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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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村に化けていた魔物を倒しましょう

後二回は村の調査が続くかも。書いてて思いましたが、この村、平和ですよね。


「家も家具も全部襲いかかってくるこの村のどこが平和なのか教えて!?」

 私達が泊まった宿だった場所の窓の外には家だったはずの物が魔物と化して盆地の中を動き回っており、ものすごい光景が広がっています。……どうしてこうなったのかな!?


「不味いですよね。この状況」

「ああ、床を壊して下りた先がどうなっているのかも分からないしな」

「でも、この場所に留まるわけにもいかないよね……」


 どうにかこの場所から脱出しないと。……でも、どうやって脱出しようかな?


「グリーダー、階段だった場所は壊せないんだよね?」

「ああ、完全に下から塞がれた。壊そうにも、びくともしない」


 階段が駄目か……だったら、他の床は駄目かな?


「他の床ですか?」

「うん。階段じゃない場所。つまり、私たちが今立っているこの場所の何処かを強引に破壊して脱出出来ないかな?」


 グリーダーのあの砂地獄を起こす魔法、あれならどうかな?


「崩れ去れ!」


 宿の床を砂地獄で削り取る……明らかに滅茶苦茶な気もするけど。


「!?????!!!」


 砂地獄が削るような音が聞こえた直後、不気味な雄叫びが聞こえたかと思うと宿全体が飛び跳ねたように振動し、そのまま激しく揺れ始めた。


「きゃあ!? な、何!? ……揺れが酷くて立ってられないよ!」

「この家自体が跳ね上がったんでしょうか!? も、ものすごくゆ……揺れて……!」

「ぬおお!?」


 グリーダーが斧を床に支えとして刺した直後、さらに激しく揺れ始める元宿。……家がモンスターだとすると、これは内臓を直接攻撃したような物なのかな……?


「ルーチェさん! 絶対離さないでください!」

「う、うん!」


 ジルもいつの間にかナイフを床に突き刺し、反対側の手で私の身体を支えている。……私もちゃんとジルのナイフを持っておかないと!この揺れじゃ、いつ変な方向に体を引っ張られるか分からないもん!


「ギョアアアアアアア!!」


 魔物の叫び声のような物が家から響き、更に高く跳ね上がった後、宿だった物はようやく大人しくなった。床には当初の思惑通り、下へと降りるための穴が開いている。


「さあ、下りよう!」

「はい! 一刻も早く何とかしましょう!」

「よし!」


 私たちはそのまま宿の一階へと飛び降りた。


「か、階段が……」

「本棚ですか!? どうして本棚が階段に挟まっているんですか!?」


 宿の一階にあったと思われる本棚が一階と二階を繋ぐ階段に蓋をするように挟まっていました。


「階段が塞がったのはこれが原因か!」


 グリーダーが本棚を斧で叩き壊すと、本棚の上から木のブロックが転がり落ちてきました。


「一体この村は何なの!? 魔物なのか村なのか……」

「あんな動き出すベッドが村の家具なわけないじゃないですか! 全部魔物でしょう!」

「くそっ! ドアも開かないか!」


 グリーダーがドアを壊そうとしてもびくともしない。……やっぱり、窓から飛び降りるしかないのかな?


「ガタガタガタガタ……」

「気を付けて! あの本棚、様子がおかしい!」


 部屋の奥にあった別の本棚が突然動き出して宙に浮き、そこからこちらを目がけて大量の百科事典を飛ばしてきました。……って、百科事典の角なんか直撃したら痛いじゃすまないよ!


「ちっ! 隠れろ!」


 私達は一旦階段の陰に隠れることに。……何で本棚が百科事典を飛ばしてくるの!? ありえないよ!


「本棚が百科事典を飛ばして攻撃してくるなんて、日常茶飯事ですよ」

「そんな日常茶飯事嫌だよ!」


 でも、あの本棚もうすぐ弾切れするよね? ……というか、飛ばしてきた百科事典が壁に激突してるんだけど、家はもう反応しないのかな?


「さっきの床に穴をあけた攻撃で一時的に気絶したんだろう。脱出したら、すぐにこの家も燃やすぞ」

「うん」


 こんな危険な家は一刻も早く破壊しないとね。だって、床に穴をあけたら跳ね回るし、自発的に動いて揺れる時点でそれはもう普通の家じゃないよ!


