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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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救出しましょう

お待たせしました。

「よし、もっと油を入れろ! 徹底的に燃やすんだ!」

「生かして帰すなよ! 連中を皆殺しにしてこそ、俺たちの勝利だ!」

「勇者様の指示も出ている! これは正義の行いなのだ!」


 未だに炎が燃え盛っている方向に踏み込むと、健在な城壁の上から大量の油を流し込むバグリャ軍を見つけた。

 今すぐ落としておかないと!


「城壁ごと吹き飛べ! ホーリー・カノン!」

「な、何がうわああああああああああああああああああああああああああ!!!???」


 放った光弾がさっきの城門のように城壁ごと崩壊させ、上に居る者を全て炎の海に突き落とす。

 落ちてきたバグリャ軍は全員炎の中に消えた。

 城壁ごと一発で壊さないといけないからホーリー・カノンばっかり使ってるような……。

 少し、魔力がきついかな……?


「ジル、ルーチェ、念のために薬飲んでおいて」


 マディスが渡してきた薬を一気に飲み干す。

 強烈過ぎる甘みが喉の奥に流れると同時に、使った魔力が一気に回復していく。

 私たちが薬を飲んでいる間にルシファーが周囲の炎を盾に吸収させ、周囲から炎が消える。


「急ぎましょう! こっちです!」


 ジルとルシファーを先頭に、私達は未だに炎が燃え続けるバグリャの町の奥へと踏み込んだ。


「た、助けてくれ! 俺たちはただ働かされてただけなんだ!」

「何で、何でこんなことに……」

「強制労働に駆り出され、家も何もかも失って、最期がこれとかあんまりだ……」

「とにかく、逃げないと……」

「こっちです! 我々ヒローズ軍が守ります!」

「離れずについてきてください!」


 奥に踏み込むと聞こえてきた叫び声。

 足を速めると、ヒローズ軍の兵士とバグリャの町の住人と思われる人達が炎に囲まれている。

 ……間に合った?


「だろうな。さっさと助けるぞ!」

「な、何だ!? 炎が!」


 駆け出したルシファー。

 その手に持っている盾が周囲の炎を根こそぎ食らいつくし、油に染まった焼け跡のみが残されていく。

 生き残りの人達は目の前で起きた光景に唖然としているけど、今は気にしてる場合じゃない!


「死にたくなければ早くこっちに来い! 町の外まで案内する!」

「な、何が」

「話は後! こんな場所で死にたくないでしょ!?」


 狼狽える人達には悪いけど、こんな状況じゃ説明する時間も勿体ない!

 一人でも多く外に逃がさないと!


