作成者を見てみましょう
プログラムの作成者側のお話。
……当初の想定よりかなり酷い。
side 勇者作成者の少女
夏休みの大学のパソコン室。
この時期、ここは大賑わいになる。
最近開発された最新ソフト「勇者プログラムシリーズ」が爆発的に普及し、皆が連日時間を惜しんでプログラムの作成に勤しんでいるから。
私はそんな人たちによって占拠されているパソコン室の片隅で、パソコンの画面を見つめていた。
画面の中にはアニメのような異世界が広がっている。
ファンタジー世界そのままな激しい戦いの日々。
強大な怪物に四人が力を合わせて立ち向かい、非道な勇者を倒す物語――――。
「良かった~。今回も切り抜けられたみたい。それにしても、いきなり町中を火の海にするとか正気と思えないって……」
無事に画面の中の皆がバグリャの町を出たのを確認し、安堵のため息が口から出る。
……いくら異世界だからって、町そのものを油と炎で地獄にするって人間のやる事じゃないよね。
「ああああーーーー!!!!!!」
「って、うわっ、何……?」
突然部屋の反対側――――入り口側から聞こえた叫び声。
驚いて立ち上がり振り返ると、酷い顔の肥った男の人が吼えるように叫んでいた。
頭が千切れるんじゃないかってくらいの勢いで掻き毟り、叫んでいるその姿ははっきり言って凄く怖い。
「畜生! あの屑女共! よくも俺の最強勇者を! ぶっ殺してやる! 絶対に、ぶっ殺してやる!」
「おいおい、落ち着けよ……。今度はもっと強力にして送り込めばいいだけだろ?」
「~~~~~~~~!!!!」
どうやら、自分の作った勇者が倒されちゃってデータが消失したらしい。
……屑女共、って酷い言い方……。
ん? 丁度そのタイミングでプログラム倒したよね、この子達?
「あ……バグリャ勇者って……」
必死で怒りを抑えるような激しい呼吸をしている人には悪いけど、それの実行犯、私の作った勇者とその仲間達だ……。
最初のあの破天荒っぷりに比べたらすっかり常識人になっちゃったからなあ。
詐欺と泥棒も自重するようになったし。
私からすると良い事なんだけど、極悪すぎる勇者をぶちのめしちゃったからね。
「ん~……まあ、自業自得? さすがに、町一つ滅ぼすのはやりすぎじゃないかな? いくら異世界でも限度って物があるよね?」
というか、この子を通じて聞いてたけど「俺の最強ハーレム勇者が!」とか「モブが!」とか、明らかに発言が痛すぎるよ……。
勇者より先にその中身どうにかしないと駄目なんじゃないかな……。
「それにしても……最初に比べて、皆仲良くなったなあ……」
どうやらバグリャを脱出した後そのままポートルって町に向かうらしい。
画面を見ると、金髪の少女と銀髪の男の子が見えた。
この子の視点だから見えないけど、本当はもう一人いる。
……近くに敵が居ないから、仲良く談笑しながら歩いてるのかな?
良いよね~、こういうの。
私もやりたいけど……。
「皆勇者プログラムに夢中で誰も相手してくれないんだよね~……」
そう呟いて、周囲を見る。
周囲のパソコンは全て使用状態になっており、獲物を狙うような鋭い目をした人たちが男女問わず黙々と作業している。
この人たちの目的は言わずもがな勇者プログラムの作成。
特に、今朝発表、無料配信された――――
「遠隔操作機能、だったかな? 異世界の勇者プログラムを意のままに動かせるって代物らしいけど」
正直、作ったプログラムを遠隔操作してどうするんだろう?
皆異世界に行きたいのかな?
