番外編 没パーティを見てみましょう
PV150000の番外編、第二弾。
今回は初期案のパーティ大公開。
もちろん本編とは無関係です。
「ルーチェ、起きろ」
「え?」
宿の部屋で寝ていたと思ったら突然起こされた。
目の前には……見たことも無い髭面の大男。
グリーダーよりは小さいけど、それでも大きな身体が特徴的で、いかにも山賊のボスでもやってそうな半裸に大鉈という怪しすぎる格好だった。
――――誰!?
「何寝ぼけているんだ? ほら、俺だ。テラントで貴様とグリーダー様にぶちのめされ、勇者の強奪の特権の素晴らしさを説かれて仲間になった……」
「……盗賊の頭だっけ?」
髪の毛と同じ、茶色の瞳が私を見る。
……ああ、思い出したよ。
テラントの盗賊をアジトごと殲滅した事が発覚して、大元の連中が仕返しとばかりに襲ってきたんだっけ?
それをグリーダーが再び叩き潰して……。
「俺はグリーダー様に叩き潰され、勇者として生きる道を説かれたのだ。故に、俺はもう盗賊では無い。グリーダー様と共に戦う正義の勇者だ」
「……どこをどう見ても正義の勇者に見えないのは相変わらずなんだけど……」
というか、グリーダーと一緒に嬉々として追剥をやってるその光景は、何処をどう見ても山賊にしか見えないんだよなあ……。
いやまあ、偏見だっていうのは分かってるんだよ?
それでも……。
「ルーチェ様? 随分起床ガ遅イヨウデスガ……」
「問題ない、今起こした。寝ぼけていたのか、一緒に旅をしているというのに、人の顔をど忘れしているらしくてな……」
「あはは……」
部屋の外から聞こえる若干訛ったような言葉に、目の前の元盗賊が呆れたように答える。
その会話を聞いた私は苦笑するしかない。
……けど、何で旅の仲間の事忘れてるんだろ……?
「……オハヨウゴザイマス」
そんな事を考えていた時、扉が開かれて声の主が入ってきた。
ササキが化けていた時の姿そのものの女の子……。
にしては、何か喋り方が変なような……?
「おい、薬箱。こいつ寝ぼけてるらしくて、仲間の顔も分からなくなってる。もう一度喋って覚えてもらえ」
「承知シマシタ」
「え、えっと……」
栗毛の女の子が、ベッドに座っている私と目線を合わせるように屈みこむ。
青い目には一応光はあるけど、どこか感情が乏しいような気がする。
「えっと……誰、だっけ?」
少女の顔を見ても、やっぱり何も分からない。
……本当に何も思い出せないんだけど。
「グリーダー様ニ、魔道具ヲ埋メ込マレテ作ラレタ「ヒーラー」デス。コノ方――――ゴメス様ハ、私ヲ「薬箱」ト呼ビマスガ」
淡々と自己紹介する少女。
……そこの半裸盗賊の名前はゴメス、なのね。
で、貴方はササキからグリーダーが奪ったあの人形を何かに埋め込んで作った僧侶、と。
これで間違ってない?
「ハイ」
無感情な瞳を向けたまま淡々と答える少女。
……あれ? 本当に名前が「ヒーラー」なの?
いくらなんでもそんな名前つけないような……。
「何言ってるんだ? お前もグリーダー様もそいつをいつも「ヒーラー」と呼んでたぞ?」
「そう、なの……?」
いくらなんでも、そんな役割をそのまま表現しただけの名前、というか、名前ですらないよね?
をつけるなんて思えないけど……。
「私ヲ呼ブ時、貴方ハ何時モ「ヒーラー」ト言ッテマシタガ?」
「「ヒーラー! 回復急いで!」 とか日常茶飯事だったろ?」
「……」
やっぱり想像できないんだけど、そんなに酷かったのかなあ……?
けど、半裸盗賊――――ゴメスがそう言ってるって事は、やっぱりそうだったんだろうね……。
「やっと思い出したか?」
「あんまり、実感が無いんだけど……」
というか、そもそも貴方たちの事自体初めて見たような気がするんだけど、本当に気のせいなのかな……?
