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強奪勇者物語  作者: ルスト
ポートル
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テラントを見てみましょう

 side テラント国王


「た、大変です国王陛下! バグリャで、バグリャで勇者が……勇者が二人も消えてしまったそうです!」

「何!? 勇者が消えた!? それも二人も!?」


 その日、兵士が持ってきた報告を聞き、わしは驚愕した。

 我が国の隣国、ヒローズ。

 そして、その隣の国、バグリャ。

 その二つの国で召喚された勇者が消えてしまったという衝撃的な話が入ってきたのだ。

 わしのみならず、この部屋に居る者のほとんどが驚きを隠せない。


「……それで、ヒローズとバグリャの様子は一体どうなっている?」

「それが……バグリャは完全に崩壊し、ヒローズも少なくない被害を受けたそうです」

「……なんという事だ!」


 報告を持ってきた兵士を問いただすと、更に衝撃的な話が入ってきた。

 バグリャは完全に崩壊した――――つまり、この大陸からバグリャという国が完全に消えてしまったと言うのだ。

 ヒローズ大陸の三つの国のうちの一つが、その歴史に幕を下ろし、消え去った。

 ……なぜそのようなことが起きたのだ!?


「はっ! なんでも、狂気に憑かれた魔王が現れ、バグリャの町を占領してヒローズに対し宣戦布告したとか。ヒローズ側がバグリャの勇者と協力して応戦したようですが、ヒローズの勇者とバグリャの勇者はどちらもその戦いで行方知れずになったそうです! 魔王は負傷し、姿を消したとか」

「そんな馬鹿な……」


 勇者が二名も、恐ろしい魔王との戦いで散ったというのか……。

 ああ、なんという事だ……。

 この異常事態に、ルーチェは一体何をしているのだ!

 魔王討伐のために派遣しただろうが!


「い、今すぐルーチェを探して伝えろ! 悪しき魔王は本当に存在したと! あいつはわしの言葉を半信半疑で聞いているかもしれんが、これは間違いなく事実なのだ! ルーチェに同行させたあの勇者を連れてくるのだ! 召喚された時につけられている勇者の印を辿ればすぐに追えるはずだ!」


 ルーチェはともかく、ルーチェと同行しているあの勇者の力なら!

 悪しき魔王であっても倒せるはずなのだ!

 あのおぞましき勇者の力ならば!


「そ、それが……」

「どうした!?」


 まだ何かあったのか!?


「あ、あの者の反応が、バグリャの付近で消えてしまって消息不明になっているのです……。最悪、我が国の勇者も死んでしまったのではないかと……」

「ルーチェは一体何をしておったのだ!? 勇者が死んだら、すぐに報告くらい入れるはずだぞ!?」


 どういう事なのだ!?

 まさかわしの勇者も死んだというのか!?

 テラントの勇者、ヒローズの勇者、バグリャの勇者。

 三名も死んだなどと……こんな異常事態国民に伝えるわけにはいかぬ!


「ううう……い、一体どうすればよいのだ。この大陸の三国全ての勇者が死んでしまうなどと……」


 わしが呼んだテラントの勇者がいつの間にか死んでいたなどと……本当にどうすればよいのだ!

 勇者を召喚させようにも、ルーチェもその母親も居ない今では何も呼べぬ!

 ルーチェ以外、勇者召喚の儀式の本など読んだことも無いのだぞ!?

 あの古代語が読めなければ、どうすることも出来ぬ!


「失礼します、国王陛下! ヒローズ側から「新しい勇者の修行のためにテラントを使わせてほしい」との通達が!」


 どうすればよいのか分からぬわしの所に、別の兵士が駆け込んでくる。

 ……ぬ? 新しい勇者?


