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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
149/168

バグリャ城を見てみましょう

「おい、町の様子はどうだ?」

「よく燃えてるはずなんですけど……何だか変ですね?」

「まあ、直に火が回るだろ。とりあえず、勇者様が指示されるまでここで待機だ」


 バグリャ城。

 地獄の強制労働によって大理石で再建されたその城は、匠なる蛮族によって破壊される前の姿を完全に取り戻していた。

 城の壁には至る所に金や宝石が飾り付けられ、天井には黄金で出来たシャンデリアが。

 床には赤色のカーペットが敷かれており、そのカーペットを地面に固定しているのは溶かした純銀である。

 贅沢の極みを尽くしたようなその城は、一度破壊されたとは思えない輝きを放っており、常人では間違いなく圧倒されそうな光景であった。

 ――――この時までは。






「おい? 何か音がしなかったか?」

「さあ?」

「城の外か? 入れるわけないだろ?」


 城の入り口を見張っていたバグリャ軍の耳に、大扉の外から物音が。

 しかし、この大扉は内側から鉄の棒を差し込んでいてとても開くはずがない。

 そう考えていた彼らは、気にも留めない事にした。

 ――――その油断が、運命の分かれ道となってしまう。






 ドン!






「な、何が」

「うわああああああああああああ!? と、扉が!?」

「ギャアアアアアアアア!!!」


 突如扉の奥から響いた爆発音。

 直後、完全に崩壊した扉が呑気に突っ立っていたバグリャ兵たちをなぎ倒す。

 完全に真っ二つにされたバグリャ城の大扉が、城の中へと飛び込んできた。

 下敷きにされた兵士たちが真っ赤な肉塊へと変貌して動かなくなる。

 そして――――四人の賊が、城の中に踏み込んできた。

 轟音に驚いたバグリャ軍が城門の入り口に集結する前に、賊は城の奥へと走っていく。






「う、うわ! 賊だ! 全軍、こっちに出」


 突如廊下に飛び込んできた賊に驚いたバグリャ兵。

 彼が増援を呼ぶよりも前に、賊の一人――――金髪の剣士がその剣を振るう。

 届くはずもない、そう思われたその剣の剣閃は、不可視の刃となってこの兵士の首を文字通り刎ねた。

 ――――何が起きたのかも分からない。そんな表情を浮かべたまま、兵士の顔は地面に落下する。

 血の噴き出した兵士の胴体を賊の一人が蹴り飛ばし、強引に押しのけた。

 蹴り飛ばされた兵士の身体が大理石に叩きつけられ、城中に轟音が。

 兵士の身体はそのまま崩れ落ちて動かなくなる。


「何だ!? 今の音h」

「シャイニングスピア!」


 そして、音に釣られてやってきた兵士に対し、金髪の少女が魔術を放つ。

 その左手から飛び出した光の槍が兵士の首を、心臓を、頭を同時に貫き、直後に爆発してこの兵士の息の根を止める。

 辺りに飛び散る鮮血。大理石の城は、瞬く間に血で染まる。

 しかし、賊は止まらない。

 兵士の残骸に目も向けず、ただひたすらに城の中を駆け抜ける。






「挟み撃ちだ! 始末しろ!」

「殺せ!」


 城の廊下を駆け抜ける賊。

 彼らをバグリャ軍が包囲する。

 狭い廊下に数十のバグリャ軍兵士。

 賊はたったの四人。

 本来であれば、賊はこれで息絶えるだろう。


「ホーリー・カノン!」

「デモンスピア!」

「氷刃!」


 しかし、それは相手がただの賊であった場合の話である。

 今回入り込んできた賊のように、もはや賊とは言えない力量を持つ相手が踏み込んできた場合、力量の足りないバグリャ軍兵士は単なる餌に過ぎない。

 光の砲弾が、紫の雨が、大理石の床を破壊しながら突き進む巨大な氷の刃が、バグリャ軍の兵士を次々に飲み込み、その命を奪い取る。

 豪華絢爛なバグリャ城は、瞬く間に屍の山と化していく。

 賊の攻撃が終わり、賊がこの場を離れたときには、賊と交戦しようとしたバグリャ軍の兵士は全員屍の山へと変わり、周囲には血の池と肉片が。

 しかし、こんな物は始まりに過ぎなかった。






「た、大変です! 賊が城の中に!」

「賊!? 舐めた真似を! ここが誰の城か分かってるのか!? 今すぐ城の兵士を総動員して殺せ!」

「はっ!」


 賊とバグリャ軍が交戦している事はすぐにバグリャ勇者にも伝わった。

 憤怒の表情を浮かべるバグリャ勇者が、即座に賊を始末するように指示を出す。