「ガタガタガタガタ……ガタッ!」

「本棚が直接体当たりを!?」


 弾切れを起こした本棚が自ら私たちが隠れている階段に体当たりをしてきました。幸い階段が盾になったから本棚だけ壊れて私たちは無傷だけど……。


「ギ……? ギガガガガガガガガガ!!」

「ま、また揺れが酷く……!」

「くっ! これじゃまともに動けません!」

「くそ! 今の一撃で起きやがったか!?」


 妙な声が聞こえた直後にさっきまで大人しかったこの建物が突然激しく揺れ始め、またもやまともに歩くことができなくなりました。


「ええい! このままでは動けん! ルーチェ!二階への穴目がけてファイアボールを当てろ!」

「分かった! やってみる!」


 二階への穴は……階段の陰からでも見えるね。……よし!


「魔力を集中して……行け!」


 激しく揺れ動く家に開いた穴を抜けたファイアボールがそのまま家の天井に直撃し、爆発した。その直後、これまで激しく暴れていた宿は動かなくなり、揺れが収まって普通に動けるようになった。


「あ、簡単に開きますね……」


 さっきグリーダーが壊そうとしてもびくともしなかった扉が簡単に開き、外に出ることは出来るようになった。じゃあ、次にやるのは……。


「ここを拠点に、順次化け物ハウスを破壊していきましょうか」

「それが妥当だな」


 うん。こんなものを見過ごすことは出来ないしね。そう思っていた時、遠くから声が聞こえた。


「誰だべ……オラの素晴らしい世界を破壊しようとするボケナスは……! オラの計画の邪魔するボケナスは生かして帰さんべ!」


 その声の聞こえた直後、門が閉じられるような音が響いてきた。……つまり……。


「さっきの声の主を討伐しない限り、門が開けられず帰れないでしょうね」

「……だよね」


 でも仮に出られても、放っておいたら他の人がこの場所の被害に遭うかもしれないし、やっぱり討伐するしかないよね。


「出よう。ここから出て、直接家を叩き壊して行こう」

「分かりました」

「行くか」


 さて、この家が暴れて止まった場所はどこなんだろ?




ーーーー




「宿に入った場所と全然違うよ……どこなのここ?」

「あの魔物避けがある以上、村の中なのは間違いないですが……」


 私たちが家を出ると、外の景色が一変していました。建物が自らの意思で歩きまわり、村の構造自体を変えているからある意味当然なんだけど、でもこんなの想定外だよ!?


「これくらい良くあるだろう?」

「無いよ!?」


 こんなことが頻発してたら、明らかに普通じゃないからね!? ありえないからね!?


「家の一軒がこっちに向かってきますね……どうしますか?」

「本当だ……」


 私たちが仲間を倒したと認識したのか、家の一軒がこっちに向かってその妙な足で歩いて向かってきました。家の屋根部分からは妙な顔が生え、窓の近くから手を2本、ドアの下から足を2本生やしたものすごく不気味な物体です。


「顔面に叩き込んでやれ」

「分かった。……ファイアボール!」


 こちらに向かう事にしか頭が無さそうな家の顔目がけ、ファイアボールを放ち、反応を見ます。


「ギガがガガ……」

「効かない!?」

「外は頑丈なようですね……」


 ファイアボールはあっさりと弾かれ、家にダメージを与えられません。……やっぱり中に直接攻撃するしかないのかな?


「ガガガガガガガガ!」

「って、何あれ!? 口から何か出て……!」

「一旦この家の中に入りましょう!少しはマシなはずです!」


 私たちが家の中に逃げ戻るのと動く家が口から何かを発射したのはほぼ同時でした。発射された物が家の壁に当たって爆発し、家の中まで振動が伝わります。……この建物、実はものすごく頑丈なんじゃ……。


「まあ、内装部分と窓が弱点なのは分かった。さっきのようには行かないかもしれないが、窓を破壊することができれば乗り込んで中から潰せるぞ?」

「窓を壊してから、乗り込んで中から壊す……か……」


 まあ、それしか無いだろうね……。それ以外に中を直接攻撃する手段が無いもん……。ドアだって簡単には開かないだろうし。


「そうと決まれば話は速いです。二階からあの家の窓を狙えますか?」

「やってみるけど……上手くいくかな?」


 恐らくこんなやり方は一回しかできないだろうし。……大丈夫かな?


「大丈夫ですよ。外れても、リトライは何度でも出来ますし。例え100回同じ場面をやり直しても相手は変わらず無防備なままですから」

「1回撃ったら気づかれて絶対防がれるよね!? というか100回も同じ攻撃を同じ場所からされてるのにそれでも無防備とか普通ありえないよ!?」


 同じ場所からしつこいくらい同じ攻撃を相手がしてくるのに、分かってて防がないなんて普通はありえないよ!?


「安心しろ。仮にこの方法が防がれても次は無い」

「次が無かったら安心できないよ!?」


 次があるから安心できるんだよ!?