「何……新しい勇者は居るのか?」

「え? はい、そうらしいです。ヒローズは既に新しい勇者を召喚しており、順調に育てているのだとか」

「ああ……それなら一安心だな。うむ、この国を勇者の修業地にするというならもちろん構わぬ、そう伝えてくれ」

「畏まりました」


 なんだ、新しい勇者は既に居るのか。それなら安心ではないか。

 ……しかし、このままでは示しがつかぬな。

 ヒローズが新しい勇者をすぐに召喚しているというのに、わが国には勇者が居ないのだ。

 ……全く、勇者が消息不明になっているというのに、ルーチェが報告すら渡さぬから……。

 そんな肝心なことがあるのになぜ戻って来ていないのだ。

 危うく大恥をかくところであったぞ。


「……では、とりあえずそこのお前とお前とお前! 今すぐに勇者召喚の儀式のやり方を学ぶのだ! 明後日までには出来るようにしておけ!」

「「「!?」」」


 謁見の間の隅で喋っている三人の魔術師を指さし、指示を与えた。

 わしの言葉を聞き、驚きを隠せない魔術師三名。

 何を驚いておるのだ?

 当然ではないか。


「ヒローズの勇者だけに頼るわけにはいくまい! わしの国でも勇者を沢山呼び出し、ヒローズの助けになるのだ! とりあえず……明後日の早朝から勇者召喚の儀式を始める! 二日も時間があるのだ、簡単であろう?」


 ここまで言った後、自分の発言が無理難題だったかどうか考えてみる。

 …………うむ。

 別に無理難題を言っているわけではあるまい。

 ルーチェなんか、当日に言われてもその日のうちに勇者召喚の儀式をこなしたのだ。

 今度は三人も居るのだし確実に勇者召喚の儀式が行えるじゃろう。


「こ、国王陛下、いくらなんでもいきなりは……」

「そ、そうですよ……。そんなこと急に言われても無理ですって……」

「い、いくらなんでも期間が短すぎますよ……」

「大丈夫じゃ。お前達ならば出来る。わしの勘がそう告げている!」


 わしの言葉に否定の意を返す三人。

 しかし何も不安がることはあるまい。

 わしの勘は絶対に当たるのじゃ。

 ルーチェだってあんなこと言っておったが、勇者を召喚できたではないか。

 何も問題は起こりえない。






「おい、どうする……?」

「今まで面倒事はフラムさんやルーチェに全部丸投げしてたからなあ……。儀式のやり方なんて分からねえ」

「と、とにかく急いで翻訳用の辞書と儀式の魔術書を……!」


 わしが指名した三人は慌てた様子で謁見の間を飛び出して行った。

 ……うむ。何の問題もあるまい!

 わしの考えは絶対に正しいし、間違えるわけがないのだ!






