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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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明日の予定を立てましょう

 チャームなんてとんでもない物をジルが手に入れちゃったけど、とりあえずこれで難易度5の依頼の1つは片付いたよね?


「はい。報酬に40000ゴールドとチャームの魔法……あまりに大きな報酬でしたよ」

「ねえ、ジル! 絶対に、悪用したら駄目だからね!?」

「しませんよ。せいぜい町中の人から寄付を募る時に使って全財産を取り上げるくらいです」

「それを悪用って言うんだよ!」


 ……どうしよう。もし夜中にグリーダーとジルが結託して抜け出して強盗に走り出したら大変だよ。


「大丈夫ですよ。善意の寄付を募るんですから」

「チャームで操る時点で善意も何もないよね!?」


 それって実質洗脳と一緒だし……。どこにも相手の意思が無いよね?


「寄付してくれない酷いお方に対して仕掛けるんですよ? 別に誰彼構わずかけるつもりはありません」

「寄付してくれないって言い方がすでにおかしいけど……」


 だって、寄付を募っても何もしてくれないことの方が普通なんだよ?


「勇者に丸投げしているのに勇者に寄付を行わないのは勇者に対する反逆ですよ。そのような輩は本来死刑になっても文句を言う事は許されません」

「だからその理屈はおかしいってば!」


 丸投げは事実かもしれないけど、応援してくれてたりするでしょ!?


「応援? ああ、お金にならない口だけの声援(笑)ですね。あんなものよりも現物の寄付や寄進の方がありがたいですよ?」

「冒険者としてはそうだけど、言っちゃ駄目だよそんな事!」


 心からの声援よりも現物の方がありがたいのは……まあ、過酷な旅だから分かる気もするけど……。


「遅かったな」

「あ、グリーダー。そっちはどうなったの?」


 宿の入り口に戻ってきたら、グリーダーが待っていた。武器、どうなったのかな?


「ああ、明日の朝、宿に届けると言っていたな」

「私のナイフも同じですよ」

「そっか。じゃあ、もう今日は宿に入って食事をとって休もうか」

「そうですね。……あ、グリーダーさんにもアレを飲んでもらった方が良いのでは?」


 あ、そっか。グリーダーはまだ特効薬を飲んでないよね。


「何だ?」

「特効薬……エリクシールだよ。飲んだら体が凄く楽になるから、飲んでおいて」

「分かった」


 グリーダーも回復したし、明日から魔物討伐の依頼や調査の依頼を受けないとね。さあ、宿の中の食堂に向かおう。




ーーーー




「さて、晩御飯は何にしましょうか」


 食堂に入ったらまずは注文する物を決めるんだけど、何がいいかな?


「ふむ……やはり森林内の素材が多いな」

「まあ、ここが森の中にあるし、獣も多いだろうからね」

「肉は昼に食べましたし、野菜関係にしましょうかね」


 野菜関係……あ。森林野菜のスープだ。これにしようかな?


「汁物か? とても腹が膨れるとは思えないが……」

「昼のウルフを見たでしょう?きっと、相当たくさんの野菜が入ってるんだと思いますよ。……私も、それにしましょうか」

「ふむ……俺は炒め物を頼むとするか」


 注文も決まったし、頼もうかな。


「すいません、森林野菜のスープ2つと野菜炒め1つお願いします」


 注文を頼んだ直後、別の冒険者……ううん、どこかの代表の勇者だっけ? の一団が入ってきた。


「ふう、今日は何とか勝利できたね」

「はい。事前の計画通りに動けた結果でしょう」

「このスロウリーの手を煩わすまでも無かったか」

「無事に勝ててよかったです……」


 入って来てそのまま私たちが座っているテーブルの隣のテーブルを囲んで座った勇者一団。まあ、話しかける必要はないよね? 向こうは私たちの事自体知らないみたいだし。……私達がテラピアで知っているだけだけど。


