから破壊しないといけないけど、階段を破壊するのは間違ってるよ……。


「ルーチェ、分かっていないな。階段を壊しておかないと、爆弾を飛ばしてくる仕掛けも再生するぞ?」

「何で壊した仕掛けが再生するの!? おかしくない!?」

「いえ、間違っていませんよ。何せ、勇者がダンジョンの入口の外に出ると、中の仕掛けはほとんどすべて元通りになってしまうんですよ」

「そうだ。ダンジョンの中にはせっかく解いた仕掛けを解く前の状態に戻してしまう迷惑な輩が居るからな……」

「掃除のおばちゃんですよね。分かりますよグリーダーさん」

「掃除と称して仕掛けを元通りに戻したり、居合切りで切ったはずの木や草むらも元に戻したりするはた迷惑な存在だ」

「何か色々おかしいよね!? そもそもこの場所の何処にそんな人いるの!?」


 掃除のおばちゃんなんて言ってもそんな存在ダンジョンの何処にも居ないよね!?


「何を言うんですかルーチェさん。お客さんの頭をマグナムやロケットランチャー、頭部に向けたショットガンで片っ端から散髪する世界では散髪した人を放置して外に出て部屋に入りなおすとその間に掃除のおばちゃんが持って行ってしまうんですよ?」

「部屋を出てから入りなおすまでの時間はわずか15秒だ。そんな短い間に部屋の中の散髪済みの客をどこかに連れて行ってしまう」

「そもそもそれは散髪じゃなくて殺害のような気がするんだけど!? 全く知らないけど、頭部に向けたショットガンって言ってる時点でどう考えてもそれは散髪に使う道具じゃないよね!?」


 そもそも散髪に使う道具ははさみと髪留めだと思うんだけど!?


「何を言うんですか。画期的な散髪道具ですよ。髪の毛と一緒に頭もどこかに吹き飛んでしまいますし」

「散髪した相手はすっきりするぞ? 首から上がどこかに飛んで行って倒れて動かなくなるが」

「だからそれは殺害だよ!」


 首から上がどこかに飛んでいく時点で殺害だから! 倒れて動かなくなるのは死んで動かなくなるだけだよ!


「何を言うんですか。すでに死んでいますよ。死んでいるのに散髪してほしいがゆえに動き回ってこっちに向かってくるんですよ」

「死してなお散髪への執念は強いらしいからな。ちなみに、腹から下を吹き飛ばしても掃除されるぞ?」

「腹から下をショットガンでぶち抜いても掃除のおばちゃんに連れて行かれるまでしつこく上半身だけで追いかけてくるんですよね」

「死んでるのに動くってそれアンデッドじゃない! モンスターだよ!」

「違いますよルーチェさん。由緒正しき生命体、ゾンビです」

「だからゾンビはアンデッドだよね!?」

「いえ、ゾンビはアンデッドではありません。ゾンビと言う由緒正しき生命体です」

「ゾンビもアンデッドの一部だと思うんだけど……」


 不死の力と怨念で動いているから回復の力や聖なる力に弱いだろうし……。


「何寝ぼけたこと言ってるんですか。最新型のゾンビは寄生虫によって動いているんですよ? ひたすら解読不能の言葉を発して襲いかかってくる人の頭を散髪してあげると、中から見た者全てを魅了する赤黒い触手を無数に生やした怪物が出てきますしね」

「触手の先端が槍になっているから刺されれば文字通り一撃死だ」

「どこが魅了されるの!? そんな恐ろしい怪物に魅了される要素なんてないよ!?」


 というか、それはもうゾンビじゃなくて別の何かだよね!?


「違いますよ。新種のゾンビです。ウイルスで作ったゾンビは散髪されるとそのまま満足して動かなくなってしまいますからね。散髪しても死なない画期的なゾンビを作ったんでしょう」

「画期的じゃないよね!?」


 頭を吹き飛ばしても死ななくなった時点で更に恐ろしくなってるよ!


