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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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お宝を手にしましょう

「ルーチェさん! なんとしても遺跡の中のお宝を寝こそぎ奪っていきますよ!」

「そこまでしなくても良いじゃない!」


 遺跡内の仕掛けに散々にやられたうえ、ようやく手にしたお宝が1ゴールドだったことによって更に(一方的に)怒り出したジルに強引に遺跡の奥に引きずられていきます。……こんな状態じゃ盗掘するなって言っても聞かないだろうし……本当にどうしよう……。


「仕掛けも根こそぎ解除して、作った人間を引っ張り出して、勇者に対するこの仕打ちを謝罪させるんです! これは正当な権利ですよ!」

「どう考えても正当な権利じゃなくて一方的で理不尽な暴論だってば!」


 そりゃ……髪の事は同情するけど……。でも、全部わざわざ宝箱に手を出さなければ起きなかったことじゃない!


「何を言うんですか! もし私たちが取らなければ、別の誰かが持っていくんですよ!? 考古学者でしたっけ? あんな連中によって押収されて展示品などと言う現代の産業廃棄物にされるくらいならば、勇者である私が押収して使ってやりますよ!」

「その考えも明らかに滅茶苦茶な暴論だし、展示品は産業廃棄物じゃないからね!?」


 展示品だって人々の知識欲を掻き立てるような大事な目的があるんだし! 歴史の証拠にもなるし!


「歴史の証拠ですか? そんな意味のない幻想よりも、今私たちが使う方が重要です! 眠っている財宝を戦場に引っ張り出して、戦場で酷使し、最終的には武器屋で売り払う! これが正しい使い方ですよ!」

「戦場で酷使するのも十分おかしいと思うんだけど!? というか、最終的に売り払うって発想がまずおかしいと思うよ!?」


 そんな貴重品を何でその辺の武器屋で売り払う必要があるの!?


「決まっているじゃないですか! もっといいアイテムがあるのに、古くて弱いアイテムに拘っても意味がありません。店売りのアイテムの方が高性能であればその場で買い換えます!」

「だったら尚更眠っている宝を取らない方が良いと思うんだけど!? 使い捨てにされた後行方知れずになったらそれこそ問題だよね!?」


 そんなことされたら、せっかくの歴史的なアイテムもそのうち無くなっちゃうよ……。


「戦力強化のために必要であり、最終的には別のアイテム購入のための資金に消える。これこそアイテムのあるべき姿でしょう?」

「それが市販品だったらあり得るけど、わざわざ歴史的なアイテムでそれをやらないでよ!」


 それをやっても良い物とやったら駄目な物の区別くらいつけてよ!


「私のアイテムは私の所有物です。ゆえに、例えそれが歴史的に価値がある(笑)アイテムだとしても、金になるなら私は何の遠慮も無くその辺の武器屋に売りさばきますよ」

「そんな考えで貴重品をぞんざいに扱わないでよ!? というか、歴史的に価値がある(笑)じゃなくて、本当に価値があるんだよ!?」


 例え切れ味が悪い剣であっても、それが歴史的に重要な誰かの愛用していた剣だったら、世界的には非常に価値のある物になっているのに!


「世界が無償での寄付(笑)を呼びかけるのではなく、国家予算の半分を差し出すなら喜んで売ってあげますよ?」

「その考えもすでにおかしいから! 国家予算の半分はいくらなんでもぼったくりすぎだよね!?」


 いくら貴重品でも、国家予算の半分はぼったくりすぎだと思うよ!?


「別にぼったくりではありません。売る側が提示した値段こそが正規の値段ですからね。もしこの値段で駄目ならば、金にならないガラクタとして火山の中や海の底にでも捨てるだけです」

「何でそう両極端な思考なの!?」


 超暴利でふっかけておきながら、その値段で売れなかったら金にならないガラクタだから火山や海の中に捨てるって……滅茶苦茶だよ!


