表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強奪勇者物語  作者: ルスト
ポートル
156/168

ヒローズを見てみましょう

 side アスカ


「お二人の奮戦のおかげで、尊い人命が救われて……本当にありがとうございます」

「いえいえそんな。私は当然のことをしたまでです」


 バグリャの悲劇の三日後。

 何とか逃げ出した私達は、ヒローズにやって来ていた。

 ここまでは良かったんだけど、案の定目の前の馬鹿パトラは……!

 何も知らないヒローズの役人相手に、出鱈目を吹き込んでいる。

 あんたが何をしたってのよ!? 城壁の上の兵士に喧嘩売って戦ってただけじゃない!

 住民の避難だって、私が強く言ったから渋々やってただけでしょ!


「パトラ……あんた」

「何、アスカ?(アスカは黙ってなさい! 私達は正義の勇者なのよ!? 称えられなければおかしいのよ!?)」

「……何でも、ないわ(口が勝手に……! 自由に動かない……っ!)」


 何ふざけたこと言ってんのよ!

 そう叫ぼうとしても、出た言葉は全く違う言葉だった。

 ベルツェの王宮で渡された腕輪の呪いが、私の身体を勝手に動かす。

 これがあるから、私はこいつの暴挙を一切止められない。


「聞いて驚きなさい! 私達は、ただの冒険者じゃないのよ」

「は?」

「私達はね! ここからはるか北にある国、ベルツェの勇者一行なのよ! この世界を救うために旅をしている正義の一行よ!」


 そして、パトラはヒローズの役人相手に、自分たちがベルツェの勇者であると堂々と宣言した。

 ……呪いで縛られている私には当然口を挟む権利など無い。

 ホント、呆れるしかないわね……。

 どう考えても、あんた城壁の上の兵士としか戦ってなかったじゃない。


「何と! では、バグリャ城を解放し、悪名高き勇者を打ち取ったのも!?」

「当然、私よ! 私の活躍は彼女が――――アスカがしっかり確認しているわ!」

「……ええ、確かに確認しました(また口が……!)」


 あんたそんな事やってもないでしょ!

 本物の討伐者がこの場に居ないからって好き勝手に!

 油ぶちまけられて火を点けられて、卑怯とか喚いて暴れてたのはどこの誰よ!

 私が(無理矢理)助けに行かなかったらあんた確実に鎧の下に火点けられて焼け死んでたじゃない!