「散髪しても満足しなくなり、中の怪物も同様に満足させる必要がある。それだけの事ですよ」

「全然それだけに聞こえないよ!」

「たったそれだけの事なんですけどねえ……」

「ああ、何故こうも理解できないのか不思議なくらいだ」

「だから何でこういう反応をされるの!?」


 本当にそれだけで済まないと思ったからそう言っただけなのに!


「まあそれはともかく、空気は読みましょうね、ルーチェさん。分からないことでもとりあえず分かりましたと言わないと駄目です」

「聞き流していても分かっていますと言えなければ駄目だ」

「それはむしろ分かりましたと言っちゃ駄目な状況じゃないかな!?」


 だってそれって初めから聞いてないし、分かってないよね!?


「分かっていないことを分かっているようにふるまい、あえて嘘を言ってでも世間体を保つ。それが正しい世渡りの極意ですよ」

「それはさすがに不味いと思うんだけど!? 世間体以前に分かっているふりをして分かってないことがばれたときの方が不味いよ!」

「大丈夫だ。多少分かっていなくても問題ない」

「ええ。知っているふりだけしておけば話は問題なく進みます」

「その嘘で自分の身を滅ぼす可能性があることを考えておこうよ!」


 その方法じゃその場は凌げても後が怖いよ!


「まあ、そんなことは気にしないで良いでしょう。そんな事より、今は下の階段を叩き壊すことの方が重要です」

「爆弾を投げる仕掛けもろとも破壊しなければな」

「そう言う大事なことは気にしないと駄目だってば!」

「まったく、ルーチェさんは話を脱線させるようなことばっかり言ってくれますね。いい加減にしないと、お母さん怒りますよ?」

「いつジルは私のお母さんになったの!? そもそも私とジルは赤の他人だよ!?」

「何言ってるんですか。勇者は血縁関係など無くても皆親子の関係でしょう」

「初耳だよ!?」


 血縁関係が無いのに親子関係なんておかしくないかな!?


「当たり前ですよ。今考えて勝手に作ったんですから。大体こんなに手のかかる娘はさすがに育てられませんよ。一々叫ぶので近所迷惑ですし」

「出まかせ言わないでよ! というか、そもそも叫ばしてるのは誰なの!?」

「ルーチェさん自身ですよね。叫ばないと呼吸できない病にかかっているんでしょう?」

「そんな病気ないよ!」


 病気まで捏造しないでよ!


「何言ってるんですか。病気だって、仮病を捏造すれば新発見として世界に発表できますよ」

「仮病を捏造って言ってる時点で犯罪だから!」

「分かっていますよそれくらい。ばれなければ問題ないですし、ばれても勇者の権力と力で脅しをかければいいんです」

「脅す時点で最低だよ!」


 そもそも、何で脅してまで病気を捏造する必要があるの!?


「決まっています。新しい病気を発見したと言う名誉とその治療法を発見したと言う素晴らしい功績、多額のお金、それらを手に入れるためですよ」

「結局そっちが目的なんだよね! 最低以外に形容のしようがないよ!」

「最低? 何を言うんですか。最高の間違いでしょう? というか、いい加減にルーチェさんは自重と言う言葉を覚えていただけないでしょうか。一々叫ばれると話の論点がずれて行ってしまいます」

「だから何で私が悪いの!?」


 別に悪くないよね!?


「悪いに決まっているでしょう。早く仕掛けと階段を破壊して帰るだけだと言うのに、ルーチェさんが叫びまくるせいでいつまで経っても話が進みません」

「私が悪いの!? 明らかに理不尽だよ!」

「この集団では原因問わず何らかの過失があった場合は全てルーチェさんが悪いと言う事になっているんですよ」

「酷い!」


 なんなのその理不尽!


