遺跡を調べましょう
4/3 改訂。
主にモノローグ部分と気づかなかった文法ミス修正。
「……行こう」
私達は遺跡の中に突入し、内部を調べることにしました。
なので早速入口に入ったんですが……。
「目の前に中々素敵な光景が広がっていますね」
「ああ」
「どこが!? 能面が山ほど入った空間のどこが素敵な光景なの!? ものすごく怖いから!」
私達が遺跡に入ると目の前に「能面の滝」と書かれた看板があり、その看板のすぐ後ろに大量の能面が積み重なった不気味すぎる空間が。
しかもこの遺跡のずっと上から、能面がそこの空間に文字通り滝の水ように大量に落ちてきている。
なんなのこれ……。
「砂や水なら分かりますけど、能面が降ってくるのは斬新ですよね」
「ああ、これは斬新だな。素晴らしい」
「斬新すぎてむしろ怖いよ!」
よっぽど高いところにあるのか能面が落ちてくる場所は見えないけど、そんなことどうでもいいくらい不気味だよこれ!
「ルーチェさんは生首が降ってきた方が面白いですか?」
「むしろ余計怖いから!?」
これ(能面)でも怖いのに、生首が降ってきたら怖いに決まってるじゃない!
というか気持ち悪いよ!
「その生首に赤い液体が付着していれば完璧だな」
「何で怖い方向に話が進むの!?」
生首についてる赤い液体なんて、それこそ嫌な物のイメージしか出てこないよ!
「まあ、そう言わずに、天井を見たらどうですか?」
「え……?」
ジルが居た通りに天井を見上げると、びっしりと天井に張り付いた無数の能面の目と口から光が出ていてそれがこの遺跡内を照らしていた。
……って、何で天井にびっしり能面が張り付いてるの!?
「能面だって天井に張り付くでしょう?」
「普通は張り付かないよ! 張り付かないからね!?」
何なのこの悪趣味な遺跡!?
本当にここを調べなきゃいけないの!?
「当たり前でしょう。何のための依頼ですか」
「それはそうだけど……」
こんなある意味魔物よりも恐ろしい場所を調べるなんて……。
「はあ、この程度の装飾で怯えるとは、軟弱者め」
「これは軟弱とかじゃないから!?」
というか何でグリーダーに私が軟弱呼ばわりされるの!?
「この程度の装飾で怯えているからだ」
「全くです。こんなの別に怖くないでしょう?」
「十分怖いよ! 不気味すぎるから!」
何でこんな不気味な遺跡なのに二人は平然としてるの!?
「「勇者たるもの、魔物以外は怖いという認識は無い」」
「それすでにおかしいよね!? 魔物以外はって、危険な仕掛けとか罠もあるのに!」
何で平然としてられるの……。
勇者って本当に怖いもの知らずだよね……。
「これくらい強い精神を持たなければ、泥棒を極めることなどできませんしね」
「何でそっちの方向に進んでるの!? というか、泥棒を極めたら駄目だから!?」
もうそれは強い精神とかじゃないよね!?
「遊んでいる場合か。さっさと進むぞ」
「ですね。ルーチェさん、もたもたしていると置いていきますよ」
「ええ!? ちょっと待ってよ!」
何で勝手に進もうとするの!?
置いてかないでよ!
「お前が先頭だといつまで経っても進めないからだ」
「先ほどの生首を踏んづけて通る時もこうしないと進まなかったですしね」
「だからってこれはないよね!?」
無理矢理進ませるなんて酷いよ!
