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side ルーチェ
「ねえ……。あの隊長、どう思う?」
イナテモを倒した次の日、私達は一つの部屋に集まっていた。
理由はもちろん、あの傭兵隊長の事を話し合うため。
あんないかにも怪しい男の事、疑うなって方が無理だけど……。
「まあ、見るからに怪しいですよね。実は何の関係もありませんでした、って事になったら逆に尊敬できるくらい怪しいです」
「間違いなく何かあるだろうな。だが……」
「証拠が無いのに怪しいからって理由だけで手出しするわけにはいかないんだよね、ルーチェ」
「うん。闇雲に人を殺しまわってたらそれこそ私達も勇者プログラムと同じになっちゃうし」
正直、あの隊長が勇者プログラムなんじゃないかってくらいに怪しいけど。
というか、あの場で戦いになってたと仮定したら間違いなく隊長を先に狙ってる。
だって……。
「あの場で『分解されて消えた』なんて言い出す時点で、自分が勇者プログラムだって自白したような物ですよね」
「分解されて消えることを知ってるのは勇者プログラムだけのはずだしね……」
というか、普通なら『爆死して砕けた』『焼けて消滅した』みたいな言い方になると思うけど、そこであえて『分解されて消えた』って言い出すあたり……。
もし私達が下手な事をしたら、それこそ向こうから襲ってきそう……。
「どうします? いっそこっちから仕掛けますか? 町中で適当な騒ぎを起こすくらいならできますよ?」
「薬を使えばすぐに出来るね。効果自体も短くしておけば隊長を誘き出すだけで済みそうだけど」
「駄目だよ。無関係の人を巻き込んじゃったら」
手っ取り早く誘き出すなら確かにジルの言うとおり、ポートルで騒ぎを起こせばすぐかもしれない。
マディスならすぐに対応した薬を作ってくれるかもしれないし、実際出来るんだろうね。
でも、ここで問題を起こしたら隊長どころか無関係の傭兵まで襲ってくるよ。
もし戦いになったら、そう都合よく手加減なんてできないし……。
「じゃあどうするんですか? このまま待っていたら、間違いなく面倒事に巻き込まれますよ? もし『貴方達は警戒されてるから船に乗せられません』って言われて乗船出来なくなったら、先に進むことすらできませんよ」
「……それは……」
確かにあり得ると思う。
私達を逃がさないように、言いがかりをつけて出られないようにするってやり方は、権力さえあったらすぐに出来るよね……。
「……どうすればいいんだろ? 隊長を問い詰めることも困難だけど、もしジルが言ったような事になってしまったら……」
こちらから行動を起こせないから、ある意味手詰まりになってしまったかもしれない。
せめて、あの隊長が何を考えているのかが分かれば……。
「そうなると、情報収集か? 隊長の様子が変なのは傭兵も当然のように知っているみたいだから、傭兵に聞き込みをしてみるか?」
「……現状、それしかないかな。何か聞けると良いんだけど」
ルシファーの提案を受け入れることにするかな。
ただ、あんまり深く聞きすぎても良くないんだよね。
もし傭兵にまで怪しまれたら困るし……。
「その辺が難しいですよね。どうせなら知ってること全部聞きたいですけど」
「けど、いくら町の救世主だったとしても、私達はあくまでちょっと立ち寄っただけの旅人だからね」
ずっとここに住んでいて、傭兵達や隊長とも懇意にしている、って場合はともかく、私達はただ旅の途中でポートルに立ち寄っただけの旅人でしかないから。
そんな人がこの町の傭兵の事をいきなり調べまわってるって、どう考えても怪しまれるよ。
「分かっていますよ、ルーチェさん。怪しまれない程度に聞き込みします」
「うん。それでお願い」
できれば詳細な情報が欲しいけど……変に嗅ぎまわるのも危険だからね。
向こうに警戒されないようにやってみよう。
「すみません。少しよろしいですか?」
「……ああ、貴方方は。昨日はご迷惑をおかけしました」
「いえ、構いませんよ。町を守る人なら当然の事だと思いますし」
翌日。
私達は傭兵隊長について調べるため、町に居る傭兵に軽く聞き込みをすることにした。
まあ聞き込みって言っても、警備についている傭兵達に雑談ついでに聞いてみる程度の物だけど……。
「それでも、救世主にあんな真似をしてしまったのですから謝らせてください」