 ……一応手当はしたけど、顔には火傷が残ってるし髪の毛も焼けちゃって酷い事になってるけどね。

 髪の毛が頭の右側だけ全部焼けて、健在な左と合わさって酷い事になってるけど、当人は一切気にしないってのが何とも。


「しかし……その火傷は……」

「あの卑怯な兵士たちにやられました。なんと非道な!」


 憤りを露わにするパトラ。

 ……さっさと逃げればよかったじゃない。

 あんな邪魔な装備の山、回収しなくていいんだから。

 結局全部溶けた鉄の塊になってたけど。


「女性だというのに何と酷い……バグリャ軍は本当に非道ですな」

「ええ全く。許せません! 生き残りを見つけ次第、町の広場で処刑しなければ!」


 普段の態度とはまるで別人のパトラ。

 目の前の役人なんて明らかに「軟弱な男」なのにね。


「しかし、貴方達のおかげで我々はあのバグリャの悪魔を駆逐することができたのです! 救国の英雄ですよ、貴方達は!」

「ええ、ありがとうございます」

「救国の英雄に、報奨金をお渡しせねば!」

「まあそんな……。恐れ多くて受け取れませんわ(ふふふ……勇者の仲間として、称えられるのは悪い気がしないわ)」

「いえいえ。どうぞお納めください!」

「しょうがないですわね。じゃあお言葉に甘えて」


 ……正直、目の前の漫才のようなやり取りに呆れたため息しか出ない。

 パトラの事を救国の英雄とか言って持ち上げて、馬鹿じゃないのと思う。

 実際には何もしてないのに。


「ところで、バグリャはどうなるんでしょうか?」


 パトラの意に反する言葉は出せないみたいだけど、関係ない内容なら聞けるので聞いてみる。

 ……まあ、もうあの町は……。


「既に町ですらなくなっています。そう遠くないうちに、ヒローズの領地に組み込まれるでしょうね」

「当然ですね。ヒローズは「戦勝国」なのですから」

「ええ。貴方方のおかげで、勝つことが出来ましたよ」


 ……ヒローズが戦勝国、なんて言うけど、ヒローズの兵士も油と炎の中で逃げ惑うだけだったじゃない。

 あの時城壁を吹き飛ばした攻撃の使い手が居なかったら、今頃皆殺しにされてたわよ。


「害悪は滅んだ、勇者様は目の前に居る、今日は素晴らしい日ですよ」

「ヒローズの今後に栄光訪れんことを。それでは、失礼します」

「あらそう。私はまだ残るわ。私の武勇伝はまだまだあるのだから!」

「おお! ぜひとも聞かせていただきたいですなあ!」


 ヒローズの役人との面会を終え、私は退室した。

 パトラはまだ残るらしいけど、正直どうでもいい。






「……はあ、本当にふざけてるわね」


 建物の外に出て、私の口から出たのはため息だけだった。

 パトラは誰とも知らない人の手柄まで自分の物にし、ヒローズの役人も兵士の話など一切聞かずにパトラの言葉を鵜呑みにしている。

 ……こんなふざけた悪事を見せつけられて何も出来ない事がここまで腹立たしいとは思わなかった。

 バグリャ勇者は相当な屑だったらしいけど、パトラだって同類じゃないの。


「……」

「ぁ……。……」

「? ……話し声?」


 何かがひそひそ話しているらしく、微かに声が聞こえてきた。

 なんとなくその話し声の聞こえた場所に向かってみる。

 ……今は、少しでも気を紛らわしたい。






「役人連中は何を考えてるんだ? あんな女が救国の英雄だって?」

「そんなわけないだろう。炎に飲まれそうになった俺たちを救ってくれたのは、盾を構えた少年だったぞ? ……顔は、よく見えなかったけどな」

「城壁を破壊したのだって、あの女とは似ても似つかない少年と少女だった。一体どうなってるんだ?」


 話し声のした場所――――建物の陰に向かい、内容を聞いた途端に若干後悔した。

 兵士達の話の内容は、パトラが役人を言いくるめて救国の英雄に祭り上げられてる事を怪しんでいる内容だったから。

 ただ、彼等の話している内容には興味を引かれた。

 ……誰があの惨状から脱出するための突破口を開いてくれたのか、気になる。

 ひとまず、隠れて盗み聞きを続けるか。


「けど、ホントどうなる事かと思ったぜ。バグリャの連中に上から油をぶちまけられ、そのまま火の海に飲まれるかと思った時に、突然バグリャ軍が吹き飛んだんだからな」

「住民すら守れなかった時に、突然やってきて俺達を逃がしてくれたんだ。あいつらこそ救世主だろう」

「あのパトラとか言う女が何したって言うんだよ。役人の目は腐ってるのか?」

「俺達の言葉なんか一切聞かずに「この方がヒローズの勇敢なる兵士とバグリャの住民を救出し、そのままバグリャ勇者を討ち取った救国の英雄、パトラです!」だからな」


 正直、この国の役人には呆れるしかない。

 自国の兵士の言葉すら聞かずにパトラを救国の英雄にするって何考えてるのか。


「おい、聞いたか? その件なんだけどな、何でも、ヒローズにベルツェから親書が届いたらしいぞ?」

「親書?」


 初耳だ。

 ベルツェがヒローズに親書なんて、なんのため?


「いつ届いたんだ?」

「一昨日らしいぞ? ポートル経由で行商人と一緒に入って来たらしい」

「ポートルか……。行商人、金がかかるって嘆いてたな」

「まあ、しょうがないだろ。バグリャが跡形もなくなったんじゃ、中継地点が無いからな」

「あの勇者は本当に何だったのかねえ……」


 隠れている私に気づかないまま話し続ける兵士達。

 バグリャの勇者、か……。

 本当に何がしたかったのか分からない。

 町の人を巻き添えにしてまであんな真似する必要があったの?


