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強奪勇者物語  作者: ルスト
ポートル
163/168

休息しましょう

 私達の攻撃で激しく燃え上がった魔法陣。

 炎が収まった時には氷の塊も周囲の水色の光も全て無くなっており、後には炭のようになった魔法陣の残骸だけが残されていた。


「もう大丈夫だな」

「何とか回収出来たね、その腕輪」

「ええ。……まさかこんなことになるとは想定してませんでしたけど」

「魔法陣から光の粉や氷が出てきて、腕輪を完全に奪っていこうとしてたからね~」


 本当に想定外だよ。加護を付けた装備が奪われてしまうなんて考えもしなかったもん……。


「まあ、無事に取り返すことは出来ましたし、良いじゃないですか」


 ジルが腕輪を見せながら明るい口調で話す。

 加護を付けた腕輪は今のところ何の変化も無いけど、やっぱりしばらくすると何か起きるのかな?


「……それもそうだね。それはそうと、この後の予定、どうしようか?」


 魔法陣を作り直して、その腕輪に何も起きなかった時のために加護を上乗せする準備でもする?

 あの魔法陣じゃまともな加護が付けられてたか怪しいし。


「まあ、未完成品のまま使うわけにはいかないよね。じゃあ、これを片付けたらもう一度作るよ」


 マディスが指さしたのは完全に炭へと姿を変えた元魔法陣。

 その土台に刻まれていた魔法陣は完全に消え、更に土台全体に亀裂が入っており、強い力で攻撃したらあっさり崩れ去るだろう。

 先ほどまで出現していた水色の光と氷は、最初から存在しなかったかのように跡形も無く消えていた。

 この炭の塊を誰が見ても、元魔法陣だったとは思えないだろう。


「……待って、マディス」

「え? どうしたの、ルーチェ?」


 ハンマーを再び手に取り、魔法陣だった土台の前に立つマディスに声をかける。

 ……それで壊したら壊したマディスに破片、かかるよね?


「……まあ、叩き壊したらそうなるよね。一応薬は効いてるから破片が腕に刺さって大怪我する、って事は無いだろうけど」

「ルーチェさん、じゃあどうするんですか? これ以外で壊そうと思ってもやっぱり力技しかないような気がしますけど」

「お前の魔術か?」

「うん。……効くかは分からないけど、私達は離れたところで盾を構えておいて、遠くから爆破した方が安全なんじゃないかな?」


 シャイニングスピアなら爆破して壊せるはずだし……。

 確かに魔法陣だった物だけど、こんな状態だったら通用するよね?


「とりあえず、試しにルーチェの案でやってみるか。いくらマディスの薬が効いていても、さすがに破片が顔にかかるのは不味いだろ」

「確かにね~……。これで魔法陣を砕いたとして、飛び散った破片が目に刺さったら……」


 決まりだね。じゃあ、少し離れたところから爆破しよう。

 念のために盾も構えておいたら万全かな?


「ルーチェさんの魔術で爆破するわけですしね。盾も構えましょう」

「分かった。じゃあ、少し離れるぞ」






 魔法陣を私の魔術で爆破するため、少し離れる。

 ルシファーとマディスが盾を構え、その横でジルも武器を地面に突き刺して簡易の壁にし、爆破したときに飛び散る破片に備えておく。

 ……準備は良い?


「ああ。頼む」

「分かった。――――シャイニングスピア!」


 詠唱を終え、魔術を放つ。


 数本の光の槍が魔法陣を地面に縫い付け、封じるように突き刺さる。


 そして――――最後の一つが中心を捉え、貫く。


 ――――よし!




「――――爆破!」


 私が叫び、身を屈めた直後、魔法陣に突き刺さった槍が一斉に爆発して魔法陣を粉砕する。

 巨大な炭の塊と化した魔法陣は爆音と共に砕け散り、シャイニングスピアの爆風と共に破片となって周囲に飛び散っていく。

 飛来した破片の一部がルシファーとマディスの構える盾やジルのナイフに当たっているのか、時折固い物が金属にぶつかる音が断続的に聞こえた。

 少しすると音は止み、周囲にも静寂が戻って来る。

 そして、私たちの周囲には魔法陣だった破片が幾つか転がっていた。

 ……距離が足りなかったのかな?