「勇者だからです。他に何か?」

「どんどん勇者のイメージが壊れて単なる暴虐な人間になっていってるんだけど!?」


 絶対勇者じゃないよね!? ただの自己中になってるよね!?


「そんなことは無いですよ。世界を救うための資金ですから。役立たずの国家には資金を国の財政が破綻するまで出させる物なんです」

「国が財政破綻するほどの資金が必要な勇者の旅なんて聞いたことないけど!?」


 そんなにお金を使ってたら、どう考えても歴史にも載るはずだし……。


「当たり前ですよ。そうやって稼いだ金を遊びに使っている勇者ばっかりなんですから」

「詐欺じゃない! どう考えても詐欺だよそれ!」


 そうやって無理やりお金を出させた挙句、その金で遊ぶなんて……。信じられない……。


「だって私の金ですし。と言うだけですよ」

「そうだよね! 絶対それしか言わないよね!」


 ジルやグリーダーのような勇者だったら絶対それしか言わないよ! 「自分の金になったんだからどう使おうと自分の勝手だ」とか言って、反発すれば勇者自ら潰しに行くんだよね!?


「よく分かってますね。ルーチェさん。私たちの知らないところで勉強したんですか?」

「ジルやグリーダーの行動パターンや性格を見てたらこうするとしか思えないよ!」


 だってジルなんか勇者を名乗って資金だけ巻き上げてそのまま逃げた現行犯だし……。


「私の成果を褒めないでくださいよ。照れます」

「褒めてないからね!? 呆れてるんだよ!?」


 今のはどう考えても褒めてないよね!?


「それにしても、資金や物資を巻き上げて逃走する生活を続ければ、勇者として成し遂げた素晴らしい記録が後世に残せそうですよね。仮に悪行だと非難されても勇者なので裁かれませんし」

「単なる犯罪記録だよそれ! 素晴らしくもない略奪記録だからね!?」

「これに加えて、民家への不法侵入で泥棒が出来れば完璧なんですけど」

「余計に犯罪歴が増すだけだからね!?」


 何でこう駄目な方向に進んでいくのかな……。泥棒は駄目だってば……。


「そして、そう言う方向で動きたい私やグリーダーさんの活動の障害になるルーチェさん。あなたは見た目こそ若いですが、実は姑か何かなんですか?」

「何でそう言う話になるの!?」


 やっちゃ駄目だから止めてるんだよ!


「何を言うんですか。この世界にルールなど無いじゃないですか。あるのはただ一つ、勇者=正義というルールだけです」

「ちゃんとルールはあるから! いくらなんでもそのルールだけなんておかしいからね!?」


 そりゃ異世界の勇者のグリーダーにはルールが分からなくても無理はないけど……。ジルはこっち側の住民なんだしルールくらい守ろうよ!


「分かってないですねルーチェさん。ルールという物は……破るためにあるんです」

「格好よく言っても説得力無いからね!? というかルールは破っちゃ駄目だから!」


 もう……いつになったらジルは正しい考えが分かるんだろ……。というか、この遺跡の終わりが見えない通路と同じでどこまで行っても平行線なんじゃ……。


「ちょっと待ってくださいルーチェさん。どういう事ですか?」

「え?何が?」


 さっきのルールの事?


「確かに……言われてみればこの通路、ずっと同じ場所を歩いているように見えますね……」

「って、ええ!? まさかそんなわけないよね……」


 ……確かにずっと引きずられてたけど先は見えなかったし……入ってきた通路は見えているから進んでいる気配も無いような……まさか、戻されてるの?


「不味いですね……無限ループに見せかけた勝手に動いていつの間にか元の場所に戻される通路かもしれませんね。走りますか」

「そんな通路どこにあるの!? というか、何で突破するために走る必要があるの!?」

「決まっているじゃないですか! 宝のためです!」


 そう言って走り出したジル。……は、速すぎるよ……。私じゃ絶対についていけない……。でも本当に戻ってるのかどうか確かめたいかも。……ずっと引きずられてたし。


「えっと、ギルドカードギルドカード……」


 ギルドカードに残った記録を使うんだから今でも魔力を当てれば行動記録が出せるはずだけど……出来た! 点が三つとその点が移動した結果できた地図だよねこれ?