 彼の言葉を聞き、即座に側近の兵士達が賊を討伐するために玉座の間から走り去っていく。

 彼らを見送ったバグリャ勇者は満足げな表情を浮かべて再び玉座に座る。

 その顔には残忍な笑みが浮かんでいた。




「て、敵が来たのでしょうか?」

「恐らく……。しかし、私にはもう聖剣がありません。この城にある剣を借りて戦ったとしても、聖剣を手にしたときのような力は……」

「今はそんなこと言っている場合じゃありません! 勇者様も化け物になり、この世から姿を消してしまわれた。今は、この場所を脱出し、新しい勇者様を呼び出すしかありません!」


 同じ頃、城の一角では騎士と僧侶が城の騒ぎに気づき、敵襲ではないかと言葉を交わしていた。

 既に勇者教会の聖剣を失った騎士団長ベルナルド、そして、勇者を失った僧侶レミッタ。

 今や後ろ盾も何も無い二人は、この混乱に乗じて逃げ出すつもりらしく、脱出した後の行動を考えていた。


「……その通りですね、レミッタ! スロウリー殿も居なくなり、勇者様ももう居ない。そして、このバグリャも間もなく滅びるかもしれません。そんな事になったら、我々はヒローズの圧政者どもに駆逐されてしまいます! そうなる前に」

「……逃がさないよ?」


 そして、ベルナルドが脱出するために行動を起こそうとしていたその時、突如扉が開け放たれた。

 直後に入ってきた賊の声は、彼らには聞き覚えのある物だった。

 賊にしては不自然な、少女の声。

 しかし彼らにとっては、その声の主はヒローズの圧政者よりももっと恐ろしい物だったのだ。


「やっぱり居ましたね、ヒローズの勇者ごっこ集団」

「ひっ!? あ、あの時の化け物……!」

「貴方達はあの時の! よくもスロウリーさんを!」


 扉を開け放って部屋の中に飛び込んできたのは、二人の少女だった。

 ヒローズの騎士団長ベルナルド、僧侶レミッタ、どちらも、この二人に、いや、二人の奥に立っている少年二人も含め、見覚えがある。

 バグッタに攻め込んだ自分達を壊滅させ、勇者を化け物に変貌させた一行だ。

 忘れられるわけがない。


「ここでそのごっこ遊びは永久に終えてもらうからね? 逃げようとしてたみたいだけど、そんなことさせないから」

「黙りなさい! 私達を馬鹿にした報い受けなさい! ブレイズk」


 金髪の少女の言葉に激昂したレミッタが、即座に魔術を放とうとした瞬間――――レミッタの顔に、毒々しい黒緑色の液体が入ったガラス瓶が直撃した。

 砕け散ったガラス瓶がレミッタの顔を切り裂き、黒緑の液体が少女の顔を汚す。


「っ! 相変わらず卑怯n……」


 レミッタのその言葉は、最後まで告げることが出来なかった。

 彼女の身体は、瞬く間に石のように固まり始めたのだから。

 最初に液体を浴びた顔が石へと変化し、そのまま全身が動かぬ石へと変貌する。

 自分の身体が瞬く間に動かなくなり、急速に意識が遠のく感覚を彼女はどんな気持ちで味わったのか。


「くそっ! こんな化け物と戦ってられません! 聖剣も失った私には、ただ逃げるだけしか」

「だから逃がさないって。二人仲良く、石になってこの城と共に終わっちゃえばいいんだからさ」


 窓を破壊して逃げようとしたベルナルド目がけ投げつけられたガラス瓶。

 かろうじて避けたように見えるものの、飛び散った薬がかかったベルナルドの足は石化し始め、自由を失った。

 自分の身体が足の先から石になっていく光景を目の当たりにしたベルナルドの顔が、みるみる青ざめていく。

 文字通りの「死」が目に見える形で具現したのだから。


「ひっ……わ、私の足が石に! 誰か! 誰か私を助けてください! 騎士団長ベルナルドが、窮地に陥っているのです! レミッタもやられました! どうか、誰か――――!」

「そのまま全身石になって、レミッタ共々家具の一部になればいいんじゃないかな? この城を僕たちが破壊して、それでもまだ無事に石像が残ってたらだけどさ」


 死人のような表情を浮かべ、涙と鼻水を垂れ流しながら助けを呼び続けるベルナルド。

 その姿はもはや滑稽と言うしか無い物であった。


「あああああああああああ!!!! 助けてください! 誰か! 誰か! 私は、私は死ぬわけには、死ぬわけにはいきません! ヒローズの騎士団長ベルナルドが、死ぬわけには……! だから、だから、誰か来てください! 私が、私が危機に陥っているのですぅぅぅぅぅぅ……! うあああああああああ!! 私の腹が、腹が石にいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」