「正義正義言いながらヒローズの町を壊したり、バグリャの町に火を放ったり、まさにキチガイだったな。結局、誰かが倒したんだよな?」

「遺体すら見つからないって言うじゃないか。生きてるんじゃねえの? その辺どうなんだ?」

「いや、逃げ出した町人の中に城から凄まじい勢いで吹き上げる光の柱を見たって奴がかなり居たんだよ。で、役人のお偉方はその光で勇者が死んだって確信してるらしいな。実際、国の周囲を丸一日見張ってみたけど何も出てこなかったらしい。踏み込んでも勇者は居なかったけどな」

「それをあの女がやったのか? 見た感じ明らかに魔術なんて使えそうにないけど」

「出来るわけないだろ。あの女どうせ役人に出まかせ吹き込んだんだよ。俺たちを救ってくれた英雄の仲間です、とか適当なこと言ったに決まってる」


 でまかせ吹き込んだ、か……。

 その通りなのが悲しいわね。

 ヒローズの兵士の方が役人よりよっぽどまともじゃない。


「……なあ、その親書の中身って分からないのか?」

「無理だ。普通そんな物見るわけがない」


 まあ、親書の中身を一般の兵士が確認するわけがないか。

 そんなことやる権限無いでしょうしね。


「だよな。……それにしたって、勇者ってどうなんだ?」

「ん?」

「ヒローズの勇者もバグリャの勇者も、どう考えてもろくでもない奴だったよな。今ヒローズには新しい勇者が居るけど……こいつまで同じことやらかさないよな?」

「……。あいつも同じことやるんじゃないか?」


 新しい勇者、か……。

 正直、あまりいい気分じゃない。

 私みたいに道具になるか、バグリャ勇者のようになるか、どっちにしろろくでもないから。


「ちょっと信じられないよな……。けど、役人は信じ切ってるんだろ?」

「ああ。「今度こそ大丈夫です! 我々が間違えないように教育します!」とか言ってるな」

「……」


 教育、か……。

 それでどうにかなれば良いけど……。

 パトラみたいに何をやっても駄目な奴も居るから……。











「……はあ、ため息しか出ないわね……」


 兵士たちの会話を盗み聞きするのを止め、そのまま町の中を歩き回る。

 その最中も、口から出るのはため息ばかり。

 今の私じゃ何をやってもパトラの暴走は止められない。

 しかも役人がパトラを英雄扱いしてしまい、ますます調子に乗っている。

 ……どうにかしたいけど、どうにもできないのよね……。


「この腕輪、破壊できないのかしら?」


 そう呟いて腕を見る。

 ベルツェで着けられた呪いの腕輪が、日光を反射して半透明の輝きを放つ。

 その腕輪に手を添え、破壊しようと力を入れ――――


「……無理か」


 ――――ようとしても、力が入らなくなる。

 殴りつけて破壊しようとしても同じように力が抜けた。

 恐らく、他人の一撃を不意に受けて破壊される以外に手は無いかもしれない。

 それすら通用しないかもしれないけど。


「全く、嫌な事ばっかりね……。この腕輪さえ破壊出来たら……」


 そう呟き、顔を上げる。

 ヒローズの広場に来ていたらしく、周囲ではお祭り騒ぎになっていた。

 ヒローズの勝利とバグリャ勇者の死亡、そして――――


「……救国の英雄、ベルツェの勇者現る。ベルツェ勇者様方のお力添えにより、邪悪の化身バグリャ勇者及び、バグリャ勇者に付き従う愚かなる者共の掃討に成功。バグリャの町は完全崩壊してしまったものの、いずれ再建してあの町をヒローズ領バグリャとして再建する予定。我らの戦いにお力添えしていただいたベルツェの勇者一行に深い感謝をささげるべし……本当にふざけてるわね」


 名乗らなかったのは全部このための布石だったとか言うのかしらね。

 パトラの事だから都合がよくなっただけかもしれないけど。

 ……それにしても、ベルツェからの親書って何なのかしら。

 明らかに都合がよすぎるし、もしかしたらベルツェがタイミングを計ってパトラを救国の英雄にするために親書を送りつけた、とか?

 それだったら兵士の言葉をこの国の役人が一切聞かなかったのも納得がいくけど、まさか、ね……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