……私はこうして眺めてるだけでも楽しいし。
まあ、出来ればお話もしたいかな~って思うけど。
見てると凄く楽しそうだしね。
「よう! イナテモの更新プログラム作ったぞ」
「待ってました! 待ってろよ異世界のリア充! 一人残らず「いちゃついてんじゃねえ!」からの爆砕魔術でぶっ殺してやるぜ!」
「のろい2号! 良いぞ、オルスなんてぶっ殺せ! お前は最強の勇者だ! 呪いの格闘場の英雄だ!」
「ベルツェって良い国だよな~。日本政府が管理してるし、常時召喚してくれるから実験起動もやりやすいのなんの」
「だよな~。新しい勇者はベルツェで動かすに限る。不良品だったらすぐに回収できるし」
「逆ハーレムは私の物よ!」
「今度こそハーレム最強勇者を……」
「ふふふ……ハーレムは俺だけで十分」
けど、周りの人はそうは思ってないらしい。
中には私と同じように純粋に見学して楽しんでる人も居るけど、最近は勇者プログラムを自分の願望を果たすための道具として使おうとしてる人が急激に増え始めた。
日本政府も、諸外国が何も出来ないうちにベルツェを征服してそこから異世界を乗っ取っていきましょうとか言ってるし。
「パソコンの画面の向こう側は地球じゃないのでこれは侵略戦争にはあたりません! そもそも武力行使すらしておりません!」 とか言っちゃってる。
反発する人たちも異世界で好き勝手に出来る勇者プログラムを与えられたらすぐさま賛成しちゃった。
……本当に何考えてるんだろう。
「なあ、聞いたか? 政府は今度の月初めに新しいプログラムを発表するらしい。まあ、完成時期は未定だけどな」
「へえ? せっかく作ったのにまたバージョンアップか?」
「いや――――異世界の勇者に憑依できるシステムを作ってるんだってよ。耳の速い奴は既に知ってる」
「マジかよ! 異世界の女の子とやりたい放題じゃねえか!」
「だろ? だから、今のうちにまともなハーレム勇者作った方が良いぞ。後で後悔する。好みの子全部囲い込んでおかないとやばいぞ」
……うわあ。
そんな物作ったら、ますます異世界が滅茶苦茶になりそう。
けど、こうして眺めてるだけの皆と直接話せる世界が出来るって事か~。
……新しい勇者作って、乗り込んじゃおっかな?
それじゃ勇者って言うか、私の操作キャラだけど。
「……それにしても、どうしてこうなったのかな?」
パソコンの画面から目を離し、再び周囲を見る。
パソコン室の中に六十台は置いてあるパソコンは全て使用中になっており、その大部分で鋭い目をした人たちがプログラムを組み立てていた。
これは何もこの大学だけに限ったことじゃない。
全国の小学校、中学校、高校、大学、果ては会社まで、ほぼ全ての場所で似たような光景が行われている。
――――無論、家でも。
今ではパソコンの値段は暴落しており、一台10000円もあったら買える。
パソコンの値段が最新のゲーム機よりも安くなる時代が来るなんて、誰も思わなかっただろう。
その暴落がますますパソコンを買う人間を増やし、結果的に勇者プログラムの量が飛躍的に増えていた。
とはいっても、まだベルツェ以外ではたまにしか召喚できないし、作成に失敗したプログラムが多いからすぐに戻されて手直しされたりしてるみたいだけど。
「……とはいっても、このまま技術が進んだら、大変なことになるよね?」
画面を見たとき、ふとその言葉が口からこぼれた。
今の時点で勇者プログラムに憑依する計画が出来上がってる以上、このまま進んだらその内本当に向こう側に行ってしまって帰ってこなくなるんじゃないかな?
