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強奪勇者物語  作者: ルスト
テラスト
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勇者たちの戦いを見物しましょう

 勇者たちが町の人と戦うクエストを受けたみたいだから見に来たけど……どうなるのかな?私たちは満場一致で勇者たちが町の人に惨敗するって予想しちゃったけど……。


「まあ、のんびり観戦しましょうよ」

「まあ、今日は休むつもりだしね」


 勇者たち、どうなるのかな?




ーーーー




「さあ、手合せ願うぞ。勇者たちよ」

「分かった」


 下の広場では、勇者一行と町の人4人が向かい合ってる。刃を潰してるみたいだから真剣じゃないみたいだけど、それでも武器の重さは変わらないんだろうな。


「さあ、勝負だ! 行くぞ!」


 勇者のその言葉を皮切りに戦いが始まった。まずは戦士が突っ込み、勇者と魔法使いが戦士に集まった人たちを攻撃するみたい。女の子は……何かおろおろしてるけど大丈夫なのかな?


「くっ! さあ、勇者様! スロウリー! 今です!」

「炎よ! 敵を討て! ファイアボール!」


 勇者の方はあっさり魔法を撃ちこんできた。……あれ? 魔法使いの方は?


「炎よ。汝に命ず。我の力となり、我の片腕となりて、我に仇名す連中に裁きを振るえ。我が願うは仇名す者達の殲滅。そのために我が支払うは魔力、我の魔力を代償として我今より術を紡ぐ、わが炎の魔力は力となり、敵を燃やすための大火となりて我に仇名す敵を撃たん。我が力を……」

「長いよ! どこまで詠唱長いのあの人! というかあの人の詠唱が終わる気配が全く無いよ!」


 余りに予想外だったから思わず叫んじゃったよ。でも、あそこまで長い詠唱は見たことないよ! あんなに遅い詠唱は今まで生きてきた中で初めて見たよ!


「素晴らしい才能ですね。あそこまで詠唱が長いと、さぞかし強力な魔法を使ってくれるのではないでしょうか? ……魔力が全く感じられませんけど」

「というか、詠唱中に妙な踊りをしてるけどあれは何!? 絶対詠唱してないよねあれ!」


 その魔法使いのお爺さんは詠唱中に突然妙な振り付けで踊り出してます……。あれは絶対に魔法の詠唱じゃない。魔法の詠唱は集中力が必要だから絶対と言って良いくらい動けない。あれはもう詠唱じゃなくてただの妙な踊りだよ……。


「あの爺さんからは戦う気が全く感じられんな……」


 グリーダーが呆れた顔をしてるよ。グリーダーのこんな顔、初めて見た気がする……。


「所で、ルーチェさんだとファイアボールはどれくらいの時間で撃てますか?」

「え? そうだね……私だと……」


 魔力を込めれば込めるほど遅くなるけど、下級魔法本来の威力で撃つと大体1秒かな?普段は魔力を込めて威力を上げて撃つから3秒はかけてるけど。


「ルーチェさんがファイアボールを数十連発できるほどの長い時間を使って、あのお爺さんは何を使うんでしょうね?」

「私に聞かないでよ……」


 あのお爺さんは一体何がしたいんだろ……。


「はあっ!」


 ドスッ!


「……ぐあっ!」

「あ、勇者が一人倒したよ」

「本当ですね。もしかしたら、勝てるかもしれないですよ」

「戦士がもう一人を倒したな。あの二人はまあ、本来の役割を果たしている。ただ……」


 残った二人に二人がかりで攻撃されているのはさっきから長い詠唱(?)をしているお爺さん。いくら攻撃されても一切怯んでないけど……。あれだけ殴られても平気って一体どんな体してるんだろ。


「炎は我が親友。炎の力を行使するに足りえる資質を我が示さん。さあ、炎よ。我に力を貸してくれ。我の魔力と一体となり、わが手より今こそ撃ちださん!」


 あ、魔力が集い始めた。今までずっとタコ殴りに遭ってるのに全然怯まないし倒れない辺りあのお爺さんの体力は凄いけど。


「業火よ火球となりて敵を薙ぎ払え! ファイアボール!」

「あれだけ長々と詠唱して結局必要なのは最後の少しの部分だけなの!? 途中の意味のないあれは一体何の意味があるの!? というか、あれだけ長いこと詠唱して出したのがただのファイアボールなの!?」


 しかもそのファイアボール、大きさがたったの1センチしかないです。普通なら火球の大きさは10センチを軽く超えるのに……。


「しかも相手に当たる前に消えましたよ」

「敵に当たる前に自然消滅したよ!?」


 お爺さんの放ったファイアボールは相手に当たる前に消えてしまいました……。この人、完全に戦力外だよね? 体力以外何もないよね?


