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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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重りをどけましょう

「な、何なんですかこれは……」

「まさか本物のこれを目にするとはな……」


 ジルです。まさか本物の重りが降って来てルーチェさんが入った空間の入り口を塞いでしまうとは夢にも思いませんでした。


「……どうしますか? グリーダーさん?」

「4トン重りが相手となると、厄介だな」


 目の前の重りには「4t」の文字があります。まさか勇者の世界のみのはずの伝説のアイテムがこんなところに……!


「タコらしき物体が5分かけて動かすことができる伝説のアイテムですしね。演劇の時にヒロインの頭に降って来て演劇を文字通り終了させると言う役割ですよね」


 しかも、3回落とされると何故か「芝居の才能が無かった」ですからね。重りを落とすのも芝居だったようです。


「ああ、これを食らっても死なないヒロイン。恐ろしい生命力だ」

「ルーチェさんは大丈夫でしょうか?」

「まあ、死んでいても特効薬一本でどうにでもなるだろ」

「ですよね。さっさと拾ってあげましょうか。この4t重りをどけますよ、グリーダーさん」

「さて、勇者の底力を見せてやるとするか……」


 私達二人の力なら、この4t重りでもどけられますよね。何せ修羅場を潜り抜けた勇者ですし!






ーーーー






「お、重いです……」

「まだ力が足らんか……」


 30分挑戦したのに、ほんの少ししか動かないです。さすがは勇者の世界の重り。一筋縄ではいかないですよね。


「もしルーチェさんが存命中なら、4t重りを動かすなんて無茶だよ! とでも言ってくれるんでしょうか」

「だろうな。だが、中で死亡しているだろうから今その話はするだけ無駄だな」

「ですよね。今頃頭が潰れてしまってるでしょうし」


 現実は残酷ですしね。色々と。


「ああ、優しくないな、現実は。まあ、勇者に現実を悼む時間など無い。さっさと重りをどかさなければな」

「ですよね。仮に中で生きていても、このままだとどうにもならないですしね」


 復活させないと貴重な盾役が居なくなりますし。このまま捨て置いたらそれこそ背後霊みたいに取りつかれて叫ばれるでしょうし。頑張りますか。






ーーーー






「しかし、重いな。あれからずっと動かそうとしているが……」

「一応、少しだけ隙間ができてるのでほんのわずかにでも動かせたと言っても良いでしょうけど」


 動かそうとして50分経ちました。……やっと少しだけ隙間ができましたね。ただ、やっぱり中が見えないとどうしようもないです。


「……疲れるな」

「特効薬で疲労を飛ばしてますけど、これはさすがに辛いですね」


 私たちの足元にはすでに12本の特効薬の瓶が捨てられています。応急処置にも使えるこれ以外はほぼ全部ルーチェさんに持たせてしまったせいで、ルーチェさんが居ないとアイテムのほとんどが使えないんですよね。


「穴が開けられればルーチェの持ってる磁力棒が使えると思うが……」

「私も同じことを考えたんですよ。ただ、下手すると使った当人が潰されますよ」


 機械の鎌がルーチェさん目がけて飛んできましたしね。この4t重りも凄い勢いで磁力棒目がけて飛んできて使った人や磁力棒が潰されるかもしれません。


「そんな事をさせられるのはルーチェくらいか」

「ですね。我々では危険すぎます」


 あの人ほど生贄にふさわしい人は居ないと思うんですが。


「それもそうだな。では、頑張ってこれを動かすか。何とかルーチェの収納道具を取り出せればこれも何とかできる」

「はい。勇者の本気を見せましょうか」


 幸い重りは動かせているようですし、このまま穴に入れるようにすれば中に居るルーチェさんから道具を取り出せるでしょうしね。


ーーーー


 ルーチェです。いきなり上から何かが降って来て……降って来て、私一体どうなったの?


「ふう。特効薬は半分近く使ってしまいましたが、何とか入れるようになりましたね。それじゃ、ルーチェさんの収納道具を……って、どこにあるんでしょう?」

「とにかく探せ。これを持っていくぞ」

「分かっています。……まあ、女同士ですし、大丈夫でしょう。えっと……確か小さい球体だったはずなんですが……」


 ……? 何かが触れてる?


「……おかしいですね……ローブの外に無いとなると、内側ですか?」


 ちょっとジル! 何して……って、体が動かないよ! 何で!


「ああもう! 気絶したルーチェさんは熟睡してますし……しかし、残念なのは頭だけじゃないんですね」


 うっ……どうせいつまで経っても全く成長してないよ! というか、何で私の体動かないの!


「はあ……いい加減起きてくださいルーチェさん。脳天に辞書を叩き込みますよ?」

「いっそ一度叩き込んだらどうだ」

「ですね」


 ちょっと!? 何が「ですね」なの!?