「ハンマーで叩き壊す分には大丈夫だったんでしょうけどね」

「さすがに爆風で飛ぶ距離は測れなかったか」

「……もっと離れないと駄目だったみたいだね」


 周囲を見渡すと、あちこちに黒い塊が転がっている。

 私達の後方に転がっている物まである辺り、明らかに距離が足りなかったんだろう。

 ……次は気を付けないと。


「まあ、これで片付いたような物だし、気を取り直してこれから新しい魔法陣を――――」

「……ねえ、さっきはああ言ったけど、一旦町に戻って休憩しておかない? あんなことがあったし」


 思い出すのはさっきの出来事。

 加護を付けるはずだったのに、戦闘させられたようなものだし……。

 多分大丈夫だと思うけど、またあんなことになったら……。


「まあ、まだ時間はあるよな。なら、ゆっくりやっても大丈夫だろ」

「そうですね……別に急いでこれを作ってしまわなければいけないような状態じゃありませんし、さっきのアレのせいで私も少し疲れました」

「ん~……休むって言うなら僕もそれでいいけど。じゃあ、一度ポートルに戻ろうか」


 ポートルで少し休憩を挟むことにし、私達はその場を立ち去った。

 ……魔法陣を爆破したら気が抜けて、ちょっと疲れちゃったよ。

 ポートルで何か食べて落ち着こう。











「なあ、お前聞いたか?」

「ん、何をだ?」

「今回はどこが勝つんだろうな」

「ヒュメルじゃないか?」


 ポートルの適当な店に入ると、丁度食事時だったのかかなりの賑わいを見せていた。

 店に入った途端に様々な会話が耳に入ってくる。

 店の中を見渡しても、ほとんどの席が埋まっていてカウンターしか開いていないように感じた。


「……ほぼ満員ですね。またばらばらに座るしかないでしょうか?」

「時間が時間だから良くあることだけど、ちょっと残念かな」

「まあ、仕方ないだろ」


 皆一緒の場所に座って食事を取れれば良いんだけど、時間が悪かったかな……。

 次の魔法陣作成の前に一旦休憩しておきたかったから仕方ないんだけど。




「……そう言えばヒローズでもこんなことがあったかな」


 皆と別れ、一ヶ所だけ開いていたカウンター席に座る。

 左右どころかほぼ全ての席が埋まっているだけあり、私の呟きなどすぐにかき消される。

 ……横ではずっと会話してる二人組……。

 ちょっと聞き耳立ててみようかな?


「デュリスで勇者たちによる大会があるんだよな? どこの勇者が勝つと思う?」

「おいおい……。ヒュメルの勇者しか居ないだろ? あいつマジで化け物だぞ」

「何言ってるんだよ……。化け物ってそんなわけないだろ」

「いやいや。化け物だって。ヒュメルの聖騎士が束になって挑んだのにあの女魔術師に傷一つつかなかったんだよ。残りの連中は途中で倒せたらしいんだけどな」

「へえ~ヒュメルの聖騎士がねえ。あの国、確か対魔族を念頭に置いて訓練してるから兵士の質も相当高かったはずだけどな」


 ……対魔族、か。

 バグリャやヒローズよりしっかりしてる事だけは明らかだよね。

 どんな国なんだろ?


「それにしても、ヒュメルか~。ヒュメルの魔族狩りは凄まじいよな。わざわざ魔族発見用のアイテムを町に設置して大規模な魔族狩りを行ってるんだろ?」

「そうそう! 不定期に装置を町中で起動して、魔族にだけ通用する特殊な魔術で魔族の動きを封じるんだよ! あの装置の魔術をまともに受けたら魔族どもはお仕舞だな」

「突然苦しくなって、頭抱えて蹲る羽目になるんだったよな? あれって魔族の血に作用するんだっけ?」

「らしいぜ? 魔族の血にだけ含まれる特殊な何か……ディーなんとかに作用して苦しめる……とかあの国のお偉いさんは言ってたな。ベルツェから輸入した最新アイテムだって」

「へえ~……」


 対魔族用のアイテム、か……。

 それがあったらあの魔族相手でも楽に戦えるかも……。

 動きを束縛できれば、非常に有利になるよね。


「というか、またベルツェか。あの国最近一気に進歩したよな。デュリスの闘技場に特殊な結界を用意したの、あの国だろ?」

「そうそう! 問題点が多かった闘技場を安全な物にするために色々作ったんだって? あの国はホント凄まじいな!」

「……」


 ベルツェ、か……。

 そんなに凄い国なのかな……。

 一度見てみたい気がするけど。

 そう言えばアスカとパトラの出身地だったっけ。

 あの二人の出身地……どんな国なんだろ?