「甘えを出して足手まといになる奴はこうやったら大抵諦めてついてくるからな。勇者ならではの教育法だ」
「……じゃあ、ついてこなかったらどうするつもりなの?」
「決まっているじゃないですか、ルーチェさん。もちろんその場に置いていきます。グリーダーさんもそうしますよね?」
「当然だ。足手まといとただ飯食らいは捨て置け。これも勇者の理念だ。役立たずには用は無い」
半分諦めてたけど……何でこう厳しいのかな……。
明らかに理不尽な理論だよ……。
「何せ、リーダーの指示はほぼ絶対ですからね。もし勇者の世界で生きていくなら自分からリーダーの指示に従うか、リーダーになるかだけです」
「滅茶苦茶だよ……」
何でそう弱肉強食な世界になってるの……。
「ん? この壁、怪しいと思わんか?」
「何で半分開いてるの?」
グリーダーが立ち止った所の壁は半分開いていて、奥に部屋が見える。
……どこかに入る場所でもあるのかな?
「この壁を動かせるかどうか、試してみろ、ルーチェ」
「え? う、うん……」
グリーダーにそう言われて、半分開いている壁に手をかけ、力を入れて押してみる。
そうはいっても、簡単に動くわけ――――
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……カチッ
「え? 思ったよりずっと簡単に動いて……カチッ? ……何の音?」
半分開いている壁は、私が力を入れて引っ張るとあっさり動いて道を開いた。
……なんだか嫌な音がしたけど……。
カーン!
「~~!?」
直後、いきなり頭に何かが降ってきた。
……い、痛い……。一体何が……。
「まさかタライが降ってくるとはな」
「変な壁だと思ったら、やっぱり罠でしたか」
「いった~……ちょっと!? 罠だって思ってたなら私を身代わりにしないでよ!」
私の足元には何故か金属製のタライが。
まさか……さっきのカチッって音は……。
「間違いなくタライの落下スイッチですね」
「何でこんなものがあるの!? というかどうしてタライなの!?」
そもそも、何でこんなものが降ってくるの!?
「トラップでしょう」
「厄介だな。だが、お前の犠牲のおかげでこの部屋の調査ができるようになった」
「何で私が犠牲にならないといけないの!?」
うう……タライの直撃を受けた部分がすごく痛いよ……。
こぶが出来そう……。
「ルーチェさん、あなたの犠牲は無駄にはしません。私が今からこの箱を開けます」
「って、ちょっと!? 盗掘は……」
「お宝、いただきです!」
その直後、ジルは開けた箱から勢いよく吹き出てきた緑色の液体をまともに浴びて吹き飛び、そのまま壁に叩きつけられた。
「ぶはっ! ゲホゲホ! 何なんですかこのトラップは! 宝箱から激流が出てくるなんて聞いていませんよ!」
激流を浴びて吹き飛んだジルの銀色の髪の毛があっという間に真っ白に……って、大変!
「私の髪が老人よろしく白髪になっているですって!? 本当ですかグリーダーさん!」
「ジル、実際に今のお前の頭は完全な白髪だ」
「なんて厄介なトラップですか……私の髪が……!」
「ジルのは完全な自業自得だよね!? どう考えても宝箱を開けたジルが悪いよ!」
欲を出して宝箱を開けたからだよね!?
「くうっ……よくもやってくれましたね! この遺跡の中のお宝、全部持ち帰ってやります!」
「明らかに八つ当たりだよね!? 自分が欲を出して罠にかかっただけなのに!」
ジルが空箱を蹴飛ばしてそのまま部屋の外に出てきました。
……特効薬でジルの髪治せるかな……。
「ルーチェさん! 行きますよ! 私を罠にはめたこの遺跡は万死に値します! 慰謝料として中にあるお宝はすべて私が押収していきます!」
「言ってることが明らかに滅茶苦茶だし、落ち着いてよジル! というか引っ張らないでよ!」
ジルが強引に私の腕を引っ張って遺跡の奥の方に歩いていく。
というかグリーダー! 傍観しないでせめてジルを止めてよ!
「……勇者規則により、勇者は勇者の行動を妨害しないという規定がある」
「そんな規則ないでしょ!? ただジルを止めるのがめんどくさいだけだよね!?」
「当然だ! それとルーチェ、生贄役は任せた」
「そこで肯定しないでよ! というか、生贄役なんて任せないでよ! 何で私ばっかりこんな役回りなの!?」
明らかに理不尽だよね!?
