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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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上への道を探しましょう

「しかし、困りましたね。投げ入れたルーチェさんは撃墜されてしまいましたし、二階に上がる手段が無くなってしまいましたよ」

「そうだな。手詰まりになったか……」

「元から手詰まりだったような……」


 レビテーションが使えない私達にはそもそも戻される階段を突破する手段がないわけだし。


「仕方ないですね。ご都合主義に期待して、地面に生えている緑色の土管でも探しましょうか。運がよければお金も手に入りますし」

「何で地面に土管が生えてるの!? ……というか、それは井戸じゃないの?」

「井戸のはずないですよルーチェさん。地面から生えている緑色の土管は、空中の宝箱を探すためにひたすらジャンプを繰り返す赤い帽子の勇者がワープするために使っている由緒正しき土管ですよ?」

「どこが由緒正しいのか分からないよ……」


 だっていくらその人が使っていると言っても、中身はただの土管だろうし。


「何を言うんですかルーチェさん。土管二つでつながっている狭い場所を抜けると海の向こうに出てしまった、なんてことも日常茶飯事です」

「土管の先は全く知らない新世界だった、と言う事も日常茶飯事だな。そもそも、天に届かんばかりの長さの土管を抜ける方法があるのか疑問だが」

「ですよね。長さ10メートルを優に超えるような長さの土管が垂直に生えているわけですから、土管に入って地下に落ちる時は垂直落下になりそうな気がするんですが」

「上る時はもっと大変だぞ。両手を必死に壁に押し付けて根性で上っているはずだ」

「二人の話を聞いてるとますます恐ろしい物に感じてくるんだけど!?」


 土管二つでつながっている場所を抜けると海の向こうに……これはまだいいよ。でも! 10メートル以上も垂直落下するような土管は危険すぎると思うんだけど! それに、垂直になってる土管を抜ける時の負担が大きすぎないかな!? 両手を必死に壁に押し付けて上るのは分かるけど、それを何度も繰り返してると疲れて動けなくなるよね!?


「私達では無理ですよ。でも、あの男ならば何の問題も無くやれます。32ヶ所もある障害をたった5分で踏破して拉致された姫を助け出すくらい朝飯前なんですから」

「どれだけ短いの!? たった5分で32ヶ所の障害を突破するっておかしくない!?」

「距離にすると、400キロだ。400キロをたったの5分で踏破するような奴だぞ?」

「それもう人間じゃないよね!? 明らかに人間技じゃないよ!」


 5分で踏破するって明らかにおかしいから! イカサマでもしてるんじゃないの!?


「イカサマ……とは違いますが、この土管を使ったワープを多用してましたね。戦いを始めてから2つ目の障害で天井裏から行ける土管に突入して13番目の障害に飛び、14番目の障害で天に届く豆の木を登った先にある土管で29番目の障害にワープ、その後あっという間に32番目の障害まで走り抜けて姫の元までたどり着いたのだとか」

「ほとんどの障害をすっ飛ばしてるじゃない! 真面目に攻略してないよね!?」

「終わりよければすべてよしですよルーチェさん」

「終わりだけ良くても道中が……」


 それって要するに32個の障害のうち8個しか攻略してないことになるもん……。それでも5分は凄いけど。


「真面目に攻略するのは馬鹿のする事だと言う事だ」

「普通逆だよ!」


 何をしてでもゴールにたどり着けば勝ちかもしれないけど、でも!


「いいですか、ルーチェさん。このまま正攻法で挑んでいたのでは私たちはこの遺跡に勝てないでしょう。勝つためには、手段など選んではいけないのです」

「せめて手段は選ぼうよ!」


 反則技やご都合主義に頼らずに突破できる方法を探すとかさ!


「……」

「どうしました、グリーダーさん?」

「ルーチェ、ジル、能面の滝に戻るぞ」

「え? 何でいきなりあの滝に戻るの?」


 能面の滝には何も無さそうだけど……。


「あれだけ大量の能面が落ちているにもかかわらず、能面があの場所から溢れ出さない原因を調べたい」

「……グリーダーさんが言うからには、何かあるでしょうね」

「まあ、一応調べてみる?」


 ……あんな能面の海には何もないと思うんだけど……。あっても能面が流れる通路くらいのような……。


ーーーー


「これはいつ見ても圧倒されますよね。自然の美しさですよ」

「ああ、大自然の偉大さを感じるな」

「能面が滝のように落ちてきている光景の何処が大自然の偉大さなの!? 不気味さしか感じないよ!」


 能面が高い位置から滝の水よろしく流れ落ちているだけの光景はどう考えても美しくないし、むしろ凄く不気味で怖いだけの光景だから!