「国王陛下、我々の報告は終わりましたが、退室してもよろしいでしょうか?」

「ぬ? うむ。お前たちの報告は聞いた。下がれ」


 報告を持ってきた兵士二人を下がらせると、謁見の間は再び静寂に包まれた。

 ……ふう。まったく、人騒がせな国じゃ。

 勇者が倒されたとか言って脅かしおって……。

 新しい勇者が既に居るのなら、別に気にする必要なかったではないか。

 それよりも問題はルーチェじゃ。


「……よし、そこのお前! なんとかしてルーチェの居場所を探して勇者の消息を聞き出すのだ! 期限は――――」

「全く、久々に来たら相変わらず騒々しいね」

「ぬ? その声は――――」


 とりあえず近場の兵士にルーチェを探して勇者の消息を聞かせる作業を指せようと指示を出しかけたとき、わしの耳に聞き覚えのある声が。

 声のした方を見ると魔法陣が出ており、光と共に人影が現れる。

 この声は確か――――。






「フラム・ブライト、ただ今帰ったよ。相変わらず思い付きで生きてるみたいだねえ」

「おおっ、フラムではないか! 丁度良い! 今すぐルーチェの場所を探してあいつと一緒に送り出した勇者の消息を聞いてきてくれ!」


 腰まで伸びた金髪に、娘とは対照的な、炎のような真っ赤な瞳。うむ、間違いない。

 フラム・ブライト。ルーチェの母親だったな。

 丁度良い。今すぐルーチェの居場所を探してもらって――――。


「その無理やりすぎる命令もいつも通りって事だねえ。全く、この馬鹿王は……」

「フラムさん、もっと言ってやってくださいよ! ついさっきだって、そこの隅っこで待機していた三人組が勇者召喚の儀式を明後日までにできるようにしろって……!」

「俺なんて、魔王討伐に派遣されて居場所が全く分からないあなたの娘さん探して勇者の消息聞いてこいですよ!? どこ探せって言うんですか!」

「私なんて!」

「僕は!」

「私は!」


 フラムが帰ってくるや否や、兵士達が次々にフラムに泣きつく。

 何を言っておるのじゃ? わしの命令の何処がおかしい?

 当たり前の命令を当たり前のように指示しておるだけではないか。

 全く、どいつもこいつも情けない事じゃな。

 こんな当たり前の命令の何処が難しいというのじゃ。


「あんた達もよくもまあこんな馬鹿王のために尽くせるねえ……。まあ、ルーチェをこんな滅茶苦茶な王宮仕えの魔術師にしてしまった責任もあるし、今回は命令通りに会いに行っても構わないんだけどさ」


 ぬ? 今回はフラムはわしの命令をちゃんと聞くのか?

 ならば話が早い。今すぐルーチェの所まで行って聞いてきてくれ!


「まあ、考えておいてあげるよ。少なくとも、今すぐは無理だけどね」

「何を言うのじゃ! 今すぐに行けば出会えるとわしの勘が――――」


 わしの勘は正しいのじゃぞ?

 無視するというのか!?


「はいはい。馬鹿の戯言は放っておいて、失礼するよ。私はちょっとテレポート疲れが出てしまってね。何度もデュリスと他の国を往復しないといけなくなっちゃったからね」


 む? 何故そんな場所に向かう必要があるのじゃ?

 ルーチェが出発したのはテラストの方じゃぞ?

 バグリャ周辺に行けば会えるじゃろう?


「馬鹿王様は呼ばれてないのか。まあ当然だねえ……。この場所――――ヒローズ大陸の国はどこも呼ばれてないしね」

「???」


 言っていることがよく分からぬな……。

 フラムは何を言っておるのじゃ?

 わしの命令を聞いておらんかったのか?

 ルーチェを探すように言ったんじゃぞ?


「ん~、まあ、そっちも一応やっておくよ。久しぶりにルーチェの顔は見たいからね」

「うむ、頼むぞフラム!」


 フラムはそのまま謁見の間を出て行ったが、儂の命令は聞いておるようじゃな。

 うむ、ならば何の問題もあるまい!

 ……他に何か問題は……おおそうじゃ!


「フラムが帰って来たなら、今からでも勇者召喚を」

「フラムさんは既に王宮には居ませんよ」


 ぬ? フラムはもう居なくなったのか?

 全く、少しはここに居ればよい物を。

 フラムは娘より遥かに有能じゃし、便利じゃから何かあってもすぐに対処してくれるのじゃが。


「……そりゃ居たくないでしょうね」

「だよなあ」

「どうしてこんな国に仕えてるんだろ、俺」


 周囲ではまたぼそぼそと話し声が聞こえてくる。

 ……全く、こいつらは雑談が好きじゃな。

 いつも雑談しているだけの気がするぞ。

 それにしても、少しはわしの意見に積極的に従って行こうという気兼ねでも見せられんのかの?


「……さて、それより次は何をどうするかじゃな……」


 周囲の連中はともかく、今はこの国の事を考えなければならんの。

 ルーチェの事はフラムがやってくれるじゃろうし。

 勇者の召喚だって、あの三人組が明後日には準備完了するじゃろう。

 うむ、何の問題もあるまい。

 これから何度も勇者を召喚してヒローズを支えることだってできる。

 わしの未来に、何の問題も起きぬな!

 とにかく明後日からは勇者を沢山召喚して、ヒローズの助けにならねばいかぬ!

ルーチェの災難の引き金になった馬鹿国王様の素晴らしいお考えです。

実に身勝手ですね。

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