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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
150/168

勇者と戦いましょう

「うわあああああああああ!!」

「に、逃げろ! 殺される!」

「死にたくない! 誰か助けてくギャアアアアアアアアア!」

「……次!」


 ヒローズ勇者の仲間を完全に石にした後、私達はバグリャ城に残っている兵士を一掃するために再び城内を駆け回る。

 見つけたバグリャ兵は一人残らず魔術とルシファーの攻撃で一掃し、城の中の至る所に兵士だった残骸や血だまりが。

 正直、どうして冷静に居られるのかが分からないくらい惨たらしい光景だと思うし、可能なら見たくはないけど、私も止まるわけにはいかない。

 バグリャ勇者とバグリャ軍の兵士、どっちも生かしておいたら危険な相手だから。


「ルーチェさん、一階に居る兵士は皆殺しにしたと思います。上に行きましょう」

「……地下はありそう?」


 そこから逃げられたら困るし……。

 潰せるときに潰しておきたいけど。


「それらしき場所は全部毒を混ぜた激流を流し込んだから大丈夫じゃないかな?」

「その後で岩を詰め込んで入口を完全に塞いである。ジルでもなければ突破できないだろ」

「そう……じゃあ、上に行こうか。バグリャ勇者もその取り巻きも、生かして帰すわけにはいかないし」

「ですね。自分たちの治める町に火を放つような輩、生かしておくわけにいきませんから」


 短い会話を終え、私達は城の上部へと踏み込んだ。

 階段を駆け上がり、城の二階へと突入する。

 階段を上がった先の広間には、兵士の気配はない。

 正面に大きな扉が一つあるだけだ。


「敵は……どこ?」

「目の前の大扉の奥でしょうか?」


 階段を上がって来た私達の居る広間から行ける場所は一つしかない。

 目の前に見える大きな扉。

 そこ以外に道は無く、兵士の気配なども感じない。


「……行こうか」

「ええ。片付けましょう」

「下がれ。扉を吹き飛ばす」


 ルシファーの後ろに移動し、ルシファーの攻撃で扉を破壊してもらう。 

 正直に正面から扉を開けるつもりは一切ない。

 罠かもしれないし、そんな真似をして逃げられたら意味が無いから。


「壁ごと吹き飛べ! エクスプロード!」


 ルシファーが扉に手を向け、魔術を放った。

 直後、轟音と共に大扉と周囲の壁が爆炎に包まれ、奥へと消えていく。

 爆炎が収まると、扉と壁があった場所は巨大な空洞になっており、奥の様子が見える。

 玉座に座っている男、甘えるように男に擦り寄る女三人、そして周囲に控える兵士達。

 扉が破壊されたことに気づき、兵士が武器を構えて慌ててこちらに向かってきた。

 ――――じゃあ、行こうか。






「なっ! 賊がここまで!? くそっ! 役立たず共が!」

「勇者様をお守りするのだ! 行くぞ!」

「勇者様を守れ!」


 口々に勇者を守ることを叫んで向かってくるバグリャ軍。

 そこまでしてそこの勇者を守る理由が全く理解できない。


「邪魔! シャイニングスピア!」


 けど、正直相手してる暇はない。

 こいつらに足止めされてる間に逃げられたら非常に面倒なことになる。

 全員一気に爆殺する!