「居ないと思ったら……グリーダー何してるの!?」


 一つだけかなり離れた場所に点があって、その点が突然大きく移動したり壁に叩きつけられるように動いてる。……まさか……。


「ありえる。グリーダーだからやるとは思ったけど……」


 私が離れたらさっそく泥棒に走るなんて……。……カードの残り二つの点は……今止まっているのが多分私で、通路をゆっくりと進んでいる点が……ジルなのかな?カードを見ると、本当に遺跡の通路が動いているような……。


「あ、ジルが止まった……ええ!?」


 ジルを指していると思われる点が止まった直後、その点がこっち側に戻り始めています。本当に戻されてるの!?


「ジル! 本当に遺跡自体に元の場所に戻されてる! 突破するなら一気に駆け抜けて!」


 聞こえてるのか分からないけど、一応言っておかないと! ジルの点がまた動き出して、一気に前に進んでるけど……。


「そもそも、何で遺跡が中に居る人を元の場所に送り返そうとするトラップなんてあるの!?」


 こんな仕掛け聞いたことないんだけど! というか、これだと絶対勇者以外は遺跡の完全な調査が出来ないよね!? どんなに進んでも元の場所に戻されて一歩も進めないんだもん!


「ん? ジルの点が止まって……戻ってない? 部屋も出て来たし、無事に着いたのかな?」


 そのままギルドカードを見ていると、ジルが入った部屋とこの通路の距離がいきなり伸びた。


「何で!? 通路が伸びるなんて聞いてないよ!」


 ギルドカードの地図を見ると、ここと奥の部屋の間にある通路が自由に伸びたり縮んだりしてるみたい。そりゃどんなに歩いても奥の部屋にたどり着けないよ。


「あ、滅茶苦茶に伸びた通路が縮んでる……」


 ギルドカードを触ってスライドさせないと先が見えないくらいに長かった通路はあっという間に短くなってここからでも奥の部屋が見えるようになった。……本当に想定外の事ばっかりだよ……。


「さて、この仕掛けもこれで終わりですね。よくも私を走らせてくれましたね? あなたは後でボコボコにするので覚悟しておいてください」

「そ、そんな! 仕掛けが壊されたらこの仕掛けを動かしている私の存在意義は「問答無用! 仕掛けをくっつけたままで固定してください!」そんな殺生な!」


 ジルの声と……誰!? 奥に居る誰かが仕掛けを動かしてこの通路を作ってたの!? 通路が無くなって奥の部屋に入れるようになったし、行かないと!


「ふう……あ、ルーチェさん。ようやくまともなお宝を手にしましたよ……」


 奥から近づいてきた部屋に私が入ると、汗をダラダラ流して肩で息をしているジルが青白い顔で半透明な人間?を縄でぐるぐる巻きにして出迎えてくれた。……誰なのそれ!?


「この遺跡の仕掛けの操作者ですよ。やっぱり居たんですよ。魔王の手下が! 勇者をこんな目に遭わせるトラップを嬉々として操作しているんですからね!」

「嬉々としては操作してませんってば!? た、ただその……命令だったので仕方なく……本当ですよ?」


 何この変わった人……。もしかして、この通路の仕掛けを動かしていたのは……。


「ええ。ここに居るのは恐らく魔王の手下です。今すぐ宝のありかを吐かせて、勇者に対する反逆の罪で速やかに殺処分しましょう!」

「思考が明らかに飛躍しすぎだからね!? いきなり殺すのはどうかと思うよ!? というか、私はこの通路の仕掛けを動かしていたのはこの人なの?と思っただけだよ!?」


 それに、たとえこの青白い顔の半透明の人が魔王の手下だとしても、いきなり殺す理由にはならないから!


