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強奪勇者物語  作者: ルスト
ポートル
159/168

ポートルに入りましょう

「ようやく着きましたね」

「ここがポートル、なのかな?」


 バグリャの跡地からそのまま街道を突っ切ると見えてきた港町。

 町の前に看板は無かったけど、本に書いてあった特徴と一致はしている。

 ――――ここがポートル?


「おい、急げ! 商品早く降ろさないとヒローズに間に合わないぞ!」

「急いで積み込め! 明日までだからってもたもたするな!」

「デュリス行きの荷物はこれでいいかい?」

「ああ、完璧だ! 次は――――」

「ベルツェへの定期船、出るよ~!」


 町に入ると、すぐに大きな声が港の方から聞こえてくる。

 遠目にだけど、大きな箱を抱えた人たちが船と港を往復しているのが見えた。

 荷物の積み下ろし……本当にこんなことやってるんだ。


「ルーチェは港町でどんなことをやっているのか、知らなかったのか?」

「え? うん。実際に港町に来るのは初めてだから」


 そもそも、テラントから外に出ること自体無かったからね。

 ……この変に湿った風も初めて浴びるよ。


「ルシファーさんなら何か知ってるような気もしますけど、どうですか?」

「俺か?」


 ジルがルシファーに尋ねた。

 ……確かに、こっち側に呼ばれるまでずっと旅してただろうし、色々知ってそうだけど。


「……詳しい中身までは知らない。あくまで勇者として戦ってた時の通り道だったからな。ただ、船を使って荷物と人間をまとめて違う大陸に運んでいる事と、倉庫も兼ねている事なら分かるな」

「倉庫?」


 港町がどうして倉庫になるの?


「ルーチェ、荷物の積み下ろしは、俺達の想像以上に大変な作業だぞ? 少し見たことがあるが、巨大な木箱を次々に船から降ろして別の木箱を船に乗せるんだ。この時、もし入れ替える木箱を間違えたら大惨事が起きる」

「大惨事……?」

「もし間違えた木箱が他の木箱の下、それも船の一番奥に置かれた木箱だったらどうなると思う? それまでの作業を全て無駄にしてでも全ての木箱を外に出し、間違えた木箱を取り出してからまた積み直しだ。当然時間と体力は戻らない。後は分かるな?」

「……」


 ……どけた木箱をまた元の場所に戻すことになるから、実質的に本来の倍働かないといけないって事?

