賊のアジトを強襲してみましょう
「えっと……この辺りに村はあるかな……」
ルーチェです。
大男を召喚してしまい、追い出されるようにテラントの城を出されてから歩き通していたんだけど、日が落ちて来たのでそろそろ休める村か町が無いかなと思って、持ってきた地図を見ています。
「襲ってきた獣は始末した。次はどこの村を襲えばいい?」
私が召喚した大男が当たり前のように村を襲撃することを口にしてくる。
その背中には犠牲になったウルフが背負われていた。
当然、首は叩き落とされている。
「村は襲わなくていいよ!? というか、襲っちゃ駄目!」
……何か、このまま野宿した方がよさそうな気がしてきた。
…………村に立ち寄ったら恐ろしいことになりそうだよ。
この大男、平気で略奪とかやらかしそうだし……。
「ほう、あれは村か!? それとも町か!? 強奪のしがいがありそうだな!」
地図を見ている途中、大男が灯りを見つけたらしいので私も見ることに。
……確かに、建物があって灯りがあちこちに灯っているようには見えるけど……。
「強奪はしなくていいんだよ!? というか、しちゃ駄目なんだよ!?」
……この大男と一緒に旅をしていると、魔王討伐以前にどこかの国で軍に捕まりそうな気がしてきたよ。
あれからも出会った野盗を倒すなり、野盗の持ち物を全部剥ぎ取ってポイ捨てしてたんだもん。
平原のど真ん中に素っ裸で放り出される野盗の姿はちょっとかわいそうだったよ。
「小さいことを気にするな!」
「絶対に小さくないよね!? というか、すでに荷物は一杯なんだから強奪しなくていいじゃん!」
私たちの背後には大きな袋が大量に積み重なっている。
全部大男が野盗や魔物を倒して奪い取った物なんだけど……多すぎるよ!
こんなのどうしろって言うの!?
「アイテムを見たら強奪する。それが男の性よ!」
「絶対それは違うと思うよ!?」
この人には強奪をしないと言う選択肢は無いようです。
……あの灯りの先が町か村だったらどうしよう。
そう考えながらも、一応灯りの方を目指して歩くことに。
……というか、この大男が勝手に歩いていくんだし、ついて行くしかないよ。
「なんだ貴様ら、ここは俺たち盗賊団のアジトだぞ!?」
灯りのあった場所は盗賊団のアジトだったみたい。
どうやらここで夜を過ごすことになりそうです。
…………ここが町や村じゃなくて、本当によかったよ。
「アイテムを寄越せ。さもなくば……」
「ああ? 手前何言って……」
直後、大男が見張りの盗賊に接近し、そのまま首を掴んで宙づりにした。
いきなりの事に動揺する私と首をいきなり掴まれてもがく盗賊をほったらかしにしたまま、大男がその手に力を入れる。
その次の瞬間、コキャッという何かがへし折れるような嫌な音が盗賊の首から聞こえてきた。
「ぐ……は……」
直後、盗賊の断末魔のような声が聞こえ、盗賊の身体は力なく宙にぶら下がった。
大男がその盗賊を投げ捨てたけど、首が変な方向に曲がっちゃってる……。
…………いきなり盗賊の首をへし折っちゃったよこの人!?
ホントに何考えてるの!?
「さて、入るとするか」
首をへし折られて死んだ盗賊には見向きもせず、平然と入っていく大男。
……ちょっと待って!
「ちょっと! 相手が盗賊でもいきなり首をへし折るのはいくらなんでも……」
「アイテムを寄越せえええええ!」
「って、もう入って行っちゃったよ!?」
どうやら、この大男には目の前のお宝しか映っていないようです。
私と目があった時に見えたけど、大男の目の中にはお金のマークが映ってた。……怖いよ。
「おらあ! 勇者自らがアイテムを強奪しに来てやったぞ! 命が惜しければアイテムを置いて去るがいい!」
「それは勇者じゃなくて強盗だよね!? そんな酷い勇者いないよ!」
入って早々に大声を上げ、そのまま建物の奥に進んでいく大男。
そう言えばまだ名前聞いてないよね。
「アイテムを寄越せ!」
「な、何だ!? 貴様ら誰だ!」
呑気に酒を飲んでいた盗賊団の一人がこの大男を見て反応した。
「俺か? 俺は異世界よりこの地のアイテムを強奪するために召喚された伝説の英雄、グリーダー様だ!」
「はあ!? 英雄?」
「英雄はアイテムを強奪する人の称号じゃないよね!?」
こんな恐ろしい行動パターンの人が英雄なら、魔王はどこまで恐ろしいんだろう。
……というか、あなたはどこからどう見ても英雄には見えないよ!