……多分、周りのこの反応からすると私の気のせいなんだろうけど……。
「全く、しっかりしろルーチェ。お前がそんなんじゃ、グリーダー様の足を引っ張りかねないぞ?」
「あ、うん……ごめん」
……まあ、こんな調子じゃ不味いよね。
どこに居るのかも一切分からないけど、少なくとも話を聞いた限りではこの二人は仲間なんだから。
「ルーチェ、起きたか? 全く、朝から何寝ぼけているんだお前は」
「あ、グリーダー……」
部屋の外から顔を覗かせたのは、ゴメスよりも更に大きな大男、グリーダー。
……やっぱり、なんか変な感じがする。
妙に懐かしいというか、何か違うというか……。
「……ルーチェ、どうした?」
「朝からこんな調子なんですよ、グリーダー様。俺の事もそこの薬箱の事も全部忘れたように……。寝ぼけてるんですかね?」
「ルーチェ様、変デス」
……否定できないのが何とも言えないよ……。
本当に、どうしちゃったんだろ、私。
「……熱でもあるのか?」
「確認シテミマス」
「ひゃあっ!? 冷た……」
グリーダーの言葉を聞いた直後、栗毛の女の子が唐突に私の額に手を当てた。
予想してたのとは真逆の、氷のように冷たい手を当てられて思わず声が出る。
「……問題アリマセン」
「……単に寝ぼけてるだけだな。不意打ちで何度かお前が触れば嫌でも目が覚めるだろ」
「了解シマシタ」
「い、いや! もういいよ! 今ので十分目が覚めたし!」
あまりに冷たくて、心臓が止まりそうになったよ……。
というか、これでいきなり首を触られたら驚いて本当に心臓が止まっちゃいそう……。
「そうか。なら、さっさと出発の用意をしろ」
「あ、うん。すぐに終わらせるよ」
……どうして初めて会った、なんて思ったのかな?
まあ、多分寝ぼけてたんだろうけど。
とにかく、準備して出発しないと!
「準備できたな? じゃあ、出発するぞ」
「うん。……って、何処へ行くんだっけ?」
グリーダーの言葉にそう返すと、呆れた目を向けられる。
……本当にど忘れしちゃったんだからしょうがないじゃん。
「全く……隣町まで行く予定だ。最も、そう簡単にはいかないんだろうがな」
「魔物や野盗?」
「そう言う事だ」
頷くグリーダー。
……けど、そこまで重傷を負うほどの強敵ってまず居ないような……。
「グリーダー様、戦いになったら俺と薬箱は……」
「分かってる。ルーチェ共々後衛に下がれ。万が一の時はお前が前衛だ」
え?
この半裸盗賊そんなに強くないの?
……よく仲間に入れたよね……。
「そんなことまで忘れたのか、お前は……。そこの盗賊と俺が並んで戦ったりしてみろ、俺の攻撃に間違いなくそいつも巻き込む」
「それに、俺では前衛に出てもグリーダー様の足を引っ張りかねません。大人しくこの薬箱とルーチェの護衛を務めさせていただきます。グリーダー様」
「ああ、いつも通り頼む」
……前衛一人で大丈夫なのかな?
まあ、グリーダーなら多分大丈夫だよね?
「……しかし、もう少し力量のある前衛が居れば……」
「申し訳ありません、グリーダー様。日々精進しているつもりなのですが……」
「ああ、お前は良くやってはいる。けど、それでも守りきれない」
この僧侶の女の子……近接戦闘駄目なの?
「ハイ。私デハ前衛ノ役目ハ果タセマセン。申シ訳アリマセン、ルーチェ様」
「え? いや、別に謝らなくても……」
というか、私だって前衛に立つなんて不可能に近いし……。
捨て身でサンダーボルトを使えって言うならともかく。
「ほら、行くぞ」
「行キマショウ、ルーチェ様」
「あ、うん……」
……まあ、敵なんて言ったって、グリーダーの力があったら大丈夫な気がするけど。
「前方から魔物の群れだ。ゴメス、後衛の守りは任せる」
「了解しました、グリーダー様!」
考え事をしながら歩いてたら前方からそんな会話が聞こえ、意識が引き戻される。
グリーダーの言葉通り、前方――――左手に見える茂みからウルフの群れが飛び出してきた。
……とりあえず魔術で攻撃を
「死ね! フリーズブレイバー!」
「ギャオオオオオン!?」
私が魔術を唱えるよりも数段早く、グリーダーの容赦ない先制攻撃がウルフを襲う。
斧の叩きつけによって発生した突き進む氷の刃が地面を破壊し、飛び出してきたウルフのみならず、ウルフが出てきた茂みの中まで侵入、蹂躙する。
茂みの中からは串刺しになったと思われるウルフの悲鳴のような叫び声が聞こえ、同時に生物を破壊するような音が茂みの中から響いてきた。
……もう終わりかな?
