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強奪勇者物語  作者: ルスト
ポートル
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説明しましょう

「イナテモは……居ない?」

「倒した……のでしょうか?」


 シャイニングスピアの爆風が晴れ、イナテモの居る場所が明らかになる。

 爆風で吹き飛ばされて消えたのか、爆心地は大きな窪地になってしまっているけど、イナテモの姿はどこにも無かった。

 目を凝らすとかすかに0や1が消えていくのが確認できるあたり、仕留めたと思って良い、のかも。


「……倒した、のかな?」

「どうでしょうね……。ですけど、倒せたと思いますよ? 爆破した後、攻撃は飛んできませんでしたし」

「だろうね。大体、あの状態で逃げられるとは思えないよ」

「やれやれ……町中でも気が抜けないな」


 イナテモの姿がどこにも無い事を確認し、私達は周囲に目を向ける。

 そこには、破壊され尽くした港が広がっていた。


 石造りの船着き場は徹底的に破壊され、石の土台が破壊されて砂浜が露出、更に露出した砂浜は大きな窪地になっている。

 周囲にあったと思われる倉庫も攻撃の余波で崩れたのか、崩れた廃屋も目に入ってきた。

 一応港だったはずのこの場所は、もはや港の機能を完全に失っており、復旧までにどれだけの時間がかかるかは私達には想像も出来ない。


「……正直、ここまで酷い被害が出るとは思いませんでしたね」

「うん……」


 町中で暴れた勇者プログラム。

 倒すことは出来たけど……港は完全に破壊されてしまった。

 バグリャの時と違って町全体が地獄になったわけじゃなかったから、最初に殺されてた二人以外に犠牲者が居なかったのがせめてもの救い……なのかな?


「……それにしても、この惨状……どう報告すればいいのかな?」

「どう報告するか、ですか? そんなの勇者プログラムが暴れてたから倒したって……あっ」

「イナテモの身体が残ってないし、そもそも『勇者プログラム』なんて言ったって誰も分からないよ」


 勇者プログラムが暴れてたから倒した。そう言って通じるならそうしたい。

 けど、それはどう考えても不可能だった。

 私達だって当人の口からその言葉を聞かないと意味が分からなかったんだし、実物を知らない他の人がその言葉を理解できるとは考えられない。

 というか、仮に説明したとしても、遺体も使っていた武器も残っていないイナテモの事を説明して分かってもらえるのかな……。


「狂暴な魔物のせいにするしかないだろうな」

「でも……。ううん、それしかない、よね……」


 ルシファーが呟いた通り、魔物のせいにするのが一番マシなのかもしれない。

 人語を話す狂暴な魔物が港で暴れてたから倒した、と言ったら納得してくれる可能性は高いだろう。

 正直、魔物のせいにしたくはないけど……。




「そこで何をしている! 港を破壊したのはお前達か!」


 と、悠長に考えている時間は与えられないらしい。

 誰かが呼んだらしく、町の方から武装した人が数名こちらに走ってくる。

 説明、どうしようか……。


「この港の惨状はお前たちの仕業か? 大人しく武装解除し、来てもらおう」


 武装した集団の隊長と思われる男性が高圧的な物言いで告げた。

 彼が連れて来た集団は全員装備がばらばらで鎧にも統一感は無く、少なくとも兵士と言うわけではなさそうだけど……。


「……傭兵?」

「みたいですね。この町にとっては正規の兵士でしょうけど。それはそうと、どうします?」

「戦う理由が無いよ。ちゃんと説明しよう」


 勇者プログラムの事は言えない……というか、言っても信じてもらえないだろうし言わないけど、それ以外の事は全て説明できるはずだから……。


「……分かりました。案内をお願いします」

「よし。こっちだ、来い。事情は向こうで聞いてやる」


 ……話して分かってもらえると良いんだけど。

 そう考えつつ、私達は男の後に続く。

 私達の周囲を取り囲むように武器を持った傭兵が立っており、それぞれ殺気を向けてくる。

 けど、正直イナテモの恐怖と比べると傭兵数人に囲まれたところでどうってことないんだよね……。

 面倒なことになりそうだから言わないけど。
















「さて、洗いざらい話してもらおうか」

「……その前に、この状況はおかしいと思わないんですか?」


 港を離れ、町の片隅にある傭兵の詰所と思われる場所に連れてこられた私達四人はそのまま有無を言わさず牢屋の中に放り込まれる。

 直後に牢屋の扉は施錠され、私達は閉じ込められた。

 更に牢屋の外では長槍を持った傭兵が五人見張っており、牢屋の外から中に居る人を刺し殺すことも可能になっている。

 ……どういう事なのこれ?