「それがお前のパーティでの役割だ」
「何でこれが私の役割なの! 酷いよ!」
こんな役割嫌だよ!
「次の仕掛けは……あの中ですね! ルーチェさん! 入ってください!」
「って、どう考えても無理だから!? 明らかに武器が飛び出してる場所に放り込もうとしないでよ!」
何か壁から突き出した剣の刃や槍の穂先が向かいあってる狭い通路の奥にスイッチらしき仕掛けがあるけど……どう考えてもこれは通り抜けられないよ!?
こんなところに投げられたら武器が刺さって間違いなく死ぬよね!?
「この奥に行ってきてください!」
「どう見てもこれは無理だから! どう考えても通り抜けたら死ぬよねこの仕掛け!」
剣や槍の先が互いに向き合って閉ざされた細い通路の先にスイッチ。
だけど、絶対通り抜けられないよこんなの!
「この奥に行ってきてください!」
「だから無理だってば! せめて魔法で壊すなりしようよ!」
「この奥に逝ってきてください!」
「さり気なく言い方変えないでよ! しかも嫌な方の言い方に変えないでよ!」
というか、この飛び出してる剣と槍何とかしてよ!
「仕方ないですね……ファイアボール!」
ジルが放った火球は通路に飛び出してる武器に当たって反射され、ジルの方に跳ね返ってきた。
ジルが咄嗟に飛びのいたから当たらずに済んだけど。
「あ、危ないじゃないですか! ルーチェさん! なにさせるんですか!」
「まさか跳ね返ってくるなんて思わなかったんだよ! というか、壊せないなら余計にここに踏み込んだら駄目だよね!?」
魔法で壊せない時点で余計に踏み込んだら危険だよ!
だから諦めて!
そう言おうとした時、いきなり後ろからジルの手が私の腰に回された。
「まあ、気にせずに逝ってきてくださいルーチェさん。……せいっ!」
「へ?」
言葉を返す暇も無く、突然ジルに背後から抱え上げられた私は、そのまま武器だらけの通路に投げつけられた。
……もしかして、私串刺しになって死んじゃう?
「そう言うセリフを吐ける時点で死なないでしょう」
「そもそも何で私を投げつける必要があるの~!?」
というか、こんなこと言ってる間に仕掛けに刺さりそうだよ!
けど、魔術は反射されてたしどうすれば……。
「骨は拾ってあげますね」
「そんなこと言う前に投げないでよ~!」
仕掛けに刺さると思った瞬間、私の身体は何かに引っ張られ、通路の奥に転移した。
……見えないワープでもあったの?
「……私、ちゃんと生きてる……?」
「その中の調査は任せますね」
「ジル! その前に私に言う事無いの!?」
私明らかに殺されかけたんだけど!?
「大丈夫ですよ。ルーチェさんは恐らく仕掛けで首を刎ねられてもくっつけるだけで蘇りますから」
「少なくとも私はそんな超人じゃないから!?」
首を刎ねられても死なないなんてどこの超人なの!?
「あなたの首なら斬り落とされても勝手に生えてくるじゃないですか」
「私どこの化け物なの!? そんなのありえないから!」
少なくとも、人間の首が勝手に生えてくるなんてありえないよ!
もし本当に首が生えて来たらそれもう人間じゃないから!
「え、生えてこないんですか?」
「生えてこないよ!?」
私はジルの中ではどんな生物になってるの!?
「何度首を落とされても首が勝手に生えてくる不思議な物体です」
「物体なんて言ってる時点ですでに生物ですらないよね!?」
何で人間どころか生物扱いされてないの!?
「勇者にもかかわらず、強盗を行わない世界で一番不思議な生物じゃないですか」
「何で強盗を行わない勇者が世界で一番不思議な生物になってるの!? 犯罪に手を染めないのは当たり前の事だよね!?」
というか、何で勇者が人の道を踏み外すようなことをするのが当然なの!?