「呆気ないな。さて、先に進」
「ウォーン!!」
「後方カラ、敵……!」
「嘘っ!?」
襲ってきたウルフをグリーダーが瞬く間に一掃し、魔術の必要すら無くて少し気が抜けた。
その直後に私達の後方から新手が。
遠吠えのような声に振り返ると、先ほどグリーダーが一掃した物と同じウルフの群れ。
グリーダーは……!
「ちっ! 間に合わん! ゴメス!」
「了解しました、グリーダー様!」
茂みに攻撃を叩き込んだから私達より前に出てる。
……どう考えても間に合いそうにない。
そして、グリーダーの指示でゴメス――――大鉈を持った盗賊が私と栗毛少女を守るように前に立つ。
敵が割と近いし、これなら、私が少しだけゴメスの前に出てサンダーボルトで……!
「私も、魔術を……!」
「そんな場所で詠唱するな! 後方に下がることを優先しろ!」
「ルーチェ様!」
「え、ええ……っ!?」
グリーダーの怒鳴り声。
直後に栗毛少女に腕を掴まれ、後方――――グリーダー側に引っ張られる。
……サンダーボルトで一掃する方が早い気がするけど……。
「そこから魔術で援護だ! 急げ!」
「へ!? う、うん!」
「承知シマシタ!」
後方に移動させられた私。
私と僧侶の少女に指示だけ出すと、グリーダーはすぐにゴメスの方へと走っていく。
一方、ゴメスは――――
「ぐっ! こいつら……!」
「今行く! もう少し耐えろ!」
「承知、しました……! グリーダー様……!」
数の暴力に晒され、まともに応戦できていない。
応戦しているけどどうにもならず、ゴメスは既に数か所ウルフに噛みつかれている。
その上、ゴメスとウルフが一塊になってるから、誤射する可能性があって私の魔術は使えない。
……この状態で援護って、どうしろって言うんだろ。
「どけぇ! この雑魚共が!」
「キャイン!」
グリーダーの斧が繰り出す暴風のような一撃。
ウルフの群れは耐え切れずに吹き飛ばされるけど、ゴメスの受けたダメージは相当な物だった。
腕も足も噛み千切られそうになっていて、かなり痛々しい。
……大変! 回復!
「……急いでゴメスを回復!」
「了解シマシタ! ……ヒール!」
私の指示に従い、即座にゴメスの怪我を治すヒーラーの少女。
ヒールはちゃんと命中し、ゴメスの身体の傷が消えていく。
傷が癒えたゴメスはそのまま武器を構え直してグリーダーから離れたところでウルフと戦う。
……名前が無いって正直かなり不便なんだけど。
何か考えた方が良いよね?
「一機に仕留めてやる! ゴメス! 離れろ!」
「了解しました、グリーダー様!」
「焼け死ね! 雑魚共! ブレイズ・ウェーブ!」
そんな事を考えてる間に、グリーダーがゴメスを下がらせ、炎を纏った斧で薙ぎ払ってウルフを一掃。
少し周囲を警戒してみても何も出てこない。
今度こそ戦闘は終了した。
「やれやれ、なかなかの強敵だったな」
「はい。まだまだ、私は未熟です……」
「まあ、気にするな。お前はまだ勇者に成り立てで日が浅い。少しずつ本物の勇者になれるさ」
「グリーダー様、ありがとうございます!」
グリーダーとゴメスはそんな会話をしながら剥ぎ取りを始める。
……上手く戦ったつもりかもしれないけど、明らかに戦い方が悪いような気がしてきた。
グリーダーはさっきの戦い、私を強引に下がらせて魔術を使わせようとしたけど、どう考えても誤射する危険が凄くて撃てない。
……大丈夫なのかな、このパーティ。
まあ、グリーダーは凄く強いし多分大丈夫だと思う、けど……。
ゴメスとこの少女が没になった理由は活動報告に書きます。
書いたら長くなりそうで……。
次話からは本編に戻ります。
バグリャ勇者を排除し、災いの種は取り除きました。
章も新しくなり、気分を変えて気楽な旅、と行けるのか否か。