「辞書には申し訳ありませんが、行きますよ!」


 直後、ジルの持った辞書が私の頭に叩きつけられた。


「痛! ちょっと! さっきから何してるの!」

「起きてたんですか? だったらさっさと起きてくだされば早かったものを」

「身体が何故か動かないんだから仕方ないじゃない!」


 というか、辞書には申し訳ないって、私は!?


「別に申し訳ないとは思わないですよ?」

「何で辞書より扱いが悪いの!?」


 私は辞書以下の扱いなの!?


「当たり前でしょう。調べものに使える辞書と突込みの叫びしか上げないあなたでは物の価値が違いますよ」

「明らかに扱いが理不尽だよ! 酷くない!?」


 大体、私もちゃんと戦力になってるじゃない!


「何を言うんですか。そんなの同行者ならば当然でしょう」

「戦えない人は同行者に入らないの!?」

「当たり前です。戦えない人はですね、「お荷物」と言うありがたい呼び名が与えられるんですよ」

「何処がありがたい呼び名なの!? むしろ酷い呼び名だよ!」


 お荷物と呼ばれて喜ぶ人なんていないだろうし!


「そんなことはないですよ。お荷物扱いされていることに安堵して駄目な方向に進化していくニート勇者も居るんですし」

「最悪だよそれ!」

「他にも、お荷物にもかかわらず別の勇者にくっついておこぼれだけ貰っていくコバンザメ勇者やハイエナ勇者なんて言う存在も居ますよ」

「ただの横取りじゃないそれ!」


 どれだけ楽して強くなりたい勇者が多いの!?


「きっと世界の勇者の7割はこの類でしょう。まじめに努力して強くなり、魔王を倒すために旅に出て仲間とともに強くなる……なんていうのは幻想です。実際の勇者は、互いに金と経験値で取引をしていますしね。何せ、頭数が増えると経験値が等分されてしまって育ちにくくなってしまうので……」

「というか、どこから経験値が等分されるなんて話が広まったの!? 普通は経験値なんて言われても絶対分からないよ!?」


 ここみたいに経験値なんて概念がそもそも無い世界だってあるし!


「何を言うんですかルーチェさん。経験値はこの世界にもありますよ。ただ、外の世界にしか攻略本が無いのでこの世界での経験値が分からないだけです。経験値を教えてくれる神のお告げなんて言う存在もありませんし」

「神のお告げって何!? というか、経験値を教えてくれるっておかしくないかな!?」


 もし全部経験値で決まるんだったら、まじめに訓練に励む人の努力は全部無駄になるって事!?


「そんなことはないです。無駄に頑張る人の努力を哀れに思った神がその人に100時間当たり1の経験値をお情けで与えてくれますから。ちなみに、これはスライム一匹を3分かけて棒で殴り殺すときに比べ、圧倒的に効率が悪い方法です」

「100時間頑張ったのにスライム一匹分なの!?」


 それじゃ必死に努力しても無駄になるじゃない!


「そうですよ。だから私たち勇者は金属製のスライムに塩酸や硫酸、王水をかけて虐殺する慈善事業にいそしむわけですから。あ、優秀な勇者に倒してもらって経験値だけ頂く方法もありますよ」

「その世界のルールがそもそも滅茶苦茶だよね!? その話で考えると、勇者について行って戦いを眺めているだけで子供でも最強になれるって事じゃない!」

「ええ。その通りですよ。実際、勇者物語には子供とは思えないほど筋肉質な少女が載っていますしね。これが代表的ですよ」

「……」


 ジルに見せられたのは、身長120センチなのに体重40キロ、そしてその辺の鍛えた背人男性より筋肉質な剛腕や全身徹底的に引き締められた肉体が特徴の少女が2メートル以上あろうかと言う大剣を振り回している絵だった。何故か大剣に「私10歳です」とか書いてあるけど、こんなの明らかにおかしいから!一体どんなことをすれば10歳でこんな体になってしまうの!?


「決まっているじゃないですか。ハイエナで育ったんですよ。ちなみに、彼女はLV93の戦士です。素早さが低いのでずっと見物しかしていないようですが、強い勇者に同行して戦いを見物しているだけでこんな素晴らしい肉体を手に入れることができたようです」

「どう考えても異常だよそれ!」


 だって、同行するだけでこんな姿になるほどの経験値を得るなんて、明らかにおかしいよ! そもそも、どうやったらそんなに体が成長するの!?


「職業のおかげですよ。勇者は勇者以外に補正のかかる職業につく事が出来ますしね。戦士になってLVを93まで上げたんですから、あのような素晴らしい肉体になってもおかしくありません」

「勇者以外に別の職業にもつくの!? 兼業は駄目だよ!」


 というか、勇者を止めてるような物だよねそれ!?


