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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
152/168

後始末しましょう

 ホーリー・カノンの直撃を受けたバグリャ勇者。

 普通なら消し飛んでいてもおかしくない。けど――――。


『グ……ガ……! 正義……』

「まだ生きて……っ!」


 勇者はまだ生きている。

 右腕も、左足も、武器も、消し飛んで0と1になって空中に消えていっているけど、バグリャ勇者はまだ生きていた。


『アリエナイ……勇者、ガ……!』


 崩れる身体を強引に動かし、勇者の目が私を、ううん――――私達を、見据える。


『現地生物等ニ……勇者、ガ……。プログラム、完全、破損……行動、不、可能……』


 力尽きたのか、そのまま崩れ落ちるバグリャ勇者。

 その目に再び光が宿る。

 この勇者に宿っている人格だろうし、恐らく――――。


「ど、どうなってるんだよ……! 僕は、正義なんだ! くそっ……勇者プログラム、め……! 僕が正義なのに、その僕が、負けるなんて……」

「バグリャ勇者……!」

「こんなの……こんなの、認めるかあっ……!」


 崩れかける身体はそのままに、憎しみのこもった眼で私を睨むバグリャ勇者。

 恐らく、もう長くはないはず。 


「僕は勇者なんだ! 僕は正義なんだ! 僕のやることは絶対的な正義! 僕に逆らうなんてあってはいけないんだ! 僕は! 僕は……っ!」

「バグリャ勇者……。勇者プログラム……って、何なの? 貴方みたいな化け物が、他にもまだこの世界に紛れてるの?」


 私の問いを聞き、バグリャ勇者は笑い始める。

 ――――そして、口を開く。


「ククク……何も知らない現地生物が……! お前達が勇者と思って呼び出してる者が人間だけだといつから錯覚していた? 異世界の住人だと言っておけば分からないだろうけどねえ……」

「どういう事ですか!? 他にも居るとでも、言うのですか!?」

「当たり前じゃないか! 君たちが勇者を呼ぶ度に、僕達は! 普通の異世界人に混ざってこの世界に現れる! 作った人間の意思通りに、この世界で「勇者」を演じるためになあっ!」


 バグリャ勇者の言葉を聞き、私達は全員言葉を失う。

 勇者を召喚する儀式――――まさか、異世界人と一緒に、化け物を召喚しているなんて――――!


「ククク……ハッハッハッ……! いずれ思い知るだろうねえ! 君たち自身が、自分の首を絞めつけているんだってことを! ヒローズのゴミ虫のような雑魚だけが勇者だと思うな! 僕達はねえ、作った人間が設定したその通りの強さでこの世界に現れるんだ! ゴミ虫と僕が消えたことでこの世界に既存の勇者では太刀打ちできない怪物が居ることが把握されるだろう! そうなったら、より強い勇者が送り込まれるんだよ! 全ては「計画」のためにねえ……っ!」

「計画……?」


 バグリャ勇者の言葉の中に、気になる言葉がいくつかあった。

 「私達自身が自分の首を絞めつけている」そして「計画」……。

 一体、どういう事なんだろう……?


「ククク……僕は正義だ。僕は……! ハハハハ……僕が、正義、なんだ……!」


 そして、バグリャ勇者はその場に倒れ伏す。

 身体の崩壊が進んでいるらしく、確実に身体は崩れ始めていく。

 まだ、聞きたいことはあるけど……。


「やることありますよ?」

「そっか。バグリャ勇者は倒したけど、町はまだ……」

「見てみろ」


 ホーリー・カノンで吹き飛んだ壁だった場所から町を見下ろす。

 未だに町の一部では炎が燃え盛っており、時折爆炎が上がっている。

 バグリャ軍の兵士が暴れていることは明らかだ。

 町の人、ヒローズ軍の兵士、どちらもかなりの数の人が殺されている。

 ……勇者が倒れたことを伝えて、降伏させられないかな?


