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強奪勇者物語  作者: ルスト
ポートル
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準備しましょう

 翌日。私達はポートルを出て、街道から少し離れた場所に移動して魔法陣を作り始めた。

 ……さすがに人目に付きやすい港町の真ん中で魔法陣の実験をするわけにもいかないしね。

 バグッタではほとんど人が来なかったから町中でも大丈夫だったけど、活気のある港町と文字通りの無法地帯を一緒には出来ない。


「……さて、町からは結構離れましたけど、何をするんですか、ルーチェさん?」

「もちろん、装備に加護を付けるよ」


 私達が普段着る服やルシファーの鎧、盾の加護は全部出発までに付けておきたい。

 ……どこで何と戦うことになるか分からないからね。


「で、まずは何から作る気だ?」

「とりあえず……これからかな」


 呪いの魔法陣の本を捲り、目的の物を探す。

 ……あった!


「まあ、やっぱり耐性関係ですよね。炎以外も対策したいですし」


 私が開いたページを見たジルが、納得したように呟いた。

 ちなみにそのページには氷の攻撃に対する耐性をつける加護の魔法陣が載っている。

 出来ればこれらの耐性を全部かき集めた物でも作りたいんだけど……。


「……ルーチェ。そんな滅茶苦茶な強化に装備品が耐えきれると思うか? 壊れるぞ」

「え? 加護で壊れちゃうの……?」


 ルシファーが私の考えを無理だと否定する。

 そんな事この本の何処にも載ってないんだけど……。

 ……目次を調べても、やっぱりそんなことはどこにも書いてない。


「実際にやった方が早いか? 市販品の防具に炎と氷の加護を同時に与えるのが手っ取り早いが……」

「ねえ、その前に氷の加護の魔法陣から作らないと駄目なんじゃない? 入ってないよ?」


 ルシファーの主張は気になるけど、そもそも加護の魔法陣って幸運強化と炎耐性くらいしか作らなかったっけ……。

 マディスが言うまで気づかなかったけど、先に作らないとね。


「ルーチェさん、先に必要な魔法陣から作らないと駄目ですよ。……という事で、準備ができた物から順次ファイアボール頼みます」

「この前と同じ方法で作るの?」


 ……確か、木の板の上に土を敷き詰めて私のファイアボールで焼くんだったよね?

 その上に魔法陣を刻めば持ち運べるし。


「そう言う事。だから、準備ができるまでルーチェは待ってて」

「分かった。じゃあ、お願いね」


 ジルとマディスが木の板を並べていき、その上に土を乗せていく。

 瞬く間に終わる……とはいかないけど、そのうち私の仕事が回ってくる。

 と言っても、火力を強くしたファイアボールで土を焼くだけの作業なんだけど。

 ……ひとまず、いくつ作る、ルシファー?


「とりあえず他の七属性全てを網羅させるだろ? 最低でも七つは必要だな」

「それは必要だよね。後は……強度強化でもやってみる?」


 と言っても、ミスリルを縫い込んである服が簡単に破れるとは思えないけど。

 ミスリルの糸が何重にも縫い込まれてるわけだし、その辺の刃物じゃ傷なんてつかないんじゃないかな。


「まあ、その辺の刃物に魔族の爪が該当するかのかは不明だけどな」

「アレは……ね」


 強烈な一撃、なんて言葉じゃ表せないような威力だったからね。

 私たち全員生きてるのが不思議なくらいの戦いだったよ。


「だからこそ、強度の強化もやっておいた方が良いよね」

「問題は、一体いくつまで加護の付加に耐えられるかだな」

「一つ目出来たよ、ルーチェ」

「分かった。下がって」


 マディスが言った通り、木の板を敷き詰めた場所に土を盛った物体が一つ完成していた。

 後はこれを威力を強めたファイアボールで焼けば、魔法陣を刻むのにちょうどいい土台ができるね。


「ファイアボール!」

「土台まで燃えそうですね。まあ、全然問題ないですけど」

「火力、強すぎたかな?」


 ジルの言葉通り、放たれたファイアボールの威力は私の想像以上に強く、土の下に置いた木の土台まで燃やしかねない状態になっている。

 ……消した方が良い?


「いや、それくらいでちょうどいいんじゃないか? 良い感じだ」

「ねえ二人とも、次の土台作るから手伝ってくれる? まとめてやった方が早いと思うから三つくらい一緒に作っていきたいんだけど……」


 ルシファーの言葉通り、木材の上に乗っている土の土台は綺麗に焼けて一つの板のようになっている。

 ……一つ目はこれでいいかな?