「ぬうっ! 当たらぬか! ならば……! 雷よ、我今汝に力を借りることを求める。我が祈りは雷神の力となりて我の身体に降り注ぎ、わが魔力と融合して悪を滅する力となりてわが眼前の敵に目がけて放たれん。その力を持って我はこの手より清浄の雷を放ち、敵を滅して仲間を守る。それは電撃、雷神が生み出したる神聖なる力、この力によりて我が討ち取るのは邪悪の化身。さあ、雷の力を我に貸し与えて我に悪を滅殺する資格を与えたまえ。我がその力にて悪を滅殺する」

「また詠唱してる……」


 やる気が一切感じられないのはある意味凄いけど。あの人本当に勇者の旅の仲間なのかな? 荷物の間違いじゃないかってくらい役に立ってないよね?


「あわわ……スロウリーさんが! 回復! 回復! えっと……えっと……ヒール!」


 女の子の魔法はちゃんとお爺さんにだけ当たってた。……あれ、あのお爺さんだけが戦力外?


「意外だな。あの老人以外はちゃんと戦えるではないか……」

「……分かりました! あのパーティにおけるお爺さんの役割が!」

「え?」


 突然ジルが納得したように手を叩く。あの人の役割? ……何だろ?


「ああやって無駄に長い詠唱をして周囲の注目を引き付け、皆の盾になるのがあのお爺さんの役目なんですよ!」

「お爺さんを盾にする時点で色々間違ってないかな!? というか、それは役割と言うよりもあのお爺さんの活用法じゃないかな!?」


 まあ、ジルの言うとおり、あのお爺さんを使うならもう引き付けてもらう盾にしかならない。今も丁度あのお爺さんが盾になってるし。


「ほう! 盾か! なるほどな! 確かに、戦場においては盾役も必要だろうな!」

「その盾役を本来後衛のはずのあのお爺さんが行うのってそれもどうなのかな!?」


 でも、そのおかげであの女の子がある程度冷静に動けてる……のかな?


「雷雲わが刃となりて敵を貫け! 我の力は雷神の力! 我が今天誅を下す! 落ちよ轟雷! サンダー!」

「さっきから長々と詠唱してたのに、やっぱり貧弱な効果しか生まないんだねあのお爺さんの魔法!」


 サンダー自体は私も良く使うけど、お爺さんが相手に放ったのは、雷どころか静電気並みの貧弱な電流でした。……あのお爺さん、魔法使い止めた方が良いんじゃないかな……。いくら詠唱してもあれはほぼ全部意味不明な踊りだし……。


「スロウリーさんの魔法がほとんど効いていない……! 援護しないと! えっと……!」

「何が出る?」

「彼の者達より魔に抗う力を奪い取れ! マジックブレイク!」


 必死に魔法を使っているところ悪いんだけど、それは相手の魔法の攻撃力を下げる魔法であって、魔法の防御力は下がらないよ……。私は支援魔法や回復魔法を使えないけど、魔法防御を落とす魔法はレジストブレイクだし……。


「……思ったよりパニックの症状はマシだったのだな。まあ、もう奴らの勝利は確定だな」

「町人側で残ったのは一人、勇者側は全員動けますしね」


 抵抗していた一人も倒されて、勇者側が勝利した。……まあ、訓練だからこんなものなのかな?


「ルーチェさん、私達にも盾役が欲しくないですか? あんな妙な詠唱をしていただければ、間違いなく敵の注意は引き付けられると思いますけど」

「あんな妙な詠唱をしてくれる人他に居ないからね!?」


 というか、居てもほとんど役に立たないよねあんなの!


「しかし、回復魔法か……使える奴は居ないのか?」

「私は使えないよ」

「私も駄目ですね。適正自体無いですよ」


 回復魔法の力、見たけどあれは欲しくなるよね……。念のために薬はたくさん持っているけど、回復魔法は私達誰一人使えないからなあ……。


「適正さえあれば、先ほどの老人みたいなノリで使ってもらえるんだがな」

「そうですよね。素晴らしいです。ルーチェさんもあの老人のイメージで回復魔法を使う人のイメージをしてみたらどうですか?」

「……えっと……」


 私は治癒の女神に力を求める。私が求めるは仲間の怪我の治療。そのために私は魔力を捧げる。私の捧げた魔力を贄として私に治癒の力を与えよ。その力で私が治癒の代行者となりて仲間を助ける。私が願い奉るは苦痛からの解放。さあ、私に与えし力を今こそ行使させ、私に傷つき倒れし者の救済と優しき癒しを……


「長すぎて実戦では使い物にならないし、大けがしてたら無駄に長い詠唱をしている間に間違いなく失血死で死んじゃうよ!?」

「面白いじゃないですか」

「面白いからって理由で命を預けることは絶対にできないからね!?」

あらゆるものを超越する無駄に長い長い詠唱を見よ!怯まないのは当たり前。そして詠唱は止まらない。そしてやたら凄い事をのたまう。発動したそれが一気に味方を全滅させるほどの威力の大魔法か!?と思いきや、ただの下級魔法。しかもものすごく弱い。こんな敵が居たら初見ドッキリになるし面白いだろうに……。ネタにはなるけどゲームとしては駄目か。

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