「あはは……さっきも言いましたけど、町を守るためなら当然だと思いますし、気にしていないです。それより、港は大丈夫ですか?」
昨日の戦いで間違いなく崩壊しちゃってたし、この話題なら問題ないはず。
丁度港が見える場所だし、復旧具合も見える。
「港は……まあ、見ての通りですね。今全力で復旧させていますよ」
「うーん、昨日も見たけど、本当に酷い壊れ方だね~」
「そうですよね。倉庫も船着き場も何も残っていないじゃないですか」
マディスとジルの言葉通り、港は酷い有様だった。
船着き場は破壊され尽くしており、切り立った崖のようになった場所があったりクレーターが開いていたりと、港として使う事はまず不可能になっている。
更に倉庫も大半が破壊されており、イナテモとの激戦地となった場所には倉庫だったと思われる黒い残骸しか残っていなかった。
しかし、沢山の人――――パッと見ただけでも200人以上の人が働いており、大量の木材、石材が港の入り口に運び込まれている。
恐らく時間が立てば元通りになるだろうけど……。
「……復旧には何日くらいかかりそうですか?」
「そうですね……。軽く見積もっても二週間以上かかるでしょうね。昼も夜も交互に人が入れ替わって働いたとしても、この港の完全復旧はかなりの時間がかかりますし」
……って、そんな期間で元に戻せるの?
こんなに酷い被害なのに……。
「ええ。隊長から私達も手伝って良いと指示を受けましたからね。手の空いた者は皆港の復旧に力を尽くすんです」
「隊長……と言えば、随分疑り深い人でしたよね」
私達が犯人だと決めつけて来たし。
「……そうですね。以前はそんなこと無かったはずなんですが、最近隊長は様子が変になったというか……」
「そうなんですか?」
……最近様子が変に、か。
どういう事なのか教えてもらおう。
「ええ。最近は部屋に閉じこもることが多くなったというか……」
「部屋にですか?」
……雑務でもやってるの?
「そういうわけでもないようなんですよね。部屋から時折話し声も聞こえてきますし、しかし入ると隊長以外に誰も居ないですし……」
「……何だ、それは? 見えない何かと話でもしてるのか?」
「……そのようなんですよね」
ルシファーの言葉を微妙そうな表情を浮かべて肯定した傭兵。
……それって、隊長大丈夫なの?
何かに操られてたりしないよね?
「……そんなことは無い、と思います。最近部屋に閉じこもることが多くなりましたけど、隊長が豹変した、という感じはしないので」
「わけが分かりませんね」
「豹変したわけでもないのに部屋に閉じこもって、誰かと話しているような素振りまでするの? ますますわけが分からないね~」
マディスの言葉通り、話を聞けば聞くほどにわけが分からなくなる。
表面上何も変わっていないように演技しているだけなのか、それとも本当に誰かと話しているのか……。
「私達にも分からないんです。話し声がしているときに部屋に入ろうと思っても、隊長は部屋に鍵をかけていますから勝手に入ることは出来ませんし」
「誰かに聞かれたら不味い、って思っているんでしょうか? それとも、見られたくないって思ってるのか……」
見られたくない、か……。
確かに、鍵をかけてまで入れなくするなら見られたくないって思ってる可能性が高いけど……。
「話を聞けば聞くほど、怪しくなってくるよね」
「我々も気になってはいるのですが、隊長は『お前たちは気にすることは無い』の一点張りでして……」
「そうなんですか……」
まあ、警戒心が相当強いって事だけは分かったよ。
「ところで、この様子じゃ船の出航も難しいんじゃないですか?」
「そうですね……。もしかすると、近くの砂浜から小舟で人を乗せていくことになるかもしれないです」
やっぱり、すぐに復旧できないから不便になっちゃうんだ。
何であんな物作る人がいるんだろう……。
「……まあ、港が復旧するまでの辛抱ですし、何とか頑張ります。貴方方も旅立つときまでゆっくり体を休めておいてください」
「はい、ありがとうございます」
……かなり重要な情報も聞けたね。
予定よりかなり早いけど、下手に聞き込みを続けて怪しまれたりしないうちに戻ろうか。
「って、私達の部屋の前に何か落ちてる……」
戻ってきた私たちは、自分達が泊まっている部屋の外の廊下に何か落ちていることに気づいた。
……折りたたまれた紙。これって、手紙かな?