 確かに大変かも……。


「で、話を戻すが、そんな風にヘマをやらかさなかったとしても、一日で荷物が積み終えられるとは限らないだろ。そんな時に荷物を外に放置してみろ。どうなる?」

「周囲に誰も見張りが居ない木箱なんて、確実に泥棒出来ますよね。というか、私だってそうします」


 確かに……。

 ジルじゃないけど「目の前に宝が置いてある」状態だからね……。

 誰の物かなんてどうでもいいし、盗ってくださいと言わんばかりに置いてあったら……。


「ああ。だから、一時的に港の中の建物に積めなかった荷物を放り込んで倉庫に使うんだ」

「なるほど……初めて知ったよ」


 港の事なんて全く分からないから、勉強になるよ。

 ありがとう、ルシファー。


「……それにしても、風が妙ですね、港って」

「妙……かどうかは分からないけど、確かに、普段の風とは違うよね」


 ポートルの手前から既にそうだったけど。

 なんというか、変なにおいがするんだよね。

 それに少しべたつくし。


「潮風だな。海の近くだとこんな風が吹き付けてくる」

「そうなんですね……。少し苦手かもしれません」


 ジルがそう呟いた直後に風が吹き付けてきて、ジルは風下に顔を向ける。

 ……私は別に気にならないけどな。


「ちょっとベタベタして……私はあまり好きになれそうにないです」

「……まあ、外で長話する物じゃないな。宿に入るぞ」

「そうだね、先に宿だけ予約しておこうか。買い物や魔法陣ならその後でも出来るし」

「何か買えると良いんだけどね~」


 風を凌ぐためにも、早く宿は取らないとね。






ーーーー






「はあ!? 次のデュリス行きの船は高級客船だけかよ!? そんな大金払えねえよ!」

「しかし……デュリス側に向かう定期船は一昨日出向してしまいまして……。まさか貨物船の底で寝泊まりするわけにもいかないでしょう?」


 宿に入ると、受付で冒険者らしき男の人と店の人が揉めていた。

 どうやらデュリスって場所に行くための船についてらしいけど……。


「けどよお! いくらなんでも、一人100000ゴールドはぼったくりすぎるだろ! デュリスまで行くだけでどうしてそんな大金! 定期船なら2000ゴールドで行けるのに!」

「もし高級客船が嫌なのでしたら、後一月待って頂いて定期船が再び戻ってくるのを待っていただくしかありません」

「一か月かよ!? ……あ~、デュリスの闘技場の参戦に間に合わねえ!」


 100000ゴールドの高級客船、かあ……。

 定期船が2000ゴールドだから、50倍の値段なんだね。

 そんな凄まじい値段の船、一体どんな人が乗るのかな?

 やっぱり国王級の人達?


「ん~……案外、平民でも乗れるんじゃないかな? というか、僕ら普通に乗れるよ?」

「ですよね。お金積めば乗れるんでしたら……。ルーチェさんのおかげで大黒字ですし」

「え? いや、けど、さすがに高すぎないかな?」


 それだけ高級だったら値段に見合う価値があると思いたいけど……。

 今の段階じゃ単に高いだけとしか思えないよ。

 定期船の50倍の値段だし。


「……ルーチェ、試しに乗ってみないか? 一か月足止め食うより早いし、何より……」

「何より?」

「貴族が利用するような物が、本当にその値段に見合う価値があるのか少し気になる」


 ……ルシファーまで……。

 そこまで言うなら、騙されたと思って高級客船に乗る?

 ヒローズの国家予算巻き上げた時点でお金が尽きるとは思えないし。


「良いですね。一度体験してみましょうよ、貴族気分」

「って言っても、何もしないよ?」


 普通に船に乗ってデュリスまで行くだけなんだから。

 別に誰かと戦ったりするわけでもないしね。


「……まあ、そうですよね。船の中で殺し合いをするわけにはいきませんし」

「当たり前だよ」


 そんなこと絶対にやっちゃ駄目だからね?

 ……まあ、さすがに言わなくても大丈夫だと思うけど。


「しかし、その高級客船っていつ来るんでしょうね?」

「既に話は終わってるみたいだから、聞いてみたらいいんじゃない?」


 マディスの言葉を聞いて宿の受付の方を見ると、既に男の人はどこかに行ってしまったらしく居なかった。

 店の人は変わらず受付に座っていて、手元の何かを見ている。

 ここからだと机に隠れて見えないけど。


「あの、すいません」

「はい?」


 声をかけると、座っていた人が手元の本――――ノート? を見るのを止めて顔を上げる。


「えっと、デュリス行きの高級客船っていつ来ます?」

「え? 十日後ですけど……?」


 十日後、か。

 それまでここで待つことになるかな。


「ゴールドならありますけど、乗船許可は出ますか?」

「へ!? ……失礼ですが、どちらの家の方でしょうか?」


 家?

 ……って言われても、平民と異世界の人間なんだけど。

 ルシファーも貴族ってわけじゃないよね。


「……そんな人がお金持ってるわけないでしょう? 冗談も」

「四人分、即金でちゃんと払いますよ? 400000ゴールド、確認してください」

「……」


 ジルが私の横から受付の机に400000ゴールドの入った袋を乗せると、受付の人は完全に固まってしまった。

 まあ、私たち貴族には見えないし、無理も無いよね。


「た、確かにお金はありますね……。えっと、それでは、乗船のための手続きを行わせていただきます……(こんな子供達なのに、即金で払うなんて……隠しているだけで、実はどこかの凄い貴族の家柄なの!? 何か失礼したら不味くない!?)」

「お願いします」


 慌てているのを隠し切れない様子で、乗船手続きを始めた受付。

 ……何考えてるのかな?