「ま、待ってくれ! まだあっちに仲間が!」

「どこですか!?」

「あの建物の奥」


 仲間がまだ残っている。

 そう叫んだ兵士の指さす先には激しく燃えている建物。

 ――――次の瞬間











 ――――耳を潰されると錯覚してしまうほどの爆音が辺りに響く。

 その場に居た人たちは私含め、思わず耳を塞いで目を閉じた。

 目を開けると、そこには建物は既に無く、幾度も爆発を繰り返して天へと届かんばかりの火柱が立ち上っていた。

 奥から悲鳴のような声も聞こえたような気がするけど、凄まじい爆音で聞こえない。






「た、建物が爆発して……」

「不味い! こっちにも炎が!」


 爆発を続け、どんどん勢いを増す炎の柱が周囲の油に火を点け、私達の方にも猛威を振るう。

 油を伝って猛烈な勢いで迫りくる火の海が、私達の命も狩らんと迫りくる。

 幸いこちらにはルシファーの盾があるから大丈夫だけど、建物の奥に居た人は……。


「そんな……」

「……一応見てきてやる。だからお前らは逃げろ」

「ええ。貴方たちがここに居たら邪魔になります。町の出口は確保したので早く逃げてください!」


 目の前で仲間が炎に飲まれた。

 そう思えるほどの絶望的な光景を見せられたヒローズ軍の兵士が崩れ落ちそうになるけど、それをルシファーとジルが止める。

 助けられないと思うけど、確認してあげないと……。


「……っ!」


 二人の言葉を聞いたヒローズ軍の兵士が町の人を連れて逃げていく。

 彼らの避難を見届けた後、私達は今も尚激しく燃え続ける火柱の方に歩を進めた。


「バグリャ勇者……どうしてこんなこと平気で実行できるんだろ?」

「本当ですよね……町全体を火炙り、というか、地獄に変貌させるって正気の沙汰じゃありません」


 城壁の高さすら超えるほどの火柱と周囲の惨状を見て、思わずそんな言葉が口から出てくる。

 ジルは地獄って言ったけど、この状況はどう考えても本物の地獄だよ……。


「あ、熱い……助け、助けて……」

「……! あそこ!」


 不意に聞こえた助けを求める声。

 そちらに目を向けると、今にも炎に飲み込まれそうになっている人の姿が。

 確認するとほぼ同時に私達は彼の方に走り出す。

 ……間に合って!


「う、うあ……」

「不味い! あいつの上の残骸、崩れるぞ!」


 炎に包まれそうになっている人が蹲っているのは建物の焼け跡の中。

 けど、その建物は今にも崩落しそうになっている。

 というか、崩落し始めた!?


「分かった! これで……」

「うあああああああああああ!?」


 マディスの薬が届いたのと、閉じ込められていた人が崩落した建物の残骸に飲まれるのはほぼ同時だった。

 けど、炎に飲まれなければまだ間に合う!


「おい! 炎が消えてるぞ!?」

「あそこにゴミが居るな! おい! こっちに火矢回せ!」

「ゴミは焼却しねえとな!」

「っ! バグリャ軍……!」


 ルシファーが持っている盾が次々に炎を吸収して消していくからか、城壁の上のバグリャ軍にも見つかってしまう。

 次々に火矢を準備してこちらに狙いをつけるバグリャ軍。

 けど、こっちにとっても好都合だよ!


「焼却されるのはそっちだよ! ファイアウォール!」


 城壁の上に炎の壁を出現させ、今も垂れ流しになっている油の入った樽を直接攻撃する。

 バグリャ軍が何か叫んだ時には樽は大爆発を起こし、上部分が吹き飛んで左右にこぼれた油が瞬く間に城壁の上を炎で彩っていく。

 最初こそ垂れ流されている油にも火が点いてしまったけど、すぐに樽の中の油が城壁を越えられなくなったのでこちら側に流れてくる油は無くなった。


「おい! 大丈夫か!?」

「え!? ……た、助かった、の……?」


 救出も無事に完了したみたいで、崩れた建物の中から一人助け出すことが出来たみたい。

 ……他の人は?


「他の人はどこに!?」

「火柱の中に飲み込まれて……僕は、何も出来なくて……」

「そんな……」


 全員救えるなんて事は言えない。

 けど、救えなかったって後悔はどうしても胸の中に湧き上がる。


「貴方だけでも救えて何よりですよ。さあ、逃げましょう」

「あ、はい……ありがとうございます」


 助け出した相手は声からすると男なんだろうけど、顔が煤で酷く汚れていて表情は分からない。

 髪の毛も真っ黒だ。

 けどまあ、今はそんな事気にしてられないよね!