「ルーチェさん。世の中には不可抗力や仕方ないで済まされることもあるんですよ?」

「だからってさっそくこの人を殺そうとするのはどうかと思うんだけど!? というか、いきなり殺そうとするなんて人としてどうなの!?」


 少なくともそんな酷い事は止めようよ!


「何を言うんですか! 勇者たる者、魔物は見かけ次第虐殺、魔族も同じく、役に立たない町民や王族も同じく虐殺です!」

「全部虐殺じゃない!」

「全部虐殺じゃないですか!」

「良いですか? 勇者に押し付ける町民や王族はその辺のモンスターと同じだと思えと言う格言もあるんですよ?」

「何処の格言!?」


 ジルがまた滅茶苦茶な事を言ってるよ……。というか、宝を見つけたって言ってたけど何を見つけたの?


「それは……あ、いえ、ルーチェさんは知らなくていい事です。知る必要もありません。取り上げられるわけにもいかないですし」

「何で!?」


 というか、私ってそんなに信用無いの!?


「……ここにあった物なので……彼女が押収していったのは間違いなく魔法のペンダントです」

「魔法のペンダント?」


 ジルが縄で捕えている青白い顔の人がジルがここで見つけた物を教えてくれたけど……何それ?


「周囲の魔法力を吸収してエネルギーに変えたり、攻撃魔法を吸収するような芸当も出来るアイテムですよ。強力なアイテムなので誰にも渡さないために仕掛けを使って厳重に守っていたんですが……」

「私の物欲を侮らないでください。物欲だけなら勇者グリーダーにも負けませんよ」

「私が操作していた「自在に伸びる通路」は見事に彼女の根性で突破されてしまいまして……」


 ……どこから突っ込めばいいのかな?


「奪われた上に仕掛けも壊されてしまった以上、亡霊の私は完全に用済みです。もう守る必要もないので、とっとと成仏しますが……もし他の宝も狙う場合、命がけで仕掛けに挑むことになるかもしれませんよ?」


 私が突っ込む前に勝手に成仏しちゃったし……。というか、そんなペンダントがあるなんて伝承にも載ってなかったし、聞いたことも無いんだけど……。


「ルーチェさん。伝説の武具(笑)何かよりもこういう非売品の方が強いことだってあるんですよ?」


 そう言ってジルが見せてくれたペンダントは銀色の鎖に金のような何かで出来た六芒星の魔法陣を取り付け、魔法陣の空洞に青い宝石をあしらった物だった。……明らかに1ゴールドとこれと値打ちが違いすぎるよね!?


「まあ、これくらいのアイテムなら売りさばくことも無いでしょう」

「さっきの話が本当だったら、こんな強力なアイテム売りさばくとか絶対に駄目だからね!?」

「そういえば、グリーダーさんは?」

「ここから離れたところをうろうろしてるけど……」


 なんか壁に叩きつけられるように動いてたりしてたけど……。


「きっと、罠に翻弄されているんでしょう。ギルドカードを見る限り、部屋中を激しく飛び回っているみたいですし」

「一体何が起きてるのか気になるし、早く合流しないと!」

「グリーダーさんよりも先にこのペンダントみたいな使えるお宝を探して持っていきますよ」

「逆だよね!?」


遺跡の中に強力アイテムは何個出るでしょうかね。とはいっても、モンスター戦闘は敵の強さがカオスすぎてそうそう好転しないでしょうね。対人はどんどん一方的になりそうで……ならないか。取った宝を返す選択?そんな物ありません。


ちなみにジルが捕まえた仕掛けの守り人は単なる仕掛けの生霊です。伸縮自在の廊下……実際に歩くとどんな感じなんでしょうね。行けども行けども先が見えない廊下とはどういう物なのか……。無限ループに近いのかな?

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