「ふん、表面上はただのガキ四人だが、港をあんな風に破壊し尽くせるような化け物なのだろう? 当然だと思わないか?」

「……私達がたまたま居合わせただけ、とは考えないんですか? それに、私達に港を破壊する理由はありません」


 そう言い返しても、傭兵の隊長と思しき男は私の言葉など知ったことかと言うような態度を変えようとはせず、周囲に立つ長槍を装備した男達に目くばせするだけだった。

 なんなのこの男……。


「まあいい。とりあえず話は聞いてやる。そこから出たければさっさと話せ」

「……分かりました」


 正直、既に犯罪者みたいな今の扱いにすごく納得いかないんだけど、一応話を聞いてやるとか言ってるなら話そう……。

 この態度、何かありそうなんだけど……。


「私達はポートルの店を出た後、港の方から聞こえてきた叫び声と爆発音を聞いて港に向かっただけです。港に入ったら凶悪な魔物が暴れていたので、応戦しました」


 勇者プログラム……凶悪な魔物には違いないよね。

 嘘は言っていないよ。

 ……真実でもないかもしれないけど。


「……店ねえ。おい、裏付けは?」

「子供四人が店に入って来て別々の場所に座った、とか、例の爆発の後にこいつらが突然港の方に走って行った、って話は仲間から聞いています。丁度その時間に店に入っていた仲間が居たので間違いありません」

「……そうかよ」


 私達が話した内容に嘘は無い。

 まあ、信じるかどうかは分からなかったけど、一応聞いてはくれるみたいだね。

 それにしても、どうしてただの旅人の私達がポートルの港を破壊する必要があるなんて考えるんだろ……。

 その考えからしておかしいよ。


「じゃあ、お前らが本当に魔物と戦ったとしよう。その魔物はどこに行った? お前らが片付けたのなら、その辺に死体が転がっていてもおかしくないだろう?」

「……魔物を倒したら、突然消えてしまったんです」


 ……怪しい、けど、今のこの状況で下手に暴れたら周りの人まで敵に回しかねないよね。

 この隊長……なんで見ず知らずの私たちの事をこんなに疑ってるの?


「突然消えた……ねえ。されて消えたとかじゃなくてか?」

「……本当に突然消えたんです。止めを刺そうと放った魔術の爆風が強くて、どんなふうに消えたのかは分かりません」


 ……え!? 分解されて、って……!

 この隊長……まさか見てたの?

 それとも、プログラム……?

 けど、どっちにしたってここで私達がイナテモを倒したとばれると不味いよね……。

 牢屋に放り込まれてる上にイナテモとの戦いでかなり疲弊した私達と、無傷の傭兵たち。

 そこに勇者プログラムが加わってきたら……!