「今からこの中に入るぞ」

「能面の滝つぼですね。どうなっているんでしょうか」

「……なんでこんなところに入らなきゃいけないんだろ……」


 能面が足の踏み場もないくらい積み重なった能面の滝に足を踏み入れます。……うっかり能面の間に足を入れてしまってどんどん底に入ってしまいそうな気がするけど……。


「そんなことを考えているから、ルーチェさんだけが滝つぼへと足を踏み入れてしまうんですよね」

「って、周りがいつの間にか能面だらけになってる!? だ、脱出しないと!」


 いつの間にか私の胸のあたりまで能面に埋もれちゃってるよ!


「流石にそこまで埋没してしまったルーチェさんを助けるのは無理ですよ」

「ちょっと!? 見捨てないでよ!」

「さすがに、能面が落ちてくる場所に近い場所で足を取られてしまうと助けようがない」


 言われてみると、確かにすぐそばに能面が落ちてくる場所がある。……気のせいか私の身体もどんどん能面の中に埋もれていっているような……。


「……そう言うわけですから、ルーチェさん。ご冥福をお祈りいたします」

「……お前の犠牲は無駄にはしない」

「そういう事言う前に少しでも助けようとする姿勢を見せてくれたらいいのに!」


 何でそんなにあっさり見捨てられちゃうの!?


「決まっているじゃないですか。ルーチェさんはトラップを見破るための大事な生贄だからですよ」

「対トラップ用の貴重な囮だったからな。トラップに対する生贄だ」

「いつもそうだけど本当に私の扱いが酷いよ!」


 そんな話をしている間に首まで沈んで……。


「ルーチェさん。あの世に行ってもどうかお元気で」

「墓前には強奪した金でも備えておくからな。安心して眠れ」

「何で死ぬこと前提なの!? というか、仮に死んでもそんなお供え物欲しくないから! そういう事を聞いたら余計に安心して眠れないよ!」


 大体強奪した金なんて要らないよ!


「とか言っている間にお別れですね。短い間ですが、あなたにはお世話になりました」

「さらばだ……」

「何で最期まで「シュンッ」」


 何で最期まで二人はそういう事しか言わないの! そう言おうとしたとき、私の身体は突然何かに引っ張られるように上の方へ飛んで行った。


「見ましたか、グリーダーさん」

「ああ。確かに見た。あの場所にワープがあるな」

「行きましょうか。ルーチェさんがどこに飛んだのか気になりますしね。二階であれば、最高なんですが」

「やはり能面の滝の源流じゃないのか?この能面が溢れ出さないのはあの辺りで増えた能面を戻していたからだな」


ーーーー


「二人は……え?」


 いきなり引っ張られたと思ったら何故か大量の能面と一緒に見たことが無い場所に居ました。川のように能面が流れているけど、とりあえずこの流れから出ないといけないよね。


「えっと……通路は……あった!」


 左側にとりあえず脱出できそうな場所を見つけたのでそこでこの流れから出ることに。……それにしてもこの能面って……。


「まさか、どんどん上から降ってくるように見えるけど、実際はこの川の先からここにワープしてきた能面を落として、無限に湧き出ているように見せているだけなの?」


 何でこんな妙な仕掛けにそこまで大がかりな細工をするんだろ……。


「決まっている。能面の滝が芸術的だからだ」

「そうですよ、ルーチェさん。こんな芸術を作り出すんです。大がかりな仕掛けは必要ですよ」

「だから芸術じゃないよこれは……単なる不気味な怪作だよ……」


 これを芸術的だと言える二人はある意味凄いよ……。って、え?


「こんなところに道があったんですね。ルーチェさん、偵察ありがとうございます」

「おかげであの邪魔な階段を通らずに上の階に入れたな」

「上の階に入れたのは事実だけど、その前に二人とも謝ってよ!」


 見捨てられたし、本当に能面に埋もれて死ぬかと思ったじゃない!


「能面に埋もれたぐらいで死なないですよ。ルーチェさんですし」

「ああ、お前だからな。死ぬわけが無い」

「二人のその自信は一体どこから来てるの!?」


 私一応ただの人間だよ!? 少なくとも、ジルやグリーダーみたいなタフさは無いから!


「何を言うんですか。タライが降って来ても無事でしたよね」

「そりゃタライが当たったくらいじゃ死なないから!」

「伝説の傭兵の一撃を食らっても生きていたぞ?」

「それは何で無事なのか私にも分からないんだよ!」


 本当に、何であの傭兵の一撃を受けても無事だったんだろ。


「その一撃を食らってもなお生きていると言う高い生命力が、まさに生贄や囮にぴったりだと私は考えてるんですよ」

「俺もだな」

「滅茶苦茶理不尽だよ!」


 自分でも何で生きてるのか分からない攻撃に何故か耐えたから囮や生贄になれ! っておかしいよ!


