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強奪勇者物語  作者: ルスト
ポートル
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イナテモを倒しましょう

「ふん、リア充共にしてはやるではないか。だが、甘いわああああぁ!!!」

「傷が治って……その部分が強化された?」


 イナテモのダメージを治療するように現れた無数の0と1。

 その回復が終わった部分は、金属のような異様な光沢まで放っていて、先ほどより強化されているように見える。

 更に、回復の終わった身体の筋肉が目に見える形で肥大化し始め、より強靭な肉体に生まれ変わっていく。

 ……再生を繰り返すたびに強化されていく、って事なの!?


「くくく……リア充の魂を我が主に捧げる事こそ使命。その使命を果たすために、主は我を日々強化しているのだ! 貴様らごとき害虫、障害にもならんわ!」

「異世界に居る勇者プログラムが、日を追うごとにさらに強化されるんですか!? 一体どうやって……」


 一体どうやって強化してるのか、全く見当もつかない。

 普通に考えると、こいつらの生みの親はこの世界に居ないから介入できるはずがないのに……。


「今ここで俺に焼却されるリア充が知ったところで無駄であろう!? さあっ!! 今すぐ絶望して死んでゆくがいいわあぁぁぁ!!」


 そう言うなりイナテモは手にした大剣を大きく横に振り、ルシファーを吹き飛ばそうとした。

 咄嗟にルシファーは自身の剣で受け止める。けど――――。


「っ! さっきより格段に重い……っ!」


 ルシファーの身体はイナテモの一撃を支え切れていないのか、じりじりと押し切られそうになる。

 ……マディスの薬も使ったのに力が足りないの!?