「マディスさん、さすがにいくつも同時に外に出すのは無警戒だと思いますよ? 街道から離れたこんな平原のど真ん中で土の塊を盗もうとする人が居るとは思えないですけど、万が一の事態もあります。それに、運悪く戦闘に巻き込まれたら壊されてしまいます」

「……あ、そうだね。じゃあ、同時に出すのは二つだけにしようか? ルシファーもそれでいい?」

「ああ、構わない。ルーチェ、こっちの準備が出来たら頼む」

「分かったよ。これは……」


 今ファイアボールを当てたばかりの土の土台に目を向ける。

 炎はもう消えたようだけど、腕を上にかざしただけで熱気が伝わる辺り、かなりの熱を持っていることは明らかだ。


「まずは冷ますことからだ。しばらく見張っててくれ」

「分かった。準備出来たら呼んでね」

「ああ」


 ……とはいえ、見張りって言っても、この平原のど真ん中で出くわす敵が居たらすぐに気づきそうだけどね。

 隠れる場所が全く無いし。


「そうでしょうか? いきなり地面を突き破ってきたり空の果てから降ってくる敵だっていてもおかしくないですよ?」

「……さすがに前兆も無いのにそれはあり得ないよ?」


 ジルの言葉を聞いて周囲を改めて見渡すけど、私達が今居る場所の周囲には木の一本も無く、遠目に見えるポートル――ヒローズの街道を時々行商人らしき人達が通っていくだけ。

 空を見上げても、雲一つない快晴で空にはどこまでも青空が広がっている。

 身を隠す場所も無いから隠密すら出来ないよ。


「……まあ、その通りなんですよね。遠くの行商人がいきなり武器を構えてこっちに向かってくるならともかく、そんなことする人居るわけないですし」

「まあ、平和なのは良い事なんじゃないかな? さすがに連日激戦に次ぐ激戦は堪えるでしょ?」

「それはまあ……」


 マディスの言うとおり、連日激戦続きの生活だと精神的に参りそうだよ……。

 そんな日、来てほしくない。

 というか、本当ならこんな事しなくても良いと思うんだけど……。


「確かにそうですけど、何が出てくるのか分からないですよ、ルーチェさん」

「……まあね」


 魔族だったり、勇者プログラムだったり……。

 未知の相手ばっかり出てくるよね。


「仕方ないだろ、勇者の存在が無くても冒険は未知との遭遇なんだ。既知の物とばかり出くわす冒険は冒険とは言わない」

「まあ、知ってる物ばっかり出てきても、とは思うけど……」


 その未知の存在が明らかに異常な進化を遂げた怪物ばっかりなのはどうにかならないのかな……。

 ベッドに殺されかけたり、家が怪物化したり……。

 私たちそっくりに化ける怪物まで出てきたし、次は一体何が出てくるのか……。


「そういう化け物を討伐する事こそ本来なら勇者の仕事なんですけどね。まあ実際は……」

「勇者が化け物の一種だった、なんて酷い事実が待ってたね」


 アレって本当に何なんだろ……。

 作られたって言ってるけど、あんな化け物を作り出せるのかな?


「作り出せる世界がどこかにあるんでしょうね。で、その世界から召喚で送り込まれた勇者が好き放題暴れると」

「この世界の人の自業自得なのが何とも言えないよね……」


 そもそも勇者に頼らなかったら何も起きないのに……。


「無理じゃないかな、ルーチェ。国王が勇者を召喚することに賛成してたら誰も止められないよ?」

「そうなんだよね……」


 命令で無理やりやらされたわけだから……。

 国王に王宮仕えの人間が逆らえるわけないし……。


「そもそも、どうして勇者に頼るんでしょうね? ルーチェさんだってそうですけど、そこそこ戦える人は居るんですから互いに戦力出し合って戦えばいいのではないかと思うんですけど」

「うーん……勇者にしかない魅力とかあるのかな……?」


 やっぱり「勇者」って名前は凄く大きいと思うし。

 その辺の無名の冒険者や傭兵より、世界を救うために召喚された勇者の方が明らかに期待されやすそうだけど。


「けど、そのために何も考えずに勇者を呼ぶのって間違ってるような気もするけどね~。何も考えずに勇者を召喚させられたんだろうけど、勇者が召喚された直後に襲い掛かってくるとか考えなかったのかな?」