「ルーチェさん。明日はどのクエストを受けますか?」

「そうだね……探索系の難易度5かな」

「探索にも関わらずその難易度か。これはかなりの手ごたえがありそうだな」


 うん。西の村、東の遺跡。どっちに転ぼうと難易度5だもん。遺跡はともかく、どうして西にある村の調査が難易度5なんだろう。


「まずは西の村を調べてみよう。それが終わったら、遺跡の調査に向かおうよ」

「西の村から、ですね」

「了解した」


 まあ、依頼は逃げないしね。とりあえず探索は早めに終わらせよう。


「勇者様、聞きましたか?」

「ん? スロウリー、君は注文を決めたのか?」


 隣で何か言ってる。スロウリーだっけ? の声が大きいからこっちに筒抜けになってるけど。


「隣の連中、勇者様すら手を出さぬ難易度5に足を踏み入れるつもりですぞ」

「それが、どうかしたのか?」


 うん。魔王討伐前に強くならないといけないし。これは試練みたいなものだから。


「危険ではないでしょうか? 勇者様すら受けない高い難易度をその辺の冒険者が受けるなどと……」

「……スロウリー……」


 横の戦士は頭が痛いとばかりに額を抑えてお爺さんの名を呆れたように呟き、勇者と女の子は意味が分からないと言いたげにお爺さんの話を聞いている。


「ああ、つまりですな、勇者様すら踏み込まない危険地帯に踏み入る無謀な輩を止めた方がよろしいのでは無いのか、と言う事です」


 ……あなたたちが止められるような魔王だったらいいのにね。そしたら私も使命なんてないからゆっくり遊べるのに。


「ルーチェさんから解放されれば、世界中の財産を奪い放題ですね」

「その通りだな」


 ……ああ、駄目だ。この二人を野放しには出来ないよ。何をしでかすか分からないし……。


「なるほど、つまり、危険地帯に踏み込もうとしている人たちに危険だからよせと忠告するんだな?」

「その通りでございます、勇者様」

「待て。いくらなんでもそれは駄目だ。我々は確かに勇者一行だが、実力は知っての通りまだまだ低い。隣にいる彼らの方が我々より強かった場合、どう言い訳するつもりだ」

「臆したかベルナルド?勇者一行より強い冒険者など居るわけなかろう。力で忠告するのだ」

「……スロウリーさん、それは止めた方が……。勇者様、さすがにそれは言っちゃ駄目ですよ……」


 ……まあ、仮にやって来てもグリーダーが睨みつけちゃったら終わるだろうね。


「……ベルナルドの意見に賛成だ。スロウリー、その必要はないだろう……」

「ぬう……しかし、そんな事では勇者の威厳が……」


 勇者の威厳……そんな物も勇者には必要なんだね。勇者の威圧ならグリーダーが常に出してますけど。


「それで、どうします? 彼らの忠告(笑)を聞いてあげて、反発するふりをしてボコボコにしますか?」

「俺はそれでも全然構わんぞ? 斧が無くともどうと言う事は無い」

「何でいきなり争う事を前提にしてるの!? 落ち着こうよ!」

「冗談ですよ。襲ってこない限りは」


 ……そもそも争わないようにしようよ……。


「ぬう……勇者様が近くに居ると言うのに頭も垂れぬとは……」


 まあ、その人が世界を救えるとは思えないし……。勇者とは知らないだろうし……。


「勇者を前にして跪かない輩の首をへし折る……ふむ、その手の遊びも面白そうだな」

「何考えてるの!? そんなの駄目だからね!」


 もう……あんな馬鹿老人の言う事一々真に受けないでよ! あんな馬鹿老人、体力が無かったら盾にも戦力にもならないただの役立たずなトラブルメーカーなんだから! 大体なんなのあのふざけっぷりは! 魔法への冒涜なの!? というかそもそも戦う気自体無いよね! 魔法使いじゃなくて遊び人の間違いなんじゃない!? ああいう馬鹿は自分の実力を過信して明らかに分不相応な難易度4や難易度5に踏み込んで勝手にやられるんだから、関わっちゃ駄目!


「ルーチェさんが何気に凄いこと言ってますね」

「口に出さないだけで、ものすごい暴言だな。事実だが」

「ぬう……何やら、このスロウリー、馬鹿にされたような気がしてならんのだが……」

「気のせいだろう。さあ、大人しく食事を注文するぞスロウリー」


 実際このスロウリーって人は色々なところで馬鹿だよね! テラントの馬鹿王と同じくらい馬鹿だよね!? そう言えばあいつもそうだよ! いきなり召喚してグリーダーと一緒に私も叩きだしたけど、ふざけるのもいい加減にしてよね!


「心の中だけとはいえ、凄まじいことを言ってますよ。一応この国の王様でしょうに」

「まあ、あの王が馬鹿なのは事実だがな」

「注文、まだかな?」


 そこの馬鹿爺が絡んでこないなら別に何もしないけど、もしこれ以上絡んで来たらその大馬鹿な頭、思いっきり叩きなおしてやる! 勇者やあの爺さんのプライド? 知らないよそんなの! 年喰った権力者なんてどいつもこいつも馬鹿だから、一旦思い知らさないと!


「相当頭に来ていたようですね。色々と鬱積したものが爆発してますよ」

「口は普段通りだが目は完全に狂っているな。今なら視線だけで人が殺せるという言葉の意味が良く分かる気がする」

「ええ。昨日の機械の威圧感とはまた違う威圧感です。……勇者の纏うオーラまで見える気がしますよ?」

「奇遇だな……金髪のはずが赤いオーラの影響でオレンジに見える。まあ、奴らには見えないようだが」

「むう……じゃ、じゃが、忠告はせねばならんぞ!」


 忠告? ……実力が伴っていれば分かるけどさ……。でもさ……実力も無い連中が何を言っているのかな?