「ストレスの解消です。何度も言わせないでくださいよ」
「ストレスの解消で強盗に走らないでよ!」
……やっぱり監視しないとだめだよね?
絶対に自由行動はさせられないかも……。
「まあその話はどうでもいいので、さっさとその部屋を調べてください」
「置いてたら駄目な話ばっかり置いておくよね!?」
まあ、調べないといけないから調べるけど。
……この小部屋の壁についてるのは……スイッチ?
「……押してみようかな」
壁についていたスイッチを押すと、さっきまでここの通路に出ていた剣や槍が引っ込んでいった。
「ルーチェさん、どうですか?」
剣や槍が引っ込んで通れるようになった通路を通ってジルが部屋に入ってきた。
……目の前に宝箱が二つあるけど、これってどう考えても罠だよね?
「上出来ですよ、ルーチェさん。仕掛けを解除していただいた上に宝箱も見つけていただけるとは」
「待って! さっきの宝箱みたいに罠だと思うよ! 放置した方が良いって!」
だってこんなところに置いてある時点で明らかに怪しいよ……。
「大丈夫ですよ、さすがに二度も罠が来るのはありえません。今度こそお宝「ゴスッ」なっ!?」
そう言ってジルが宝箱を開けた直後、中からばね仕掛けのグーパンチが飛び出してきてジルに直撃した。
だから開けない方が良いって言ったのに!
「いたた……ことごとく小癪な罠ですね! ……だったら、そこの箱は裏から開けてやります! 今度こそ引っかかりませんよ!」
そう言って裏側からジルが宝箱の裏に回ると
「カチッ」
「また罠!?」
「まさか!?」
ジルが飛びのいた直後、ジルが立っていた場所にピコピコハンマーが落ちてきた。
……ピコッという音じゃなくて、ゴスッという明らかに変な音だったけど気にしたら駄目だよね……。
「……危ないところでした。まさか宝箱の裏にも罠があるとは」
「だから開けない方が良いよね!? どう考えても罠しかないよ!」
ピコピコハンマーをとりあえず回収してジルが裏から宝箱を開けた。
……あれ? 何も出てこない?
「ふう、今度こそお宝を手にできましたね」
そう言ってジルが宝箱の中を見た。
「……ルーチェさん。宝箱の中身が1ゴールドとはどういう事なんでしょうか」
「……わ、罠じゃないだけ良かったじゃない! また変な罠だったらもっと大変なことになってるし!」
これだけ大変な目に遭って1ゴールドなんて時点でアレなんだけど……。
まあ、見つかっただけよかったよね?
「納得できませんよ! もっと貰わなければ納得できません! 行きますよルーチェさん!」
「そもそも、何でもっと貰う必要があるの!? 盗掘自体しちゃ駄目なのに!」
「決まっているじゃないですか! 私をこんなにもコケにした遺跡からは、奪い尽くすしかないでしょう!」
「誰もコケになんかしてないよね!?」
ジルに引っ張られて、遺跡の奥に引きずられていく。
……こんなことばっかりしてたら、そりゃあジルに罠という形で天罰が下るよ……。
「ルーチェさん! 私は勇者として正義の行いをしているので、天罰などと言う理不尽な物が下ることはありえないです! 天罰が下ったとしても、完全に冤罪です!」
「今も盗掘してるし十分悪い行いばっかりしてるよね!?」
「許せません! 遺跡の分際で、勇者を罠にはめるなどと! おまけに1ゴールドしか寄越さないとは……! 万死に値します!」
「言ってることが滅茶苦茶だし、いい加減落ち着いてよジル!」
「さて、ルーチェがジルにつきっきりになっているうちに俺は勝手に調べるとしようか。お宝は根こそぎ奪っていくか」
過去の遺物と言う事で常識ごと投げ捨ててみた遺跡内部。能面の滝の芸術性は現実にはありません。
「芸術性とか以前にとにかく怖いから! 滝のように落ちてくる能面の山なんて十分怖いからね!?」