「これは理不尽ではありません。ルーチェさん専用の設定ですよ」

「だからそれが理不尽なんだってば!」

「まあ、ルーチェさんは放っておいて行きましょう。このままでは話が進みません」

「ちょっと!? 放って行かないでよ!」

「全く、いちいち叫ばないでください」

「その無限ループもほどほどにしておけ」


 いつもそうだけど、何でこんなに理不尽な扱いを受けるの!?


ーーーー


 そんなこんなでようやくやってきた目的地。爆弾を飛ばしてきた階段の奥の場所が見えるので覗き込むと、下では爆弾を何かの機械に詰め込む青白い人が居ました。


「ようやくあの階段の仕掛けの場所にやってきましたね。さて、上からの重り攻撃で仕掛け人を潰しましょう」

「何考えてるの!? そんなの絶対駄目だよ!」

「奴さえ始末すれば、この遺跡はクリアしたも同然です。というか、私たちの作戦を台無しにしたあの物体には裁きが必要です!」

「その通りだ。投げ入れようとしたルーチェを撃墜してくれたおかげで俺たちは余計な苦労をすることになったのだ。絶対に許さん」

「だからってあの重りは駄目だよ! あんなの落とすのは駄目!」


 あんな巨大な重りを頭に落とすのは……!


「黙ってください。私は、裏技やバグで突破できずに回り道をさせられることが大っ嫌いなんです」

「同感だ。馬鹿正直に能面の滝の中に突っ込んでワープすることになったではないか。こんな面倒な手間を増やした奴には裁きが必要だ」

「そもそも能面の滝自体も馬鹿正直に突っ込む場所じゃないと思うのは私の気のせいなの!?」


 あんな場所に踏み込んだの後にも先にも私達だけだと思うよ!


「何を言うんですか。能面の滝に打たれて修行をする人は多いですよ」

「居ないから! 普通の滝に打たれるのと違って精神修行にも何にもならないよ!」


 あんな恐ろしい滝に打たれて修行するなんて考えただけでも怖いよ!


「何を言う。あの芸術的な滝に打たれての修業であれば、精神も肉体も鍛えられるだろう?」

「ですよね、グリーダーさん。あの滝の芸術性を身近で感じながらの修業であれば、いかなる恐怖も乗り越えられるような気がしますよ」

「二人の感覚はどうなってるの!?」

「普通ですよ。無銭飲食して逃げたり、店主を脅して値段を下げさせたりするくらいには」

「ああ、至って普通の感覚だ。敵が現れれば理由も聞かずに首をへし折り、家があれば押し入って強盗を行うくらいにな」

「全然普通とは言えないよ! それが普通のはずないからね!?」


 それは明らかに歪んだ普通だよ!


「さて、そんなことは置いておいて、先ほどから我々の監視下にあるとも知らずにトラップを動かしているあの青白い魔王の手先に4t重りを落としてやりますか。三回落として強制終了です」

「だからそれは駄目だってば!」


 何回言ったら分かるの!? 重りまで出しちゃってるし!


「ああもう、一々煩いですねえ。これだから姑は……」

「全くだ。まじめな攻略の邪魔ばかりしやがる」

「邪魔してないよ! 酷い行為を止めようとしてるだけだよ!」

「それこそまさに妨害です。もう言っても無駄なのでやらせていただきます」

「だから駄目だって! 最悪魔法使ってでも止めるから!」


 言っても分かってくれないなら実力で止めるよ!


「……困りましたね。魔法を反射できるカーテンはありませんし、諦めましょうか……」

「やむを得ないな……」


 良かった。こんな暴挙は止めないと。


「はあ……仕方がありません。我々の負けです……」

「分かったら磁力棒を返してくれる? 重りも収納するから」

「仕方がない。ジル、磁力棒を渡せ」


 大人しく従ってくれたみたい。これであの下の人?が重りの下敷きにならずに済むかも。


「分かりました……とでもいうと思いましたか?」


 そのままジルは磁力棒のスイッチを入れ、あの重りを空中に持っていき、下に居る人の上から落として……直撃した。凄まじい轟音と震動が伝わってくる。……ええ!?