 じわじわと自らの身体を侵食する石化の薬。

 その薬の効果でついに腹部まで石化し、ベルナルドは発狂したように助けを呼び続ける。

 当然ではあるが、ここの近くに居た兵士たちは全員この賊たちの手によって始末されており、ベルナルドとレミッタが居る部屋の外の廊下には何十個もの兵士だった残骸や肉片が血の池の中に転がっている。


「ああああ!!!! うあああああああああああああああ!!!!!」


 しかし、そんなことは知らないベルナルド。

 誰も来てくれないこの状況に発狂し、ついに自ら石化した場所を殴りつけ始めた。

 石化した場所を砕いてでも石化の進行を止めようとしたのだと思われる。

 当然、そんなことしても自分の身体の石化の進行が治まるわけがない。

 それどころか、石を直接殴りつけた事で自らの手を傷つけてしまい、今度はその痛みに苦しむこととなる。

 彼を癒してくれるはずの僧侶は、既にベルナルドの眼前で物言わぬ石像へと姿を変え、生きているのか死んでいるのか判断すらできない。


「どう? 身体を少しずつ石にされる気分は? この薬、失敗作だから目標にしてたような即効性は無いけど、その分こういう時には使いやすいんだよ?」

「ひっ! や、止めてください! 今すぐ、今すぐ石化を解いてください! これからは心を入れ替えて生きますから! だからどうか――――」

「って言ってるけどどうするの、ルーチェ?」


 とうとう目の前の賊に許しを請い始めたベルナルド。

 その身体は既に胸まで石化してしまっており、じきに腕や首の石化が始まるだろう。

 その先の自分の末路が想像できてしまったからか、プライドも何もかも捨てて、ベルナルドはひたすら許しを請うのであった。


「……考えてあげなくもないけど」

「え? 良いんですか?」

「お願いします! 何でも、何でもしますので、どうか! どうかお助け下さい!」


 そのベルナルドの思いが通じたのか、金髪の少女の答えは好意的な物だった。

 彼女の横に立つ銀髪の少女は驚きの表情を浮かべている。


「何でも? 本当に?」

「え、ええ! 私に出来る事ならば、何でもやります! だから、だからお願いします! お助け下さい!」

「そっか。じゃあ……………………」


 何でもするから助けてくれ。

 ベルナルドの必死の訴えが通じたのか、金髪の少女はベルナルドを許すことを決めたようだ。

 何をさせるのかは分からない。

 だが、少なくとも自分は助かる。

 ベルナルドの心に、安心感が広がっていく。











「ど、どうでしょうか? 私が何をすればいいのか、決めて頂けましたか?」

「ん? ……ふふ、そうだね。割とあっさり決まった、かな?」


 首まで石化してしまい、もはや腕すら動かせないベルナルド。

 しかし、彼には希望がある。

 眼前の金髪の少女は自分を許すと言ってきたのだ。

 何をすればいいのかは分からないが、それでも、許してもらえるなら、石にならなくていいなら安い物だ。

 そんな安心感が彼の中に産まれ、彼の表情も晴れやかな物になっている。

 そんな彼を見て微笑む少女が、今の彼には女神のように見えているだろう。






「で、では!?」

「――――じゃあ、言うよ。騎士団長ベルナルド」

「は、はい!」

「全身完全に石化してここでレミッタと仲良く風化してくれる? そうしたら助けてあげる」






 しかし、その女神の口から告げられたのは、無情な死刑宣告の言葉であった。






「――――――――え?」

「馬鹿なの? 今まで自分がやってきたこと思い返してみたら? 貴方達みたいな迷惑な人、無事に帰してあげるわけないでしょ」

「な!? そんな、私は――――」

「さよなら、騎士団長ベルナルド。そこでレミッタ共々石化して、せめて真人間に生まれ変わってね。行こう、皆」

「ま、待ってください! 助けて! 助け――――」


 絶望の表情を浮かべたベルナルドの最期の言葉は、最後まで発せられることは無かった。

 賊が立ち去り、この部屋に残ったのは石像が二つだけである。

思ったより「殺戮」って感じにはならなかった気が。ただの無双?

後最後のアレ。許す展開来ると思った? そんなわけないでしょう。

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