「ルーチェさん、ここまでやっておいて、降伏したから許されると思いますか? 間違いなく殺されますよ?」

「俺がヒローズ軍なら、間違いなくバグリャ軍の兵士は全員処刑する」

「むしろ、これでバグリャ軍が降伏したら今までの仕返しに生きたまま油と炎で焼かれるんじゃない?」


 三人の口からはバグリャ軍を降伏させた時の処遇に関する話が。

 バグリャ軍は処刑されるしかない、と全員が口にする。

 ……そう、だよね。


 バグリャ勇者の命令でバグリャの町を焼いた、ヒローズ軍を殺した。

 俺たちは命令されて仕方なくやったんだ! 悪くないんだ!

 なんて主張されても「ふざけないで!」って、私も言うと思うし……。


「……ここで始末するのが、バグリャ軍のため、かな?」

「でしょうね。少なくとも、戦後処理で生き地獄を見るよりは幸せだと思いますよ? まあ、私達の一方的な感覚ですけど」


 ……じゃあ、行こうか。

 最後にバグリャ勇者に止めを……。


「……z、t……」

「え?」


 身体が崩壊しているバグリャ勇者の方に行き、止めを刺すために魔術を詠唱しようとした。

 直後、バグリャ勇者の口から微かに何か聞こえてくる。


「ルーチェさん?」

「……静かに」


 何を言っているのかは分からないけど、少なくとも知っておいた方が良い、と思う。

 そう考えて、バグリャ勇者の口元に耳を近づける。

 バグリャ勇者はもう腕も足も消滅していて、突然襲い掛かってくることは無いだろう。


「……畜生! 俺の作った最強ハーレム勇者が! プログラム作成さえできれば後は俺Tueeeeで無双出来るんじゃなかったのかよ! 何でやられてるんだよ! 勇者じゃねえのかよ! プログラム! 動け! 男とババアを皆殺しにして俺のハーレムを作れ! 全部の女の子を虜に出来るんじゃなかったのかよ! 畜生! 正義の勇者なんだぞ! お前は俺の希望なんだぞ!? 俺のための最強ハーレム王国をつくるのが使命なんだぞ!」

「……っ!?」


 崩れかけるバグリャ勇者から聞こえてきたのは、明らかに人の声だった。

 その言葉は先ほどのバグリャ勇者と同じく、聞いたことが無い言葉が混ざっている。

 ……作った?

 この声の主が、こんなふざけた勇者を作ったって言うの!?


「ちょっと! 何でこんな物……」

「煩い! 異世界の女は全部、俺の勇者のハーレムに加わってればいいんだ! それの何がいけないんだ! 俺のハーレムは絶対だ! 正義だ! 正しいんだよ! 俺の考えた最強の勇者が正義の勇者として召喚されただけなのに! ふざけんじゃねえよくそがっ!」


 私の言葉に、先ほどのバグリャ勇者と似たような暴論で返す声の主。

 ……こいつ、一体何なの!?


「絶対に許さねえ! 勇者がハーr、ムを築いた後で俺g――――り、全世、界の女――――を――――、俺の完――――――――画をぶち壊――――――――て! そ――――モブ二人は絶――――――――ち殺――――る! お前――――そこnおん――――、――――屈――――――――る! 俺――――、――――勇者g――――!」


 声が聞こえたのはそこまでだった。

 バグリャ勇者の身体は完全に消滅し、塵一つ残らない。

 全て0と1になって消え去った。

 最後の叫び声は雑音だらけで聞こえなかった、けど……。


「ルーチェ? 何を聞いたんだ?」

「……バグリャ勇者を作ったらしい人の恨みのこもった叫び声だよ」


 三人にもさっき私が聞いた話を簡単に説明する。

 話終えたときには、三人とも微妙な表情を浮かべていた。


「……何なんですかそれは? そんな理由で、この虐殺を仕掛けたんですか? その男は」

「人を何だと思ってるんだろうね~……」

「考え方が完全に人間の屑だな……」


 同感だよ……。

 最強勇者のハーレムを築き上げる!

