異界の勇者の話をしましょう
次話から紳士スタート。
「奥地に居た厄介な魔物含め、ほとんど根絶させたと思います」
「助かった! 坑道を占拠されてると金属の流通が滞ってしまうからな!」
魚を倒して魔物は全滅させたと思うので、テラピアに帰って依頼達成の報告をしました。これで難易度5の依頼はあと一つだけだよね。それは明日に回して、今日はもう休もう。
「じゃあ、せっかくですし今から食事に行きませんか?」
「そうだね。もう今日は休もう」
さすがに依頼を一日に三連続で受けるつもりはないし。……明日でここの難易度5の依頼は最後かあ……。
「クエストは中々に骨のある相手が多いな。それでこそ楽しみがある」
「普通はもっと難易度の低いクエストから始めて実力をつけていくものだと思いますけど」
「まあ、本当はそうなんだけどね……」
ジルの言うとおり、本当なら難易度1から全部順番にこなすのも良いかもと思ったんだけど……。
「骨のない小物に稼ぎどころを残してやるのも勇者の役割だ」
「言い方はアレだけど、グリーダーの言う通りだよ」
クエストの独占なんてやったら、冒険者同士の諍いの原因になるし、その人たち以外が育たないから、全体としてみるとあまりよくないんだよね。
「ところで、今回の依頼の報酬は何ですか?」
「うん。……これだよ」
「金塊ですか?」
「ほう。良かったじゃねえか。これで一生遊んで暮らせるぞ?」
よっぽどあの場所が大事な場所だったんだろうね。金塊を1つ渡されたって事は一生遊んで暮らせるだけのお金を貰ったも同然だよ。
「金塊は素晴らしいですが、大金を巡って争うことが多いですからね」
「山分けの際の殺し合いだな? まあ、しょせん世の中金だからな」
「すごく嫌な話だよね……それが現実に起こり得るから仕方ないんだけど」
金塊をもらったパーティはすぐに崩壊するなんて言われてるしね……。まあ、上手く山分けしてればそんなことは無いんだろうけど。
「まあ、このパーティだと貴様ら二人で山分けすればいいだろうな」
「グリーダーさんは要らないんですか?」
「金など、その辺の町人から巻き上げればいくらでも手に入る! 家の中にも大金を隠し持っているしな!」
「そっちに走ったら駄目だってば!?」
結局そうするんだよね……。絶対勇者に見えないよこの人。
「それにしても、異世界の勇者と言うのは皆グリーダーさんのように邪あk……威圧感たっぷりなオーラを放っているんでしょうか?」
「どうなの? グリーダー」
勇者が皆グリーダーみたいにこんな真っ黒なオーラを放ってたら怖いよ。グリーダーにはもう慣れたけど、もしこんなのが十人二十人単位で出現したら怖くてそこには居られないよ。
「ほう? このオーラが威圧感だと言うか? まあ、地獄を生き延びた勇者の実力を示す称号だからな」
「それは称号じゃないよね!?」
まあ、強さと強さからくる威圧感を示すオーラならものすごく納得いくけど。実際に強いし。
「ついでだ。食事の時に俺が居た世界の事でも話してやろう」
「どんな世界か楽しみですね」
「何か聞く前から不安になってくるけどね……」
グリーダーをこっちに引っ張り出す前にグリーダーが居た世界……ある意味気になるよ。とりあえず食事に行こう。
ーーーー
夕食は宿の食堂で食べることに。グリーダーが先頭だと皆すぐに逃げていくんだね……。そりゃ身長250センチの筋肉質、背負った巨大な斧、怖い顔、どす黒い邪悪なオーラ、返り血でもついたような赤黒い鎧の五拍子がそろえば誰だって逃げたくなるけど……。
「どうだ。これが勇者の纏う神聖なオーラの力だ。人払いくらい朝飯前だ」
「すごいですね。宿の前にたむろしていた邪魔者や食べ終わったのに食堂に居座って話し込んでいた邪魔者がグリーダーさんを見るなり逃げ出して数秒で全員居なくなりました」
「どう見てもそれは神聖なオーラじゃないよね!? 後ジル、確かにたむろされてて邪魔だったけど邪魔者言わないであげようよ!」
それは言っちゃ駄目な事だよ!