「させませんよ!」

「邪魔だぁ!」


 ルシファーを助けるため、ジルがイナテモの背後から斬りかかる。

 大剣と言っても差し支えない巨大テーブルナイフがイナテモを襲うも、イナテモは即座に身体を反転させ、ルシファーを強引に弾き飛ばしつつ盾でジルの攻撃を受け止めた。


「軽い! 軽すぎるわ小娘があ!」

「くっ……! 右足を踏み込んだ勢いだけで押し負けるなんて……!」


 イナテモはルシファーが構え直すより早く、ジルの武器を受け止めている盾に力を込め、体重を乗せて押し出した。

 力負けしたジルはあっさりバランスを崩してよろめき、隙が生じる。


「死ねえええええええええええええええっっ!!」

「させるか!」

「ちっ……目障りだリア充!」


 直後、イナテモは隙のできたジルをそのまま一刀両断するように剣を振りかぶった。

 幸いルシファーが武器を構え直して即座に斬りかかったため、イナテモはジルへの追撃を諦め、ルシファーを迎撃するように剣を振る。

 ……なんとかルシファーが間に合ったからイナテモの追撃は防げたけど、力負けするなんて……。


「忌々しいわあ!! 消え去れリア充!!」

「させない! ウインドカッター!」

「これでも……!」


 ルシファーを薙ぎ払おうとしたイナテモの行動を阻止するように魔術――――ウインドカッターを放つ。

 私の魔術に合わせる形でマディスの薬も放たれた。

 イナテモを光が包んだ瞬間に私の魔術が直撃し、不可視の刃がイナテモの身体を深く切り裂く。

 イナテモの右肩口から左足の付け根まで切り裂く一撃。夥しい量の血が噴き出る辺り、普通なら致命傷だけど……。


「ぐうっ……無駄無駄無駄あああああぁっ!」

「これも駄目なの!?」

「嘘でしょ――――」


 イナテモの身体はやはり即座に再生し、傷が癒えていく。

 更に切り裂いた部分はやはり強化されているらしく、胸や腹部の筋肉が盛り上がっていくのが視認できる。

 ……どうやって倒せばいいの、この化け物……。

 攻撃もどんどん強くなるって事だろうし、本当にどうすれば……。


「これが勇者の力なのだ! 貴様等の攻撃など全て無駄!」


 勝ち誇ったような表情のイナテモが叫んだ、その直後。

 瞬時に両腕が肥大化し、丸太のような剛腕へと変貌する。

 同時に持っている装備を覆うように0と1がイナテモの周囲から出現、武器の形が変化した。

 剣だった物は私の身体以上の大きさを誇る両刃の巨大な斧に変貌し、盾は前面部に巨大な三角錐がびっしりと生えた形――――スパイクシールドへと変化している。


「さあ、今度こそ死ね、リア充!」

「っ! こっちに――――」

「なっ、速――――」


 そして、イナテモは近くに居たジルやルシファーではなく、私とマディス目がけて駆けだした。

 その速度は私達の想定より遥かに速く、ルシファーもジルも出遅れる。

 止める壁など居ない以上、このままだと二人まとめて斬り飛ばされかねない。


「死ねええええええええええええ!!!!!」


 叫び声と共に振り下ろされる斧。

 いくらマディスの薬や新しい防具があるといっても、目の前の暴力の化身に全力で斧を振り下ろされたらただでは済まないだろう。

 けど、回避など間に合わず、防御も出来ない私に出来るのは相打ち覚悟のサンダーボルトだけ。

 マディスを守らないと――――






「――――下がって!」

「え? マディ――――」


 突然腕を掴まれ、後方に引っ張られて私はバランスを崩し、反応も遅れて地面に腕を付く。

 直後響き渡った轟音によって我に返り、何が起こったのかと振り返ると、両手で盾を構えたマディスがイナテモの一撃を強引に食い止めていた。

 ……斧がマディスの構えてる盾に食い込んでる!?

 このままじゃ不味い!


「サンダーボルト!」

「ダークボム!」


 私とジルの魔術が動けないイナテモを狙う。

 私の攻撃を見てすぐに攻撃を中断し、イナテモは飛び上がったけど、その結果ジルの魔術が直撃し、イナテモは大きく横に吹き飛んだ。

 吹き飛んだイナテモがかなり遠くで倒れているのを横目に、私はマディスの所に駆けだす。

 ……大丈夫、マディス!?


「まあ、一応ね……。けど、受け止めただけで腕がおかしくなったよ……」

「……助かったけど、無茶して死なないでよ?」


 マディスが居なくなったら、今度こそ攻撃に耐えられなくなりそうだし……。


「はは……。まあ、それを言うならルーチェも」

「い ちゃ つ い て ん じゃ ね え え え え え え え え え え え え え ! ! ! ! !」


 地獄からの呼び声のようなおぞましい雄叫びが響き、直後に巨大な火球が私とマディスを飲み込むように降ってくる。

 最初の攻撃を無効化した時点でこの攻撃でダメージは一切受けないと分かっているため、無視して私はマディスの腕を調べる。

 ……幸い折れてはいないみたい。よかった。

 で、イナテモは?


「きいいいいぃさああああああまああああああらああああああ!!!!!! 俺の前でいちゃついてんじゃ、ねえええええええええええええええええ!!!!!!!!!」


 さっきよりも恐ろしい叫び声を上げながら、先ほどと同じ攻撃を再び私とマディス目がけて放ってくる。

 当然これも上空からの大火球だから効かないわけだけど……。

 …………あれ?


「……ルーチェ、これってもしかしなくても……」

「いちゃついてんじゃねええええええええええええええええええ!!!!!!」


 遠くで叫ぶイナテモの攻撃はまたしても大火球。

 私とマディスの周囲はどんどん破壊されていき、足場は熱で溶け、海も消し飛ばされていくあたり威力は確かなんだろうけど……。

 でもこれって、もしかして――――。


「……いちゃついてる……と認識した相手に対しては爆殺することしかできないの?」

「いちゃついてんじゃねえええええええええええええええええええ!!!!!!!」

「みたい、だね……」


 私達がそんな会話を交わしている間もイナテモは『目の前に来ているジルとルシファーを無視して』私とマディスを爆殺しようと火球を落とし続ける。

 どういう事なの、これ……?