 なんて理由でこんな大虐殺を起こしたんだから……。

 しかも、計画した相手は結局止められなかったわけだし。


「この世界に居ないわけですからね。手が出せませんよ」

「その話を聞く限り、こっちの顔だけは把握してるんだよな? ……厄介な話だな」

「うん……。モブ二人と私と、そこnおん……直前の話から考えると、ほぼ確定でそこの女って言ってたから間違いないよ」


 マディスとルシファー、そして目の前に居て話を聞いた私、そこの女ってのは間違いなくジル。

 ……厄介なことになりそう。


「けど、少なくともバグリャは解放されましたよね。害悪の勇者は駆逐しました」

「バグッタもヒローズも、今暴れているバグリャ兵を倒せば安全になるだろうな」

「……けど、また勇者を召喚するよね?」


 バグリャの人だって、今度こそ勇者が守ってくれると思っている、はず。

 というか、軍を全員排除する以上、ヒローズが何かしない限り、勇者の力に頼らないと恐らく守れない。

 ……勇者の正体が分かってるのは私達だけで、周囲の人達には相変わらず頼りになる勇者なんだと思うから。


「……自分で自分の首を締めつけている、か」

「ルーチェさん?」

「ううん、何でも無いよ。……バグリャ軍を駆逐しよう」


 その言葉だけを返し、私達はバグリャ軍を駆逐するために歩き出す。

 城の外に出て、兵士たちを一掃する間も、私の頭からはバグリャ勇者の最後の言葉が消えることは無かった。

 ――――君たち自身が自分の首を絞めつけているんだ――――か。

 勇者の正体が異世界の化け物なんだとしたら、確かにそうなのかもしれない。

 もし、私達よりずっと強い勇者「達」が、世界規模で突然暴れ出したりしたら――――。

 他力本願、という言葉を体現したような勇者の召喚。

 今まで何の疑問も抱かなかったその行為の本当の恐ろしさを――――初めて実感した。











「……片付いたかな?」

「炎も消えました。バグリャの町……は、もうありませんけどね」


 城を出て、残っていたバグリャ軍を駆逐し終えるころには、日が昇りはじめていた。

 うっすらと上りはじめる太陽が、バグリャの町だった焼け跡を照らし出す。

 ――――全て終わった後、改めて歩いたバグリャは酷い有様だった。

 建物は一つ残らずバグリャ軍の攻撃で焼け落ち、残っているのは黒く焼け焦げた焼け跡だけ。

 辛うじて残っていた城壁も、バグリャ軍を駆逐するための私達の攻撃で完全に崩壊。

 残っているのは瓦礫の山だけになっている。


 バグリャ城も、私達が惨殺した兵士たちの遺体が転がっているだけで、使えそうな物は何も無かった。

 歩ける場所全てを探し回ってみたけれど、ことごとく私達の攻撃で破壊されてしまったのか、装備や宝石の残骸しか見つからない。

 これでは、回収した所で役には立たないだろう。


「……もう誰も戻ってこないかな?」

「どうでしょうね。ですけど、ここにバグリャという場所があった、という事だけは確かですよ」

「焼け跡と半壊した城だけが物語るのも悲しい話だけどね」


 ……バグリャ勇者を倒し、暴れ回っていた兵士も全員駆逐した。

 今だけかもしれないけど、確かに、平和は訪れたし、これから先バグリャ勇者がもたらすはずだった被害は食い止める事が出来たよ。

 けど、バグリャの町には何も残らなかったね……。


「まあ、ほんの一部かもしれないが、救えた命があっただけ良いんじゃないのか? ヒローズに逃げたんだろ」

「そう、だね……」


 私達に出来るのは、それくらいしかない。

 町を復興させるなんて大仕事、不可能だ。

 町を、城を破壊することは出来ても、再生させることは出来ない。


「……」


 町の外に出て、改めてバグリャだった焼け跡を見る。

 崩れて溶けた城壁、原型すら残らないくらいに変形し、そのまま吹き飛んだ城門の扉。

 完全に焼け落ちて黒い炭へと変わり果てたバグリャの施設。

 城の上半分が吹き飛び、無様な姿を晒すバグリャ城。

 ……これが、昨日まで確かに存在していた町と同じだとはとても思えない。

 けど、これが現実なんだ。


「……行こうか」

「そうですね。行きましょう、ルーチェさん」

「ヒローズには行かず、このまま街道を進むか?」

「うん。前に、進まないと」


 日が完全に上りはじめる少し前、私達はバグリャの町を立ち去った。

 もはや復興することすら叶わないほどの被害を出しているバグリャの焼け跡を、その目に焼き付けながら――――。

バグリャ編……完。

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