「まあ、気負うな。仮に二階から撃って外れても、一階の窓からぶち込めばいいだけだ」

「大丈夫ですよ。それに、絶対相手の注意はそっちには向きませんから」

「? ……うん、じゃあ、やってみるね」


 何で注意が向かないと言い切れるのかはわからないけど、まあ、私は二階から狙ってみるだけだよね。




ーーーー




「魔力を込めて……うん、これならあの窓を壊せるよね」


 二階の窓(破壊した)から正面のモンスターハウスの窓を破壊することに。私の魔法で今いる家に止めを刺したからか、このモンスターのデータが追加されてたけど……家に化けて油断した冒険者を誘い込み、内部の魔物化した家具か自身の圧倒的な外装と攻撃力で襲う化け物……って、本当に何なのこのトラップモンスターは!


「さあ、来い化け物! 俺が遊んでやるぜ!」

(グリーダー……!? そう言えば、こっちには絶対に注意が向かないって言ってたけど……こういう事?)


 突然窓ガラスが割れるような音がしたかと思えば、グリーダーが家を飛び出してモンスターハウスの注意をひきつけてくれるみたいです。……窓の守りががら空きになってる! 今なら下の窓も狙える! ……行け!


 ガシャン!


「ガガガガ!?」

「隙だらけですよ? 土足で踏み荒らしますが、許しを請う気はないです」

(ジル! ……でも、上手くジルが窓を破壊してくれれば、私の魔法を窓の中に叩き込めるよね?)


 声を出したら気づかれるかもしれないし、私はここから二階の窓の内側に魔法を叩き込めるまで待……


「グガガガ……!」

(……!! ジルが突入した家の顔が近づいて来て……! 離れよう!)


 もしかしたら気づかれたかも……! 一旦隠れよう!


「グググ……!」

(こんな小さな窓には顔が入らないのかな? ……でも、索敵用の灯りみたいに光が入ってきて照らし出されてるから怖い……)


 モンスターハウスの顔らしき部分から光が放たれて真っ暗な部屋の中を照らし出してる。……怖すぎるよこれ。見つかったら口からあの妙な物を吐き出してくるんだろうし。


「グガガガガ!?」


 この建物に張り付いて中を探ろうとしてたモンスターハウスが突然悲鳴のような叫びを上げた。……光が無くなった今のうちに一階に降りよう!


「ルーチェさん! そこからこの家の内部を攻撃してください!」


 一階の窓に近づくと激しく体をゆすって暴れている家の中からジルが私に呼びかけていた。……家が実際に一階と二階のつなぎ目のあたりを両腕で押さえて左右に体を激しくゆすっている光景がそこにあった。外からもがいている様子を見るととてつもなく怖いよ……。


「分かった! 何処を狙えばいい?」

「二階の窓です!グリーダーさんがルーチェさんから見て左側の窓を破壊してくれたので、そこから魔法を叩き込んでください!」

「うん!」


 あまりに激しくもがくその様は少しかわいそうにも見えるけど、でも二人の事も考えるとこれをそのまま放置できないしね。止めるには倒すしかない!


「ファイアボール!」

「ギギャアアアアア!?」


 二階の窓の中を目がけて撃ちこんだファイアボールがそのまま天井に直撃し、激しく動き回っていた家は動きを止めた。……でも、まだ魔物退治は終わらないよね?


「はい。何せ、後二軒壊さなければいけませんから」

「こんな怪物を後二回も倒すなんて、気が遠くなるよ……」


 動きの止まった家からジルとグリーダーが戻って来た。……こんなのを後二回も破壊しないといけないなんて、本当に大変だよ……。二人は平気そうだけど。


「勇者たる者、仲間を呼ぶ敵をあえて放置して敵を増やし、増えた敵だけを倒し続ける「養殖」を必ず一度は経験しているからな」

「増えた敵を永遠に倒し続ければ何度も敵を探して歩き回るよりずっと効率的ですしね。これを経験しているので、長期戦には慣れています」

「わざと仲間を呼ぶ敵を放置して増やして倒す行為を繰り返す勇者って……」


 そういう事も含めて現実の勇者って色々規格外だよ。本当に……。この家みたいに自分の知っている常識がほとんど通用しないもん……。


「大丈夫ですよ。ルーチェさんの中の「非常識」が世界にとっての常識ですから」

「それは絶対にないからね!?」

自発的に動いて収納してある百科事典をマシンガンのように飛ばしてくる斬新な機能の付いた本棚。でも何で本棚はモンスターにならない。角とか踏み付けとか間違いなく最強の威力だろうに。後百科事典の角はある意味最強の飛び道具です。


「そんな本棚、もう本棚って言わないからね!? それと、百科事典は飛び道具じゃないからね!?」

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