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強奪勇者物語  作者: ルスト
ポートル
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今後の予定を考えましょう

 昼食を終えた後、店の外に出たところで私は皆にさっき聞いた噂話の事を話した。

 杞憂に終われば良い、だから敢えて何も言わない、なんて考えもあるかもしれないけど、そんな楽観的な考えで行動して、何かあったら最悪だし……。


「……それはまた、酷い話ですね。本当にそんなことがあり得るんでしょうか?」


 話し終えた後、最初に口を開いたのはジルだった。

 まあ、話を聞いただけじゃ信じられないよね。

 見ている方が恥ずかしくなるくらいベタベタだったカップルがデュリス到着後数日で喧嘩別れするなんて……。


「けど、ルーチェだけじゃないんだよね、その話を聞いたの。僕もそんな感じの話を聞いたよ」

「マディスも?」


 聞いたのが私だけだったら、まだ悪い冗談で流せたかもしれないけど……。


「どんな話だったんだ、マディス?」

「うん。……僕が聞いたのは大体ルーチェの話してた内容と似てるんだけど、違うのは犯人らしき男の情報がある事かな。やってる事はルーチェの話した物と大体同じで、女を口説き落として全財産を貢がせて~、って内容なんだけど、たまたま見た人の話によると、男の目に下心は一切感じられず、むしろ憎しみに満ちてたって話だよ」

「……憎しみに満ちてた?」


 女の人が憎くて全財産を奪うの?

 ……どういう事?


「過去に何かあって、それで復讐として女の人から財産を巻き上げる、とか? しかし、わざわざ他人にそんな事やる理由が分かりませんよね」

「だよね……」


 憎い相手が居るなら直接復讐すれば済む話だろうし……。

 というか、私だったらそうすると思う。


「けど、ルーチェの聞いてた噂とやっぱり違う気がするんだよね~。こっちは明らかに恨みや憎しみで動いてるって言われてるし、最近は見かけないって言ってたよ」

「……どのみち、かなり厄介な相手になりそうだけどね」


 ただの軽薄な人だったらともかく、復讐心で動いてる相手は……。

 憎しみを糧に動いてると簡単には止まらないし。


「マディス、他には何かなかったか?」

「ん~……他に、か。確か、本を抱えてたって目撃情報もあるらしいよ」

「……本?」


 まさか、魔術?

 それとも何かの儀式?


「どっちかなのは間違いないんじゃないかな? まさか布教のためにそんな憎悪の目を向けることは無いだろうし」


 ……どちらにしろ、非常に厄介な相手なのかな……。

 なるべく関わらないようにするには――――。


「デュリスをすぐに発つ、とか?」

「まあ、それが一番ですよね。デュリスからすぐに出ていけば、デュリスで起きている事件に巻き込まれる危険は無いはずですし」


 ……その方向で考えた方が良いか。

 そうなると……。


「船でデュリスに到着したら、そのままデュリスを出て次の場所に向かう事になるね。きつくなるかもしれないけど、構わない?」

「まあ、俺はそれでも構わない」

「私も異存ないですよ」

「安全の方を優先しないといけないよね」


 決まり、だね。

 残念だけど、デュリスに滞在するのは無しかな?


「ところでルーチェさん。他には何か聞けたんですか?」

「他? ……そうだね……」




 ベルツェが凄い国になってるって事と、ヒュメルの勇者一行の魔術師が驚異的に強いってことくらい?

 ……どう思う、これ?




「ベルツェってそんな国だったんですか? 一体どんなところなんでしょうね」

「……その魔術師、本当に大丈夫なのか?」

「どっちも気になるよね~。まあ、気を付けないといけないのは多分……」

「ヒュメルの魔術師?」


 驚異的に強い、か……。

 ……どれくらい強いかは実際に見たことが無いから分からないけど、もしかしたら、ね……。


「勇者プログラム、ですか?」

「あり得るからね」


 もちろん、それ以外の可能性もあるけど。

 けど、異様に強いって事はもしかしたら……。


「まあ、そう言っても勇者プログラムじゃない可能性だって「俺の前でいちゃついてんじゃねえええええぇぇぇ!! リア充は滅べええええええええええええええええぇぇぇ!!!!」」


 私の言葉を遮るような怒鳴り声が突如町中に響き渡った。

 直後――――ポートルの港の一角で大爆発が生じ、爆発のあった場所は跡形も無く消し飛んだ。

 ――――え!?