悪魔にしか見えないって!
「いかにも。俺こそ英雄だ。さあ、命惜しければアイテムを出せ!」
「ざけんな! お前ら、やっちまえ!」
こんなふざけたこと言っても通じるわけが無く、当然、盗賊との戦いになっちゃった。
しょうがないから私も戦か……
「ふん。雑魚どもが。死にたいのならそうしてやろう。……デモニックブラスター!」
突然大男、グリーダーが両手を広げるとグリーダーの纏っている黒いオーラから無数の黒い光線が発射され、盗賊たちを次々と貫いていきました。
光線を食らった盗賊は一撃で壁まで吹き飛ばされ、倒れていく。
……私、絶対不要だよね?
「さあ、アイテムを奪うとするか! 収穫の時間だ!」
「アイテム強奪は収穫とは言わないし、明らかに悪いと思うよ!?」
「ぐおお……泥棒……め……」
酒を飲んでいた盗賊たちには悪いですけど、これもこの人が村を襲わないための苦肉の策です。
こんな怖い人を私一人で止められる気はしないよ。
……というか、やっていることは同じだけど、盗賊に泥棒とは言われたくないよ!
「畜生! この盗賊野郎め!」
「私野郎じゃないし、盗賊に盗賊野郎とは絶対に言われたくないよ!」
そんなこんなで盗賊たちの身ぐるみを剥がして捨てていきます。
……これは絶対勇者のやっていい事じゃないけど。
「何、勇者だからこそやっていいことだぞ。戦利品だ」
「むしろ勇者は世界の人達の規範になるような行動をするべきだと思うんだけど!?」
とか言いつつ、私もやっぱり強奪に協力してます。
……町についたら強奪した物全部売りさばいて必要な物資を補充しよう。
これはそのための資金になるから仕方ないよね!
……うん! 仕方ないんだよ!
「お前やっていることと言っていることが矛盾してるぞ!?」
「矛盾してないよ!? 矛盾してないもん!」
これは私が必要な物を買うためのお金を集めるためだもん!
決して盗賊や野盗みたいに奪った物をため込むためじゃないから!
「思いっきり俺たちと同じことしてるじゃねえか! この強盗野郎め!」
「うるさい! とっととそこの奥に閉じ込められてろ!」
「と言うわけだ。邪魔だから全員奥に放り込ませてもらうぞ」
「ちょっ! こら! 出せ!」
「タンスを置いて……これで大丈夫だよね」
アジトの一室に身ぐるみはがした盗賊たちを全員閉じ込め、更に出口をタンスで塞いでおきました。
……違うよ? 少なくとも私は盗賊じゃないからね!?
ただ、悪人から奪った物を売りさばいてお金に変えて、旅に必要な物を買おうとしてるだけだからね!?
「ふっ……勇者と盗賊は同じなのだ」
「違うよ!? ……後、今日は日も落ちたしここで休むからね」
「分かった。ZZZ……」
「寝るの早!? というか、普通別の部屋で寝るとかなんとかあるでしょ!? ……まあ、私が隣の部屋で寝ればいいか」
盗賊団のアジトだった場所を征服してしまいましたが、とりあえずここで一晩休むことにしました。
……町に立ち寄ったら何を買おうかな……。
とりあえず食料と水と、それから……。
「見事に俺たちと同じ考えだな。やっぱりお前実は盗賊なんじゃねえのか?」
タンスで塞いだドアの奥から盗賊の声が。
だから!
「私は盗賊じゃないよ!? 普通の魔術師だってば!」