「うわあああああああああああ!?」

「爆破!」


 向かってきた兵士達。

 全員、一瞬にして物言わぬ肉塊へと変わった。


「ここまで来たのは立派だな。だが今すぐ死ね……は?」

「へ、兵隊さん!? 勇者様~、不味くないですか?」

「な!? あの役立たず共が一瞬で!?」

「はあ!? ちょっと勇者様! 本当に大丈夫なの!?」


 兵士は全員特攻してきて、残っているのはバグリャ勇者の一団だけ。

 この町を地獄へと変えた元凶――――バグリャ勇者。


「……やれやれ、黙って遊ばせてやったらいい気になりやがって。僕に逆らうことが、正義に逆らう事だと知れ! そして死ね! ジャスティス・ブレイバー!」


 私たちが目の前で兵士を一掃したらさすがにこっちの力量を見直したのか、攻撃を仕掛けてきたバグリャ勇者。

 こちらに向けた右手から毒々しい紫色の巨大な光線が放たれ、私達を飲み込もうとする。

 その光線を避け、体勢を立て直す。

 直後に敵は一斉に攻撃を仕掛けてきた。


「勇者様に教えていただいた正義の光線! ジャスティス・ブラスター!」

「勇者様と、私達に、正義に逆らうなんて身の程知らずなんだよ! 正義の爆炎! ジャスティス・ブレイズ!」

「さっさとくたばりな! 正義ジャスティスエッジ!」


 僧侶らしき敵の魔術が発動し、城の天井が破壊された。

 上空から紫色の光線が雨のように降り注いで私達を襲う。

 同時に魔術師の掲げた杖からも紫色の炎が、女戦士の剣から紫色の半円状の刃が、同じく私達を狙って放たれた。

 正義の名前を冠する攻撃とはとても思えない毒々しい見た目。

 これが、こいつらの正義の正体を暗に示しているのかもしれない。


「はいはい、正義正義煩いよ。……吹き飛べ」


 その攻撃の全てを、マディスが投げつけた薬が文字通り吹き飛ばした。

 薬が床に当たった途端に生じた大爆発と爆炎。

 大理石の床が瞬く間に溶け落ち、赤にもオレンジにも見える巨大な爆炎がバグリャ勇者一行の攻撃を全て飲み込んで跡形なく消し飛ばす。

 自信満々な表情で放たれた勇者達の「正義」は、薬一つで無残にも消え去った。


「な……!?」

「正義正義正義……馬鹿みたい」


 驚くバグリャ勇者を見て、そんな言葉が私の口から出てきた。

 正義って主張さえあれば、理不尽な暴力でも全て認められるの?


「……黙れ! 僕は正義! 正義のバグリャ勇者! その正義を邪魔するなら生かして帰さない!」

「その正義が理不尽な暴力や虐殺でも構わないって言うの?」


 バグリャの町を火の海に変えて、何の罪も無い人たちを皆殺しにしたよね?


「それの何がいけないんだ? 僕は正義の勇者なんだ! 勇者の行いは全部正義! 正義に逆らう者は全て悪! 僕に従わない者も! 僕に逆らう者も! 僕の事を崇めない者も! 僕を勇者だと認めようとしない者も! 全て裁きを受けるべき邪悪の塊なんだ!」

「その通りですよ~! 勇者様に逆らう奴なんて、国賊です! 逆賊なんです! 生かしておく価値も、権利も、義務もありません! 殺す義務ならありますけどね!」

「狂ってる……!」


 何がおかしいんだ?

 そう言いたげな顔で暴論を主張してきたバグリャ勇者と僧侶の少女。

 明らかに異常だとは思ってたけど、ここまで異常な言動を平気でするなんて……!


「狂ってるのは君たちだ! わがバグリャの英雄たちをその手にかけ、僕たちを始末しようなどと罪深い事を考える。 いくら君たちが僕の妃になるべき乙女であったとしても、この所業、許すわけにはいかない!」

「貴方みたいな狂人に嫁ぐくらいなら、自ら命を絶ちますよ! デモンスピア!」

「同感! シャイニングスピア!」


 無数の光と闇の槍がバグリャ勇者一行を狙って降り注ぐ。

 その様子を見て慌てふためく僧侶と魔術師を後ろに下げ、勇者が魔術を唱え始めた。

 ――――攻撃が間に合わない?

 最悪、盾は爆破すればいいけど……。


「正義の守護は僕のために! 盾よ! 全ての災いから僕を、僕の仲間を守れ!」

「残念だが、足元が留守だ! 砕破!」


 勇者の魔術が私達の攻撃より早く展開され、紫色の盾が広がった――――直後、勇者の足元から衝撃波が発生、勇者の身体が宙に浮く。

 ルシファーが剣を城の床に突き立て、狙い撃ちに出来る攻撃を放ったみたい。


「ギャアアアアアアアア!?」

「勇者様ぁ!?」


 ルシファーの攻撃で仰け反ったバグリャ勇者には魔術を維持することは出来ず、盾の魔術が消失する。

 勇者がダメージを受けたことに慌てふためき、降り注ぐ槍を全く気にせずに勇者に駆け寄る仲間達。

 身体を二色の槍に所々貫かれる事も構わず勇者に向かって走る、一見バグリャ勇者を大切に思う健気な行動。

 ――――だけど!


「っ! ……ゆ、勇者様を救わなければ!」

「近寄って来たなら、一緒に――――――――シャイニングスピア、爆破!」


 その隙、わざわざ見逃すわけがない!

 勇者もろとも爆風で吹き飛べ!






「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

「「「勇者さmキャアアアアアアアアアア!!??」」」


 バグリャ勇者と三人の仲間。

 両方、爆風から逃れる術は無かった。

 シャイニングスピアの爆風の直撃を受ければ、おそらく無事では済まないはず――――!




「ぐぼっ……う、あ……!」

「勇者様ぁ! しっかりしてください!」

「しっかりして!」

「くそっ! なんて怪我だ! よくもこんな……」


 爆風が収まると、そこには左腕が吹き飛んだバグリャ勇者と、彼を支える三人組の姿が。

 ……直撃したはずなのに! しぶとい!


「もう一度攻撃して止めを!」

「分かってる!」


 けど、このまま放っておくわけにはいかない。

 僧侶が混ざっている以上、放っておいたらさっきの攻撃が全て無駄になる!


「勇者様の腕だよ! ほら、速くご自慢の治癒術でくっつけな!」

「わ、分かっています~! 勇者様、今すぐ治しますからね!」


 バグリャ勇者第一の思考がそうさせるのか、私とジルの次の攻撃が来るよりも早く後方に下がろうとしてる三人組。

 ここで逃がしたら……!

 マディス、お願い!