「そんなわけないですよ。勇者と言うのは何もしない国王(笑)に選ばれた者の称号ですし、止めたくても簡単には止められません。それこそ、国王を惨殺でもしない限り」

「唐突に怖いこと言わないでよ!」


 というか、惨殺してでも勇者を止めたいなら初めから名乗らないよね!?


「いえ、以前にも言った通り強盗が出来ますから。好き放題強盗や追剥を楽しめるのでそう言う意味で勇者の称号は名乗った方が良いです」

「そしてそこに戻ってくるんだね……」

「そこに戻ってきますよ。それが勇者です。そしてルーチェさんのその反応は面白くないです。改善してください」

「何で私の反応までそういう事を言われなきゃいけないの!?」


 関係ないじゃない!


「いえ、ルーチェさんで遊ぶのは暇つぶしの基本ですから、反応が平凡だと面白くありません」

「何で私で遊ぶのが暇つぶしの基本なの!? というか、反応が面白いとか面白くないとか言われてる時点で明らかにおかしいと思うんだけど!」

「盾兼暇つぶし用の玩具なので面白い反応をしてもらわないと困りますよ、ルーチェさん」

「だから何で後衛の私が盾扱いなの!? それと人を暇つぶし用の玩具呼ばわりしないでよ!」


 私玩具じゃないってば!


「何を言うんですか。こんな便利な道具ないですよ? 暇つぶしのできる盾兼アイテム袋なんて古今東西探してもあなたくらいですし」

「何でまた滅茶苦茶な扱いになってるの!? ますます酷くない!?」


 そもそも、アイテム袋じゃないってば!持ってるアイテム収納用のボールのおかげだよ!


「ジル。いつまでも遊んでないで早く出てこい」

「そうだよ! 出られないから早くどいてよ!」


 ジルがどいてくれないと出られないよ!


「それは無理ですよグリーダーさん。気づいたルーチェさんと壁に挟まってしまって動けないんです」

「何してるのジル!?」


 いつまで経っても穴から出ないと思ったら……。言われてみると確かに身をかがめたジルが私と壁に挟まって出られなくなってるよ!


「仕方ない。ルーチェ、どけ」

「こっちはジルが挟まって動けないんだよ!」

「使えないですよルーチェさん! こういう時に体を小さくしてスペースを開けるのがあなたの仕事でしょう!?」

「身体を小さくして……ってそんな事出来ないから!」


 そんな事出来たら壁から飛び出た武器の仕掛けも小さくなって進んだだろうし!


「ふざけないでください! 定期的にパソコンに預けられていないからって、肝心な時に特技が使えないなんてあんまりですよルーチェさん!」

「そもそもそんな特技無いから! というかパソコンって何なの!?」


 そんなありもしない物持ち出して変なこと言わないでよ!


「小型化も出来ないんですか!? そんな事では小人の村に入れないじゃないですか!」

「知らないよそんなこと!」


 大体小人なんてこの世界には居ないよ!


「どうやって内海の出口をふさいでいる海竜を倒せばいいんですか!? 神殿の中の目玉を元の場所に戻さなければありえないほどの威力の攻撃で毎ターン2人殺されるんですよ!?」

「毎ターン2人って言われてもターンの基準が分からないよ!」


 というか、遊んでないで早く出てよ!


「だから出られないんですよ! グリーダーさん、引っ張り出せませんか?」

「仕方ないな」

「というか、初めからグリーダーに頼ってよ!」


 無事にジルは抜けたみたいだし、私も出ないと……。


「ルーチェさん、とりあえずこれも持っていきましょう」

「何でこんな物が遺跡の中にあるの!? おかしくないかな!?」

「おかしくないだろ? 勇者が使った伝説のアイテムだぞ?」

「どう考えてもこんな重りが伝説のアイテムとは思えないよ!?」


 何か「4t」なんて書いてあるし……。こんなの持って行って一体何に使うって言うの……。


「決まっているでしょう。演劇をしている劇団のヒロインの上に落とすんですよ。3回落とすことに成功すれば落とした側の勝ちです」

「勝ち負け以前の問題だよね!? こんな危険な物人の上に落としたら駄目だよ!」


 こんなの直撃したら確実に死んじゃうよ!


「ルーチェさんは死んでいないですし」

「落ちてきたときにしゃがんでいて当たってなかったから死んでないだけだってば!」

「謙遜するな。お前の耐久力の高さなら知っている」

「ええ。囮にも生贄にも出来る圧倒的なタフさですしね」

「何でそっちの方向に持っていくの!?」

伝説の4t重りはタコらしき物体は5分もかかるのに味方は一瞬で下に落とす。下のスイッチに味方が乗っていたら落とせない辺り、芸が細かい。


小人になって村に入ろうとしたらまともに戦えないまま敵に襲われる事件が多発。酷い。……まあ、小人になってのブーメラン乱れ打ちが腕を手っ取り早く強くするトレーニング法なんですけどね。

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