ーーーー


 ジルです。さっきから命知らずなお爺さんが自分の実力も考えずに私達に「忠告」をするとか言っていますが、今のルーチェさんにそんな事を言ったら、間違いなく問答無用で消し炭にされますね。今のルーチェさんはグリーダーさんよろしく妙なオーラを纏い出していますし、グリーダーさんは常にこんな状態だから見慣れてしまえば怖くないですけど、ルーチェさんがここまで変わるとは思ってませんでしたよ……。


「だから落ち着けスロウリー! そんなことしなくていい!」

「勇者様まで何を言うのじゃ! 今からするのは勇者様からの有難い忠告じゃぞ!?」


 ……ルーチェさんを見ていると身体が震えてきますよ。そう言えば妙な傭兵の即死級の攻撃を食らっても死ななかったらしいですし、実はルーチェさんは相当強いんじゃないでしょうか?


「……せっかくチャームを使えるようになったと言うのに……今日の所は諦めるしかないですね……」


 目の前の鬼……ルーチェさんを見ると、そんなことをしたらどうなるのか想像できます。首を掴まれてへし折られるのはまあ当たり前でしょうが、首と一緒に心の方もへし折られていきそうです。


「ほう? いつの間に使えるようになったのだ?」

「はい。実は今日クエストの中に納品があるのを見て、さっさと終わらせたんですよ。その実験で習得したんです」


 チャームが使えること自体は教えておきます。後々戦闘で使う事も出来て便利なので。……ですが……。


「……」

「……縋りついても良いですか? グリーダーさん。助けてください」


 目の前の阿修羅は、もし私たちが今強奪に向かうとか言い出したら怒りの矛先を私たちに向けそうです。強奪の件は自業自得だろ! とか言われそうですけど、そんなことは無いです。あの老人、実力も無いダメ人間の分際で余計な事を!


「……一刻も早く食事を食べて奴から離れたいな」

「同感です……」


 ああ、早く来てください今日の晩御飯……。


「あ、あの……」

「何だ? レミッタ?」

「あれ……不味いですよ……」


 女の子がルーチェさんを指さして何か言っています。聞こえないですが、あの青ざめた顔から察するに、気づいたようですね。


「な……何ですかあの殺気は!?」

「ふん。何だと言うのだ? まあいい。儂一人でも忠告に行くぞ」

「ま、待てスロウリー! 早まるな!」


 お爺さんがついに地雷を踏みにやってきました。……もうどうなっても知りません!


「そこの冒険者、貴様ら勇者様すら踏み込まぬ難易度のクエストを受けるようだが」

「……い」

「ん? 今何と言った?」


 ルーチェさんが……いいえ、悪魔が……。


「さっきから黙って聞いていれば実力も無いくせに随分偉そうな事を言っているよね……?」


 ルーチェさんの瞳が老人の側を向き、勇者側にも見えるようになりました。


「ひいい!?」

「何と言う威圧感……!」

「ス、スロウリー! 手遅れになる前に謝れ! すぐに謝れ! 悪いのは明らかにこちらなんだ!」


 半分はこっちのせいかもしれないですけど。絶叫に疲れて切れてしまったんでしょうか……。笑顔ですけど、目が怖いですよルーチェさん……。


「勇者様からの有難い忠告を聞かんと言うか!? 実力も分からぬ愚か者が! かくなるうえは実力で思い知らせてくれるわ! 表に出え!」


 ヒステリックな反応をするあたり、この人もう終わりましたね。ルーチェさんが立ち上がりましたけど、その背後に四本の腕を組み、指を鳴らしている阿修羅が具現しているように見えます……。ルーチェさん、模擬戦形式の戦いを今からやるみたいですけど、お願いですから殺さないでくださいね……。


「お待たせしました。注文のメニューになります」


 ルーチェさんと老人が出て行ってすぐに広場の方からものすごい爆撃音や落雷が直撃したような音がしています。一体何が行われているのか知りませんけど、それを私たちに向ける事だけは止めてくださいルーチェさん……。

 普段切れない人ほど、切れると怖い。本当に怒って自制心が無くなると尚更。まあ、常にこの姿で居ればいくらジルやグリーダーでも民家に入ることは出来ないよね!恐怖に勝るものは無い!


「マホウコワイオンナノココワイゴメンナサイモウシマセンヨケイナコトハイイマセンユルシテクダサイオネガイシマス」

「スロウリー! 何があった!? しっかりしてくれ!」


 だから、突っ込みヒロイン相手でも逆襲されると恐ろしい存在に


「ちょっと、こっちに来ようか……」


 不味い、阿修羅が!ええい、正気に戻れ!いつもの突っ込みヒロインに戻れ!


「だいじょうだよ……わたしはしょうきにもどった!」


 その後魔法でボコボコにされてついでに水晶を奪われて行ったのは言うまでもない。

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