「おかしくないですよね?」

「ああ。壁にしても大丈夫なことの証明だ」

「普通私が守られる側になると思うのに!」


 そもそもこの中で私だけが後衛だし!


「いくら後衛でも、囮になることは出来ると思いますよ、ルーチェさん」

「そうだな。頑丈な後衛がサンドバッグになっている間に前衛が敵を叩きのめす展開は勇者だってやっていただろう?」

「あのお爺さんと私を一緒の扱いにしないでよ!」


 あんなのと同じ役割は出来ないから! 何で華奢な私が……!


「何言ってるんですか。そのローブの中身は斧の一撃すら弾き返す鋼の肉体でしょう?」

「少なくとも斧の一撃なんて受けたら真っ二つになるから!鋼の肉体なんてないよ!」


 そんな頑丈な身体だったら、初めから前衛で戦ってると思うし!


「なら、次から前衛で戦うか?」

「無茶言わないでよ!」


 前衛に出ても、杖で叩くくらいしか出来ないってば!


「良いじゃないですか。杖ポコは人気が出ますよ」

「何の人気!?」


 そもそも、敵を必死に杖で叩くことに何の価値があるの……。


「非力な僧侶による必死の抵抗は人気が出るそうですよ。そんなことより、ここがどこだか把握しないといけないですよね。グリーダーさん」

「そうだな。とりあえず調べるか。で、さっきの階段を見つけたら木端微塵にしておくぞ」

「ですね。あんな厄介な階段、存在自体を抹消しなければ」

「爆弾を投げてきた仕掛けを壊すならまだしも、あの階段そのものを壊したら駄目だよ! 下りられなくなるじゃない!」

「安心してください、もちろん本気ですよ、ルーチェさん」

「冗談じゃなくて本気なの!?」


 階段を壊したら下りられなくなるよ!


「飛び降りれば平気ですよ、ルーチェさん。我々は例え山の頂上から地上まで断崖絶壁を飛び降りても捻挫はしないですし」

「その前に骨折したり地面に叩きつけられて死ぬよね!?」

「俺は平気だ」

「私も城の屋根から地上目がけて落ちましたけど、別に痛くも痒くもないですよ?」

「それは二人がおかしいだけだよ!」


 本当に常識が通用しないよね……。


「そりゃルーチェさんが常識のない人間ですしね」

「絶対逆だよ!」


 何でいつもこんな事ばっかり言ってるんだろ……。


「決まっているじゃないですか。ルーチェさんが一人芝居をしているんですよ」

「一人芝居なんかしてないってば!」

「変わった装飾の杖を複数持って人形劇ならぬ杖劇をするわけだな。一人寂しく」

「そんなことしないよ!」


 杖劇なんてやらないからね!?


「ところで、何でしょうか。あの窪み」

「確かに人一人入れそうな窪みが床に開いてるけど……」

「落とし穴か?」


 何故か通路のど真ん中に人が一人入れそうな穴が開いている。でも、何でこんなところに?


「見てくださいルーチェさん。穴の下の空間には宝箱がありますよ」

「確かにあるけど……まさか取りに行くの?」


 こんな穴の中にある宝箱なんて、何が入っててもおかしくないよね……。


「行ってきましょうか、ルーチェさん」

「何で!? 私別に宝なんか要らないよ!?」

「何を言うんですか。どう見ても罠の気配しかしないですし、あなたが行くべきですよ」

「何で罠だって分かったら私が行くべきなの!?」

「さっきまで散々理由を説明しましたよ。まだ理解できないんですか?」

「あんな酷い理由でこんないかにもな場所に放り込まないでよ!」


 ……もし罠だったらどうしよう。


「……割と深いよ。上がれるかな……」

「さっさと宝箱だけ回収して上がってこい」

「分かってるよ……」


 とっととこの箱だけ開けて上に戻ろう。


「……あれ? 空箱?」

「何ですかそのオチは。とっとと上がってきてください」

「う、うん……」


 そのまま私が立ち上がろうとしたとき、カチッというあの音がしました。


「え? ……まさか……」


 まさかと思って私が上を見ると、何か巨大な物がちょうど私の入った穴を塞ぐように降ってきました。


「な……」


 直後、穴の中は真っ暗になり、ものすごい轟音と衝撃が落ちてきた物体から発せられました。

「大変なことになってしまいましたね……」

「まさか本当にこれが降ってくるとは……」


 「これ」とは何なのか。どうでもいいですけど、降って来たもののヒントは前回の話にあります。


「しかし、能面の滝を越えた先にも罠があるとは思いませんでしたね」

「だが、能面の滝に踏み込む発想が無い勇者どもにはこの遺跡の踏破は出来んと言う事だな」

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