「何考えてるのか知らないけど、そんな暇あげないよ?」


 マディスの言葉が聞こえると同時に後方から放たれた風の渦。

 渦がバグリャ城の天井を破壊し、崩落させてバグリャ勇者一行の退避場所――――玉座の後ろの壁を瓦礫で埋め、封鎖する。

 足止めされた三人組は仕方なくその場で勇者を回復させようとしたみたいだけど、突然その手が止まった。


「キャアアアアアアアアア!? ゆ、勇者様の腕が! 腕がああああああああああ!」

「ど、どうしたんですか勇者様!?」

「おい! 勇者様の腕が崩れていく! どうなってるんだよこれは!?」


 突然響き渡る絶叫。

 勇者の腕が何かあったの……腕?

 ――――まさか!?


「おいおい、まさか勇者の腕が0と1になって消えたとかそういうオチじゃ」

『正義……』


 確認しようと近づこうとしたルシファー。

 直後、三人組に囲まれている勇者から聞こえてきたのは、今までのバグリャ勇者の物とは違う、無機質な声だった。

 まるで――――最初からそういう行動をするように作られているような。

 様子の一変したその声に、ルシファーの足が止まる。


『僕ノ行動ハ正義』


『僕ハ勇者』


『勇者ハ常ニ正義デ無ケレバナラナイ』


『勇者ハ常ニ己ノ行動ヲ正シイ物ト認識シテイナケレバナラナイ』


『勇者ノ行動ハ絶対的ナ正義。勇者ノ意思ハ絶対デアル』


『勇者ハ他者ノ言葉ナドニ惑ワサレテハイケナイ』


『勇者ハ常ニ魅力的ナ異性ヲ傍ニ置カネバナラナイ。邪魔ニナル存在ハ――――全テ排除スル』


『勇者ニ逆ラウ者ハ全テ悪。悪シキ魔物トシテ処理サレナケレバナラナイ』


『勇者ハ絶対的ナ存在。神ニ近イ者トシテ君臨セネバナラナイ』


『勇者ハ――――絶対に負ケテハイケナイ。勇者ガ勝ツノハ、物語ノ大原則ダカラ』


『勇者ノ負ケハ――――認メテハイケナイ。勇者ガ屈スルナド、アッテハナラナイ』


 機械的な声で、淡々と不気味な言葉を繰りかえすバグリャ勇者。

 その語る内容に、思わず背筋が凍りそうになる。

 自分の周りの存在を全て物か飾りのようにしか認識していないようなその言葉は――――この世界で生きている人間が口にして良い言葉じゃない。


『再生――――開始。養分――――補給』

「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」」

「うあ……っ!? 勇、者……様?」

「!?」


 バグリャ勇者が立ち上がった――――直後、三人組の身体に穴が開いた。

 否、バグリャ勇者の背中から突如生えた黒い何かが、文字通り三人組を貫いた。

 三人の身体を貫いた黒い何かが不気味に脈打つ度に、三人の身体が萎びていく。

 ――――っ!


「シャイニングスピア!」

「デモンスピア!」

「紫電!」

「氷槍! 落ちろ!」




 目の前の存在と光景を否定するように放たれた私達の攻撃は――――




『正義執行』




 豹変したバグリャ勇者が軽く腕を振るだけで、文字通り全て弾き飛ばされた。


『補給、完了。正義ノ執行、開始』


 その声が聞こえた直後、投げ捨てられるように三人組が私達の方に飛ばされてきた。

 全員、既に絶命しており、身体に開けられた穴からは一滴の血も流れてこない。

 干からびた干物のようになってしまった彼女達には、先ほどまでの面影は無かった。




『破損シタ人格プログラム、再設計……クククククク……」

「まさか……」


 突然顔を俯かせたバグリャ勇者がそう告げると無機的な声が収まり、彼の声が人間の声に。

 そして、勇者が顔を上げた。

 間違いなく、そこには先ほどまで戦っていたバグリャ勇者が立っている。

 先ほどまでの異常な姿はどこにも無く、吹き飛んだ腕も完全に再生していた。

 ――――見た目だけなら、完全に人間の姿に戻っている。


「黙って大人しく死んでいれば良い物を……僕は正義の執行者なんだ。勇者が、負けるなど、ありえない……」

「化け物……!」

「どう考えても、この世界の存在じゃ、無いですよね……!?」

「ククク……ハハハ……!」


 私とジルの言葉を聞き、高笑いするバグリャ勇者。


「世の中にはねえ、やってはいけないことや、知ってはいけないことがあるんだよ。正義の象徴であるこの僕――――バグリャ勇者に逆らう事も、僕に従う優秀な兵士たちに刃を向けることもそうだけどねえ……」

「……」

「勇者を始末しようとする――――いや、始末したんだっけ? ヒローズの勇者を? 困るねえ……勝手な事をされたら」

「……今更だけどさ、バグリャ勇者って、機械か魔物の一種なの?」


 マディスが唐突に口を開く。

 バグリャ勇者は――――

ようやく書き上がった……。

お待たせしました。

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