 この人達の話からするとかなり技術のある国なんだろうけど……。


「ところでお前、いつまでもここで喋ってていいのか? そろそろ次の船が来るだろ」

「ん? うわっ、マジだ! もう行かないと!」

「午後も頑張れよー!」

「おう! お前もな!」


 横で談笑してた二人組の片方が立ち去ってしまい、話はそれ以上入ってこなかった。

 一応反対側にも耳を傾けてみる。


「聞いたか? 仲の良かった男女混合パーティの空中分解が最近デュリスで頻発してるらしいぞ」

「デュリスで? 何でまた?」

「ああ。何でか知らないけど、最近のデュリスでは男女トラブルがやたら多いんだよ。ここ最近聞いた話だと、自分を口説いた男に一目惚れした女がパーティの財産全て貢いでしまって、その後仲間に袋叩きにされてそのまま流れで分解したとか聞いたことがあるな」


 ……口説かれてそのまま男の人にパーティの財産を全部貢いだの?

 いくらなんでもそんな無茶苦茶な……。


「おいおい、いくら男女混合パーティで恋愛事をすると修羅場や事件になることがあるって言ってもそんな馬鹿な……」

「そう思うだろ? 俺だって信じられねえよ。けど、それ事実なんだよ。デュリスに来た当初は見ている方が恥ずかしくなるくらいに愛し合っていた二人が、デュリスに来てたった数日で殴り合いの喧嘩になった挙句に別れてしまったからな。女の方はその数日後に「私はなんてことを!」って泣き崩れてたけどもう手遅れだったな」


 ……何、それ?

 本当にそんな事があるの……?


「うわー……エグイな。それ」

「だろ? デュリスに男女混合パーティで行くのは止めた方が良い」

「あー……俺達も不味いかもなあ……。行くまでに解決してくれたらいいけど」


 私達も男女混合パーティ……巻き込まれる可能性は高い、かな?

 ただの噂だろうって思われるかもしれないけど、皆に念のために伝えておかないと……!

 全財産貢がされるどころかパーティ分解って……!


「まあ、そこまで言っておいてなんだが、やっぱり女だけのパーティの方が恐ろしい目に遭ってるけどな」

「へえ?」


 ……まあ、女の人を口説き落として貢がせるって事だったらね。


「パーティ丸ごと口説き落され、全財産奪われてそのまま放り出された連中も居るらしい。一文無しになって捨てられた人達はほぼ全てがその後行方知れずだ」

「パーティ丸ごと口説き落して全財産貢がせて捨てるのかよ!? 警備の兵は何やってんだ!? そんな奴見たら普通捕まえられるだろ!」


 本当だよ!

 何でそんな男が野放しになってるの!?


「それが……それっぽい男は当たり前のように見かけるらしいんだが、確認したら単なるナンパやパーティ間の交流だったり、ただの恋人だったりで肝心の犯人には全くたどり着かないんだってよ」

「おいおい……それじゃ警備の兵は犯人の顔も名前も分からないって事か!?」

「らしいな。そのせいでデュリスも「妙に馴れ馴れしい相手には気を付けろ」程度の事しか言えないらしい」


 ……最悪じゃない、それ。

 これからデュリスに行くのにそんなのって……。


「まあ、俺達は男だから大丈夫だろ。男が財産を確保しとけばそんなのに騙されることは無いだろうからな! そんなに女ばっかり狙う男が、同性を口説き落とすわけがない!」

「あいつには不満言われるかもなあ……。けどまあ、もしそれがマジなら仕方ないか」

「お待たせしました。注文の料理です」

「……ありがとうございます」


 とんでもない話を聞いてしまったせいで肝心の昼食の味がほとんど分からない……。

 けど、少なくともデュリスで何かに巻き込まれる危険だけは分かったよ……。

 ……皆に、伝えないとね。

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