「な、何だ今の爆発は?」

「み、港が吹っ飛んだ?」

「何が起きたの?」


 店の外に出ていた町の人達は呆気にとられた顔をしている。

 先ほどの爆音に驚き、食事をしていた人たちも次々に――――。

 ……! 呆けてる場合じゃない!


「……行ってみよう!」

「――――嫌な予感もするし、念のために使っておくよ!」

「頼む!」

「今の爆発、港の方です! 急ぎましょう!」


 マディスの薬を再び使いつつ、爆発の起きた港の方に急ぐ。

 今の叫び声は一体……?











「ハハハハ……今日も、また! 薄汚いリア充を! この俺の手で葬り去ってやったぞぉぉぉ!!!」

「「……」」


 爆発があった場所に近づくと、男の高笑いが耳に入る。

 そして、男の足元には黒こげになった二つの塊。

 ……それにしても、リア充、って何?


「……あの男が原因でしょうか」

「だろうな。とりあえずこっちを向く前に奇襲で……」


 奇襲で倒す。

 そう耳打ちするためルシファーがジルの耳元に顔を近づけた。

 瞬間――――


「リア充! まだ生きていたかああああああぁぁぁぁぁ!!!」

「!? 気づかれ……」

「いちゃついてんじゃねえ! リア充爆発! ィェェェェエェクス、プロードォォォォォォ!!!」


 男がこちらを振り向いた。

 人間の物とは思えないおぞましい表情。

 血走っている物ともまた違う、真っ赤に染まりきった不気味な目。

 白目と黒目の区別もつかないくらい真っ赤に輝いたその目を男が光らせ叫んだ、瞬間。

 私達は爆炎に飲まれた――――。
















「リア充、焼却」

「……されてないですよ! デモンスピアッ!」


 私達が爆炎に飲まれ、死んだ物と思っていたらしい男の顔目がけ、ジルの魔術が降り注ぐ。

 ……周囲の地形が完全に変わるほどの威力だったとしても、こっちにはマディスが居る!

 炎の攻撃なんか通用しない!


「ちいっ! 死なぬかっ! ぬうんっ!!!」

「弾き落とされた……!」

「一体何なの! いきなり町中でこんな事……!」


 ジルの放った魔術は男が「何も無い場所から突然取り出した」巨大な金棒の一振りで全て叩き落とされた。

 相手の素性か何か探れないかと話しかけてみる。

 ……いきなり攻撃してくるこいつ相手に話は通じないかもしれないけど……。


「……俺か? 俺様はなあ……この世にはびこる害虫「リア充」共を! 一人残らず抹殺するために派遣されてきた、勇者! イナテモ様だぁぁぁ!!!」

「が、害虫……? リア充……?」


 何を言ってるのかさっぱり意味が分からない……。

 けど、これだけは分かる。


「勇者……派遣されてきた、って事は!」

「プログラムって事だよね……!?」


 私の言葉に繋げるようにマディスが尋ねる。

 恐らく、ううん。確実にこいつは……。


「いかにも! 我が主の命によりぃぃぃ! 貴様等を! 俺の前でいちゃつくカップルを!! 一人残らず抹殺し!!! その魂を!!!! 主の元に捧げる事こそが我が使命だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「やっぱり……!」


 けど、まさか町中でいきなり攻撃するなんて……!

 なんでこんな事……!


「わざわざ答えるまでもあるまい! いちゃつくカップルが主に生息しているのはぁあ!! こういった町中なのだからなぁぁ! 調べてみれば案の定!」


 そう叫ぶと男――――イナテモは足元の黒い塊の片方を港の防波堤の方に蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた塊は防波堤の角に直撃し、そのまま粉々に砕けた。