「そうですか? 思った事を直接伝えることの大切さはよく問われますよ?」
「直接的過ぎるのも問題だからね!?」
言ってはいけないこととかあるし!
「気にするな。邪魔者は追い払えばいいんだ。勇者がやったら全部許されるしな。それだけだ」
「ええ」
「強者の暴論は止めようよ!」
勇者だからって邪魔者を力ずくで排除したら駄目だよね!?
「分からん奴だな。俺の世界に居た勇者どもは、軒並み強奪で生計を立てていたぞ? ちなみに、襲撃する対象は魔物、町人両方だ。逆らったり、邪魔したり、さまをつけず呼び捨てにしたりする奴は即座に首をコキャッて捨てていたな」
「何か色々と間違ってるよその世界!? 後、さまをつけなかっただけでその人の首をへし折って殺すなんて酷いよ!」
「大丈夫だ。いくら首をへし折られても、水をかけたらとりあえず治る」
「水をかけても首を折られたら治らないよ!?」
やっぱり滅茶苦茶な世界だったよ! その世界にはちゃんとしたルールや決まり事は無いの!?
「あるぞ? 自由、これすなわち他の生物の虐殺認可なり」
「そんな酷いルールの何処がまともなのか教えて!?」
「徒党を組む敵には、こちらも相手の数倍の戦力を用いて数の暴力で一方的に蹂躙すべし」
「群れる弱者にはこちら側も数の暴力で対抗せよ、と言う事ですね」
「一見まともだけど、一方的に蹂躙すべしなんて書いてある時点で酷いよね!?」
それは勇者でもなんでも無くて悪役のルールなんじゃないかな!?
「そんなことは無い。勇者だからこその数の暴力だ」
「ええ。勇者は大抵強敵を集団でボコボコにして身ぐるみ剥いで捨てますしね」
「身ぐるみ剥いで捨てるなんて勇者がして良い事じゃないよ!?」
だからそれは追剥や強盗だよ!
「何を言うんだ。数百匹単位で魔物を虐殺してアイテムをかき集めたことくらい、お前にもあるだろ? エリクシールの陰に伝説の玉ねぎを隠し持つドラゴンなど、玉ねぎ目当てに片っ端から乱獲されてるぞ?」
「やらないよ!? いくらなんでも数百匹も殺さないからね!?」
「読んだ本によると、勇者が自らの力を強める儀式として、ほとんど無抵抗の冠を被った銀色のスライムをひたすら強酸性の水や毒薬を仕込んだ針で殺し続けることもあるそうです。三十匹倒せば駆け出しでも最強になれるらしいですね。すごく楽だから勇者たちにはこのトレーニングが奨励されてるそうですよ」
「この世界にも伝わっていたか。あの方法は楽でいいぞ?」
「ちゃんと努力しようよ!? 楽しちゃ駄目でしょ!?」
魔物は害獣とはいえ、そこまで虐殺が盛んだと逆に魔物を庇いたくなっちゃうよ……。というか、勇者だったら真面目に努力して強くなろうよ!
「楽した者の方があらゆる意味ですぐに強くなる。素晴らしい話だ。本当に世の中は上手く出来ていると思わないか?」
「楽した者の方が強くなる世界なんて十分嫌だよ! どんなに頑張っても報われない時点で大問題だよ!」
銀色ばっかり狩った方が律儀に雑魚と何度も戦うよりずっと早く勇者は強くなる。当たり前だけど楽して強くなった方がお得。真面目に戦ったら損します。楽するために銀色を追いかけましょう。
「楽することばっかり考えてそっちに流れたら駄目だよ!」
数百匹単位で殺してレアアイテムのコレクションを集めましょう。欲しいなら、数千匹殺して当然です。レベルがとっくにカンストした?アイテムのためなら永遠に戦い続けて……。
「レベルカンストしてるのにそっちに走るくらいならもう魔王倒そうよ!?」
こんな行動をとったような覚えがあっても全然問題ない。勇者たる者それが普通なんです。さあ、あなたも256分の1や1096分の1や4096分の1の宝の獲得に向けて終わりなき戦いを……。
「そこまで行くともう普通の範疇を超えてるよ!?」