「あいつらがそんな事考えてるわけないだろ、マディス。俺が召喚された時の対応も、とにかく外に出すための言い訳を必死に考えてる、というような雰囲気だった。大方、理想的な姿の勇者が登場することしか頭になかったんだろ」

「……否定できないね」


 あの時、グリーダーを見たときの周囲の反応は「恐怖」だけだった。

 国王はとりあえず私を道連れに送り出して捨て駒にすることで、グリーダーがテラントの王宮内で暴れ回られないようにしようとしてたみたいだけど……。


「召喚した勇者に恐れ戦いて放り出すなんて、正気ですか、それ?」

「認めたくないけど、その通りだったんだよ」


 ジルが呆れた様子で聞いてきた。

 残念だけど、本当なんだよ。

 グリーダーが恐ろしいからって即座に追い出したんだよ、あの国王……。

 放り出されたグリーダーが私を殺してそのまま野盗になったらどうするつもりだったんだろ。


「……野盗になった勇者に城の兵士で勝てなかったら、勇者呼びますよね?」

「その勇者がまた恐ろしい見た目だったら、どうすると思う?」


 ジルが言うとおり、野盗とかした勇者に城の兵士で勝てなかったら勇者を呼ぶしかない。

 そこまでは分かる。けど、また同じような勇者が出ないとは限らないよね?


「あいつらならすぐに捨てるな。聞くまでも無いだろ」

「勝手に呼んだ挙句にすぐに捨てるなんて酷いよね~。で、野盗が二人に増えたよ。もちろん城の兵士じゃ勝てない。ってなったら……」

「……また、呼び出す?」


 マディスの言葉を聞いた瞬間、最悪の展開が頭をよぎる。

 野盗を倒すことが出来なかった。

 けど放っておけないから勇者を呼ぶ。

 その勇者がまた野盗になってしまった。

 そして倒せないから勇者を呼ぶ。

 ……やっぱり野盗になっちゃったから再び勇者を呼び出して戦わせる……。

 もしかして、延々と勇者の召喚を繰り返す?


「あり得ますよね……。それ、最終的にどうなると思いますか?」

「野盗と化した勇者の群れが好き放題に暴れて手が付けられなくて、勇者を呼んで倒してもらおうとするけどその勇者がやっぱり野盗で……」

「救世主を呼ぶつもりで野盗が増えるな。――――あの勇者プログラムとかいう化け物で考えてみたらどうなると思う?」

「勇者が町を破壊するけど兵士じゃ太刀打ちできない。けど勇者を止めないと、って思って呼んだ勇者がやっぱり町を破壊し始めて、そいつらを倒してもらおうと思ってやっぱり勇者を呼ぶけどその勇者が町を壊して――――」


 ――――待って。

 あいつらがもっとたくさん現れて、正体を明かして大々的に暴れ出したら、この世界の国王達は――――?

 勇者に対抗するために勇者を呼び出す――――?

 けど、その勇者もやっぱり勇者プログラムで、好き放題暴れはじめて――――。


「……ねえ、最悪の展開が浮かんだんだけど」

「ルーチェさんもですか? 私もです」

「僕も同じような事を思ったと思うよ」

「俺もだ。で、ルーチェはどんな展開が浮かんだ?」

「私は――――」


 ――――世界中で勇者プログラムが「私はお前達の求める勇者では無い! 貴様等の世界を奪うべく現れた勇者プログラムなのだ!」なんて言って大々的に宣言しながら暴れ回りはじめて、この世界の人達じゃ歯が立たないから世界中の国が異世界の勇者に救いの手を求める。

 だけど、その勇者が勇者プログラムで、召喚されて出て行った直後に暴れはじめて、町を破壊しつくしていく。

 けど、立ち向かえるのが勇者しか居ないからやっぱり勇者を呼び出すしか無くて、最終的に――――


「最終的に、この世界が勇者プログラムに完全に乗っ取られる未来が浮かんだよ……」


 私の言葉を聞いても三人が驚かないって事は、やっぱり――――。


「そりゃまあ、それしかないでしょうからね」

「こういうときだけ予感って当たるよ、ルーチェ?」

「ま、当然の末路だな」


 三人とも同じ考えだった。

 ……このまま放っておいたら、本当にこんな未来がやってくるの……?

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