「……どうしてこんな所に手紙が?」
「紙に毒……はそのまま置かれてる時点で無さそうだけど、何が書いてあるの?」
とりあえず拾ってはみたけど……。
まあ私達の部屋の前に置かれてたわけだし、部屋に戻って読んでみようか。
「……え!? これって……」
手紙に目を通し、内容を見た。
直後、私は言葉を失った。
「何が書いてあるんですか、ルーチェさん?」
「ポートルの近くの洞窟に『ポートルを襲撃した化け物』が出現した。三日以内に倒さなければポートルが潰されるかもしれないって……」
「……いくらなんでも露骨すぎませんか?」
「明らかに怪しすぎるだろ……」
だよね……。
というか、こんなあからさまな罠にかかると本当に思ってるのかな?
……と言いたいところだけど……。
「……ねえ、ここは敢えて、罠にかかってみない?」
「罠――――この手紙にですか?」
「うん。もし本当の事なら勇者プログラムが出てくるし、仮に嘘だったとしても、こんな手紙を出してくるって事は……」
「黒幕が出てくる、って事ですか」
「そう言う事。どっちにしろ、手っ取り早いよ。それに……」
「それに?」
皆に見えるように手紙を見せ、手紙の一番下に書かれた文字を指差す。
それを見た瞬間、皆の表情が一変した。
「差出人……あの傭兵隊長じゃないですか」
「……ここまで間抜けな事をやるとは思わなかったな」
「手っ取り早いのはいいことかもしれないけどね~……」
皆が呆れるのも無理はない。
手紙の差出人はポートルの傭兵隊長。
勇者プログラムなんじゃないかと疑ってるその人だったのだから。
「それに、見てこれ。詳しい話は会って直接話したいから、来てくれって書いてるよ」
手紙には「他の人間には知られたくない内容だから、詳細は直接会って話したい。昨日は本当にすまなかった」と謝罪の言葉まで書いてある。
……一体どういう事なの、これ。
「こんな謝罪文まで付け足すならあんな態度取る必要なかったんじゃないですかね……」
「理解できないな……」
「変な人だよね~……」
呆れて言葉が出なくなる私達。
こんな謝罪文付け足すくらいなら最初から「感謝しています!」とでも言ってすぐに帰してくれたらよかったのに……。
「それで、どうします? 今から隊長に会ってみますか?」
「……そうだね。敢えて罠にかかってみる以上、早い方が良いと思うけど……」
この手紙を見る限りポートルに勇者プログラムが襲ってくることだけは間違いないんだよね。
私達が何もしなかったらだけど。
「それに、話だけ聞いて逃げるのもアリだと思います。自分たちで対処しろ! と言っても良いんじゃないでしょうか?」
「……私もそう言いたいけど、あんな化け物にこの町の人が勝てるのかな?」
勝てないことが分かってるからこんな手紙をこっそりと送ってきて「助けてくれ」と言っているのかもしれないし。
……まあ、罠だろうけど。
「結局俺達で倒すしかないのか? 言っておくが、いつまでもこの町には居られないぞ?」
「分かってる。だけど、さすがにこれは放っておけないよ」
ポートルの町に思い入れがあるわけじゃないし、多分、いや、確実にこれは罠だ。
だけど、勇者プログラムの事だからもし放っておいたら関係の無いポートルを破壊し尽くすんじゃないかな?
「そうですね。困った時に助けてくれる勇者なんて居ませんし、自分たちで守るしかないですよね。……まあ、相当な報酬を要求したって罰は当たらないと思いますけど」
「それに、ポートルが潰された責任をこちらに押し付けられたらそれも困るな」
「私達が逃げたからポートルが勇者プログラムに壊滅させられた、って? ……確かにそれは嫌だね」
あの傭兵隊長がそこまでするかはともかく、こんな手紙を渡してくるんだからきっと依頼のつもりでやってるんだろうしね。
それを無視したら……というか普通は無視するのが当たり前なんだけど、町が潰されてその責任をこっちに押し付けられる、なんてことになったらそれも困るよ。
……まあ、それ以前に勇者プログラムは暴れ出す前に倒さないと不味いから早く対処しないといけないけど。
「じゃあ、今から隊長の所に行きますか?」
「うん。さっきも言ったけど、早い方が良いからね」
まさかの6ヶ月以上も開いてしまった。
やりたいことが多すぎてあっちへこっちへと浮気しすぎたかもしれないです。