「このようなリア充が存在していたのだ!! 永遠の愛とやらを誓い合う害虫共。許しておくわけにいくまい?」

「カップルって言葉でなんとなく嫌な予感はしてたけど、害虫って、人間の事……?」


 まさか人間を殺すためにこんな物送り込んでくるなんて……。

 正気とは思えない……。


「その通りだ! 見ていて苛々する! 殺したい! 消し去りたい! 我が主は常に、己の周りに溢れるリア充共を消し去りたくて仕方がないのだ!」


 私の言葉を肯定し、イナテモは蹴り飛ばさなかった方の塊――――人の焼死体を踏みつける。


「このような! リア充を! 一匹残らず! 殺すことこそ! 主の望みなのだ!」

「……」


 焼死体を親の仇か何かのように踏みつけまくるイナテモの姿を見て、私達は言葉を失った。

 この前の勇者もそうだけど、こいつも作った人の欲望通りに動いてる。

 訳の分からない理由でこんな惨たらしい行為を平然と行えるなんて……。


「主の望みを叶える事こそ我が喜び。死にゆくリア充の姿こそ主への最大の捧げもの。……フフフフフフ……ハーハッハッハッ!!!」


 焼死体の頭を完全に踏み砕き、高笑いするイナテモ。

 こんな怪物を見た以上、私たちがやることは一つしかない。


「……今すぐ倒そう! こんな危険な化け物、放っておいたらこれからどれだけの人が殺されるか分からないよ!」

「それしかないな。そもそも、放っておいたら町ごと消されるぞ」

「というか、殺さないと僕たちが殺されるんじゃないかな?」


 マディスの言う事が否定できないのも悲しいけど、これを放っておいたら間違いなく私達も殺されるよね……。

 ルシファーが言ったように、町ごと壊してカップルを皆殺しにしていくみたいだし……。


「ククク……滅びろリア充! お前たちの絶望と嘆きこそ! わが主の望む物なのだからな!」


 私達が逃げ出さずに向かってくるのを見て不気味な笑みを浮かべるイナテモ。

 ……こんな奴、一刻も早く倒さないと!


「シャイニングスピ」

「マグネットチェイン!」

「え? きゃっ……!」

「わっ……」


 私が魔術を発動するよりも早くイナテモの魔術が放たれた。

 私とマディスを巻き込むように足元に巨大な魔法陣が出現し、直後、勢いのある波に囚われたような衝撃が身体を襲った。

 術の直撃を受けた私の身体は抵抗する間もなく魔法陣の中心に引っ張られ、同じく中心に引っ張られたマディスにぶつけられる。

 幸いと言っていいのか、薬で強化された身体はイナテモの魔術、マディスとの衝突どちらでも全くダメージを受けていない。

 けど


「いちゃついてんじゃねえええええ! 死ねえええぇ!!!! リア充ゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

「え……」


 私達をわざとぶつけた張本人のイナテモの様子が一変し、最初に見せたようなおぞましい表情に。

 そして……。


「リア充、ばあぁぁくさぁぁぁぁぁぁぁつっっっ!!!!!!!」


 イナテモの叫び声と連動するように、私とマディスの上空から太陽が直接落ちて来たような巨大な炎が降って来た。

 幸いと言っていいのかこの攻撃も私達には一切通用しなかったけど……今の明らかにおかしくない!?

 どう考えても今「わざとぶつけた」よね!?


「ルシファーさん!」

「分かってる! 接近戦に持ち込んで……」


 ……って、そんなこと考えてる場合じゃない!

 戦わないと!


「ちっ! 何故死なん! 忌々しいリア充が!! 我が天罰の炎で焼き尽くされて主への捧げものになるがいい!」

「答える義理なんてない! シャイニングレイン!」


 ルシファーとイナテモが切り結んでる場所を中心に魔術を放つ。

 降り注ぐ光の雨がルシファーとイナテモを襲い、焼け焦げた地面を破壊する。

 イナテモは回避しようとしたけどルシファーに切り結ばれて動けず、術の直撃を受けた。

 もちろん、事前に薬で対策していたルシファーがシャイニングレインを受けても全くダメージは無く、イナテモだけがダメージを受けるようになっている。

 ……それにしても、今の理不尽は何だったの……?

 というか、イナテモ……どこかで聞いたような気がする。

 どこだったっけ……?


「ぐっ……忌々しいわ!」

「忌々しくて結構!」


 イナテモについて思い出そうとしていた私の思考を引き戻すように、シャイニングレインの雨の中から二人が飛び出し、距離を取る。

 ルシファーは全くの無傷。そうなることが分かっていても、やっぱり味方が無傷なのは安心できる。

 イナテモはシャイニングレインの中で武器を作り替えたのか、ルシファーと同じスタイル――――剣と盾に変更していた。

 ルシファーの持っている武器より明らかに大きい両手用の剣を片手で振り回し、長槍と組み合わせるような大柄の盾を軽々と持ち上げるその姿は味方だと非常に頼もしい物……なのかもしれない。

 敵として戦う私達からすると武器を任意で変えられるのは厄介なことこの上ないけど。


 そしてイナテモの身体には確かにダメージを与えられており、あちこちから流血していた。

 しかし、直後にイナテモの身体の中から0と1が湧き出してきて元の形に治っていく。

 ……再生能力持ち、なのかな?

 あの理不尽な攻撃もあるし、どうやって戦おうか……。

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