向こう側の世界って見た感じほとんどルールが無いし、最低限のマナーさえ守れば何でもできるような気がする。
……実際に憑依した人達、日本で過ごすよりよっぽど居心地がよくて帰りたくない! とか皆言いだしそうだよ。
一見した感じ本当に「自由」そのものに見えるし。
「……そうなったら、この子達大丈夫かな? 私の勇者も居るけど、戦闘用の勇者プログラムを入れてないからただの人間と変わらないんだよね……。身体がいきなり0と1になることは無いだろうけど、武器構成すらできないからこの世界の道具で頑張ってもらうしかないし……」
パソコンの画面を切り替え、勇者から少し離れた視点で映し出す。
すると画面が少し動き、男女四人の姿が映し出された。
先ほども映っていた金髪の女の子――ルーチェ、銀髪の男の子――マディスに加えて、銀髪の女の子――ジル、金髪の男の子――ルシファーの姿が新たに映し出される。
画面の中では、四人は先ほどと変わらず談笑を続けながら歩いている。
敢えて言うなら、行商人の一団とすれ違ったくらいだ。
……内容が勇者プログラムに関することって時点で、談笑というより会議っぽく見えてしまうのは仕方ないのかな?
「ああ~それにしても心配だよ。どうしよう……」
画面の中の四人は既にヒローズ勇者と、さっき喚いていた男の人の作ったバグリャ勇者を始末しちゃっている。
もし、このことが発覚して日本政府が総力を挙げて殺しにかかってきたりしたら……。
「計画の邪魔だ。貴様らを消去する」なんて言われてある日突然勇者に殺されちゃったらどうしよう……。
「う~……こうなったら、私も新しいプログラム作るべきだよね」
見ているだけしか出来ない状態じゃ、守れないわけだし……。
直接お話するための身体代わりのプログラム作らないと……。
ああ、また徹夜か……。今度は何日で済むのかなあ?
けど、政府のプログラムそのまま使うのって何か怖いし、自作するしかないんだよね……。
その分しっかりテストしないといけないけど。
バグだらけで動けなかったりしたら意味が無いし。
ピピッ
「ん? メール……え!? また押し付けるって事!?」
決意を固めてプログラム作成を行おうとしたときに突然入って来たメール。
そこには「イケメンハーレム作りたいし作成の時間が足りないから代わりに家事よろしくね☆」なんて文が書かれていた。
……お母さん……勇者プログラムが出てからどんどん駄目な方に進んじゃって行く。
これが出るまではそんなこと絶対言わなかったのに。
「というか、お父さんもお父さんで何やってるのか……」
お父さんも休日に会社のパソコンを使ってプログラムの作成をやってるみたいだけど「若い子に囲まれたい」とか呟いてたりする辺り、勇者プログラムをまともな事に使う気が無いのは明らかだ。
……離婚しなければいいんだけど。
問題なのは、会社の人たちもそれを承認してる……というか、皆やってるらしく、誰も止めてくれない。
そして、当たり前だけど私が言っても聞かない。
日本全国で同じようなことが起きてるからしょうがないんだろうけど。
「嫁が勇者プログラム作りに熱中しすぎて家事すらしない」
「夫が会社で勇者プログラムを作っていて上司に注意された」
「子供が授業中にプログラム作成して誰も話を聞かない」
「人と遊ぶ子供が極端に減った」
「町の外に出ても誰も見かけない。大阪や東京の中心部すら、深夜には人通りが無くなる」
「最近の流行は搾取労働。安い賃金でこき使った外国人に物を作らせ、それを他の国で異常に高く売って日本人全体に利益を配布するから」
「日本人は実質的に働く必要が無い。何故なら、金は外から勝手に入ってくるから」
「日本人が会社に行くのはそれまでの習慣。実際は連日プログラムを作っている」
「日本国内ではパソコンと食材以外まともに売れない。遠出する人も非常に少ないので車すら売れない」
「外国人の国内基本給料は自給600円。日本人への政府支給金額の時給換算は1300円」
「ホント、どうしてこうなったの、って言いたくなるような世界だよね。勇者プログラムが、何もかもおかしくしちゃってるよ……」
というか、世界の国のトップをすり替えることだってできるんじゃないか?
とか、普通に言われちゃってるし。
勇者プログラムを地球に呼び出せないか? なんてことを言い出す人も中には居る。
そんな物呼び出してどうするつもりなの……。
「って、催促メール!? こんなの送るくらいなら自分でやってよ、もう……」
……とにかく、今はやらないといけないことをやってしまわないと!
その後で、異世界で操作するためのプログラムを作らないとね!