「え、えっと、それでは、この用紙に貴方方四人のお名前を全て記入してください」


 そう言って渡されたのは名前を書く紙と羽ペン。

 ……とりあえず、記入しないとね。


「じゃあ僕から。マディス・サイエント、と……。はい、ルシファー」

「……ルシファー・ブリーブ。ほら、ルーチェ」

「あ、うん。……ルーチェ・ブライト、と……。書き間違えてない、よね?」


 普段名前なんて書かないから、書き間違えが少し怖いよ……。

 はい、ジルも。


「ええ。ジル・ダルクネス。四人全員書きました。これで良いですか?」

「え、ええ……(本当に貴族じゃないのね……って、ブライト!? そう言えばフラムさん、娘が居るって言ってたけど……!)」


 ……?

 何か問題あったのかな?


「えっと、何か問題ありました?」

「い、いえ。受付は完了しました。十日後、高級客船の入り口でこの銀色の板を見せてください。それが乗船資格になります」


 受付から渡されたのは薄く延ばした正方形の銀色の板四枚。

 よく見るとうっすらと「乗船資格確認済み、乗船了承」と書かれている。

 ……これが乗船資格になるんだ……。


「無くすと困るし、預かっておくよ」

「お願い、マディス」


 各自で持ったら変にかさばるし、当日までマディスに預かっておいてもらうのが一番安全かな。

 それじゃ、船が来るまでの十日間、ポートルで宿を取ろうか。


「ところで、船が来るまでの十日間、二人部屋を二部屋借りたいのですが、いくらかかりますか?」

「宿泊ですか? 二人部屋を二部屋、十日なら……6000ゴールドになります」

「6000ゴールドですね、分かりました」


 受付に宿の代金も支払い、部屋の鍵を四本借りる。

 ……さて、と。

 とりあえず船が来るまでの十日間、後の戦いに備えてポートルでいろいろ準備しないとね。


「そうですね……と言いたいですけど、ルーチェさん。今日はさすがに休みませんか? バグリャからここまで休み無しですし」

「そっか……。私達あれから全く休んでなかったね」


 バグリャ勇者の手でバグリャの町が焼かれたのが昨日の深夜だから……少し休まないと辛いか。

 いきなり一日棒に振るようになっちゃったけど……。


「いや、むしろ休むべきだろ? 準備なら明日からでも出来るし、今日は休んでも構わないと思うが」

「賛成だよ。僕も色々買い物しておきたいからね」

「……じゃあ、今日はもう休もうか」


 到着早々宿で休むことになるとは思わなかったけど、まあ、バグリャが崩壊して休めなかったし仕方ないかな?

 とにかく、部屋に入ってもう休もう。






「やっとゆっくり休めますよ……。本当に、バグリャ勇者が余計な事をするから……」

「あはは……」


 部屋に入るなり、ジルはテーブルナイフやフォークを放り出してベッドに倒れ込んだ。

 まあ、寝られなかったような物だし仕方ない、かな?


「……というか、身体洗わないと不味いですね……。油と潮風で酷い事になってそうです」


 直後に思い出したように起き上がるジル。

 確かに、身体も服も洗った方が良いかも……。


「……」


 バグリャの町では文字通り油の滝と炎の中で戦ってきたし、ポートルでは潮風に当たったからね。

 潮風の方は大して浴びてないけど、確かに私も顔が油でベタベタするかも……。

 油の臭いが残ってるし……。


「……先に身体洗いに行きましょうか。ルーチェさんも行きましょう」

「そうだね。さすがに、放っておくのは不味いしね……」


 ジルに連れられて共同浴場に向かう事に。

 ……気にしてる場合じゃない時はともかく、普段はこういうの気にしておいた方が良い、よね?

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