「ちょっと!? 止めるって言ったのは嘘だったの!?」

「当たり前です。我々は勇者です。勇者とはすなわち、勇気をもって義務を放棄し、自らの権利と快楽のためだけに戦う者の事を指しますしね。ルーチェさんに脅されたぐらいで止めてしまったら、勇者の名折れです」

「計画通り、だな」

「ええ。計画通り、ですよ」

「そんなこと言ってる場合!? 下に居たあの人?が重りの下敷きになっちゃったよ!」

「別に問題ないでしょう? 敵は始末するんですから。ルーチェさんだって魔物を退治するときに一々「火炎で焼き尽くしちゃったよ!」「思いっきり真っ二つに切り裂いちゃったよ!」とは言わないでしょう?」

「確かに言わないけど、それとこれとは別だよね!?」


 魔物とさっきの青白い人は違うもん!


「同じです。奴は爆弾を使ったトラップと戻される階段を使ってこちらの妨害をしてくるモンスターです。なので、こうやって倒しました」

「モンスターと人間の区別くらいつけてよ!」

「あんな青白い顔をした物体が人間だと? ルーチェ、貴様の目は本当に見えているのか?」

「見えてるから! というか、何で話も聞かずにこういう事をするの!?」

「先手必勝は勇者の勝利の秘訣ですよ」


 って、二人と悠長に会話してる場合じゃないよ! 下敷きになっちゃってるけど、まだ何とかできるかも!


「わざわざ磁力棒を取り返して飛び降りて……青春ですよね」

「ああ。無駄な努力を続ける姿はまさに青春だ」


 これは無駄な努力じゃないもん! 人の道に外れた行動ばっかりする二人には分からないだろうけど!


「磁力棒で引っ張ってどかさないと!」


 磁力棒のスイッチを入れ、重りを潰された人?からどかす。とにかく、早く助け出さないと!


「え!? ちょ、何で動……ぎゃああああああ!」

「ああ、ルーチェさんも復讐したかったんですね」

「自分を撃墜した張本人だからな」

「今助けますから!」

「ちょ! 物体に髪がはさまって引きずられて……抜ける! 抜けるから止めて!」


 早く助けないと!


「凄いですね。助けると言う名の追い打ちですよ」

「よほど怒りが溜まっていたんだろうな。何せ、爆弾を投げつけられたんだ。少しでもずれていたら死んでいただろうしな」

「魔王の手下の自業自得ですよ」


 あ、あれ? 出てこない!?


「潰されたと思ったのに、一体どこに行ったの!? もっと引っ張ってみようかな……」

「実体がない私は重りを浮かせないと出られないんです! お願い! 止めて!」

「良いですよルーチェさん。そのままやっちゃってください」

「ルーチェがそいつを痛めつけている間に、ここの仕掛けを破壊しておくとするか」

「ああ! トラップ壊したら駄目です! 守ってる宝が! ここの階段が!」

「ど、どこに居るの!? どれだけ引っ張っても出てこないよ!?」


 一体どこに消えたの!? 声は聞こえるのに!


「爆弾の仕掛けも階段の仕掛けも壊しておきましょう」

「これで二度と爆弾は使えまい」

「大切なトラップが! なんてことを……」

「ねえ! 本当にどこに居るの!? 何でこれだけ重りを動かしたのに出てこないの!?」


 仕掛けを解除したみたいだけど、それどころじゃないよ! さっきから声はするのに! 何で見つからないの!?


「やっぱりルーチェさんはアホだったようですね。気づくまで放置しておきましょうか」

「そうするとしようか」

「ちょ! お願い! そこの二人! この人止めて! このまま重りの下敷きになって引きずり回されるのはいろんな意味で不味いんですけど!」

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