 隊長の言葉を聞き、私の後ろで黙って様子を見ていた三人の雰囲気も一変する。

 最悪の事態を想定して、戦闘態勢に入ろうとした私達。

 しかし――――。


「あの……隊長」

「ん?」

「……別に彼らが町を壊す理由も無いでしょうし、解放したっていいでしょう? 港はまあ、あんなことになりましたけど、魔物を倒してくれた救世主みたいな人ですよ?」


 長槍を構えている傭兵の一人が隊長に進言し、彼の言葉をきっかけに残りの四人も隊長に非難の目を向ける。

 残りの四人は何も言わないものの、彼らの持っている槍の矛先は全て牢屋の中ではなく地面に向けられており、私達を刺し殺しに来るような事は無さそうだった。


「…………まあ、それもそうか。変に疑ってすまなかったな、帰っていいぞ」


 周囲の傭兵たちの態度を見た隊長は意外にも素直に私達の牢屋の鍵を開け、出してくれた。

 さっきの妙な態度と言い、何かありそうなんだけど……今追求するのは不味い、かな。


「無実報告も兼ねて町の中央まで案内してやれ。…………」

「はい! ……大変失礼しました。町の方に案内します」

「……いえ、誤解が解けてよかったです」


 牢屋から私達が出るのを確認すると、隊長は部下の傭兵に私達をポートルの方まで送るよう指示し、そのまま牢屋を施錠する。

 その際何か呟いていたみたいだけど、傭兵に連れられて部屋を出る私達の耳には届かなかった。











「本当にすみませんでした! 隊長がご迷惑を……!」

「全くですよ……。何なんですか、あの人は?」

「よくあんな人間が隊長で務まるな……。大丈夫なのかここの傭兵団は?」

「申し訳ありません……」

「まあまあ……。二人が怒るのも分かるけど、この人たちは悪くないんだから少し抑えて……」


 傭兵の詰所を出た直後、傭兵たち全員が一斉に頭を下げた。

 ……この人たちは完全に納得してくれてそうだけど、あの隊長は本当に何なんだろ……。


「本当に申し訳ありません……」

「謝るだけなら誰でも出来ますよ……。しっかり言い聞かせておいてくれればいいんですけどね」

「善処します……」


 私達をポートルの中心部まで案内してくれる傭兵もひたすら平謝りだった。

 ……あの隊長、昔からあんな感じなの?


「……いえ。少し前はあんな人では無かったんです」

「ある日突然豹変したって事?」


 マディスが傭兵に尋ねる。

 ……さすがにそれは無いとは思うけど、どうなんだろ。


「ええ、そうですね……。最近になって、突然『警戒しないと不味い』『安全が守れない』と頻繁に呟くようになって……。部屋に隊長一人しかいないはずなのに誰かと会話しているような独り言が聞こえてきたこともあります」

「……部屋に一人しかいないのに誰と話すんですか?」

「分かりません……。隊長に直接聞いても『お前は知らなくていい事だ』の一点張りですし」


 ジルの疑問に対しても、ちゃんとした答えは返ってこなかった。

 それにしても、一人しかいないのに誰かと話すような口調で独り言を喋るって……。

 あの隊長の頭、大丈夫なのかな?


「警戒しないと不味い、か……。何を警戒してるのか分かりますか?」

「それも教えて頂けないんです。私達も何度も聞いてるんですが……」


 ……もしかしなくても、勇者プログラムなの?

 まだ確証はないし、もしかしたら違うかもしれないけど、最近になって突然警戒しなければいけない、安全が守れないって言い出すことは当然『ヒローズ、バグリャ勇者の件』しかないよね……。

 でも、それで決めつけて隊長を問い詰めて外れだったりしたら最悪だし……。

 もしかしたら他の所で魔物が出ているのかもしれないし。


「……っと、ここまで送れば大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です。案内ありがとうございました」


 隊長の事を考えているうちにポートルの中心まで戻って来たらしく、傭兵に声をかけられる。

 すぐ近くに私達が食事をしていた店の入口があるし、ここなら迷う事も無いだろう。

 私の言葉を聞いた傭兵をそのまま踵を返して詰所の方に戻って行った。

 ……これからどうしようか?


「……さっきの隊長の事もありますし、少し大人しくした方が良いと思います」

「明らかに何かありそうだったし、僕はジルの意見に賛成かな」

「あの隊長の様子からすると、何処で見張られてるとも限らないしな……。ポートルを安全に脱出するなら何もしないのが一番だろう」

「まあ、そうなっちゃうよね……。仕方ないか」


 あの隊長の態度についても確証はないし、しばらく宿で大人しくした方が良いかもね……。

 何かありそうなんだけど……。


「『お前のその態度は明らかに怪しいから今すぐ殺す!』 が出来たら手っ取り早いんですけどね」

「……私達は無差別殺人鬼じゃないんだから、そんなことやるつもりはないよ?」


 そんなことしたら、私達も勇者プログラムと何も変わらなくなっちゃうし……。


「分かってますよ、ルーチェさん。そう出来たら悩む必要も無く、すごく楽じゃないかな、と思っただけですから」

「……まあ、手っ取り早いといえば手っ取り早いけどね」


 その後で隊長を殺したことを傭兵や町の人から非難された! その態度が気に入らない!

 町の人も傭兵も皆殺しにしてやる!

 とか言い出して、どんどん殺人の連鎖が広がりそうなところを除けばだけど。

 ……って、こんなこと考えるなんて、少し疲れちゃったかな?

 予定よりずっと早いかもしれないけど、今日はもう休もう。

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