「所詮作り物は作り物で、行動に一定の法則があるって事じゃない?」

「勇者プログラムは一応異世界の人の作り物だから、何かしらのルールを基に動いてるって事?」


 でもまあ、人間を直接送り込んでるわけじゃないならそう言った制限のような物があるのかもしれない。

 私達で言う『意識』の部分だって人の手で作るならやっぱり何かしらの決め事は必要なのかも……。


「……ルーチェさん、私と代わってください。ルシファーさんが足を止めるので、イナテモの全身にシャイニングスピアを撃ちこんで肉片一欠片も残さないようにお願いします」

「……再生する身体も残らないように徹底的にやれ、って事だね。了解」


 こんな会話を私達が交わしている間も、イナテモは狂ったように「いちゃついてんじゃねえ!」と叫んでひたすら火球を落とし続けている。

 ルシファーの魔術で足を地面に埋められても、全く気にする様子も無くジルとマディスだけを見据えていた。

 ……こういう所を見ると、勇者プログラムって『人間』じゃないんだなって思うよ……。

 普通だったら目の前のルシファーに攻撃するなり他の攻撃手段に切り替えたりするだろうに……。


「いちゃついてんじゃねえええええええええ!!!!! いちゃついてんじゃねえええええ!!!!!」

「何と言うか……哀れですね」

「最初から決められた通りにしか動けないって事なんだろうね」


 イナテモに見せつけるように手を繋いだジルとマディス目がけ、太陽が直接降って来たような大火球が何度も降り注ぐ。

 既にジルとマディスの周囲は原形を留めておらず、二人が立っているのは大穴の開いた砂浜だった。

 それでも尚、イナテモは血走った眼でジルとマディスだけを見据え、ひたすら爆殺しようと同じ行動を繰り返し続ける。

 そうしなければいけない、と言わんばかりに――――。


「……終わらせよう! 二度と再生できないように、徹底的に破壊する! シャイニングスピア!」


 光の槍がどれだけ降り注ごうと、イナテモは避ける素振りすら見せない。

 ジルとマディスを爆殺しなければいけない、と言わんばかりに叫び続けるその口を、そしてイナテモの身体を、光の槍が次々に貫いていく。


「ぎがぐぎげんぎゃげべべべべべべべべべ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「思いっきり貫かれてるのに、それでもまだ……!」

「おいおい……いくら作り物だからってこれはあんまりだろ」


 喉を潰され、腕を腹部に、足を地面に縫い付けられ、貫かれた場所から血が噴き出ても尚、イナテモはジルとマディスを爆殺しようと魔術を連発する。

 その目に私とルシファーは映っておらず、溶けた砂の中央に立つ二人だけを見据えていた。

 既にイナテモの身体には50本以上のシャイニングスピアが突き刺さっており、そのすべてがイナテモの身体を貫通している。爆破すれば間違いなくイナテモの身体は塵と化すだろう。

 ……心臓も貫いてるはずなのに死なないのはやっぱり化け物だなって思うよ。


「ヴォゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!」

「……でも、さすがにこれなら!」


 全身に刺さったシャイニングスピアを爆破し、肉片すら残らないように爆殺する。

 やり方としては最悪かもしれないけど……正直こうでもしないと倒せる気がしない。

 ダメージを与えても再生してどんどん強くなるわけだし……。


「……消え去れ! ――――爆破ッ!!!」






 私が叫ぶと同時にイナテモの身体に刺さったシャイニングスピアは一斉に爆発。

 今まで聞いたことも無いような轟音と共にイナテモの身体を木端微塵に粉砕する。

 何度も何度も再生する強靭な肉体と言えど、全身を完全に塵へと変えればさすがに復活しないはず。

 爆風でイナテモの身体は完全に覆い隠されるけど、少なくともそこからイナテモが攻撃を仕掛けてくる様子は無い。

 けど、あの再生力が相手じゃ何をしてくるか分からない。そう考え、私は距離をとって再び魔術の準備を始める。

 もしこれでも駄目なら、今度はホーリー・カノンも……。


「煙が晴れる……奴は?」

「注意して!」


 煙が晴れた直後に再生して突っ込んでくるかもしれない。

 ……そう警戒し、私達は再び武器を構える。

 警戒する私達の前で爆風が少しずつ収まり、イナテモの居た場所の様子が明らかになる。そこには――――

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