「お礼は脱出してから! まずは脱出を!」

「は、はい……!」


 助けた男の腕を強引に掴んで町を脱出するために走り出す。

 声の調子などから考えると男……というより、男の子、っぽいけど……。


「くそ! 誰が城壁を破壊しやがった!」

「こっちだ! 鎧の豚が城壁に武器を叩きつけてきやがる!」

「燃やせ燃やせ!」


 町の出口まで走る最中も、健在な城壁からはバグリャ軍の怒号が。

 完全にそっちに目が向いている間に、やることやってしまわないと。


「門まで送ります?」

「必要ないな。すでに城壁が存在しない以上、上から襲われないだろ」


 広場まで走り、ひとまず足を止める。

 ヒローズへの街道の方を確認しても、火の気配はしないしバグリャ軍の姿も無い。

 城壁ごと吹き飛ばされたんだからある意味当然なのかもしれないけど。


「ほら、早く逃げて!」

「え、あ、はい! ありがとうございます! 仲間に売られて、一時はどうなる事かと……」

「生きてたら礼は聞いてやるから、早く町を出ろ。ここは今から再び地獄になるからな」


 ルシファーが言葉を遮り、私達は再び町の奥へと駆け戻る。

 広場から町の入り口までは文字通り一直線の道があるだけ。

 伏兵の気配なんてしないし、城壁も無い。

 外にバグリャ軍なんて居ないだろうしこの人だけでも逃げられるだろう。






「ええい! 卑怯よ! この卑怯者! よくも私の大切な鎧を! 旅の相棒を!」

「くそ! しぶとい豚だ! あの鉄の塊が邪魔で燃えないのか!?」

「おい! 直接油ぶっかけろ! あの豚放っておいたら城壁崩されるぞ!」

「このおおおおおおおおおおおおお!!!」


 まだ戦っているパトラとバグリャ兵を横目に見ながら、私達はバグリャの町を駆け抜ける。

 人はもう居ないはず。

 これだけ時間がかかってたら、私たちが踏み込んでいない場所はもう燃え尽きてしまっていてもおかしくない。

 普通ならとっとと逃げ出してそのまま町を脱出しても良いような状態だ。

 だけど、この町にはまだ用がある。

 ――――こんな悲惨な光景を作り出した勇者の皮を被った虐殺者、バグリャ勇者。

 そして、ヒローズ勇者から逃げ出してここに逃げ込んだであろうベルナルドとレミッタ。

 こんな惨状を作り出したバグリャ軍の兵士。

 彼らを排除しない限り、この場所は安全にはならない。

 私達が仮にここを無視して進んだら、連中は今度は何をしでかすか分からない。

 どんどん勢力を拡大して世界中で虐殺を繰り広げることだってあり得る。

 そうなる前に――――






「私達でバグリャ勇者と軍を完全に崩壊させよう! こんなこと、他の場所でさせるわけにはいかないよ!」

「同感ですね。仮にこれが連中にとって正義の行いでも、私達はこれを正義の行いとは認めませんし、こんなことこれ以上やらせるわけにもいかないです」

「これから始末される側に回って何を喚き散らすのか。まあ、全部自業自得だな」

「自分がやらかしたことの報い、はっきりと受けてもらわないとね。天罰を与える、なんて崇高な事を言うつもりはないし、結局僕達も力でねじ伏せるんだけど、さ」


 私達だって正義とは言えないよ。そんなこと言う資格は無い。

 バグッタを脱出してからここまでの道中でバグリャ軍にしたこと、これからやることは相手をより強い力でねじ伏せるただの殺戮で、どんな綺麗な言葉を並び立ててもそれは変わらない。

 これ以上の被害を出さないためにバグリャ軍を皆殺しにする、なんて大義名分を掲げても、私達だってこの手を血で染めて悪人と判断した連中を皆殺しにしてきてる。

 ヒローズ軍とバグリャの町の住民を油と炎で一方的に虐殺したバグリャ軍。

 その虐殺を止めるために、次々にバグリャ軍を殺して地獄へ送り込んだ私達。

 目的のために相手の命を奪い続けてるのはどっちも同じなんだから。


「……けれど、例えこの手がバグリャ軍の血で真っ赤に染まっても、私は目の前の非道を見逃しておけない。住民まで一方的に殺戮して高笑いするバグリャ軍を、これ以上生かしておけない……」

「同感ですよ。私達もバグリャ軍と同じことをすることにはなりますが、それでも、目の前の殺人鬼を止められるのが私達だけで、放っておいたら今殺された人以外にもものすごい数の人がこれから殺されることになるって言うんですから」


 私達はヒローズの人達にどういう扱いを受けるんだろう。

 ここでバグリャ軍を皆殺しにしても、バグリャ軍自体が極悪人だからって救世主として称えられたりするのかな?

 けど、勇者や英雄を称える人達は、肝心なことに誰も気づかない。

 ――――勇者や英雄は、その手で「悪」と同じことをやって来てるんだってことを。

 「悪」と判断された相手を千人単位でひたすら殺し続け、生き残ってきたのが勇者や英雄の本来の姿。

 それは「悪」と判断されてる相手からすれば、ただの殺戮者なんだってこと。


「……行こうか、皆。バグリャ勇者を、バグリャ軍を、一人残らず滅ぼすよ」

「覚悟なら出来ている。勇者も強盗も、同じだからな」

「ここまでバグリャ軍を始末してきましたし、今更ですよ」

「そうそう。既に僕達の手は血で染まってるわけだし、国一つ潰したって変わらないよ」


 ――――バグリャ勇者、そしてバグリャ勇者に従う軍とヒローズ勇者の仲間達。

 ここで、終わらせてあげる――――!

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